孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  ハメネイ師の柔軟発言 核査察一部受入れとウラン濃縮ペースダウン

2009-09-01 20:38:39 | 国際情勢

(最高指導者ハメネイ師(右)と改革派重鎮のハタミ前大統領(左) 05年、まだハタミ師が大統領だった頃の写真です。宗教的バックボーンのないアフマディネジャド大統領に比べると、ハメネイ師とハタミ師は政治姿勢は異なっても、宗教指導者としての強固な繋がりがあります。“flickr”より By jaryan
http://www.flickr.com/photos/jaryan/14343222/)

【「彼らを処罰すべき」】
大統領選挙で混乱したイラン国内の状況については、最近あまり記事を目にしませんでしたが、政権中枢を担うアフマディネジャド大統領と最高指導者ハメネイ師の発言に関する報道がここ2,3日にありました。
アフマディネジャド大統領の方は、「野党指導者を処罰すべき」とのこれまで以上に強硬な発言ですが、一方のハメネイ師の方は、「米英の扇動によるものなのか、証拠はない」「(改革派指導者を)私は非難しない」と、これまでの姿勢を和らげる発言です。

****イラン大統領「野党指導者に処罰を」、大統領選後の混乱の責任問う*****
イランのマフムード・アフマディネジャド大統領は28日、テヘラン大学で行われた金曜礼拝で演説し、同大統領が再選された6月の大統領選後の混乱の責任は野党指導者にあるとして、彼らを処罰すべきだと語った。
アフマディネジャド大統領が野党指導者の処罰に言及したのは初めて。大統領選後の混乱で公式発表では30人が死亡したとされているが、野党側は69人が死亡したとしている。
一連の混乱で約4000人が逮捕され、米国や英国などの外国の支援を受けて「穏やかに」体制を転覆させようとしたとして大勢の改革派、ジャーナリスト、野党支持者が訴追されている。【8月29日 AFP】
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【「私は非難しない」】
****イラン:「米英が扇動したか証拠がない」 ハメネイ師軟化*****
イランの最高指導者ハメネイ師が、6月にイスラム革命(79年)以来最大規模の混乱を招いた大統領選後の抗議行動について「米英の扇動によるものなのか、証拠はない」との声明を発表し、「敵の陰謀だ」としてきたこれまでの主張を一転させている。イラン核問題で米欧が「追加制裁」の必要性を唱えている時だけに、発言の真意について「制裁回避を狙った陽動作戦」との見方が出ている。

声明は8月26日、国営テレビで伝えられた。大統領選不正疑惑を巡り抗議行動を主導した改革派指導者についても「私は非難しない」と姿勢を軟化させた。
これに対し、アフマディネジャド大統領は同28日の演説で、「(抗議運動は)敵の陰謀だ」と改めて強調。「だまされて抗議に参加した二流分子には慈悲を与えても、首謀者は容赦なく処罰すべきだ」と述べ、ムサビ元首相やカルビ元国会議長、ハタミ前大統領ら改革派の最有力者の訴追を司法当局に初めて要求した。
抗議行動を巡っては、これまでに数千人が逮捕され、うち100人以上が「体制転覆を企てた」罪で訴追されたが、ムサビ氏らは拘束もされていない。

最高指導者と大統領の対応に違いが表れたことについて、米欧メディアの多くは「反対派の処遇問題が保守派内の亀裂を深めかねない」との見立てを伝えた。両者は先に、大統領が親族の副大統領を筆頭副大統領に昇格させた人事(その後撤回)で対立した経緯があったからだ。【8月31日 毎日】
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上記記事には、改革派要人の代理人を務める弁護士の解説として、ハメネイ師の「軌道修正」発言の真意を「ハメネイ師も改革派指導者への厳罰を望んでいるが、米英を一方的に非難していては核問題で追加制裁を食らう。そうなれば経済の悪化で国民の不満が再び爆発しかねないからだ」との発言も掲載されています。

仮に「制裁回避を狙った陽動作戦」であったとしても、これまでにない柔軟姿勢であることは注目に値します。
また、強硬な大統領発言との違いは、先日の第1副大統領人事において両者の不協和音があった後だけに気になるところです。

【「イランが果たすべき義務にはほど遠い」】
イランは最近、国際原子力機関(IAEA)の核査察を一部認める方向に転じています。

****イランがIAEAに核査察を許可、米英など関係国が協議へ*****
イラン政府が先週、中部アラクで建設中の重水炉について、国際原子力機関(IAEA)査察官の訪問を許可していたことが分かった。イランは同施設の査察を1年間にわたり拒否していた。複数の外交筋が21日、明らかにした。
また、中部ナタンツのウラン濃縮施設についても、IAEAによる監視活動を拡充することになったという。
IAEAは来週、イランの核開発に関する報告書をまとめる予定で、今回の査察許可はそれに先手を打つ狙いがあるとみられている。【8月23日 ロイター】
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また、イランの核開発状況については、国際原子力機関(IAEA)が28日に配布した報告書で、ウラン濃縮活動のペースが落ちていることを指摘しています。

****イラン:「ウラン濃縮のペースがダウン」IAEAが報告書******
国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は28日、イランによるウラン濃縮活動のペースが落ちているとする報告書を理事国に配布した。中部のナタンツにある核施設で稼働している遠心分離機は4592基で、5月末時点の4920基から減ったと指摘。また、低濃縮ウランの製造量も減少したとしている。

これに対し、ケリー米国務省報道官は同日、「イランが(IAEAへの)完全な協力をせず、国連決議が求める核活動中止を拒み、依然として遠心分離機の追加やウラン濃縮を継続しているのは明らかだ。核弾頭開発など過去の活動についても実質的な説明をしてない」と批判した。
また、最近になってIAEAに認めた査察に関しても「限定的」であり、「イランが果たすべき義務にはほど遠い」としている。【8月29日 毎日】
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イランのウラン濃縮活動のペースダウンの背景としては、ウラン原料の不足、大統領選後の国内情勢の混乱や、オバマ米政権による政治的圧力などが指摘されています。

****イラン:ウラン濃縮活動停滞 原料不足、政情不安影響か*****
イラン中部ナタンツでのウラン濃縮活動が最近数カ月間、停滞状態にあることが27日、分かった。国際原子力機関(IAEA)外交筋が明らかにした。ウラン原料の不足が指摘される一方、大統領選後の国内情勢の混乱や、オバマ米政権による政治的圧力なども影響している可能性がある。(中略)

外交筋によると、イラン当局が濃縮ウランの生産停止を意図している様子はない。ウラン濃縮が停滞している理由は不明だが、遠心分離機に投入するウラン原料の不足が考えられるという。
ウラン原料は70年代に南アフリカから入手したとみられている。濃縮活動停止を求める国連安保理決議に応じていないイランは、濃縮目的のウラン輸入を禁じられており、新たな調達は困難だ。
また、イランとの直接対話を模索してきたオバマ米政権は、「9月の国連総会までに(イラン側の)回答を期待する」(ゲーツ国防長官)との考えだ。9月までに核問題に関するイラン側の姿勢が変わらなければ、一層の圧力強化に乗り出す構えで、イランは対応を迫られている。
IAEAによると、イランは今年5月までに総量1.3トンの低濃縮ウランを生産した。この状態で直ちに核爆弾を製造することはできないが、「兵器化に必要な高濃縮を行えば、核爆弾1個分に達する」との専門家の見方もある。 【8月27日 毎日】
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【北風と太陽 追加制裁は?】
明日2日にはドイツのフランクフルトで、国連安保理常任理事国とドイツの6者会合があり、今回のIAEA報告書が協議されることになっています。
イランは6者会合への参加を表明しておらず、オバマ米大統領は9月までにイランから肯定的な反応がない場合、追加制裁に動くことを示唆してきました。

イランの核査察受入れも「イランが果たすべき義務にはほど遠い」というのがアメリカの判断のようですので、今回会合で米英など4カ国はロシアと中国に対し、イランへの追加制裁の検討を求めることが予測されています。
ロシア・中国は恐らく一定に評価するのでは・・・・。

ホメイニ師のようなカリスマのなさをバランス感覚でカバーしてきたと言われるハメネイ師ですが、先述の柔軟発言もこのあたりの欧米の動きをにらんだもの・・・という見方のようです。
何らかの対話へ向けたアピールであれば、いつもの北風と太陽の話になりますが、無視するのもいかがなものかと思われます。
かつてハタミ大統領時代に、国際協調を模索するイランを「悪の枢軸」と突き放したことが、結局改革路線を頓挫させ、保守強硬派のアフマディネジャド現大統領の台頭を許すことになった経験もあります。

ところで、チェイニー前米副大統領は30日に放映されたFOXテレビのインタビューで、イランへの武力行使を主張したことを明らかにしています。
チェイニー副大統領の武力行使の主張に対し、ブッシュ前大統領はイラン核問題を外交手段で解決することを決断、チェイニー氏の主張は退けられたそうです。【8月31日 時事】

武力行使とは核施設を対象とした限定的な空爆のことでしょうが、実際の攻撃はイスラエルが行う手はずだったのでしょうか。
さすがにブッシュ大統領も、イラク・アフガニスタンを抱えて、更にイラン・・・というのは躊躇したようです。




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