孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南アフリカ  与党ANCの支配体制変わらず ズマ新大統領誕生へ

2009-04-24 22:06:15 | 国際情勢

(ANCの集会でズマ議長を支持して歌い踊る女性支持者 “flickr”より By bbcworldservice
http://www.flickr.com/photos/bbcworldservice/3457443708/)

【ANCの得票率は66%】
アパルトヘイト(人種隔離)後の南アフリカで国民議会(下院)の3分の2以上を占め、事実上南アを一党支配してきた与党「アフリカ民族会議(ANC)」の議席動向が注目されていた南アフリカの下院総選挙が22日行われました。
結果は選挙前の予想に近い「6割以上を占めるが、3分の2確保は微妙」というところのようです。

この結果を、“議席を減らした”と見る見方と、“一党支配体制を維持した”と見る見方の両方があるようですが、わずか数週間前まで、ANCのズマ議長には汚職で起訴される可能性があったことや、ANC内の権力闘争に敗れた反ズマ議長派の離党者が新党「国民会議(COPE)」を立ち上げて選挙戦に臨んでいたことを考えると、ズマ議長の与党ANCが勝利したと見ていいのではないでしょうか。

****南ア総選挙、与党ANC勝利へ 失業・治安なお重い課題*****
南アフリカで22日投票の国民議会(下院、400議席)選挙は開票が始まり、23日午後の中間集計で、与党アフリカ民族会議(ANC)の得票率が6割を超え、過半数獲得は確実な情勢だ。だが、選挙戦を通じてANCの問題点も目立ち始めている。

集計によると、ANCの得票率は65%(ANC得票率については、開票率40%で66%という報道もあります。【4月24日 産経】)、最大野党の民主同盟(DA)は17%、ANCから分裂した国民会議(COPE)は8%。投票率は、前回04年総選挙の約76%を上回ると予想されている。
分裂に危機感を抱き、2億ランド(約22億5千万円)の選挙費用をつぎ込んだANCが、アパルトヘイト(人種隔離)後の南アを事実上、一党支配してきた体制を維持するのは確実だ。だが、5月6日に新大統領に選出される見通しのズマ議長(党首)の前に、課題は山積している。

ズマ氏は政府の武器取引に絡んで収賄疑惑を持たれたが、訴追は4月に不透明な形で取りやめになった。背景に、ANCの圧力があった可能性が指摘されている。
党内の権力闘争は近年あからさまで、08年9月に犬猿の仲のムベキ前大統領を辞任に追い込み、COPEの結成を導いた。ANC支持者によるCOPEなど野党の集会への妨害行為も何度もあった。
失業率は昨年末の段階で22%。平均年5%を維持してきた経済成長は、世界的な経済危機のあおりで08年は3.1%に落ち込んだ。治安も改善されず、07年度の殺人事件は約1万8500件。毎日50人が殺された計算だ。
それでも、低所得層を中心にズマ氏の人気は高い。その源は、歌や踊りの庶民向けパフォーマンスと言われる。マンデラ元大統領が率いた解放闘争の歴史への信頼に支えられている感も否めない。【4月23日 朝日】
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【危惧されるズマ次期大統領の資質】
これにより、ANCのズマ議長が来月新たな大統領に就任することが確実となりました。
ただ、ズマ議長のキャラクター・資質については懸念する声もあります。

****南アフリカ ズマ大統領誕生へ 総選挙で与党勝利 資質に疑念の目*****
来月9日に新大統領に就任することが確実なズマ氏は、海外では「暴力的なアフリカの一夫多妻主義者」と紹介されることが多い。6人の女性との間に22人の子供。最大部族ズールー族出身で、選挙集会で伝統衣装のヒョウ皮をまとい、やりや盾を持って踊った。
05年にはエイズウイルス(HIV)感染者の女性をレイプしたとして起訴された(同年、無罪判決)が、裁判で「性交の後、シャワーを浴びれば感染は防げる」と発言し、あぜんとさせた。
武器輸入に絡み外国企業から783回計500万ランド(約5500万円)のわいろを受け取った疑惑も発覚したが、今月に入り検察当局が起訴を断念した。
英紙は「マンデラ元大統領が掲げた全人種による“虹をかける国家”は暗雲に覆われている」と強い危惧(きぐ)を示す。

しかし、黒人社会では「ズマ氏は自分たちの大統領」との声が圧倒的だ。貧しい母子家庭に育ち、アパルトヘイト(人種隔離)撤廃闘争でマンデラ氏とともにロベン島に10年間投獄された経歴、大衆の心をつかむ才能などを生かし、07年末のANC議長選では左派の労組や共産党の支持を取り付け、政敵・ムベキ前大統領を破った。
経済自由化を進めたムベキ前政権は格差拡大の批判を浴びた。社会福祉の充実を唱えるズマ氏が大統領に就任すれば、規制が強化されるとの懸念が強い。南ア在住の英国人記者、ブリッジランド氏は「G20に南アから何人のファーストレディーが出席するのか」と皮肉交じりに話している。【4月24日 産経】
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ANCの集会で反アパルトヘイト(人種隔離政策)闘争時に歌われた「Umshini Wami(わたしにマシンガンを持ってこい)」という歌を踊りながら披露するズマ議長をTVで観ましたが、確かに「大丈夫かな・・・」という感じはします。
こうしたズマ議長のパフォーマンスや、ヒョウ皮をまとった姿などは、イギリスで教育を受けたムガベ前大統領のエリート主義とは対照的ですが、ムガベ前大統領の進めた新自由主義的な政策で取り残され不満を抱く貧困層、更に、労働運動や南ア共産党の活動家グループを取り込み、ムガベ前大統領の権力闘争に勝利し、今日の選挙結果となっています。
“地元スター紙は最近の社説で「彼は愚か者でも、文盲でもない。だが大衆受けしたい場合には、公的な教育を受けていない点を大いに売りにしている」と評した。”【4月20日 AFP】という評価もあります。

【規制強化、黒人貧困層への配慮】
資質やパフォーマンスはともかく、前出記事にもあるように「経済自由化を進めたムベキ前政権は格差拡大の批判を浴びた。社会福祉の充実を唱えるズマ氏が大統領に就任すれば、規制が強化されるとの懸念が強い。」という、今後の政策が注目されます。

新興国の一角を占める南アでは、好調な経済によって「ブラックダイヤモンド」と呼ばれる黒人中間層が急増しています。
しかしその一方で、日本でも同様ですが、経済自由化は格差拡大にもつながり、経済成長・好景気の恩恵を享受できない多くの貧困層を生んでいます。

また、アパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃されて15年たった現在も白人と黒人間の経済格差は大きく、30業種の組合「UASA」が08年5月に行った調査では、白人の平均収入は黒人の4.5倍、カラード(混血)の4倍であるとされています。
この格差の背景には、教育格差があるとされています。【08年5月14日 AFP】

こうした格差是正に向けて、今まで以上に黒人貧困層に配慮した政策をズマ次期大統領は進めると思われますが、そうした政策は悪くすると、人気取り的な政策にもなる危険、経済全体のシステムを破壊するリスクもあります。
昨年10月に、ANCは、5万人の白人農場主が国土の87%を所有している現状を改めるべく、強制収用を使ってでも黒人への土地再分配を加速させるように求めています。【08年10月20日 AFP】
このような改革の失敗例としては、ジンバブエのムガベ大統領の失政があります。

【頭脳流失とアフリカ経済への影響】
また、南アフリカには白人や黒人エリート層の国外流出という問題があります。
その原因は、国内政治の混乱、経済のグローバル化などもありますが、国内治安の悪さが主な原因のひとつになっています。【3月11日号 Newsweek】
1日の殺人件数が50件を越え、国民一人当たりの殺人発生率が世界でも最も高い国のひとつです。
レイプ事件も紛争地域並に多いと言われます。
黒人貧困層に軸足を置くズマ次期大統領は、白人や黒人富裕層からは拒絶されており、今後の黒人貧困層遊具策如何では、更に頭脳流出が激しくなり、国内空洞化を招く危険も指摘されています。

南アフリカ経済も昨今の世界的不況の波に飲み込まれ、苦しい状況になっています。
08年第4四半期は1.8%のマイナス成長に陥っています。
規制強化的なズマ新議長の政策でこの不況からどのように脱出できるか、あるいは混乱に拍車がかかるのか・・・という問題は、ひとり南アフリカだけの問題ではなく、アフリカ全体に影響します。

南アフリカの企業はアフリカ諸国に多額の投資を行っており、南アフリカ経済はアフリカ全体経済を牽引してきました。
今後の南アフリカ経済の停滞・混乱は、資源価格低下や国際援助減少に苦しむアフリカ経済全体を更に悪化させる懸念もあります。


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