孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  イスラム法(シャリア)導入を認める和平協定で開く「タリバン化」への水門

2009-04-15 20:50:38 | 国際情勢

(“flickr”より By sunxez
http://www.flickr.com/photos/sunxez/100616629/)

【ザルダリ大統領署名により発効】
パキスタンのアフガニスタン国境隣接地域における武装勢力とパキスタン政府の和平協定はイスラム法(シャリア)の導入を認めることが条件となっています。

和平協定によってパキスタン国内の治安は一定に改善され、紛争地域の住民生活改善も期待できます。
しかし、武装勢力側が今後“心置きなく”アフガニスタンのタリバンとの協調活動を活発化させると予想されることに対するアメリカの反発が強く、またイスラム法支配の実態に対する不安が欧米諸国及び国民にもあることから、発効に必要な署名をザルダリ大統領は棚上げしていました。

11日ブログで取り上げたように、大統領のこうした姿勢に、武装勢力側は平破棄を警告。
和平交渉を担ってきた州政府の政権党「アワミ国民連盟」も、「大統領が署名しなければ(ザルダリ氏が率いるパキスタン人民党との)連立関係を解消する」と通告し、新たな政局問題に発展する懸念が高まっていました。

結局、首都へ向けて進軍を開始した武装勢力、及び、国内治安改善を求めるパキスタン下院の圧力もあって、ザルダリ大統領は和平協定に署名し、協定が発効したようです。

****パキスタン大統領:武装勢力との和平協定署名 米国は反発*****
パキスタンのザルダリ大統領は13日夜、北西辺境州スワート地区の武装勢力と2月に合意した和平協定に署名し、協定は14日に発効した。これに基づき、同地区にイスラム法が導入され、武装勢力側も武装解除を約束した。戦闘再開による貧困拡大の危機にあった地元では、協定の発効を歓迎している。
ただ、米国は和平に反発しており、今後、米国のアフガニスタン包括戦略のパキスタン支援に影響する可能性もある。

下院は13日、ザルダリ大統領に早期署名を求める議案を賛成多数で可決。ザルダリ氏は東京で17日から始まるパキスタン支援国会合出席のため出国する直前、署名に応じた。
武装勢力側は「ザルダリ氏が署名を棚上げしている」と批判し、首都へ向けて進軍を開始。州政府与党も、ザルダリ氏が率いるパキスタン人民党との連立解消を通告し、新たな政局問題に発展する恐れが高まっていた。 【4月14日 毎日】
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【「タリバン化」への水門】
今回の協定については、「パキスタンの「タリバン化」を進める『水門』を開けてしまった」との批判もあります。

***パキスタンの「タリバン化」への水門を開けた****
北西辺境州、そしてアフガニスタン駐留米軍との対決を支持する数千人を率いる親タリバン派の地元武装勢力指導者スーフィ・モハマド師と今回、ザルダリ大統領は和平合意に調印したわけだが、この決断に対する風当たりは強い。
レーマン・マリク内相は、シャリア導入でスワート周辺の勢力が武装解除し、事態が収拾に向かうことを期待するが、「パキスタンの「タリバン化」を進める『水門』を開けてしまった」というのが批判派の反論だ。
モハマド師の広報担当は「タリバンは武装解除し始めた。まだの者もじきに解除するはずだ」と述べているが、在スワートのタリバン広報担当ムスリム・カーン氏は「イスラム法が施行されれば、もはや発砲する必要はないだろう」と武装放棄が決して無条件ではないことを示唆している。

4月初旬には、スワートでベールをかぶった女性が公衆の面前でむち打ちの刑に処されるビデオ映像が明るみに出て、シャリア導入への批判はいっそう高まったが、カーン氏は「女性は仕事にも市場にも行くことは許されない。彼女たちを見せ物にしたくないからだ」と述べ、学校でも「イスラムの教えに即した」授業を行うと強調した。

イスラマバードの持続可能開発政策研究所の専門家A.H. ネイヤー氏は、前述の「タリバン化の水門」について警告する。
「(シャリア導入により)今後数か月で州全体がタリバンの手に落ちると予測する。タリバンはほかの州にも圧力をかけるだろう。そうすればパキスタンは『暗黒の時代』に舞い戻ってしまう」
【4月15日 AFP】
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公衆の面前でむち打ちの刑に処される女性の件については、4月5日および11日ブログでも取り上げたところです。
タリバン側の「女性は仕事にも市場にも行くことは許されない。彼女たちを見せ物にしたくないからだ」という発想は理解に苦しみますが、女性は人前に姿をさらさないことを前提にしている彼等の思考においては、女性が人前に姿をさらすことはいかがわしい行為であり、当然に男性側もそのような目で彼女等を眺める・・・ということになってしまうのでしょう。

【駆け落ち男女を公開銃殺 女性州議員を射殺】
最近のアフガニスタンでのタリバン支配の状況については、次のような記事もあります。

****駆け落ち男女を公開銃殺…アフガンでタリバン****
アフガニスタン西部ニムロズ州で13日、駆け落ちした若い男女が旧支配勢力タリバンに見つかり、反イスラム教的だとして公開処刑された。
男女が住む村の宗教指導者が決定したというが、アフガンでタリバン支配の影響が強まっている状況を浮き彫りにした。
州当局によると、女性(19)には両親が決めた婚約者がいたが、男性(21)と恋愛をして家を出た。その後、州内でタリバンに拘束され、村のモスク前で銃殺された。同州はタリバン勢力が伸長していることで知られる。
アフガンでは、1996年~2001年のタリバン政権時代、イスラム法(シャリア)に基づき、公開処刑やむち打ちが行われ、国際社会の非難を浴びていた。【4月14日 読売】
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イスラム法(シャリア)とは直接関係はありませんが、タリバンの女性の権利に対する意識、彼等の対処方法をうかがわせるものとして、次のようなニュースもあります。

****アフガニスタンの女性州議員、射殺 タリバンが犯行認める*****
アフガニスタン南部カンダハル州で12日、同州議会の女性議員が、イスラム原理主義組織タリバンの戦闘員に狙撃されて死亡した。州当局が同日明らかにした。
殺されたのは高校教師で女性権利活動家でもある50代の女性議員、シタラ・アチクザイ氏。
ハミド・カルザイ大統領の兄弟でもあるアフマド・ワリ・カルザイ州議会議長によると、議員はカンダハルの自宅前で、バイクに乗った2人の男に射殺された。警察が事件を捜査している。

タリバンのユスフ・アフマディ報道官はAFPとの電話インタビューで、事件がタリバンによる犯行であることを認めた。アチクザイ議員を狙った理由は議員の経歴が「好ましくなかった」からだと述べたが、詳しい説明は避けた。

 アチクザイ議員は、医師で大学講師の夫と共に長年ドイツで暮らしていたが、カンダハルで働くために帰国した。会見を開いたTuryalai Wesa州知事は、議員を「勇敢な女性だった」と評し、その死を悼んだ。【4月13日 AFP】
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登校する女生徒の顔に硫酸をかけたりするタリバンにしてみれば、女性活動家というのは許すべからざる存在なのでしょう。
それにしても、“経歴が「好ましくなかった」”と射殺してしまうやり方、それを隠そうともしない態度は、前述パキスタンにおける和平協定・シャリア支配容認についての「タリバン化の水門を開けた」という警告を思い出させます。

住民がタリバン的な考えに賛同しているのなら、価値観の違いとしてやむを得ないところもありますが(異なる価値観をどこまで許容するかというのは、簡単でない部分がありますが)、現実のタリバン支配は多分に力と恐怖による支配でもあり、また、争いが続きミサイル攻撃に曝されたり、銃弾が飛び交うよりはタリバン支配の方がまし・・・ということではないでしょうか。

アフガニスタン政権のタリバンへの7割移譲案のように、アメリカも最終的にはアルカイダさえ排除できれば・・・という考えのようです。
アフガニスタン・パキスタンでタリバン支配の現実味が増していることに、大きな懸念を感じます。

コメント
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