孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カンボジア  特別法廷、新たに5名 捜査対象者拡大

2009-09-09 22:03:26 | 世相

7月20日のカンボジア特別法廷の様子 この日はカン・ケ・イウ被告の審理として、トゥールスレンの元看守の証言が行われました。
"Courtesy of Extraordinary Chambers in the Courts of Cambodia". “flickr”より By Extraordinary Chambers in the Courts of Cambodia
http://www.flickr.com/photos/krtribunal/3738705666/)

【進行が遅れるカンボジア特別法廷】
1970年代後半、カンボジアの旧ポル・ポト政権が約170万人の自国民を虐殺し、あるいは餓死に追いやった歴史の真相究明と、その責任を問うカンボジア特別法廷については、旧ポル・ポト政権幹部5名がすでに逮捕されてはいますが、起訴されて審理が始まっているのは自らの罪を認めているカン・ケ・イウ元トゥールスレン政治犯収容所長(通称ドッチ)のみです。

カン・ケ・イウ被告は政権中枢にいた幹部というよりは、むしろ指令を受けて動いた末端幹部というべきでしょう。
彼は「S21(トゥールスレン収容所)で犯された罪、特にあそこでの拷問と人びとの処刑に対し、わたしには責任があると強調したい。あの時代を生き抜いた人びと、また残虐に殺害された人びとの遺族に、許されることなら謝罪させていただきたい。心から後悔している」と自らの罪を認めると同時に「当時は、S21に収容されていた人びとの命よりも自分の家族の命のほうが大事だと思っていた。わたしが下していた命令が罪であることは分かっていたが、党の幹部たちに盾をつくことは決してできなかった」と、自分も犠牲者だったとも主張しています。【3月31日 AFPより】

なぜあのような大虐殺が行われたのか?政権幹部は何を求めていたのか?そうした真相の解明のためには、ポル・ポト本人が死亡している今となっては、現在逮捕されている他の4名の政権中枢幹部の裁判の速やかな進行が望まれるところです。

4名の政権中枢幹部とは、ヌオン・チア(ポル・ポト元首相の右腕を務めた。「クメール・ルージュ」の「ブラザー・ナンバー2」の異名を持つ)、イエン・サリ(ポル・ポト政権下の副首相。ポル・ポト元首相の義理の兄弟で、「ブラザー・ナンバー3」と呼ばれた)、イエン・チリト(イエン・サリ元副首相の妻で元社会問題相を勤めた。ポル・ポト元首相夫人の妹で、「ファーストレディー」の異名をとる)、キュー・サムファン(ポル・ポト政権下の幹部会議長で、ポル・ポト政権では外交も担当)です。

【更に5名追加】
そうしたなかにあって、特別法廷の国際検察官が新たに5人の容疑者について捜査を要請したと発表されました。

****カンボジア:新たに5容疑者の捜査要請 特別法廷****
旧ポル・ポト政権時代の大虐殺の責任を問うカンボジア特別法廷は8日、国際検察官が新たに5人の容疑者について、判事に対して捜査を要請したと発表した。同国のフン・セン首相は、捜査対象者の拡大に強く反対しており、国際社会が支援する特別法廷と政府との溝が深まりそうだ。
特別法廷は06年に捜査を開始し、ポル・ポト政権ナンバー3だったイエン・サリ元副首相ら政権幹部5人を拘束。今年春から審理を開始した。一方で今月2日、法廷はこの5人以外にも捜査範囲を広げることが可能になったと発表。これを受けて検察官が新たに5人を捜査するよう求めた。

5人の氏名などは明らかにされていないが、捜査対象者の拡大は、すでに現政権に投降し現在は政府側にいるポル・ポト政権元幹部の訴追を招く可能性がある。フン・セン首相は7日、「(捜査対象者の拡大は)国民の和解を妨げ、再び内戦を招きかねない」と強く反発した。
特別法廷は最初に捜査対象となった5人のうち、カン・ケ・イウ元トゥールスレン政治犯収容所長=通称ドッチ=のみの審理を開始し、残る4人は依然起訴もされていない。新たな5人の捜査と審理開始までには時間がかかる見通しだ。【9月8日 毎日】
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【「(捜査対象者の拡大は)国民の和解を妨げ、再び内戦を招きかねない」】
フン・セン首相が捜査対象者の拡大に反対しているのは、記事にもあるように、現政権に投降し現在は政府側にいるポル・ポト政権元幹部の訴追を招く可能性があり、社会を不安定化させることが危惧されるためですが、その意味では、フン・セン首相自身がかつてはクメー・ルージュの一員であり、ポル・ポトの粛清を恐れてベトナムへ逃亡した経歴がありますので、自らの責任・過去にも波及しかねないという思いもあるのかも。

また、投降したポル・ポト派はバイリン地区で一種の自治区的な形で勢力を温存しているとも言われています。(幹部が逮捕された今現在、そのあたりがどうなっているのかはよくわかりません。)
捜査対象者の拡大は、投降ポル・ポト派を刺激して軍事的な不安定化も招きかねないとの懸念もあります。

今回、“国際検察官は「これ以上の予備調査を行う予定はない」として捜査終結を宣言した”【9月8日 時事】とも報じられていますので、今後対象が更に拡大していくという訳ではないようです。
ただ、現在も審理が遅々として進まない状況で、更に5名の範囲拡大というのはいかがなものでしょうか?

追加された5名の名前や国際検察官の意図がはっきりしませんので、なんとも言い難いところですが、政権中枢いた責任者としては現在拘束されている4名がまず裁かれるべきでしょう。
その4名も高齢となり健康状態も不安視されています。
裁判の結果を待つ、虐殺犠牲者の関係者も同様です。
今は、現在拘束中の4名の幹部の審理進行を最優先させてもらいたいところです。

コメント
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