孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  イスラム武装組織との和平協定破棄と公開女性むち打ち刑

2009-04-11 14:50:22 | 国際情勢

(パキスタン-アフガニスタン国境の山岳地帯 “flickr”より By stvno
http://www.flickr.com/photos/stvno/3116044049/)

【次々と和平協定】
アフガニスタンのタリバンなど反政府勢力の活動を支える要になっているのが、パキスタン北西部の部族支配地域や北西辺境州スワート地区などのアフガニスタン国境隣接地域と見られています。
そのパキスタンの国境隣接地域では、今年2月、これまでパキスタン政府と戦闘を行ってきた武装組織が次々と政府側との和平協定を結びました。

その先陣をきったのが、北西辺境州スワート地区の武装勢力で、2月16日に同地区へのイスラム法の導入を条件に政府側と和平協定締結で合意しました。
スワート地区では、政府軍・武装勢力双方の激しい戦闘が続き、学校や病院は閉鎖され、住民の生活は破綻、昨年11月のインド・ムンバイ同時テロ事件後、政府軍はインドとの軍事的緊張を背景に戦闘部隊を縮小して劣勢となり、武装勢力が地区の9割を実効支配。住民は武装勢力支持へと傾いているとも報じられていました。【2月17日 毎日】
2月21日には、16日の合意内容を更に進めた“恒久停戦”で合意したことも報じられています。

政府側としては武装組織との和平により治安悪化をくいとめる狙いがあり、パキスタンの主要メディアも「住民の生活を守る最善策だ」などと合意を支持しています。
しかし、パキスタン政府との戦闘を停止した武装勢力側はアフガニスタンでの活動を強化するものと見られており、アメリカはこれを強く警戒、越境ミサイル攻撃を継続しています。

スワート地区での和平合意は昨年5月に続き2回目。
前回は、アメリカの圧力を受けたパキスタン政府がイスラム法導入の協定内容を守らなかったことなどから、8月に破棄されています。
今回合意については、ザルダリ大統領が停戦状況を見極めた上で署名し、発効する・・・ということでしたが。

【協定破棄 アメリカの圧力とむち打ち刑】
****パキスタン:スワート武装勢力が和平破棄 戦闘再開の恐れ*****
パキスタン北西辺境州スワート地区の武装勢力が、政府側との和平破棄を通告し、戦闘再開の恐れが高まっている。武装勢力は、2月に政府側と締結した和平合意の発効に必要な署名をザルダリ大統領が棚上げしていると非難している。
ザルダリ氏が応じないのは、和平に反発する米国の圧力や、和平条件にあるイスラム法導入で人権侵害が起きるとの西側諸国の懸念が背景にある。戦闘が再開されれば住民生活は再び破壊され、貧困が深刻化するのは確実だ。

武装勢力の代理人は9日、「大統領が約束を守らないため、我々は(停戦監視区域から)引き揚げる」と語り、和平破棄を警告した。和平交渉を担ってきた州政府の政権党「アワミ国民連盟」も、「大統領が署名しなければ(ザルダリ氏が率いるパキスタン人民党との)連立関係を解消する」と通告。新たな政局問題に発展する可能性も高まっている。

スワートは、ガンダーラ仏教遺跡群で知られる世界的観光地だったが、07年夏に本格化した政府軍の武装勢力掃討で観光客は途絶えた。地元には「停戦が最大の貧困対策」との思いが強く、州政府の求めに中央政府が和平合意に応じ、政府軍は軍事作戦を中止した経緯がある。
しかし、停戦によって武装勢力がアフガニスタンで対米攻撃を強めると懸念する米国は、和平に反発。オバマ米大統領は3月発表のアフガン包括戦略で、パキスタンの民生支援を打ち出す一方、掃討活動の強化を求めた。
さらに4月上旬、イスラム法が禁じる「姦通(かんつう)の罪」を犯したとして武装勢力が女性を公開むち打ちするビデオが流出し、西側諸国から和平への懸念が高まった。
ザルダリ氏を批判する武装勢力は、和平条件にある武装解除に応じる気配を見せず、政府側との相互不信を生んでいる。反政府色を強める武装勢力は、首都イスラマバードがある東側へも影響力を伸ばし始めており、近い将来、首都が戦場化する恐れもある。【4月10日 毎日】
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【漂流するパキスタンの政治】
ザルダリ大統領は、チョードリー前最高裁長官の復職を認めざるを得なくなったことから、自身の汚職に関する問題も再度表面化することが予測されています。
また、前長官の復職問題で政権を揺さぶるシャリフ元首相の影響力が増しており、与党内でも求心力を失いつつあるとも言われています。
更に、この北西部国境隣接地域での和平協定をめぐる国民の反米感情とアメリカの要請の板ばさみ・・・。
八方塞りの状態にも思えます。

こうした機能麻痺にも見えるパキスタンでは、他の分野での政治・行政はどうなっているのでしょうか?
また、この国は核保有国で、しかも、もうひとつの核保有国インドとかねてより対立関係にあります。
パキスタンの不安定化の影響はアフガニスタン問題だけではありません。

【「少女は罰を受けなければならない」】
上記記事にある“武装勢力が女性を公開むち打ちするビデオ”の件は、4月5日ブログ「イスラム法による司法、公開女性むち打ち」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090405)でも取り上げました。
その後の続報では次のように報じられています。

****タリバンの恐怖 パキスタン衝撃 少女むち打ち映像****
パキスタンの北西辺境州のスワト地区で、17歳の少女が、夫でもない男性と家にいたのはイスラムの教えに反するとして、イスラム原理主義勢力タリバンのメンバーからむち打ちを受ける場面がテレビで放映され、国内に衝撃が広がっている。スワト地区では州政府と武装勢力の合意によりイスラム法が導入され、市民はタリバンの勢力拡大を懸念しており、むち打ちの映像をその脅威と受けとめているようだ。
映像では、大勢の男性が取り囲む中、2人の男性に上半身と下半身を押さえられた少女が、もう1人の男性からむちを打たれ、「やめて」と懇願する様子などが映し出されている。
タリバン側は事実を認めたうえで「少女は罰を受けなければならない」と、むち打ちを正当化している。むち打ちの理由をめぐっては、ある少年が少女に求婚したが、少女の父親が拒否したため、それに対する報復との説などもある。ただ、真相は不明だ。

一部の報道によると、むち打ちの様子は携帯電話で撮影され、テレビでも繰り返し放映された。世論の反響は大きく、このため中央政府は、北西辺境州への権限が及ばないのにもかかわらず、地元政府などに事実関係の調査を指示した。最高裁も6日、関係者から事情を聴いたもようだ。
スワト地区では、イスラム武装勢力による治安の悪化が著しく、地元政府は武装勢力側が求めるイスラム法の導入を受け入れ、これと引き換えに、2月に和平合意を結んだ。地元政府と武装勢力は「映像は1月の出来事だ。和平合意を妨害しようとする勢力の謀略だ」と反発している。【4月7日 産経】
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個人的には、文化・宗教の違いの問題かとも思うものの、こうした行為に対する強い拒否感を感じて4月5日ブログを書いたのですが、同じような違和感は欧米諸国だけでなく、パキスタン国内世論にもあるようです。
地元政府と武装勢力は“謀略だ”と主張していますが、今後イスラム法による支配が行われた場合、こうしたことは起きないのでしょうか?
少なくとも、アフガニスタンのタリバン支配下では、日常茶飯事になるのでは?

【メスード司令官 ISI】
パキスタン部族支配地域と北西辺境州スワート地区を拠点に武装闘争を展開する組織は。各地に独立した勢力がありますが、うち北、南ワジリスタン管区を統治するベイトラ・メスード司令官が、他地域・地区の計6人の司令官を傘下におさめ、反米・反政府闘争を指揮しているとか。(昨年10月頃には死亡説も流れましたが。)
なお、いずれの司令官も、タリバン最高指導者オマル師支持を公言し、タリバンとの関連が深いとも。【2月26日 毎日】

メスード司令官はブット元首相殺害テロの首謀者とも言われていますが(真偽はともかく)、最近では3月30日、ラホールの警察学校襲撃事件の黒幕とも言われています。
ラホールの事件後、メフスードを名乗る人物が電話取材で「われわれはもうすぐワシントンに攻撃をしかけ、世界中を驚かす」と語っています。【4月15日号 Newsweek】

あまり信憑性は感じられませんが、メスード司令官等の武装勢力は今なおパキスタン情報機関・軍統合情報部(ISI)の一部から支持を受けているともよく言われます。
ISIはかつてタリバンを育成したことで知られていますが、今もイスラム武装組織と一部がつながり、そのように言われながら粛清もされずに活動している・・・このあたりがパキスタンのよくわからないところです。
アフガニスタンからのアメリカ撤退後をにらんで、タリバンや武装勢力との関係を保持しているとも言われますが。


コメント
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