孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  中国との経済関係強化で「一中市場」形成への流れ

2009-04-27 21:58:41 | 国際情勢

(台湾と中国を、幸せそうに抱き合う姉妹に見立てて描かれたプロパガンダ
“flickr”より By kattebelletje
http://www.flickr.com/photos/kattebelletje/3355051706/)

【自由貿易協定も検討スケジュールに】
高度成長する中国経済に相乗りする形で低迷する台湾経済を打開すべく、中国との経済関係強化を進める台湾・馬英九政権の動きが加速しています。
26日には中国江蘇省南京で、中国の陳雲林・海峡両岸関係協会(海協会)会長と、訪中した台湾の江丙坤(こうへいこん)海峡交流基金会(海基会)理事長による中台窓口機関のトップ会談が行われました。

****中台、経済融合推進で合意 交渉窓口トップが会談****
中国と台湾の交渉窓口の両トップが26日、南京で会談し、金融機関の相互乗り入れや定期便の導入など、中台の経済融合を進める協定に合意した。規制していた中国資本の台湾進出にも道を開く。世界的な景気低迷の下、台湾は中国マネーに近づく姿勢を強める。台湾が巨大な中国経済にのみ込まれず、中台関係で主体性を保てるかが今後の課題になりそうだ。

台湾側の江丙坤・海峡交流基金会(海基会)理事長と中国側の陳雲林・海峡両岸関係協会(海協会)会長の会談は、中台対話が復活した昨年6月以来3度目。
(1) 直行チャーター便の定期便化と増便
(2) 金融機関の相互乗り入れの解禁
(3) 犯罪捜査や情報提供などの司法協力
の3項目で協定に署名し、別に中国資本の台湾進出を認めることでも一致した。
また、江理事長は26日の会見で、年内に予定される次回協議の議題候補のリストに、関税撤廃など一種の自由貿易協定である「両岸経済協力枠組み協定(ECFA)」を入れたことを認めた。

合意の大半は、台湾側の要望に基づくもので、「台湾経済救済」の様相が濃い。台湾経済は大幅なマイナス成長が確実な情勢で、失業率も過去最悪水準の6%弱に達する。経済立て直しを掲げて当選した馬英九(マー・インチウ)政権は、多少リスクを冒しても経済で成果を得たい事情がある。
中国はその事情も踏まえたうえで中国に好意的な馬政権の安定を優先し、できるだけ台湾に「アメ」を与える構えとみられる。経済を武器に相手を取り込む戦略は、過去に香港などでも見せた中国のお家芸でもある。

香港は新型肺炎(SARS)流行後の不況下にあった03年、中国と経済貿易緊密化協定(CEPA)を締結。本土からの中国人観光客が5割を超え、中国系企業が香港株式市場総額の55%を占めるほど経済一体化が進んで好況を取り戻した。その一方、民主選挙導入への勢いは後退したとされる。
香港のCEPAの中台版といえるのがECFAで、年内合意の可能性もささやかれる。これは胡錦濤(フー・チンタオ)・中国国家主席が昨年末に呼びかけたもので、「一国二制度」の実現につなげる中国の長期戦略の一環と見られる。
台湾では「ECFAを結べば台湾が香港化する第一歩になる」(蔡英文(ツァイ・インウェン)・民進党主席)との疑念もあるが、与党・国民党幹部は「中国ビジネスを手がける台湾企業からECFAを求める強烈な要請があった」と主張する。

台湾の経済的な中国依存の兆候はすでに出ている。昨年7月、中国人観光客の台湾旅行を解禁すると、台湾の101ビルや故宮博物院は記録的な入場者にあふれ、阿里山や日月潭など観光地のホテルも、ほぼ満室状態になった。
台湾はECFAの対中交渉で「対等・平等」堅持を掲げ、「香港化はあり得ない」(尹啓銘・経済部長)との姿勢だ。だが、中国とは大人と子供ほどの経済規模の差がある。馬政権は中国とどう対等に向き合うかという新たな課題も背負った形だが、具体策をまだ示せていない。【4月26日 朝日】
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【ウイン・ウイン・・・か?】
中国側の陳会長は会談の冒頭、「中台が共に手を携え、平和的発展の道にある困難を克服し、ウイン・ウイン(共に勝者となる)の経済発展を生み出そう」と呼びかけたそうですが、“ウイン・ウイン”なのか、中国による台湾呑みこみに繋がるのか・・・。
また、中国は台湾を標的にした1000基以上ものミサイルを配備していると言われていますが、馬総統は中台関係について、「経済の問題をまず解決し、その後に政治、軍事など困難な問題に取り組む。ミサイルの問題は配備から10年がたち、一朝一夕では解決しない」と述べています。【4月23日 毎日】

馬英九政権が進める中台の経済協定締結(ECFA)や中国資本による台湾への投資解禁などに対しては、野党の民進党や台湾団結連盟(台連)は「台湾を中国に売り渡す行為」と激しく反発しています。

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野党陣営は(1)「一つの中国市場(一中市場)」の形成で中国の安い農産品や工業製品、労働力が流入し、台湾の農民、中小企業、労働者が大打撃を受ける(2)世界最大の外貨準備を背景に、中国が台湾経済の要である銀行など金融産業を乗っ取る(3)ハイテク企業の買収によって中国への技術流出がおきる(4)メディア産業の買収で台湾の思想・言論が中国に牛耳られる-などあまたの問題を指摘して馬政権を激しく批判している。

一方、政府当局の行政院経済部(省庁に相当)は(1)農業など影響の大きい産業はECFAの対象から外す(2)中国資本の台湾企業への出資上限を30%以下に設定するなどの防御策を講じる-と反論している。
これについても野党陣営は、たとえ出資制限を設けても中国側が“籠絡(ろうらく)”した「台商(在中国の台湾企業)名義で買収すれば規制は尻抜けになる」(独立派系紙、自由時報)などと再反論。議論の応酬はとどまるところを知らない。

与党の国民党は立法院(議会)の3分の2の議席を抑えているだけに、馬政権は対中経済交流拡大の手綱を緩める気配はない。野党民進党は5月17日に台北で反ECFAの大規模な抗議デモを計画するなど反政府姿勢を強めている。【4月25日 産経】
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中国側は経済関係以外にも、台湾のWHO年次総会オブザーバー参加にも台湾への配慮を示しています。
あるいは、配慮を示しているのは経済関係やWHO問題など限られた範囲で、相変わらず1000基以上のミサイルを向けていると言うべきでしょうか。

****台湾:WHO年次総会へのオブザーバー参加、中国も「ほぼ合意」****
台湾紙「中国時報」は13日、世界保健機関(WHO)年次総会への台湾のオブザーバー参加が早ければ4月末にも決定すると報じた。中台間では参加について「ほぼ合意」に達しているという。5月にジュネーブで開かれる年次総会で、97年から申請してきた台湾の悲願が達成する可能性が高まっているようだ。
台湾のオブザーバー参加について日本や米国は支持を表明している。中国はオブザーバー参加についても反対してきたが、中台融和が進む中で柔軟姿勢に転じた。
台湾の馬英九総統は参加する際の名称を「中華民国」「台湾」「中華台北」の順に希望を挙げている。 【4月14日】
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【中国、台湾そして香港】
中台接近の結果、これまで中継地としての役割を果たしてきた香港が危機感を強めており、香港は台湾への接近を図っています。
上海の発展によって、アジアの金融センターとしての香港の「地盤沈下」に対する危機感もあります。

****台湾と香港60年ぶり急接近 「中国が統一工作に利用」警戒の声も****
中台関係の改善を追い風に、台湾と香港が60年ぶりの接近を始めている。先月末に香港特別行政区政府の曽徳成・民政局長が台湾を訪問したのに続き、今月中旬には台湾の胡志強・台中市長が訪港した。高官の相互訪問は初めてで、背後には台湾統一に向けて中国、香港、台湾の当局間交流を拡大しようとの胡錦濤政権の思惑も働いていそうだ。 (中略)
台湾は世界不況下で対中傾斜をさらに強めており、胡市長は「台湾、香港、広東、福建の協力強化」を呼びかけた。
中国にとっても双方の交流拡大は望むところだ。すでに中国の党・政府を後ろ盾とした香港メディアや企業の台湾進出が活発化しているが、経済・文化交流の拡大を通じた中台の一体化をさらに進めやすくなるからだ。
また香港特区政府に適用している「一国二制度」を台湾に宣伝する好機とも受け止めているようだ。
台湾内では民進党など野党陣営から中港台の協力拡大が「中国の統一工作に利用される」ことへの警戒の声が高まっている。しかし立法院(議会)の3分の2を占める国民党政権のもとで、この流れに歯止めがかかる気配はない。【4月19日 産経】
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中国・台湾、更に香港を加えた“一中市場”の形成は、大きな流れとなっています。
中国との統一または独立という政治関係についての台湾世論を、対中政策を主管する大陸委員会の最近の調査にみると、「現状維持の後、統一か独立を決定すべきだ」が35%で最も多く、「永遠に現状維持」が27%で次ぎ、早急に統一や独立を求める意見は合わせても8%弱しかなかったとか。【4月27日 毎日】
ただ、台湾や香港が中国の大きな引力にどれだけ抗して独自の軌道を維持できるのかについては、かなり疑問でもあります。
基本的には民族的同一性を持っていますので、今後中国の国際的地位が向上すれば、経済関係を超えた連携・関係強化もあるように思えます。


 
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