
(在韓米軍のパトリオットミサイル “flickr”より By US Army Korea - IMCOM
http://www.flickr.com/photos/imcomkorea/3017886760/)
【そう、私たちにはできる】
世間の関心は北朝鮮の放った“飛翔体”に集中しています。
そうした現実的脅威のせいで扱いはあまり大きくありませんが、アメリカ・オバマ大統領が5日、公約に掲げる「核兵器のない世界」の実現に向けた包括的構想を初めて示しました。
****米、「核なき世界」へ新構想 オバマ氏が包括演説*****
チェコを訪問中のオバマ米大統領は5日、首都プラハで演説し、公約に掲げる「核兵器のない世界」の実現に向けた包括的構想を初めて示した。1日の米ロ首脳会談の合意に基づき、両国の戦略核をさらに減らす新条約を年末までに策定、これをてこに大胆な核軍縮を進める。核拡散の防止策を探る「世界核安全保障サミット」を米国が主催する意向も表明。【4月5日 共同】
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もう少し詳しく演説内容を見ると、以下のようなものです。
****オバマ大統領 演説内容**********
全面核戦争の危機は去ったが、(核拡散により)核攻撃の危険性は高まった。米国は、核兵器を使った世界で唯一の核大国として、行動する道義的な責務がある。核兵器のない平和で安全な世界を目指す米国の決意を宣言する。時間はかかるが、世界を変革できることを信じる。そう、私たちにはできる。
核廃絶に向け確実に行動する。
ただ、世界に核兵器が存在するうちは米国は安全な方法で核兵器を維持する。敵を抑止し同盟国に安全を保障するためだ。
核弾頭の配備・保有数を削減するため、今年末までにロシアとの新しい軍縮条約の締結を目指し、交渉する。
核実験全面禁止条約(CTBT)発効に向け、(発効条件の一つである米国の)批准を強く求める。
核兵器用の核分裂物質の生産を、検証可能な方法で禁止する新しい国際条約(カットオフ条約)を求める。
核拡散防止条約(NPT)体制の強化に努める。査察を強化するため資源や権限が必要だ。核拡散を防ぎながら各国が核を平和利用できるよう国際的な枠組み「核燃料バンク」を創設すべきだ。
一方、違反国には相応の処罰が必要だ。今朝、北朝鮮は長距離ミサイルに使えるロケットを発射し再度、ルールに違反した。違反は罰せられなければならない。国際的に強い態度を示すべきだ。
イランが厳格な査察を受けるなら、核を平和利用する権利は認める。しかしイランの核・弾道ミサイル計画が脅威である限り、チェコとポーランドでのミサイル防衛(MD)計画を進める。脅威でなくなれば、欧州でのMD計画は実施しない。
テロリストによる核兵器入手を防がねばならない。これが国際的安全保障への最も差し迫った最大の脅威だ。
拡散の恐れがある核関連物質をすべて管理できる体制を4年以内に築く。そのためロシアと協力を強化する。
核安全保障を巡る国際サミットを米国が来年までに主催する。
平和の追求をやめれば平和は来ない。チェコの人々は一発も銃弾を撃たず核武装した帝国(ソ連)を崩壊させた。【4月5日 毎日】
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【現実主義的な核軍縮論】
3月16日ブログ「“理想論に終わらない現実主義的な核軍縮論”“戦略論としての核軍縮”」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090316)でも取り上げましたが、こうした“核廃絶”に向けた動きが多少なりとも現実世界で関心を持たれるようになったのは、インドやパキスタンだけでなく、北朝鮮までもが核実験に踏み切り、イランも核開発が疑われるというように核兵器が拡散していることへの懸念と、テロ組織が核兵器を手にしてしまうことへの恐怖が大きな要因となっています。【3月16日 毎日】
今後クリアすべきハードルは、ロシアとの第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約の問題、チェコとポーランドで進めているミサイル防衛(MD)計画の問題、イランやお騒がせ北朝鮮などの問題等々、山ほどありますが、それにしても最大の核兵器保有国であるアメリカ大統領の口から「核兵器のない平和で安全な世界を目指す米国の決意を宣言する。」といった言葉が聞かれるとは隔世の感があります。
【“語報”の失態ですまない場合も】
一昨日、北朝鮮の“飛翔体”に関して、語報騒ぎがありました。
「こんなことで日本の国防は大丈夫なのか?」といった見方がもっぱらですが、私はそうした思いと同時に、「やっぱり核兵器に守られた世界というのは随分と危なっかしいものだ」という感を強く持ちました。
ミスの原因はいろいろ報じられていますが、こうした人為的ミスは必ずつきまとうものです。
ミスを犯すのは日本の自衛隊だけではありません。
今回の“飛翔体”には核兵器は搭載されていませんし、迎撃態勢をとる日本側も核を保有していませんので、“語報”の失態ですみますが、同様の人為ミスがアメリカとロシアの間で起こったらどうでしょうか?
それが非現実的と言うなら、ともに核もミサイルも保有するインド・パキスタンの間ならどうでしょうか?
これまでもたびたび一触即発の緊張関係を経験している国です。
万一、パキスタンから核ミサイルは発射されたというふうにインドが誤って判断したら・・・。
仮に報復のミサイルのボタンは押さなくても、そうした“誤報”が流れただけでも国内のヒンドゥー教徒対イスラム教徒の対立は一気に爆発して、血で血を洗う虐殺を招く・・・そうした事態も考えられます。
今回もそうですが、核ミサイルについては1秒を争うスピードで判断が求められます。
そこには、いろんな要素を熟慮して・・・という余裕はなく、反射的な瞬時の対応が求められます。
それ故、今回のような人為ミスが重大な結果に結びつく危険が存在します。
そうした“誤報”騒ぎへの思いからすると、「核兵器のない世界」を夢物語とか平和ボケとして一蹴するのではなく、一歩でもそこへ近づく努力がやはり必要なのではないかと思った次第です。