(4月9日のタクシン派「反独裁民主同盟」による大規模集会 こうした混乱がまた繰り返されるのでしょうか?
“flickr”より By adaptorplug
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【大集会強行か?】
タイのタクシン元首相を支持するグループと、現アピシット民主党政権及び反タクシン派の確執は、依然解消されていません。
タクシン派の「反独裁民主同盟」は当初8月29日に大規模集会を開く予定でしたが、政府の治安維持法適用を受け、9月5日に延期。
更に、政府が同法を再適用する動きを見せたことから、民主同盟は19日までデモは行わないと表明していました。
19日は、元首相が失脚したクーデターから3年目となる日です。
その19日(今日ですが)、タクシン派はバンコク中心部で現政権の退陣などを求める大集会を強行する予定と報じられています。
****タクシン派、現政権の退陣求め大集会へ タイ*****
タイのタクシン元首相を追放した軍事クーデターから3年となる19日、元首相派がバンコク中心部で現政権の退陣などを求める大集会を開く。アピシット首相は景気回復や国民和解などの公約を実現できていないうえ、連立与党内の亀裂も表面化して求心力が急速に低下している。元首相派はこの機に乗じて揺さぶりをかける構えだ。
元首相を支持する反独裁民主同盟は、国会近くで集会をした後、元首相が「クーデターの黒幕」と批判するプレム枢密院議長宅にもデモをかける予定。政府は18日から、集会などを禁じる治安維持法を周辺地域に適用すると宣告したが、同盟は強行する方針で、緊張が高まっている。
昨年12月に発足したアピシット政権は、最も自信があったはずの景気対策で具体的な成果が出せず、元首相派との政争の収拾にも展望を見いだせていない。バンコクの公立大が13日に実施した世論調査では、69%が政権に対する「信頼を失った」と回答。首相自身も7月、就任半年を振り返って「成果を出せていない」と認めた。
連立与党内の亀裂も求心力低下に追い打ちをかけている。8月下旬、新警察長官の選任をめぐって、与党第2党「タイ名誉党」が首相の推す候補に公然と異議を唱えた。今なお選任不能の状態が続いており、首相の指導力が疑問視されている。
名誉党は、連立政権発足の際にタクシン派から寝返った勢力で、首相が所属する民主党とは理念や政策が違う。安定多数確保のため引き込んだが、31議席を持つ名誉党が離脱すれば過半数割れになるため、決定権を握られた形だ。
連立与党内で首相に不満を持つ勢力による「アピシット降ろし」の動きが始まったとの見方もある。「これを機にタクシン派が一気に攻勢を強め、大きな混乱になる可能性もある」(外交筋)との懸念が出ている。【9月18日 朝日】
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政権側は、首都バンコク中心部に治安維持法を発令し、厳戒態勢を敷いているようです。
****バンコク中心部、厳戒態勢 反政府デモに備え****
タイ政府は18日、2006年のクーデターで追放されたタクシン元首相の支持団体「反独裁民主統一戦線」が19日に予定している大規模反政府デモに備え、首都バンコク中心部に治安維持法を発令、首相府周辺などに警官数百人を配備し厳戒態勢を敷いた。同法は22日まで適用される。デモには約3万人が参加する見通し。治安当局側は6千~7千人規模の警官や軍兵士らを配備する。【9月18日 共同】
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【恩赦請願運動】
タクシン派と反タクシン派の対立の構図については、7月10日ブログ「タイ タクシン派と反タクシン派 解消されない根深い対立」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090710)でも取り上げたところです。
最近では、タクシン派による、タクシン元首相の恩赦を求める請願書を500万人以上の署名とともにプミポン国王あてに提出するといった動きもありました。
****タイ:タクシン元首相派 国王に恩赦求め請願書提出へ****
汚職防止法違反罪で実刑判決を受け国外逃亡中のタクシン・タイ元首相支持派は17日、恩赦を求める請願書を500万人以上の署名とともにプミポン国王あてに提出する。政府や反タクシン派は「王室を政治的対立に巻き込むものだ」と反発を強め、一時沈静化したタクシン派と反タクシン派の対立が再び激化しつつある。
タクシン派「反独裁民主戦線」(UDD)は7月から、元首相の地盤の北部や東北部を中心に元首相の恩赦を求める署名集めを開始。署名はこれまでに約540万人分に上ったという。
タイでは、国王に対する恩赦請願は国民に認められた権利だ。しかし国王は政治に介入しないことが原則で、元首相の恩赦が認められる可能性はほとんどない。署名活動の狙いは、依然元首相が国内で強い支持を得ていることを強調する政治的なものだ。
これに対し、反タクシン派のアピシット首相は「UDDの恩赦請願は法に反する」と非難。チャワラット内相は各県知事に命じて恩赦請願に反対する署名活動に乗り出し、反恩赦「官製」署名は14日までに全国で約800万人に上ったという。
さらに反タクシン派の「民主市民連合」(PAD)は、UDD幹部は元首相の居所を知りながら警察に通報していないなどとして、犯人隠匿容疑などで幹部3人を告発する署名活動を開始した。
アピシット首相は7月、就任半年の総括で「タクシン派による妨害でこの6カ月間、上げるべき成果を上げられていない」と自ら認め、一部の世論調査ではタクシン元首相への支持率がアピシット首相を上回った。世界的な経済危機や新型インフルエンザの影響で経済が低迷し現政権への支持が落ち込む状況に、元首相は4月に次いで再び帰国・復権へ向けた勝負をかけているようだ。【8月15日 毎日】
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【和解への遠い道のり】
実際にデモが強行されるのか、また、どういう展開になるかはわかりませんが、タクシン派・反タクシン派双方が街頭行動や恩赦請願などで揺さぶりを掛け合う状態では“和解”は実現できません。
高齢のプミポン国王による調整機能も低下しているようにも見受けられます。
唯一の解決は、総選挙で民意を問い、その結果を双方が受け入れることしかありませんが、選挙に自信のない反タクシン派には、“選挙の度にタクシン派が勝利するのは票の買収や民度の低さのためだ”“農村部の票は金で買われたものであり、金で動くような愚か者に国会議員を選ぶ資格はない”との発想があり、反タクシン派「民主市民連合」(PAD)支持者は、国王による指名議員を含む「新政治」への移行を求めています。
金権・バラマキ政治のタクシン元首相への抵抗運動とも報じられることがある反タクシン派ですが、その実態は旧既得権益層を背景にしているとも見られます。
自国民を否定したところからは全国民のための政治は生まれません。