孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ISAF アフガニスタンで強奪燃料輸送車を空爆 甚大な民間人被害か?

2009-09-05 17:46:08 | 国際情勢

(左から右に、カルザイ・アフガニスタン大統領、ダン・マクニール中将(5月に更迭されたデビッド・マキャナン司令官の前任者)、ドイツ軍のEgon Ramms将軍(NATOブロンソン連合統合軍司令官)、デビッド・マキャナン大将  マキャナン大将がISAF司令官に就任したときのセレモニー(2008年6月)です。
外国勢力に支えられながら、その戦闘行為で自国民が犠牲になる・・・カルザイ大統領の心中も複雑でしょう。
“flickr”より By Army.mil
http://www.flickr.com/photos/soldiersmediacenter/2551228010/)

【ドイツ軍の空爆】
イスラム原理主義武装組織タリバンと米軍・ISAF((NATO主体の国際治安支援部隊)との間で激しい戦闘が続くアフガニスタンで、大勢の民間人犠牲者が出たとも言われる戦闘行為がありました。

****タリバン強奪の燃料輸送車にNATO空爆、民間人含む90人死亡か アフガン****
アフガニスタン北部クンドゥズ州の村で4日、旧支配勢力タリバンが乗っ取った燃料輸送車2台を、北大西洋条約機構(NATO)主体の国際治安支援部隊(ISAF)が空爆し、地元政府によるとタリバン戦闘員と集まっていた地元住民ら約90人が死亡した。多くは武装勢力だが、死亡した民間人の中には子どもも含まれているとしている。
一方、ISAFに所属するドイツ軍は空爆を認めた上で、タリバン戦闘員56人を殺害したと発表。民間人に死傷者はないとしている。

現地の警察幹部や負傷した目撃者の話によると、タリバンは3日夜、ISAFの駐留部隊向けの燃料を運んでいた輸送車2台をハイウェイで乗っ取った。乗っ取った輸送車を川の向こうに移動させようとしたところ、1台目は川を渡ったが、2台目が川にはまってしまったため、タリバン戦闘員が村人に燃料を抜き取るよう呼びかけたという。
住民らがバケツなどを手に集まった時、輸送車が爆撃を受け、周囲にいた人は全員死亡したという。攻撃時、輸送車の上にはタリバン戦闘員10-15人が乗っていたという。アフガニスタン政府は200-250人の住民が集まっていたとみられると発表した。

ISAFの発表によると、燃料輸送車が奪われたのは3日午後10時(日本時間4日午前2時30分)ごろで、数時間後に川沿いで輸送車を発見、「周辺に武装勢力しかいないのを確認したため攻撃した」としている。(後略)【9月4日 AFP】
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【アメリカの新戦略】
アフガニスタンでは、西部ファラ州で今年5月、米軍の空爆で多数(140人とする報道も)の住民が死亡するなど、市民の犠牲増加が問題となっています。
当時、カルザイ大統領は、女性と子どもを含む125人から130人が死亡したとして、空爆は容認できないとアメリカを批判しました。

アメリカ側も、こうした民間人犠牲者の増大が反米感情を高め、民心の離反を招き、アフガニスタンでの勝利を困難にするとの認識もあって、新たな戦略に転換すべく、事件直後の5月11日、アフガニスタン駐留米軍のデビッド・マキャナン司令官を解任し、後任に統合参謀本部筆頭部長のスタンリー・マクリスタル中将を充てる人事を発表しています。
戦争中に司令官が事実上解任されたのは、朝鮮戦争の際の1951年に、当時のトルーマン大統領と対立したマッカーサー連合国軍最高司令官以来で、異例の措置でした。

8月27日ブログ「アフガニスタン 住民の支持獲得が勝敗を決める 米軍の新作戦 タリバンも“マニュアル”」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090827)でも取り上げたように、オバマ政権の新たなアフガニスタン戦略では、「民間人の犠牲者を最小限に抑えること、民間人の安全を守ること」を第一とし、「民間人の安全確保」を「敵の殲滅、タリバン戦闘員たちの掃討」より上位に位置づけています。
7月2日に4000名の海兵隊員と650名のアフガン軍をアフガン南部のヘルマンドに送り込んだ大規模軍事作戦においても、米軍は大砲を使用せず、航空機からの空爆も一切行われなかったのことです。

「われわれはタリバンを何人殺したかという基準で作戦を続けていてもこの戦争に勝利することはできない。アフガン人民をタリバンの武装反乱勢力と引き離すことができるかどうかが重要なのだ。そしてそのためには、各部隊指揮官たちが武力行使の原則を見直し、とりわけ住宅地域をはじめ民間人の犠牲者が出る恐れのある地域での近接航空支援を制限することだ」(マクリスタル司令官 「TIME」July 10)。
なお、タリバン側も「一般市民の犠牲を最小限に抑えるように」とマニュアルの中で指導しているとも。

【「紛争では間違いも起きる」】
今回の事態に、NATOのラスムセン事務総長は4日、ISAFの攻撃の巻き添えとなった民間人の犠牲者は今年「昨年の水準に比べ95%減少した」としながらも、「多数のタリバンが死亡したが、民間人の犠牲者が出た可能性もある」、「紛争では間違いも起きる。徹底的に調査する」と語り、NATO指揮下の国際治安支援部隊(ISAF)の調査隊が空爆地点に向かったと明らかにしています。【9月5日 毎日】
ギブズ米大統領報道官も4日、「深刻な懸念を抱いている」「調査が行われると承知している」と述べ、事実確認を厳格に行う方針を示しています。【9月5日 毎日】
民間人犠牲を最大限回避する努力の強化をアフガン戦略の柱に据えたばかりであるため、今回の空爆で市民の死傷者が多数出たとすれば、米軍・ISAFにとって大きな痛手となります。

正確なところはわかりませんが、「周辺に武装勢力しかいないのを確認したため攻撃した」とするISAF・ドイツ軍側の主張と、アフガニスタン政府の「200-250人の住民が集まっていたとみられる」との発表の間には大きな開きがあります。
どちらかの言い分が誤りなのか、あるいは、ドイツ軍には200人以上の民間人とタリバンの区別がつかなかったのか・・・。

【ドイツ軍の軍事行動本格化】
ドイツは01年からNATOが主導するISAFに参加、06年から比較的平穏とされるアフガニスタン北部に駐留し、北部地域全体の司令・統括を担当しています。
従来、ドイツはアメリカの主導する軍事作戦には消極的で、治安維持活動や復興支援を中心に活動していると言われていました。
しかし、先の大統領選挙を前に北部でも治安が悪化し、タリバンがドイツ軍を集中的に攻撃の標的にしているとも言われる状況で、最近、軍事行動を本格化させていると報じられていました。

****ドイツ軍:アフガンでタリバン掃討戦 異例の本格軍事行動****
ドイツのユング国防相は22日記者会見し、アフガニスタン北部に駐留するドイツ軍が、アフガン軍と合同で旧支配勢力タリバンの掃討作戦を実施中であると明らかにした。治安維持活動や復興支援を中心に展開してきたドイツ軍が、本格的な軍事行動に乗り出すのは極めて異例だ。
ユング国防相によると、ドイツ軍は06年に北部に駐留して以来初めて装甲戦闘車や重武装兵を投入する。ドイツ軍300人とアフガン軍800人が参加し、攻撃機も使って北部クンドゥス周辺の半径30キロ地域から武装勢力を排除するという。

作戦の狙いについて、ドイツ軍は「8月20日投票のアフガン大統領選を無事に実施するため」としている。ただ、軍関係者は、比較的平穏とされてきたアフガン北部の急激な治安悪化に加え、タリバンがドイツ軍を集中的に攻撃の標的にしている点を指摘する。ドイツは9月27日に総選挙を控えており、アフガン情勢が悪化すれば、世論に撤退機運が高まる可能性もある。
アフガンへの部隊派遣は連邦議会の与野党の多くの議員が支持してきたが、慎重論も出始めている。(後略)【7月23日 毎日】
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【“積極的人道主義”】
このあたりのドイツの事情にについて、「マスコミに載らない海外記事」(8月5日
 http://eigokiji.justblog.jp/blog/2009/08/post-6e0d.html)に、「World Socialist Web Site」の“The German offensive in Afghanistan(アフガニスタンにおけるドイツの攻勢)”(7月25日)が翻訳紹介されています。
このなかで、ドイツ軍の重火器使用による戦闘本格化が、“積極的人道主義”に基づく武装配備ではあるが、戦争介入にはあたらないという論理で、新たな国会での論議を経ずに、政府首脳と軍部の判断で進められていることが指摘されています。

自らの身を危険にさらしている現地軍は、やられるだけの状況を嫌い、積極策に傾きがちです。
被害増大による世論における撤退機運の高まりを恐れる政府は、成果を求めます。
民間人犠牲の有無はまだ不明ですが、今回のドイツ軍の攻撃機を繰り出しての“果敢な”作戦は、積極策に転じた現地ドイツ軍の状況が背景にあったのではとも推察されます。
(追記:AP通信によると、4日の空爆は燃料輸送車が基地への自爆攻撃に使われると恐れたドイツ軍によって要請され、米軍戦闘機が実行したとのこと【9月5日 毎日】)

現地軍による軍事行動の拡大、それを認める政府、有効にチェックできない議会・政党・・・という構図は、かつて日本でも見られたものですし、これからも見る危険のあるものです。

コメント
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