(南北に分断されたニコシア トルコ系の北側の街角 “flickr”より By darkroom11
http://www.flickr.com/photos/darkroom11/3305634875/)
【分断から再統合への動き】
エーゲ海の小さな島国“キプロス”は鹿児島県ほどの大きさ。
1960年イギリスから独立しましたが、ギリシャ系住民とトルコ系住民の反目、ギリシャ・トルコの介入により、現在は島の北側3分の1がトルコ系の北キプロス・トルコ共和国(承認はトルコのみ)、南側の残り3分の2がギリシャ系のキプロス共和国(EU加盟)と、分断された状態が続いています。
04年、アナン国連事務総長が示した調停案に基づき、南北統合の是非を問う南北同時住民投票が実施されましたが、ギリシャ系の南側の反対多数(反対が76%)という結果に終わり、EUへの参加による国際社会への復帰を望むトルコ系側の賛成多数(賛成が65%)にもかかわらず否決されました。
ギリシャ系住民側には、経済水準が格段に落ちる北側とは今更一緒になりたくないという事情があります。内戦で家族・肉親を殺された双方の遺恨もあります。
なによりキリスト教とイスラム教という相容れ難い文化の違いが両者間にはあります。
また、北には3万人以上のトルコ軍が駐留し、分断後にトルコから来た入植者が多数住んでいる問題をどのように扱うかも南北間で対立するところです。
こうした分断状態のキプロスに統合の機運が、南における再統合推進派大統領の誕生という形で訪れたことは、1年ほど前のブログで取り上げました。
08年2月18日「キプロス 異文化統合に向けて、大統領選挙で見せた民意は?」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080218)
08年3月23日「キプロス 再統合へ向けて、小さな島国の大きな試み」
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080323)
それまで統合に消極的だった南に、北側の政治家と親交があり、選挙では「対話の架け橋になる」と公約していたフリストフィアス新大統領が再統合反対派現職大統領を破って就任。
北側も再統合推進派のタラト大統領で、親交のある両指導者のもとで、昨年3月から会談が重ねられてきました。
しかし、南北間に横たわる問題のクリアはなかなか困難なようです。
下記記事は交渉が本格化した昨年9月のものです。
****南北キプロス:交渉再開 再統合「最後の好機」****
再統合交渉は南が04年に国連の仲介案を拒否して以来、中断してきたが、今年(08年)2月のフリストフィアス大統領就任で状況が変化。両大統領は旧知の間柄で、いずれも再統合の「推進派」。3月以降、4度の会談を重ね、交渉再開にこぎつけた。それぞれの「後ろ盾」ギリシャとトルコの関係が改善していることも好転材料になった。
南北とも将来像として、民族別の二つの共同体からなる「統一国家」を描く。だが、南がEUの一員であるのに対し、北はトルコのみが承認する国際的に孤立した「国家」だ。北は二つの共同体が同等の権利を有するよう主張して譲らないが、南は北を「吸収」したいのが本音だ。
また、北には3万人以上のトルコ軍が駐留し、分断後にトルコから来た入植者が多数住む。南はトルコ軍の完全撤退を求め、入植者も「不法移民」としてトルコへの帰国を迫るが、北に要求をのむ用意はない。
報道によると、交渉再開後の世論調査では、南北双方で「問題解決は不可能」との見方が41%を占めた。相互不信は根深く、南の51%が「子供が北の住民と結婚することに反対する」と回答。88%が問題解決の最大の障害に「トルコの関与・姿勢」を挙げた。【08年9月13日 毎日】
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キプロス問題は、トルコのEU加盟問題にも直結します。
EU加盟を切望するトルコに対し、その異質性を懸念する消極的な空気が欧州各国には強く、トルコがEU加盟の南を承認していないことが、トルコ批判の材料になっています。
【北で再統合反対派躍進】
昨年9月3日に始まった国連が仲介する統合交渉は、その後、会談ペースが鈍るなどして足踏み状態が続いていましたが、具体的な内容についてはあまり報じられることがありませんでした。
ここにきて、少し状況の変化を感じさせる記事が入っています。
****北キプロス:議会選で中道右派野党躍進 統合交渉に影響か****
地中海の分断国家キプロスの北側を占める北キプロス・トルコ共和国(トルコのみ承認)で19日、議会選挙(1院制、定数50)があり、ロイター通信によると、中道右派の野党・国家統一党(UBP)が得票率44.06%で第1党に躍進した。島の分断解消を図る再統合交渉は昨年、再開したが、UBPは、島南部のキプロス共和国(ギリシャ系)との「連邦」樹立を目指す現方針に反対しており、今後の交渉に影響を与えそうだ。
一方、再統合を推進する与党の共和国トルコ党(CTP)は29.25%の得票率にとどまり敗れた。
UBPは島の再統合ではなく、北キプロスの完全独立による「2国家共存」を主張している。 【4月20日 毎日】
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これまで、経済的に低迷しており南との格差が大きい北キプロス側は、国際的に孤立している現状もあって、南側との交渉にはメリットが大きいと思われ、04年の住民投票でも再統合支持の声が強かったのですが、流れが変化したのでしょうか。
昨年9月段階で、タラト北キプロス大統領は「最も困難なのは土地などの所有権の問題だ。(内戦が発生した)1963年以来、多くのトルコ系住民は(南に)財産を残してきた。」と語っていました。
個人的には、キプロス再統合交渉について、1年前のブログでは「民族・宗教の違いから抗争・分離に向かう話ばかりの近年の世界情勢にあって、異なる民族・宗教の両者が共存に向けて合意を形勢できるとすれば、小さな島国ではありますが、大きなメッセージを世界に発信できるのではないかと思います。」と評価しています。
ただ、毎日世界のあちこちで起きる民族間・宗教間の対立の話題ばかり目にしていると、「キプロスも無理して統合しても、結局また両者間のトラブルを引き起こすだけではないだろうか・・・。それくらいなら、両者が完全独立したうえで、関係国もこれを支持し、南北間で互いの主権を前提にした良好な相互関係を構築する「2国家共存」のほうが現実的ではないだろうか・・・」とも思えてきました。