孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  “クレムリンの怯える男たち” 「屈辱」を秘めて「尊敬」を求める

2009-09-13 13:38:45 | 国際情勢

(07年2月23日モスクワ 祖国英雄の日のパレード “flickr”より By Antonis SHEN
http://www.flickr.com/photos/antonis/399749840/)

【「消えた貨物船」】
最近メディアを賑わせたロシア関連の話題と言えば、「消えた貨物船」。

****「消えた貨物船」イラン向け露ミサイル積載?*****
大西洋で7月末に乗っ取られ「消えた貨物船」として話題を呼んだ船が、ロシア製のミサイルを積んでいた疑惑が浮上。
ロシアの犯罪組織や情報機関の関与も取りざたされ、事件の真相に迫ろうとしたジャーナリストが「身の危険」を感じて国外に避難するなど、きな臭い騒ぎに発展している。

問題の貨物船は、7月末に約1億8000万円相当の木材を積みフィンランドを出港し行方が分からなくなった「北極海」。
ロシア海軍が8月中旬、アフリカ西部沖で発見しエストニア、ラトビア、ロシア国籍の犯人8人を逮捕。ロシア人の乗組員15人は解放され、一件落着のはずだった。
ところが、クレムリン批判で知られる新聞「ノーバヤ・ガゼータ」が8月下旬、「北極海」がイランやシリア向けの兵器か核物質を積んでいた可能性があると伝えた。
英紙「デイリー・テレグラフ」も7日、積み荷はロシア製の防空ミサイルS300で、イランに向け輸送中だったがイスラエルの情報機関モサドが阻止したと報じた。
一方、8月初めに「北極海」が行方不明になったことをいち早く報じたロシアの海運ジャーナリスト、ミハイル・ボイテンコ氏は、「国家機関に属する人物から『生命に危険があるぞ』と警告を受けた」として、タイに逃れた。
ロシアのラブロフ外相は8日、兵器密輸報道などについて「まったくのうそだ」と否定したが、謎めいた船を巡る憶測は広がり続けている。【9月8日 読売】
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「デイリー・テレグラフ」によると、核開発を進めるイランがイスラエルの空爆を恐れ、ロシアの犯罪組織から対空ミサイルを密輸しようとしたもので、これを察知したイスラエルの対外特務機関モサドが介入し、同船をめぐって騒ぎを起こしてイランに着くのを阻止したとか。
同紙によると、同船が発見された翌日、イスラエルのペレス大統領がモスクワを訪れ、メドベージェフ露大統領と4時間にわたって非公式に会談。ペレス大統領は高性能兵器がイランやシリアに流れるのを阻止するよう要求し、メドベージェフ大統領も口頭でこれに応じたとも。【9月8日 産経より】

まるでハリウッド映画のような話ですが、ミサイルを密輸できる“犯罪組織”というのも恐い話です。
ミサイルを扱えるなら、核爆弾も恐らく・・・。

【イランへのミサイル防衛システム提供契約】
真相がわからない「消えた貨物船」の話が絡んでいるのかどうかはともかく、“ロシア、イラン、イスラエル”というメンバーのミサイル絡みの話として表舞台で行われている動きとしては、高度ミサイル防衛システムをロシアがイランに提供する契約があります。

****ミサイル防衛システムは最後の切り札*****
アメリカとロシアは7月6日、核兵器削減に向けて合意した。しかし公式声明には重要な問題が抜け落ちていた。高度ミサイル防衛システムをロシアがイランに提供する契約についてだ。実際に提供されれば、アメリカやイスラエルがイランの核施設を攻撃することが今よりずっと難しくなる。
契約が成立したのは07年だが、まだ引き渡しは行われていない。ロシアはこのミサイル防衛システムを利用して、さまざまな国から譲歩を引き出そうとしている。
いい例がイスラエルだ。同国は4月、ロシア製よりはるかに性能の高い5000万ドル相当の無人航空機をロシアに売却することで合意。またイスラエルはロシアの要請を受けて、グルジアへの兵器関連の輸出をイスラエル企業にやめさせることも承諾している。
だがアメリカやイスラエルは、ミサイル防衛システムはロシアにとって残り少ない切り札の1つだということを承知しているはずだ。ロシア政府はイランのブシェール原子力発電所の建設を支援することで、イランに対する影響力を確保してきた。だが原発が完成した今、ロシアがイランへの影響力を世界にアピールする手段はミサイルシステムくらいしかなくなった。イランに対する影響力が減ったのは確かだ。【7月21日 Newsweek】
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【「屈辱」と「尊敬」】
国連安保理でイラン制裁決議に賛成しながら、イランにミサイル防衛システムや原子炉を供給する、更に、それを梃子に関連国から譲歩を引き出す・・・“したたか”と言えばしたたかなロシア外交ですが、“一体何を考えているのだか?”“どうしてそこまで・・・”という感もあります。

ロシア外交の主な流れは、イランのほか、ベネズエラ、シリア、スーダンといったアメリカと敵対している国家との関係強化がひとつ。もうひとつは、グルジア、ウクライナ、ベラルーシ、中央アジア諸国など“旧ソ連諸国”への介入・恫喝・懐柔・関係強化の戦略です。

このロシア外交の背景にあるものを、9月16日号Newsweekの「ロシアの歪んだ世界観」(欧米の常識では理解できない矛盾だらけ 対外政策の根底に流れる「屈辱」の論理を読み解く)が扱っています。

同記事によれば、冷戦時代より、ソ連指導層は“威張り散らしながらも深い不安を抱え、国内の政治的脅威に疑心暗鬼”になっており、“激動の歴史を経てトラウマを背負った「傷ついた巨人」”であることが欧米に敵対的な態度を取らせてきたとのこと。
更に、1980~2000年のソ連崩壊に伴う経済的混乱・国際的地位低下の「屈辱」から、“国際社会からの尊敬”を求め、“尊敬されたいという強烈な思いはロシア人の世界観を、何事も勝者と敗者、敵と味方に分ける19世紀的なものにゆがめてしまった”とも。

ロシアの「勢力圏」「特別権益地帯」である旧ソ連諸国でのカラー革命による親米政権成立はCIAの策略であり、“ロシアにとって欧米は、元妻を奪ったリッチで優しい男”であり、反米国家に接近するのも、“ロシアを「多極化した世界」のリーダーとして認めてくれる相手なら誰とでも親しくしたい”から・・・とのことです。

****ロシア:半世紀ぶり「スターリン礼賛」装飾 復権の動き*****
モスクワ市内の地下鉄駅構内で、ソ連時代の独裁者スターリンをたたえる装飾が半世紀ぶりに登場し、議論を呼んでいる。ロシアでは最近、スターリンの名誉回復を求める訴訟も起きており、「スターリン復権」の動きが勢いを増している。(中略) ロシアでは00年にプーチン前政権が発足して以来、スターリンが第二次大戦を勝利に導いた点などを取り上げ、再評価する動きが出ている。国営テレビが昨年末に実施した歴史上の指導者を評価する投票でも、スターリンが3位に入っていた。【9月5日 毎日】
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これも“強かったロシア”の時代への思いでしょうか。

****ロシア:国民の通信監視強化、半年で電話傍受6万人分超*****
ロシア治安当局が国民の通信監視を強化し、今年前半に6万4477人分の電話傍受や、11万4589人分の手紙など私信の秘密調査が裁判所に許可されたことが、最高裁の統計で11日までに判明した。ソ連時代をほうふつさせる監視社会の実態が浮かび上がり、過激派対策に名を借りた政治弾圧との指摘が出ている。
傍受の権限を持つのは、プーチン首相がかつて在籍した旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後身である連邦保安局や内務省機関。ソ連崩壊後に弱まった情報機関の勢力の回復ぶりも裏付けているといえそうだ。(後略)【9月12日 毎日】
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“国内の政治的脅威に疑心暗鬼”なのも相変わらずのようです。

【更なる「強いロシア」を目指して】
「勢力圏」「特別権益地帯」などの言葉は、旧日本の“満蒙は日本の特殊権益・生命線”とう発想を連想させますが、旧ソ連諸国をひっぱたいたり、なだめすかしたりして、なんとか自分に沿わせようとするロシアは、元妻の気持ちを理解できない大男・・・というところでしょうか。

“重要なのはロシア政府が帝国の瓦解を事実として受け入れ、かつての衛星国にも独自の戦略的選択をする権利があることをみとめるかどうかだ。”【上記Newsweek記事】
もっとも、強さ・尊敬を求めるロシアの心情は、他の“大国”と呼ばれる国々、あるいは“大国”を目指す国々にも、多かれ少なかれ共通したものではあるでしょうが。

ところで、こんな記事も。
****首相じゃ不満?プーチン氏、大統領復帰に意欲****
ロシア通信によると、ロシアのプーチン首相は11日、モスクワで内外のロシア専門家との対話に出席し、2012年の次期大統領選挙について、「メドベージェフ大統領と話をして、私と彼のどちらかが立候補する」と述べた。
大統領に復帰する意欲を示唆した発言として注目される。【9月11日 読売】
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もとより、プーチン首相の大統領復帰は以前から“既定路線”と見られていますが、“強いロシア”を実現するのは“強い男”プーチンでなければ・・・といったところでしょうか。

コメント
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