孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  大統領選挙の「不正」をめぐる混迷

2009-09-18 23:02:09 | 国際情勢

(カンダハルで投票箱を管理する女性 “flickr”より By Canada in Afghanistan / Canada en Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/camafghanistancam/3840606512/
9月6日の米紙ニューヨーク・タイムズは、誰も投票しなかったはずの投票所から、計数十万票が計上されたと報じています。そうした不正な投票所は確認、記録されただけで800か所に上っており、地元の住民の話では、そうした投票所1か所につき数百票から、多いときには数千票のカルザイ支持票が集計されたとも。)

【検証が終わるまで「勝者も敗者もいない」】
案の定と言うか、アフガニスタン大統領選挙は混迷の度を深め、一体どう収拾するのか・・・と懸念される状態になっています。
遅れていた開票結果については、報じられているように、カルザイ大統領が54.6%を得票し、当選に必要な過半数を制した形にはなっていますが、2割の不正票があるとも言われ、選挙の正当性に大きな疑問が生じています。

****アフガン大統領選:現職が過半数…不正疑惑で確定は出ず*****
アフガニスタン選挙管理委員会は16日、大統領選(8月20日投票)の開票率100%の暫定結果を発表、再選を目指す現職のカルザイ大統領が54.6%を得票し、当選に必要な過半数を制した。ただ、選管は国連主体の不服審査委員会と合同で進めている不正告発の調査、検証が終わるまで「勝者も敗者もいない」としており、最終確定までには紆余(うよ)曲折を経る可能性がある。
このほか主要候補の得票率は、アブドラ元外相27.8%。バシャルドスト元計画相9.1%、ガニ元財務相2.7%だった。

カルザイ氏陣営の報道官は暫定結果発表を受け、「奇跡が起きないかぎり、我々が勝者だ」と再選に自信を示した。一方、2位のアブドラ氏陣営の報道官は「有効票の中に100万票以上の不正票が含まれている」と主張し、暫定結果を否定した。

選管によると、有効票は566万2758票。推定投票率は約38%で、旧支配勢力タリバンの妨害などにより前回選挙(04年)の約70%を大幅に下回った。
不正については、アブドラ氏陣営らから提出された告発約2500件の調査が進められている。不服審査委がこれまでに「不正の疑いがある」として再集計を命じた投票所は全体の1割に当たる約2560カ所で、「不正」票数も推定2割超に上った。

選管は10月上旬までに最終確定を目指す方針だが、今後、不正の規模がさらに膨らめば、不服審査委が委託権限に基づき「選挙の無効」を宣言する可能性もあり、その場合は選挙のやり直しとなる。これまでに不正票と認定され、集計から除外されたのは、告発が集中した南部カンダハル、中部ガズニ、東部パクティカ3州に設置された83投票所の計2万9014票で、有効票の0.5%にあたる。

カルザイ氏は01年のタリバン政権崩壊後、暫定行政機構の議長に選出され、04年の同国初の大統領選で55.2%を得て初当選した。しかし、戦闘激化による治安の悪化や政権の汚職体質への非難が高まり、人気が低下。今回、各地の有力者や軍閥指導者らとも選挙協力を結び、支持基盤を広げた。
大統領選の暫定結果は当初、9月12日に発表される予定だったが、再三延期されていた。【9月16日 毎日】
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****アフガン大統領選:150万票に不正の疑い EU監視団*****
アフガニスタン大統領選で、欧州連合(EU)選挙監視団のモリヨン代表は16日、ロイター通信に対し、投票総数の最大3分の1に相当する150万票に不正の疑いがあると述べた。
不正疑惑票の内訳は、カルザイ大統領向けが110万票、アブドラ元外相向けが30万票。これらの疑惑票が集計から除外された場合、カルザイ氏は当選に必要な過半数の得票に届かないという。
モリヨン氏は「最終的な選挙結果集計の前に(不正の)疑惑がある票を取り除かなければならない」と語った。【9月17日 毎日】
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投票率は当初40~50%とも言われていましたが、やはり4割を切ったようです。
38%しかない投票総数の2割が不正票とすると、残り8割のなかで過半数を制したとしても、有権者数に対しては十数%にしかすぎないことになります。

6~7人に1人しか支持していない大統領が、国民を代表していると言えるのか?
そもそも大量の不正に関して責任がある者が大統領として認められるのか?
このままの結果はアブドラ候補など対立候補側は認めないでしょうし、さりとて、不正の疑いのある票を差し引いた結果過半数を割ったので決戦投票を・・・というのもカルザイ大統領側はおいそれとはのめないでしょう。

やり直し選挙と言っても、これだけ準備を重ねてようやく38%の投票率だった訳で、もう1回やり直して果たしてどれだけの投票を期待できるのか?
タリバンの攻勢が続くなかでそれは可能なのか?

【「意図的に混乱を起こしているとしか思えない」】
いくつもの?が浮かびますが、不正票についての公表をめぐって、EU選挙監視団と選挙管理委員会の間での不協和音も加わって、事態は更に混乱しています。

****アフガン大統領選:不正指摘のEU非難…選管委員長*****
大統領選の不正疑惑に揺れるアフガニスタンのダウド・ナジャフィ選挙管理委員会委員長(41)は17日、カブールで毎日新聞と会見し、16日の暫定結果発表を前に欧州連合(EU)選挙監視団のモリヨン代表が「疑惑票を除けばカルザイ大統領の得票率は半数を割る」などと「暴露」したことについて、「情報共有を台無しにし、信頼関係を損なった」と強い不快感を示した。選管とEUの亀裂が深まり、新たな混乱の火種になる恐れがある。(中略)

ナジャフィ氏は「まだ不正と確定されていない段階で、全国34州のうち8州の投票監視に当たっただけのEU監視団代表が、なぜ不正を前提にした発言をメディアにするのか」と指摘。「意図的に混乱を起こしているとしか思えない」と強い口調で非難した。
暫定結果の発表が当初の予定から10日以上もずれ込んだことについては、「道路事情の悪い地域はロバに積んで運搬したため、回収が予想以上に遅れた」とし、不正告発への対応が原因との見方を否定。
最終確定は、不服審査委員会が不正を解明した後に発表するとし、決選投票になる場合は「10月下旬には山岳部に雪が積もることから、9月中の確定が必要」と述べた。
一方、カルザイ氏は17日、先月20日投票の大統領選挙後初めて記者会見し、不正投票疑惑について「問題はあったが、メディアが伝えているほどではない」と述べた。勝利宣言はしなかった。【9月17日 毎日】
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【「世界のどこの国の選挙でも起きている程度のものだ」】
国際監視団から具体的な「不正」の票数が示されたことで、アブドラ陣営では、自らの不正票も指摘されているものの、「選挙の正当性は崩れた」と勢いづく結果となっているようです。
カルザイ大統領は「調査は続けられるべきだ」として勝利宣言は見送り、結果の確定が不正調査の完了後となることを支持していますが、一方で、「選挙が公正に行われたと固く信じている。問題があったとしても、世界のどこの国の選挙でも起きている程度のものだ」とし、投票総数の25%に不正が疑われるとしたEU監視団の指摘についても「(そのような発表をする権利は)アフガン国民にあり、外国はその権利を尊重するべきだ」と非難しています。【9月17日 朝日より】

しかし、カルザイ陣営はどうしてこんな大規模な不正を行ったのか?
確かに、復興は一向に進まない、政府は汚職と腐敗にまみれている・・・という状況で、カルザイ大統領の人気は下降しており、選挙戦を通じ対立候補のアブドラ氏の支持が高まってはいました。
そうはいっても、最大部族パシュトゥン人の名門の出で、圧倒的知名度があって、ポストのばらまきなどで北部同盟など軍閥勢力や有力者の協力も取り付けていた現職カルザイ大統領の優勢は動かなかった、少なくとも決選投票で勝てたと見られています。
こうしたことから、今回の不正については、行う必要もなかった“カルザイ陣営の愚かな勇み足”との見方もあります。【9月23日号 Newsweek日本版】

ただ、もし決選投票になるとアメリカはカルザイ大統領を支持しない・・・という話もありましたので、そうした事態にもつれることを避けたかったのでしょうか。
いずれにしても、投票から1カ月近くも混乱が続く一方で、長引く政治空白は、生活復興の遅れや治安の悪化を深刻化させています。

【戦争「支持」が39%】
こうした“民主的選挙の混乱”は、国際社会に“自分達はアフガニスタンで一体何を守ろうとしているのか?”という疑念をいだかせます。
そうでなくとも、最大の支援国アメリカで、アフガニスタンでの戦争に対する「支持」が39%と始めて4割を切る状況にあります。

そうした厭戦気分の高まりは、アメリカのアフガニスタン増派をためらわせるところとなっています。
“オバマ米大統領は戦略の見直しについて、アフガン駐留米軍司令官から提示された軍事面での見直しだけでなく、アフガン大統領選後の状況を踏まえ、NATOや同盟国とも協議する必要性を指摘。「明確な将来の戦略がなければ、戦場に若者を送る正しい決断はできない」と語った。”【9月17日 時事】

さりとて、アフガニスタンからの撤退は、90年代のソ連の失敗の二の舞にもなり、国際的には、アフガニスタンだけでなく隣国の核保有国パキスタンでのイスラム原理主義勢力拡大を増長し、その政治的安定性をそこなう危険があるとも考えられています。
進むも地獄、退くも地獄・・・といったところでしょうか。

コメント
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