(東エルサレムのイスラエル入植地Har Homa “flickr”より By delayed gratification
http://www.flickr.com/photos/joshhough/315556027/)
【強まる国際的圧力】
パレスチナ問題などの中東情勢が膠着する状況で、一方の当事国であるイスラエルに対する風当たりは厳しくなっているように見えます。
最近、相次いでイスラエルを非難する国際人権理事会の調査団報告と国際原子力機関決議がなされました。
****イスラエルのガザ攻撃は「戦争犯罪」 国連人権理が報告*****
昨年末から約3週間続いたイスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ攻撃について調べるため国連人権理事会がつくった調査団が15日、報告書を公表した。一般市民を意図的に攻撃したイスラエル軍の行動は国際人道法違反で、戦争犯罪に当たると批判する一方、軍事行動のきっかけとなったガザの武装勢力によるイスラエルへのロケット弾攻撃も、戦争犯罪などに該当すると認定した。
報告書は、礼拝中のモスクを爆撃したり、パレスチナ人を「人間の盾」にしたりといったイスラエル軍の行為が戦争犯罪に当たると主張。非人道兵器とされる白リン弾を住宅密集地で使うなどの過剰な軍事行動の実態を指摘した。
さらにイスラエルに対し、公正な独自調査を要求するよう国連安全保障理事会に勧告。同国が十分な対応をしない場合には国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう求めた。
報告書は4人の国際法専門家が3カ月をかけてまとめた。ガザを中心に犠牲者ら約200人の関係者から聞き取りをしたが、イスラエルは協力を拒み、同国当局者らへの事情聴取はできなかった。 【9月16日 朝日】
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報告書はイスラエル・パレスチナ双方を「戦争犯罪」を行ったと糾弾していますが、特に、イスラエル側の過度な軍事行動を厳しく非難する内容となっています。
イスラエル政府はただちに、報告書は「一方的な内容」だと非難する声明を出しています。
また、イスラエル外務省は、「わが国は国際法に完全に則った行動をとっている」とした上で、報告書が指摘する「軍の不正行為」を精査する方針を示しています。
なお、ガザ地区を実効支配しているイスラム原理主義組織ハマスも、報告書を「政治的で偏りがある」と非難しています。【9月16日 AFPより】
****IAEA:イスラエルのNPT加盟求める決議*****
国際原子力機関(IAEA)の年次総会は18日、事実上の核兵器保有国、イスラエルに対して懸念を表明、核拡散防止条約(NPT)への加盟を求める決議を採択した。IAEA総会でイスラエルに対し同種の決議が採択されたのは1991年以来。
採決では、アラブ諸国や中国、ロシアなどが賛成、日本や米国、欧州諸国が反対し、小差で採択された。イスラエルは中東でNPTに加盟していない唯一の国で、アラブ諸国やイランは長年、非難を続けている。
イスラエル当局者は採択後「決議について協力はしない」と言明。一方、イランのソルタニエIAEA担当大使は「パレスチナを抑圧する国に対する勝利だ」と述べた。【9月20日 毎日】
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【シャトル外交失敗】
そのイスラエル・ネタニヤフ政権は今月7日、イスラエル占領下のヨルダン川西岸の入植地で住宅455戸の新規建設を正式に承認。9日には、67年に占領後、自国領に併合した東エルサレムでも486戸の増設業者を選定しています。
米ロ、EUと国連が03年に提示した新中東和平案(ロードマップ)は、イスラエルに全入植活動の凍結を要求していますが、イスラエルは入植地人口の「自然増」を理由に拒否。中東和平交渉停滞の焦点の一つになっています。
今回の入植承認は、国際圧力によって「一時凍結」決断を迫られる前に、駆け込み的に入植継続の姿勢を示すことで、入植推進を訴える連立与党内の右派・強硬派を懐柔する狙いがあるとの見方が有力だとも報じられています。【9月12日 毎日より】
アメリカはミッチェル米中東特使をイスラエル・パレスチナ双方に派遣して「シャトル外交」を展開し、事態の打開を図りましたが、イスラエル・パレスチナ自治政府双方の姿勢は固く、交渉は失敗に終わっています。
****イスラエル:米特使仲介失敗 入植地問題で指導力不足露呈****
中東を歴訪していたミッチェル米中東特使は18日、イスラエル占領地の入植地問題についてネタニヤフ同国首相、アッバス・パレスチナ自治政府議長と相次いで会談したが、妥協点を見いだせなかった。特使は停滞する和平交渉の再開に道筋をつけようと、滞在を延長して折衝を続けたが、仲介は不調に終わった。
関係当事者の溝を改めて浮き彫りにしたほか、米国の指導力不足も露呈した形で、こう着状態の打開はますます困難になりそうだ。
ミッチェル特使は18日朝、エルサレムでネタニヤフ首相と今回の訪問で3度目の会談を開催。その後、ヨルダン川西岸ラマラでアッバス議長と会談し、再びネタニヤフ首相を訪ねた。
ロイター通信などによると、入植の「一時凍結」で妥結したいイスラエルは当初「6カ月」の時限凍結を主張したが、これを「9カ月」に延長すると打診。米国は「完全凍結」の要求を「1年間」に下げて、さらなる譲歩を迫った。
これに対し、パレスチナは「完全凍結」に固執。将来の独立国家の首都と位置づける東エルサレムを凍結対象から除外するイスラエルの方針にも反発して、妥協の余地を排除した。
パレスチナ解放機構(PLO)のエラカト交渉局長は「凍結に折衷案はない。ミッチェル特使の『シャトル外交』は合意に至らなかった」と述べた。(後略)【9月19日 毎日】
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【中東3者会談 実施されるものの・・・】
この「シャトル外交」失敗で、国連総会でのオバマ米大統領・イスラエルのネタニヤフ首相・パレスチナ自治政府のアッバス議長による3者会談の実現は危ぶまれていましたが、アメリカが嫌がるアッバス議長を説得する形で実現の運びとなりました。
****中東3者会談実施へ、和平交渉の再開目指す*****
ギブス米大統領報道官は19日、オバマ大統領、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長が22日、ニューヨークで開催される国連総会の場で3者会談を行うとの声明を発表した。
オバマ政権下での3者会談は初。大統領がパレスチナ和平交渉の再開を念頭に双方に開催を強く働きかけ、土壇場で了承を取り付けたと見られる。
声明によると、大統領は22日、双方と個別会談を行った後、3者会談を主宰する。会談の狙いについて「(和平)交渉再開の土台を築くもの」と説明した。
和平交渉は、昨年12月にイスラエルがパレスチナ自治区ガザを攻撃して以来、中断しており、オバマ政権は、イスラエル、自治政府の代表が国連総会に出席するのに合わせ、3者会談を実現、交渉再開への布石とする構想を描いた。
ミッチェル中東担当特使がシャトル外交を展開、双方に会談を呼びかけ、イスラエルは前向きだったが、自治政府はイスラエルによるヨルダン川西岸への入植活動継続に反発し、18日時点で会談実現は困難と見られた。ミッチェル氏は今回の会談について「大統領の包括和平への深い関与を示すものだ」としており、状況急変の背景として、大統領側がアッバス氏に出席を強く促した可能性が高い。
また、オバマ政権は和平の道筋として、米国などが2003年に示した「ロードマップ」(行程表)を掲げ、その中で明記されたイスラエルの入植活動凍結を支持しており、会談実現のため、米国がパレスチナ側に対し、イスラエルに強い姿勢で臨む意向を伝えたとの見方もある。
だが、会談前後に入植活動凍結の見通しが得られなければ、アッバス氏にとって大きな痛手になるとの見方もある。パレスチナ側は元々、入植活動凍結を和平交渉再開の条件としており、その確約が得られない中で会談に臨んだ場合、アッバス氏が組織内で窮地に陥る恐れがあるというものだ。【9月20日 読売】
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3者会談は交渉再開に向けた「予備協議」との位置づけですが、パレスチナ側は交渉再開の前提条件として、東エルサレムを含めた西岸での入植活動の全面凍結を掲げています。一方、イスラエル側は東エルサレムでの建設規制に応じる構えはなく、西岸でも着工済みの2500戸については建設続行の方針を示しています。
両者の隔たりは大きく、実質的な交渉進展は難しい情勢です。
“ロイター通信によると、米当局者は「3人の指導者が同席し、溝を埋める作業を続ける」としているが、3者会談を行っても交渉再開につながる発表はないだろうとの見通しを示した。オバマ大統領が中東和平の実現に意欲的なのは、イランの核開発問題やアフガニスタン情勢で、アラブ諸国やイスラム社会の協力を得たいためだ。自らが乗り出した調整で成果を出せなければ、逆に失望感が広がる恐れもある。”【9月20日 毎日】
オバマ大統領、アッバス議長ともに指導力を問われる難しい状況での交渉ですが、アメリカがアラブ諸国やイスラム社会の協力を重視する方向を強めている中で、イスラエルは従来のようなアメリカの支援を期待しにくい情勢になっています。
これ以上の国際的孤立はイスラエルにとって得策ではないように思えるのですが。