
(イラン・ナタンツのウラン濃縮施設の地表の様子 施設は地下8mにあって、厚さ2.5mのコンクリート防御壁に保護されているとか。 “flickr”より By Hamed Saber
http://www.flickr.com/photos/hamed/237790717/)
【「行き詰っている」】
イランの核開発問題については、最近ウラン濃縮活動をペースダウンさせたとの見方もある一方で、核専門家は「濃縮ウランの生産量は着実に増えている。遠心分離機の稼働数だけでは即断できない」とみています。【9月6日 毎日】
イランが否定している核兵器開発については、核爆弾に応用できる高性能起爆装置の実験など一連の疑惑の解明はまったく進んでおらず、国際原子力機関(IAEA)は報告書で「1年以上もイランとの間に実質的な議論がない」と指摘しています。
イランのアフマディネジャド大統領は7日、テヘランでの記者会見で、「われわれの立場からすると、核問題は終わった話だ。今後、イランの疑う余地のない核の権利についての交渉を行うことはない」「われわれは、原子力の平和利用と核兵器拡散の防止の分野で協力を表明している」と語り、イランがもつ「疑う余地のない」核開発の権利について、ウラン濃縮の停止を求める欧米側との交渉を行う可能性を否定しています。
イランは、核拡散防止条約(NPT)加盟国として、核燃料製造のためのウラン濃縮活動を行う権利があると主張。核兵器開発については強く否定しています。【9月8日 AFP】
しかし、IAEAの定例理事会でアメリカ代表は「イランは核兵器1個分を製造するのに十分な低濃縮ウランをすでに保有しているか、保有に非常に近い段階にある」と指摘し、イランの核兵器開発能力が向上しているとの懸念を表明しています。
なお、イランのソルタニエIAEA大使は4日、IAEAに送った書簡で「ナタンツの濃縮施設で査察への協力を拡大した。西部アラクで建設中の重水炉に1年ぶりに査察官の立ち入りを認めた」と“協力ぶり”を強調していますが、7日の大統領会見でも、イラン政府がIAEAとの協力関係を今後も継続していくつもりだと述べています。
そのIAEAのエルバラダイ事務局長は、7日からウィーンの本部で始まった定例理事会冒頭で、イランとの交渉について「行き詰っている」とし、「イランは、核兵器開発疑惑を払拭するためにIAEAが指摘した未解決の問題について、IAEAとの協力してこなかった」と語っています。【9月8日 ロイター】
【本題抜きの「くせ球」】
こうした状況で、イラン政府は9日、国連安全保障理事会常任理事国とドイツの関係6カ国に対し、原子力分野での多国間協力を含む新たな「包括提案」を提示しましたが、欧米側が求めているウラン濃縮の停止には触れておらず、欧米側の今後の対応が注目されています。
****イランが新「包括提案」 ウラン濃縮停止は議題拒否****
イラン政府は9日、核問題の協議相手である国連安全保障理事会常任理事国とドイツの関係6カ国に対し、原子力分野での多国間協力を含む新たな「包括提案」を提示した。ただ、イランは国際社会が求めるウラン濃縮の停止は議題にしない考えで、米欧にとっては、本題抜きの「くせ球」といえそうだ。
提案は9日、イラン外務省で6カ国の代表に文書で示された。アフマディネジャド大統領は7日、この提案は「原子力の平和利用についての協力」「世界的な核不拡散」を扱っていると述べた。
イラン核問題では、6カ国側が昨年6月、イランがウラン濃縮活動を停止すれば幅広い協力の用意があるとする「見返り案」を提示。だがその後、イラン側が態度をはっきりさせず、停滞していた。
イラン側は、ウラン濃縮の継続は絶対に譲れないとしながらも、この「包括提案」で対話姿勢を見せることで、対イラン制裁強化への流れを食い止めたいとみられる。
イランは昨年5月にも、核燃料製造の国際管理などを提唱する包括提案を6カ国に送ったが、抽象的な内容が多く、米欧は「時間稼ぎ」と受け止め、目立った反応は示していない。
イランは、その対応に不満を持っており、今回の提案には6カ国からの反応を強く求めるとみられる。だが、欧米側は、ウラン濃縮停止を議題にせずイランとの対話に臨み、結果が出なければ、国内で対イラン強硬派から厳しい批判を浴びるのは確実だ。
議論がかみ合わない中で、焦点となるのは、対話路線を掲げるオバマ米政権が、対イラン追加制裁を強く主張するかどうかだ。イランは、産油国でありながら精製能力不足でガソリンは3割以上を輸入に頼る。そこで、ガソリンに取引制限をかける制裁の導入が議論に上っている。
ただ、イランが再び対話姿勢を見せ始めたのに呼応し、中国などから「制裁は対話の役に立たない」との声も出ている。一方で、反米で共闘路線を取るベネズエラのチャベス大統領は今月イランを訪問し、イラン側のガソリン輸入需要の10%以上に当たる日量2万バレルの供給を約束する「助け舟」を出した。【9月10日 朝日】
*******************************
米国の非営利報道機関「プロパブリカ」はウェブ上で、「イランの包括的新提案」として全文を公開していますが、それによると、タイトルは「平和と正義、進歩に向けた協調」。
経済、政治、国際問題の3分野から成り、核拡散防止条約(NPT)の普遍性促進▽軍国主義やテロリズムに苦しむ国々の繁栄促進▽エネルギー保障での協力--などが盛り込まれています。
イランのソルタニエIAEA大使はウィーンのIAEA本部で報道陣に「イランの新提案パッケージは、交渉スタートの基礎になる」と語っています。
【批判しつつも、対話へ望み】
IAEAの理事会各国は、ウラン濃縮の停止に応じていないイランに対し、「疑惑解明のための情報開示や協力を拒絶した」(英仏独)などと非難のトーンを強めていますが、一方で対話の再開に望みをつなぐ構えも見せています。
エルバラダイ事務局長は「打開できるのは対話だけ」と外交交渉に期待を込め、「(イラン核問題を)深く憂慮しているがまだパニック状態ではない。核物質の軍事転用を確認したわけでも、核兵器の部品を見つけたわけでもないからだ」と強調しています。【9月10日 毎日】
****「ウラン濃縮停止に答えていない」米、イラン提案を批判*****
イラン政府が国連安全保障理事会常任理事国とドイツに示した核問題に関する新たな包括提案について、クローリー米国務次官補は10日の記者会見で、「イランの核開発問題という我々の最大の懸念に答えていない」と述べ、6カ国が求めるウラン濃縮活動停止に触れていない点を批判した。
10日付の米紙ワシントン・ポスト(電子版)によると、新提案は核廃絶に向けた国際的な核管理体制の構築やアフガニスタン問題、テロ対策での協力などを提示している一方、濃縮停止には言及していないという。
オバマ政権は濃縮停止と6カ国との協議への復帰について9月中に回答するようイランに求めている。ギブズ大統領報道官は同日の会見で「イランが核開発停止に向けて具体的に踏み出さないのなら、国際的な孤立を深めることになる」と述べ、新たな制裁を講じる可能性を示唆した。
米議会下院外交委員会のバーマン委員長も同日、イランが方針を変更しない場合、同国へのガソリンなどの輸出を禁じる法案の立法手続きを10月から本格化させる考えを示した。
国務省によると、6カ国の高官は新提案への対応について9日に電話で協議した。しかし、ロシアが新提案を前向きに評価し、追加制裁には慎重な姿勢を取るなど、各国の足並みはそろっていないとみられる。【9月11日 朝日】
***************************
10日に「イランの核開発問題という我々の最大の懸念に答えていない」とイランを批判したクローリー米国務次官補は、11日の会見では「包括提案は、イランにも対話と交渉の用意があることを示している」と指摘した上で、「早期に(6カ国で)協議し、イランの意思を確認したい。問題解決の唯一の道は話し合いだ」と述べ、なお対話の道を探る姿勢を強調しています。
****米などイランと核問題協議へ 月内にも*****
クローリー米国務次官補は11日の会見で、核交渉に向けたイラン新提案を受け米国など国連安保理の5常任理事国とドイツがイランとの直接協議を求めると語った。国務省当局者は今月下旬の国連総会前の協議を求める考えを示した。また欧州連合のソラナ共通外交・安全保障上級代表は同日、イランの核交渉責任者ジャリリ最高安全保障委員会事務局長に緊急会談を申し入れたことを明らかにした。【9月12日 共同】
**************************
ソラナ代表は6カ国とイランの交渉窓口の役割を果たしています。
アフマディネジャド大統領は7日の会見で、今月下旬に米ニューヨークで開催される国連総会に出席する意向を表明、その機会にオバマ米大統領と会談する用意があると表明しています。
同大統領は、ブッシュ前大統領時代から再三にわたり米大統領との直接会談を呼びかけてきましたが、アメリカ側に拒否されています。
“ウラン濃縮停止を議題にせずイランとの対話に臨み、結果が出なければ、国内で対イラン強硬派から厳しい批判を浴びるのは確実”とのことですが、外交交渉が失敗した場合、イスラエル・アメリカによる軍事行動の可能性もあるなかで、“問題解決の唯一の道は話し合い”です。
買わない宝くじが当たることがないように、交渉のテーブルにつかない限り結果はでません。