(粉をひくマリの女性 “flickr”より By Erwin Bolwidt (El Rabbit)
http://www.flickr.com/photos/erwinb/194159227/)
【「イスラム教への冒涜」】
女性の社会的権利や役割についてどのように考えられているかは、各々の文化で大きな違いがあります。
その文化や社会の仕組みをよく理解せず、自分の社会の価値観だけで断罪するのは間違っている・・・と言われれば確かにそうでしょう。
ただ、そうは言っても、その社会で優位な立場にいる男性が“当たり前のこと”として無視している現実、女性に過度の負担が負わされている現実も、やはり存在しているようにも思えます。
****女性の権利を向上させる「家族法」、5万人の抗議デモで頓挫 マリ*****
西アフリカのマリで、女性に対しこれまで以上の権利を認める新しい家族法が議会を通過したが、これがイスラム保守派らの激しい怒りを招き、大統領が議会に見直しを迫る事態にまで追い込まれている。
女性の権利の強化を狙ったこの法案は、約10年前から修正を重ねながらも議題に上っていたが、前月始めに議会で過半数の賛成を得て承認された。
その内容は、結婚は民事婚のみ認める、結婚可能年齢を18歳に引き上げる、別居状態が3年続いた場合にのみ離婚を認める、婚外子にも相続権を与える、など。同国ではこれまで、結婚年齢に関する規定はなく、しきたりにより13歳や14歳で結婚させられる少女もいた。
だが、同国のイスラム高等評議会は、同法を「イスラム教への冒涜(ぼうとく)」と断罪。前月22日には、首都バマコのサッカースタジアムに約5万人が集まり、同法への抗議デモを行った。会場には、「西洋文明は罪悪だ!」「マリ国民を分断する法律にはノー!」といった横断幕が掲げられた。
一方、デモを扇動したイマーム(イスラム教指導者)らは、「法案を支持する者たちはアラーを裏切った。今後は、彼らとその家族に対するいかなる宗教儀式も行わない」という旨の声明を発表した。
一連の抗議を受けてアマドゥ・トゥマニ・トゥーレ大統領は、同法を発効させるための署名を取りやめ、議会に差し戻した。
社会学者のママドゥ・サマケ氏は、マリ国民の90%がイスラム教徒だとしたうえで、「この法案はよく見てみると、女性に特段の利益があるわけではないのだが、議論は文化や宗教の色に染まりつつある」と話している。【9月2日 AFP】
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【「女性革命」が必要】
イスラム社会における女性の権利は、スカーフやブルガの問題を含めて、欧米社会的価値観からすると、しばしば問題になります。
ただ、イスラム社会といっても一様ではないようで、リビアの最高指導者である“あの”カダフィ大佐は、アラブやイスラム世界の女性は「家具のように」ないがしろにされており「女性革命」が必要だと訴えたそうです。
****「アラブ世界で女性の扱いは家具なみ」、カダフィ大佐が伊女性の前でスピーチ****
イタリアを訪問中のリビアの最高指導者ムアマル・カダフィ大佐は6月12日、ローマで講演し、アラブやイスラム世界の女性は「家具のように」ないがしろにされており「女性革命」が必要だと訴えた。ANSA通信が伝えた。
カダフィ大佐は3日間のイタリア訪問の最終日となった同日、マーラ・カルファーニャ機会均等担当相らイタリアの政治、文化、経済の各界で活躍する著名人を含む約700人の女性を前に「アラブやイスラム世界では女性は家具のようなもの。好きなときに取り替えることができ、取り替える理由を聞かれることもない」と指摘し、「世界は文化的革命にもとづいた女性の革命を必要としている」と語った。(中略)
「女性の権利の擁護者」を自認するカダフィ大佐は、リビアの士官学校で訓練した女性だけで構成するボディガード部隊を組織したこともある。【6月14日 AFP】
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そのリビアの女性の権利がどうなっているのかは知りません。
【女性大臣 代理投票制度】
保守強硬派というレッテルが貼られるイランのアフマディネジャド大統領は、“女性に関してはこれまでのイランにはなかった開明的な政策を発案するなどし、守旧派からの反感を買っている”【ウィキペディア】とか。
確か、女性が認められていなかったサッカーなどスポーツ観戦に、女性席を設ける形で女性にも道を開いた(あるいは、開こうとした)・・・といったこともあったように記憶しています。
今度の組閣でも、イスラム革命後初めての女性大臣を誕生させています。
一方、イスラム原理主義タリバンが攻勢を強めるアフガニスタンでは、女子学生が登校中に顔に酸を浴びせられるといった事件もおきています。
選挙に関しては、8月30日ブログでも触れたように、アフガニスタンの保守的な地域では女性が家から出ることが少ないため、04年選挙から男性が身内の女性の有権者カードを預かって代わりに投票する「代理投票」制度が認められているそうで、不正選挙の温床ともなっています。
また、女性の参政権に対する認識は低く、2004年の選挙前に行われた調査では、回答者の87パーセント(男女両方を含む)が女性の投票には夫の許可が必要であり、72パーセントが女性の投票内容に関して身内男性からのアドバイスが必要であると答えているそうです。
単に“イスラム”の問題だけではなく、その地域の文化・習慣も強く影響して様々な様相があります。
【民法733条】
日本も、海外から見ると、必ずしも女性の権利に寛容でないように思われている面もあります。
****国連委:女性再婚の制限撤廃を 日本に行動を勧告*****
国連女性差別撤廃委員会は20日、日本の女性差別の現状に関する最終見解を出した。見解で同委員会は日本に対し、女性が離婚後、6カ月しないと再婚できない民法733条の規定を撤廃するためただちに行動することなどを勧告した。日本政府は今後、同勧告に従って国内法の整備などを急ぐ必要がある。
最終見解ではまず、過去の委員会勧告が順守されていないとして、早急に対応すべきだと日本政府の対応に不満を表明した。そのうえで、民法733条の規定撤廃のほか、性別による結婚可能年齢差の解消▽男女の役割や責任を巡る旧態依然とした考えをなくすため教育の徹底▽家庭内暴力を含む女性への暴力を解消するため具体的措置の促進▽女性へのレイプや暴力を含むビデオ、ゲーム機の禁止▽従軍慰安婦問題の解決のため努力▽政治への女性の参加促進--などを求めた。(後略)【8月21日 毎日】
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欧米から批判を受けるイスラム社会がその批判に反発するように、日本へのこうした批判にも“日本社会のことを理解していない政治的批判だ”とする反発もあるでしょう。
女性の問題については、女性自身に男性をサポートする役割を良しとする風潮が昔からありますので、話が単純ではなくなります。
そうした風潮が社会的につくられているところに問題がある・・・といった考えもあるでしょうし、少なくとも、男性同様の社会参加を求める女性には、その機会が保障されるべきでしょう。
国連女性差別撤廃委員会での審査段階で、日本は85年に女性差別撤廃条約を批准しているが、条約の効力を高めるため、被害を受けた個人や団体が国連の委員会に通報できる制度などを盛り込んだ「選択議定書」(99年に国連総会で採択、97カ国が批准済み)を批准していないことが批判されました。
この批判に“日本側は05年に男女共同参画社会基本法に基づく基本計画を作成し、20年末までにあらゆる分野で指導的地位をしめる女性の割合を30%にするなどの数値目標を設定していることなどを説明。議定書批准については「検討中」と繰り返した。”【7月24日 毎日】とのことです。
“20年末までにあらゆる分野で指導的地位をしめる女性の割合を30%にするなどの数値目標”なんて、始めて知りました。