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(1万7000人が集まった、高雄ドーム(高雄市)でのダライ・ラマによる水害被災者のための法会
“flickr”より By ideo2004.彥
http://www.flickr.com/photos/ideo2004/3880416768/)
中国との関係強化による経済浮揚を掲げて政権を獲得した台湾の国民党・馬英九政権ですが、水害救援活動への批判などで支持率を落としており、更に追い討ちをかけるような試練が続いています。
【ダライ・ラマ 冷静な対応】
馬政権の中国融和政策に揺さぶりをかけるためとも言われている、野党・民進党によるチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の水害被災者見舞いの招聘では、馬政権はその対応に苦慮しました。
さすがに中国側の不快を誘ったようですが、馬政権のというより、ダライ・ラマ側の慎重な対応で、何とか事なきを得たような形になっています。
****被災地訪問 台湾の心打ったダライ・ラマ*****
チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世が6日間の台湾訪問を終え、4日インドに戻った。
台風8号の被災者を見舞う旅に中国が猛反対、台湾内も招請の是非をめぐり真っ二つに割れた。しかし終わってみれば、台湾の賛成、反対両派がほぼ納得でき、中国も受け入れられる結末に落ち着いた。被災者は癒やされ、ダライ・ラマへの信望は高まり、救援の不手際でどん底にあった馬英九政権の評価も若干持ち直した。中台関係への影響も限定的なものにとどまりそうだ。
8年ぶり、3度目のダライ・ラマ訪台をめぐる台湾各界の反応は前半と後半で大きく変わった。馬政権が訪台受け入れを決めた8月27日未明からダライ・ラマが台湾入りした30日夜までの前半は、賛成派と反対派の声がほぼ拮抗(きっこう)していた。
ダライ・ラマを招請した陳菊・高雄市長ら南部7県市の野党、民進党系首長の動きが、馬政権を苦境に追い込むための政治的策動と受け止められたためだ。
救援活動の失態で支持率が10%台に落ち込んだ馬総統にダライ・ラマ招請という難題を突きつけ、政権揺さぶりと独立派の巻き返しを狙った、とみられた。
馬総統が受け入れを拒めば支持率低下に拍車がかかる。逆に受け入れれば中国を怒らせ、急速な中台接近に歯止めをかけられるとの計算からだ。
「台風災害の救援・復興に政争を持ち込むな」と与党、中国国民党系メディアはダライ・ラマ訪台を厳しく批判。歓迎論を展開する独立派・本土派系メディアと真っ向から対立した。
しかしダライ・ラマが高雄県や屏東県の被災地を訪れた31日から流れが変わった。74歳の高齢にもかかわらず、洪水で破壊された炎熱の悪路を犠牲者の慰霊や被災者慰安のために駆け回るその姿が、人々の心を打ったからだ。
とりわけ9月1日に高雄ドーム(高雄市)で催した法会は1万7000人を集め、ダライ・ラマが唱えるチベット仏教のマントラ(真言)斉唱で会場が一つになった。
このほか講演は、規模を縮小させられたり取りやめを迫られたりしたが、政府批判や政治的発言は一切なかった。これらが相まって訪台に反対した与党系メディアでもダライ・ラマに好意的な報道が目立つようになった。
中国もいくつかの交流事業の式典や人的往来を中止したが、馬政権批判は控えており中台関係に激変はなさそうだ。【9月5日 産経】
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ダライ・ラマ側は訪台前、“中国を刺激しない、馬英九総統の立場を悪くしない、政治的干渉を受けない”との方針を決めており、滞在中、“記者会見を中止、高雄市での講演会の規模を1万5000人から1200人に縮小、台湾北部での講演会中止”と予定を変更し、中国を刺激したくない馬英九政権の要請に応えました。結果的には、こうした抑えた対応が訪台反対派をも納得させたようです。
中国側は中台経済交流事業の凍結を通告し、予定されていた南京市共産党トップや中国人民銀行・蘇寧副総裁の訪台を延期、また、5日の聴覚障害者のオリンピック「デフリンピック夏季大会」開会式への中国代表団の出席を見合わせるなど、中国要人の訪台延期や中止が相次ぎました。
中国は「両岸(中台)関係に必ず不利な影響を与える。今後の推移を注視する」と圧力を掛けていましたが、今のところ、大きな中台関係の変更はないようです。
政権を揺さぶるためにダライ・ラマを敢えて招聘するというのも、いかがなものかという感じがしますが、人権などで価値観が異なる中国とつきうことが、どういうことを意味するのかを改めて知らしめた・・・とも言えます。
その流れで、今度はウイグル問題が浮上しています。
【次はウイグル問題】
****台湾でカーディル氏の映画上映へ 中国の反発必至****
台湾南部の高雄市は6日、亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル主席のドキュメンタリー映画を10月の高雄映画祭で上映する計画を明らかにした。
中国は同主席を新疆ウイグル自治区で起きた大規模暴動の「扇動者」として激しく非難しており、反発は必至。関係改善に力を入れる馬英九政権の対応にも注目が集まりそうだ。同市側は上映に「政治意図はない」としている。【9月6日 共同】
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「政治意図はない」・・・本当でしょうか?
【内閣総辞職】
水害救済活動批判の方は、いよいよ内閣総辞職にまでおよんでいます。
****台湾:大水害、政局揺るがす…馬総統に試練*****
台風8号による大水害への馬英九・台湾政権の対応の遅れは、7日の劉兆玄行政院長(首相)の辞任で内閣総辞職にまで発展、台湾政界を大きく揺るがした。台風被害の発生から8日で1カ月。馬総統は7日、高雄市で開かれた犠牲者追悼会で早期再建を約束したが、信頼回復への道は険しい。
大水害への対応の遅れの原因のひとつとして、馬総統による行政院(内閣)や側近の人選が「エリートの学者に偏り、庶民に寄り添っていなかったため」との批判が上がっていた。このため、馬総統は7日、地方政府首長の経験がある呉敦義・国民党副主席を次期行政院長に任命、地方に詳しく柔軟性のある内閣をアピールした。
馬総統は7日の追悼会で「政府は最大限の力で被災者の生活を助ける。安心してほしい」と呼びかけた。また、80カ国を超える国際的な支援が届けられたと紹介。中国の義援金が約50億台湾ドル(約142億円)と最大だったことにも言及した。
馬総統は「血は水より濃いという気持ちが十分に示された」と関係改善を進める中国に配慮を示したが、台風被害によって低下した支持率の下では「対中関係で大胆な政策は進めにくい」(研究者)とみられ、中台関係にも余波が及びそうだ。【9月7日 毎日】
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災害というのは普段の想像を超えたところで発生しますので、どうしても対応が遅れがちではあります。
日本でも初期対応の遅れが批判されることはしばしばありますし、アメリカのブッシュ政権もハリケーン被害対応で厳しい批判に曝されました。
今回の台湾の水害も、未曾有の降水によるもので馬政権には運が悪かった面もありますが、軍への救援指令などで危機管理対応が充分でなかったことが批判されています。
【「血は水より濃い」】
“中国の義援金が約50億台湾ドル(約142億円)と最大だった”とのことですが、素人考えではもっと派手に援助をアピール・演出するかとも思っていましたので、中国側の対応は案外“地味”だったようにも思えます。
台湾に中国が物資・資金をあからさまに注ぎ込むには、まだ高いハードルがあるということでしょうか。
肝心の馬政権が水害救援で批判の的になったという事情もあったのかも。
それにしても、台湾総統が「血は水より濃いという気持ちが十分に示された」と中国を評価するというのは、時代が変わったものだ・・・という思いがします。