孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  軍政との対話、制裁解除の動き 海外企業投資プロジェクトの“闇”

2009-09-28 22:01:49 | 国際情勢

(ヤナダ・天然ガスプロジェクトを主導するフランス石油大手企業トタルへの抗議活動 ロンドンのフランス大使館前 09年5月22日 当然ながら、ミャンマー国内ではこうした活動はできません。“flickr”より By totaloutnow
http://www.flickr.com/photos/totaloutnow/3704713203/)

【不信と恐怖、あきらめ】
ミャンマーで僧侶・市民による軍事政権に対する反政府活動が武力鎮圧されて、もう2年が経過しました。

***ミャンマー、平穏装う街 反政府デモ武力弾圧から2年****
ミャンマー(ビルマ)軍事政権による反政府デモの武力弾圧から26日で2年になるのを前に最大都市ヤンゴンに入った。市民はふだん通りの日々を過ごしているように見えるが、反体制の動きを警戒する軍政が、新たなデモを計画したとして僧侶ら20人以上を拘束するなど水面下では緊張が続く。市民の間には不信と恐怖、あきらめが広がっている。(中略)

軍政は17日に7千人余りの受刑者の恩赦を発表したが、国際社会が釈放を求める政治犯はそのうち100人余りで、デモを先導したとして拘束されている主要な活動家や僧侶らは含まれていない。
情報統制も厳しくなる一方だ。従来の検閲やインターネットの規制などに加え、うわさや情報が口コミで広がる場となる喫茶店の新たな開店許可はこの2年間、凍結されたままだ。
一方で、市民の不満に火をつけないよう物価の抑制には気を配っているようだ。コメや食用油、鶏卵、ガソリンなどの価格は1年前に比べ半分から3分の2程度。「ミャンマーで反政府デモが起きるのは経済政策を誤った時」(外交筋)とされ、2年前のデモも燃料価格の引き上げが引き金になった。軍政はその経験を踏まえ、価格を意図的に抑えていると関係者はみる。

それでも、市民の間には不満と不信が募る。日本製の中古車やバスが走る中、時折見かける新車は、軍政関係者や取り巻きの政商らのものと考えられている。最近、市内に増えている大型スーパーやしゃれたレストランを利用できるのも、わずか数パーセントの金持ちだけだ。広がる一方の格差と軍政の力による抑え込みで、市民には恐怖やあきらめ、無力感が広がる。(中略)
日本語の観光ガイドをしていた男性(26)は2年前のデモ以来、仕事がなくなり、今はたまに倉庫で荷物運びを手伝うだけだ。軍政が主導する来年の総選挙にも期待はしていない。「結局は軍政が形を変えるだけで、孤立は続くだろう。暮らしが良くなり、自由に物が言える日はいつになったら来るのか」【9月23日 朝日】
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【「制裁だけでは期待通りの結果を得られていない」】
こうした膠着状態にあって、敵対勢力との交渉も排除しない方針のアメリカ・オバマ政権は、ミャンマー軍事政権との直接対話に乗り出す方向で政策転換を図っています。

****ミャンマー軍政に対話と制裁の両方を活用=米国務長官*****
クリントン米国務長官は23日、ミャンマーの民主改革実現に向け、対話と制裁の両面から軍事政権に働きかけていくと述べた。
クリントン国務長官は記者団に「われわれは、制裁は引き続き我が国の政策のなかで重要な位置を占めていると考えている。しかし、制裁だけでは期待通りの結果を得られていない。われわれの意見では、対話か制裁かという選択肢は間違っている。われわれは、その両方を活用していく」と語った。
さらに長官は、ミャンマー軍政が民主運動家アウン・サン・スー・チー氏を速やかに解放し、信頼に値する民主改革を実施し、反政府勢力や少数民族との真剣な対話に臨むよう、あらためて求めた。【9月24日 ロイター】
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【スー・チーさんも連動】
こうした動きは、軍事政権と厳しく対峙してきたスー・チーさんの了解を得たもののようです。

****スー・チーさん、オバマ政権の対話路線を歓迎*****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん(64)は25日、オバマ米政権がミャンマー軍事政権と対話に乗り出すことを歓迎する談話を発表した。
ただ、「米政府は民主化勢力にも関与すべきだ」と述べ、民主化支援が後退しないよう注文をつけた。自宅軟禁中のスー・チーさんと面会した最大野党、国民民主連盟(NLD)のスポークスマンがAP通信などに明らかにした。
来年の総選挙を控え、国際社会からの圧力緩和を狙う軍政側はオバマ政権との対話開始に期待を強めており、18日にはヤンゴンの刑務所からNLD党員やジャーナリストなど160人を釈放したと発表。今回、NLD側の求めに応じてスー・チーさんとの面会を許可するなど、民主化勢力への「配慮」をアピールしている。【9月25日 読売】
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また、スー・チーさんは、タン・シュエ国家平和発展評議会議長に対し、欧米による対ミャンマー経済制裁解除へ向けて協力を申し出る手紙を書いたとも報じられています。

****スー・チーさんが軍政に書簡 交渉に前向きとの見方も****
ヤンゴンからの情報によると、自宅軟禁中のミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは26日、軍政トップのタン・シュエ国家平和発展評議会議長に書簡を送り、欧米諸国による制裁解除に向けた方策などについて自身の考えを伝えた。
スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)幹部が明らかにした。書簡の詳しい中身は公表されていないが、国際社会による制裁に一貫して賛同してきたスー・チーさんが解除の可能性に言及したことは、来年予定される総選挙に向け、軍政との交渉に応じる可能性を示唆したとの見方が出ている。米オバマ政権が対ミャンマー政策の見直しを決めた直後の動きだけに、軍政側がどのように応じるかも注目される。【9月26日 朝日】
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これまで軍事政権と頑ななまでに対立してきた、また、海外からの投資についても軍事政権を利するものと批判的だったスー・チーさんが、ここにきて柔軟姿勢に転じたようにも見える背景には何があるのでしょうか。
記事には“軍政との交渉に応じる可能性を示唆した”とありますが、彼女自身について言えば、軍事政権側が彼女を来年の総選挙前に自由にすることは考えにくいところです。

ただ、事態が軍事政権主導で進行するなかで、この流れの外に身を置いていては今後の展望も持ち得ないのも事実ですので、これを契機に野党・国民民主連盟(NLD)が総選挙に向けた態勢を整え、選挙の政治状況に一定の発言権を保持する形に持って行くことは、ミャンマーの今後にとってプラスではないかと考えます。

【環境破壊と人権侵害】
ところで、ミャンマーに対する欧米の経済制裁にもかかわらず、欧米海外企業が参画する従前からの大型プロジェクトは継続されてきました。

****石油大手がミャンマー軍政を支えている、人権団体が欧米2社を批判****
仏石油大手トタルと米同業シェブロンがミャンマーで運営するガスパイプライン事業が同国の軍事政権を下支えしているとする報告書を、米人権団体「アースライツ・インターナショナル」が10日、発表した。
同団体がまとめた2つの報告書によると、ミャンマー軍政は両社が行う「ヤダナ・プロジェクト」で2000~08年に得た収益約48億3000万ドル(約4400億円)のほとんどを、国家予算から切り離し、隠し資産としてシンガポールの華僑銀行とDBS銀行(旧シンガポール開発銀行)に蓄えているという。
また、パイプラインを警備するミャンマー軍が行った強制労働や殺人などの虐待行為について、両社が隠ぺいしようとしたとも指摘。国際社会に対し、両社へ圧力をかけるよう求めた。
これに対しシェブロンは、プロジェクトは地元社会において人びとの健康や教育の促進、経済開発などの支援となっていると反論。トタルも、報告書には複数の間違いや誤った解釈があるとして、信ぴょう性に疑問を呈した。【9月11日 AFP】
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「ヤダナ・プロジェクト」は1992年に建設が始まり98年に完成した全長670kmの天然ガス・パイプラインによって、アンダマン海のヤダナ・ガス田からタイのラチャブリ精製所に天然ガスを移送するプロジェクトです。
投資規模は12億ドル(1440億円)で、ミャンマーに対する直接投資としては最大のものです。
ミャンマー側建設地域は、カレン人、ダヴォイ人、モン人など少数民族の住んでいます。

このプロジェクトには、以前から人権団体などから、森林伐採などの環境破壊と少数民族住民の強制労働・強制移住といった人権侵害の両面から厳しい批判がありました。
例えば、秋元由紀氏 「法律家への手紙:アメリカの環境NGOより」
http://www.burmainfo.org/article/article.php?mode=0&articleid=186)など。

アメリカは、ミャンマー軍事政権に対して1997年から制裁措置とっていますが、それ以前から同国と提携する米ユノカル社のミャンマー開発事業は例外として継続され、後にユノカル社を買収したシェブロン社も同様に制裁措置から除外されています。フランス・サルコジ政権も、ミャンマーへの“新規”投資を凍結するという形で、従来からの事業については制裁対象外としています。

【「この世界は民主主義だけで成り立つわけじゃないんだよ。」】
いささか“きな臭い”のは、ライス前国務長官が1991年からブッシュ政権入閣直前までシェブロン社の重役を務めていたとか、パイプライン初期工事にあたったハリバートン社CEOがチェイニー前副大統領であった・・・というところです。
対ミャンマー経済制裁の適用外という特別待遇を受けていることについて、CNN放送番組でチェイニー前副大統領は「この世界は民主主義だけで成り立つわけじゃないんだよ。」と語ったとか。
(暗いニュースリンク http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2007/10/post_1db5.html より)

確かに「この世界は民主主義だけで成り立ってはいない」というのは事実ですが、人権・制裁を声高に主張する一方で、政権幹部がかかわる企業が制裁適応を除外され、しかもその収益が軍事政権の隠し資産となっていること、恐らく反政府活動弾圧の武器購入などにも当てられているであろうこと・・・そうしたことはため息を誘います。
ついでに言えば、日本はミャンマーとは歴史的に繋がりが強く、最大の投資国でもありましたので、天然ガスプロジェクトや巨大ダム建設にも、日本企業や政府ODAが関与しています。

コメント
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