孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット・ウイグル  中国建国60周年 “新たな少数民族政策”

2009-09-03 21:14:01 | 国際情勢

(6月 観光客も戻ったラサの街角 平穏にも見えますが・・・ "flickr” By Party0
http://www.flickr.com/photos/party0/3768123717/)

【“民族団結による繁栄”】
チベット・ウイグルの暴動で少数民族対策が急務となっている中国は、10月1日で建国60周年を迎えるため、これまでの少数民族政策の成果をアピールをしているとか。

****少数民族繁栄、必死に宣伝=建国60年で実績強調-中国*****
中国国務院(中央政府)は2日、5少数民族自治区の幹部による記者会見を行い、「国内総生産(GDP)は自治区成立前に比べ120倍になった」(広西チワン族自治区)、「漢族と回族の間にもめ事はない」(寧夏回族自治区)と、民族団結による繁栄ぶりを強調した。
昨年以来のチベット、新疆ウイグル両自治区での暴動発生を受け、中国の少数民族政策には内外から厳しい声が上がっている。政府は10月1日の建国60周年を前に、少数民族政策の成果をアピールするのに必死だ。【9月2日 時事】
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【ウイグル 漢民族が抗議デモ】
そんな中国政府のアピールにもかかわらず、ウイグルからは不穏なニュースも伝えられています。

****中国・新疆、漢民族のデモ行進で外出禁止令発令か 騒乱再燃の懸念*****
中国・新疆ウイグル自治区の区都ウルムチの警察当局は3日、同地で新たな騒乱が巻き起こっているとの報道を受けて、住民に外出の禁止を命じた。地元住民が語った。
ウルムチの住民によると、漢民族が抗議デモを行っているとの報道があった後に、外出禁止を命じられたという。漢民族は7月にも、200人が死亡したウイグル人による暴動を受けて、激しい抗議デモを行っている。
ウイグル人眼科医のHalisha氏はAFPの電話取材に対し、「漢民族がデモ行進を行ったため、警察は事態の制御に乗りだし、われわれに自宅にいるよう命じた」と語った。
ウルムチ中心部の南門地区の商店主によると、午後遅くになっても「大勢の人びとが」抗議活動を行っているという。店主は、AFPの電話取材に対し、「店を閉じた。外出するのは怖い。大勢の人びとが外を行進している」と語った。【9月3日 AFP】
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ウイグル・漢族、両者の溝を埋めるのは容易なことではありません。

【チベット 表面的には“回復”】
一方、チベットは表面的に平穏を取り戻しているようで、意外な感じもしますが、観光業の完全回復も報じられています。

****チベット観光業が完全回復、過去最高の観光客数を記録****
中国・チベット自治区で7月の観光客総数が120万人に達し、国内外の観光客による観光収入は合計で、前年同月の約2倍となる11億元(約153億円)に上った。これは7月の観光客総数および観光収入としては、チベット史上で過去最高記録だという。中国国営紙チベット・デーリーが伝えた。

2008年3月に区都ラサで「チベット動乱」から49年を機に暴動が起きて以来、チベット自治区への観光は禁止され、観光業は大きな打撃を受けた。その後、観光客の受け入れが再開されたが、中国・国営新華社通信によると、08年の観光客数は225万人となり前年比で44%減、観光収入はほぼ半減した。
ところが今年1月から7月にかけてチベットを訪れた観光客数は270万人を超え、前年同期の約3倍となっているという。【8月16日 AFP】
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中国は今や観光客の主流は団体の国内観光客ですが、チベット情勢の回復を印象付けたいことから、“旅行へ行くならチベットへ”なんて政府指導でもあったのだろうか・・・勘ぐってしまいます。

チベットから亡命する子供は激減しているそうで、関係者は“監視の強化”によるものと説明しています。

****ダライ・ラマ14世の妹:亡命するチベット人の子が激減*****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の妹で、インドのチベット難民の子どもを対象にした教育機関「チベット子供村」の活動に尽力してきたジェツン・ペマさん(68)が2日、東京都内で毎日新聞のインタビューに応じた。ジェツン・ペマさんは、中国チベット自治区ラサでの大規模暴動のあった08年以降、中国政府の統制強化でインドへ亡命する子どもの数が激減していると指摘した。

チベット人としての教育を受けさせる目的で、親が子どもを同自治区からインドへ亡命させる動きが以前からあり、「子供村」で受け入れている。ジェツン・ペマさんによると、国境を越えてきた子ども約750~1000人を例年受け入れてきたが、08年は約250人、今年は6月までに59人と激減した。
ジェツン・ペマさんは「監視が強まり、町も村も兵士らに包囲されたような状況で、人々は恐怖の下で暮らしている」と訴えた。(後略)【7月3日 毎日】
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【定住化と鉄道建設】
中国政府のチベット対策を報じる記事が2本、遊牧民定住化政策に関す記事と、成都とラサを結ぶ川蔵鉄道着工の記事がありました。
****中国、チベットの遊牧民5万人を定住させる 新華社通信*****
中国当局は、チベット山岳地帯の生態系を保護する目的で、約5万人の遊牧民を定住させたと、国営新華社通信が24日報じた。
過去4年間で、チベット高原で遊牧する4万9631人が、定住者の集落に編入されたという。アジアの主要河川である黄河、長江(揚子江)、メコン川の源流ともなっている同地域の生態系を過放牧から保護するための措置だという。
これについて亡命チベット人の活動家らは、古代から続くチベットの放牧文化を破壊するものだと強く非難している。国営新華社通信は、地元政府役人の話として、定住した遊牧民には職業訓練などが提供され、起業を促進するための基金も創設されていると報じている。【8月25日 AFP】
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確かに過放牧は生態系破壊につながることがありますが、問題は定住化推進の具体的なやり方でしょう。
最近NHKオンデマンドで23年前に放送された「大黄河」という番組を見直していますが、黄河源流に暮らすチベット族の暮らしは今では放送当時とは随分違ったものになっているのでしょう。
なお、7世紀、吐蕃王ソンツェンガムポに嫁いだ唐の皇帝太宗の娘(養女)文成公主はチベットに仏教を伝えた恩人で、チベット社会では菩薩としてあがめられている・・・という話が番組では頻繁に出てきますが、中央政府にとっては、民族団結の格好の題材ではないでしょうか。

****チベット自治区 2本目の鉄道着工 支配強化へ「モノ・ヒト」流入促進*****
中国の四川省の省都、成都とチベット自治区の区都、ラサを結ぶ川蔵鉄道が9月末から着工される。3年前に開通した青蔵鉄道(青海省ゴルムド-ラサ)に続くもの。2本目の鉄道建設について中国当局は、自治区の経済発展に寄与するためとしている。だが、中国からチベットへのモノとヒトの流入を促進し、経済面での不満解消につなげ、中国共産党の支配体制強化を図る狙いがある。鉄道が開通すれば、チベットに人民解放軍の部隊を送り込む際の時間も大幅に短縮され、軍事的な意味も大きい。(中略)
チベット仏教関係者の間には、鉄道が開通して漢族が大量に流入し市場経済が発展すれば、むしろチベット文化が破壊されるとの懸念が高まり、民族対立が激化するとの見方もある。
チベットの防衛は成都軍区が担当している。現在、成都からラサに兵士を陸路で搬送する際、青蔵鉄道ルートを使うと約45時間かかるという。川蔵鉄道が開通すれば、チベット自治区内の暴動などに対処する際には、中国軍の機動力が格段に向上する。【9月2日 産経】
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【“経済的格差や文化的摩擦への対処”】
定住を促し、鉄道建設で経済を活性化させるだけでは、“民族団結”は達成できません。
中国の胡錦濤国家主席は8月22~25日、大規模暴動以来始めて新疆ウイグル自治区を視察し、10月1日の中国建国60周年を前に、「今年は新中国が発足して60周年であり、新疆ウイグル自治区の経済発展を進め、社会安定と民族団結を断固として擁護していかなければならない」と指示しています。
“今月(8月)に入って胡主席のほか、中国共産党幹部が中国国内の少数民族居住地域を相次いで視察しており、ウイグル族やチベット族の暴動を受けた新たな少数民族政策が打ち出される可能性がある。”【8月25日 毎日】ともありますが、7月末には少数民族政策一部見直しに関する記事もありました。

****少数民族政策の見直しも=胡主席系の有力幹部が示唆-中国*****
胡錦濤中国国家主席直系の若手有力幹部として知られる共産党広東省委員会の汪洋書記(党政治局員)は30日、同省の省都・広州市で時事通信など外国メディア記者団と会見した。汪書記は5日に新疆ウイグル自治区のウルムチ市で暴動が起きたことに関連して、少数民族政策を一部見直す可能性を示唆した。
具体論には言及しなかったが、少数民族地区で経済発展を促進するだけでなく、漢族と少数民族の経済的格差や文化的摩擦への対処をより重視する方針とみられる。【7月30日 時事】
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