孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

鳩山首相 温暖化対策で国際公約 国連作業部会で「日本を見習って」

2009-09-29 22:58:19 | 国際情勢

(写真は24日の国連安全保障理事会首脳会合での鳩山首相 “flickr”より By United Nations Photo
http://www.flickr.com/photos/un_photo/3952224938/)

【国際公約 25%削減】
民主党・鳩山政権の誕生で、マニフェストで掲げていた年金・子供手当て・高速道路・ダム建設中止・脱官僚支配・天下り禁止などの諸政策の実現性について国内的には注目されています。
国際的には、かねてからインド洋での給油問題が論議を呼んでいますが、俄かに脚光を浴びているのが温暖化対策です。

22日に開幕した国連気候変動サミットにおいて、鳩山首相は20年までに1990年比25%の温室効果ガス削減の中期目標を「国際公約」として表明、途上国の削減努力への資金援助などの支援体制も示し「鳩山イニシアチブ」として日本の主導的役割をアピールしました。

7月に行われたラクイラ・サミットのG8及び「主要経済国フォーラム(MEF)」に向けて、麻生前首相が6月に発表した「05年比15%減」(90年比8%減)とする日本政府の「中期目標」が、国連の潘基文事務総長が「もっと野心的なものを期待していた」と失望感を表明するなど、国際的に非常に不評だっただけに、今回の鳩山首相の「国際公約」は好意的に受け止められています。

削減比率自体については、日本の数値が突出している訳ではなく、イギリスなどは90年比で34%削減することとしており、7月には、総発電量に占める原子力や風力など低炭素エネルギー発電の割合を2020年までに40%まで引き上げることなどを柱とした計画達成への具体的なロードマップを明らかにしています。
スウェーデンの環境相も7月、2020年までの温室効果ガス排出量の削減目標(1990年比)を従来の「20%」から「30%」に引き上げることを目指す考えを示しています。
これまでの日本の「中期目標」が、国際的に低すぎた面があるようです。

また、ラクイラ・サミットのG8とMEFの首脳宣言にはいずれも「気温上昇2度以内」が盛り込まれていますが、この達成には、20年までの先進国全体の排出量を90年比で25~40%減とする必要があります。
そのため、日本が当時公表した“05年比で15%減(90年比8%減)”では「整合性が取れなくなる」という問題もありました。

【日本の「野心的な目標」で議論を活性化】
日本の国際公約が注目された背景としては、“今回のサミットは、次期枠組み合意の期限とされる12月の国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)に向けて「各国首脳が合意形成の意思を誓い、共有する舞台」(潘事務総長)と位置づけられている。政権発足間もない鳩山首相を演説者の一人に選んだのも、「野心的な目標」が議論を活性化するとの期待が国連側にある。”【9月22日 毎日】とも。

中国の胡錦濤国家主席は国連気候変動サミットでの演説で、二酸化炭素の排出量を2020年までに国内総生産(GDP)比で05年よりも「大幅に」減らす方針を示しましたが、具体的な数値は触れていません。
温暖化問題で積極策に転じたオバマ米大統領は、「取り返しのつかない破滅的状況」に直面するリスクを回避するため、世界的に地球温暖化防止の行動を取る必要性を訴えましたが、この問題に対処する米国内での新対策は発表しませんでした。

「各国首脳は行動する意向を示したがっている。しかし、だれもがこのチキン・ゲームの中にいる」(ドイツ国際安全保障問題研究所のスサンネ・ドレゲ氏)といった状況で、京都議定書に続く2013年以降の温室効果ガス削減の枠組みを決定する会議として位置づけられる12月の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)における合意形成について危ぶむ声も出てきています。

それだけに、鳩山首相の「野心的な目標」への転換が、議論を活性化させたい国連側の思惑もあって注目を集めています。

****温暖化対策「日本を見習って」 国連作業部会が開幕*****
13年以降の地球温暖化対策の国際枠組み(ポスト京都議定書)を話し合う国連気候変動枠組み条約の作業部会が28日始まった。開会式で途上国側は「日本を見習って他の先進国もさらに削減すべきだ」と指摘。鳩山由紀夫首相が掲げた「90年比25%」という20年までの温室効果ガスの削減目標への支持が相次いだ。
温暖化で深刻な被害を受ける「低開発国グループ」を代表し、南部アフリカのレソトは「削減目標を見直した日本の国民と政府に感謝する」と言及。中国やインドを含む約130カ国でつくる途上国の交渉グループ代表のスーダンは「以前の削減目標に比べると意義のある前進だ」と日本を評価したうえで、「すべての先進国は日本に続いて指導力を発揮してほしい」と注文をつけた。
約180カ国の政府代表が参加する今回の作業部会は10月9日まで。12月の国連の締約国会議(COP15)で合意をめざすポスト京都の原案づくりを急ぐ。先進国の削減目標のほか、途上国の削減計画の定め方、途上国の温暖化対策を支援するための資金や技術移転の方法などが焦点になる。【9月28日 朝日】
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特別作業部会は10月9日までの日程で行われますが、鳩山首相の公約が刺激となって、削減義務をめぐり先進国と発展途上国との間で行き詰まっていた議論が打開に向けて動くか注目されています。

【実現に向けての政策とその負担】
国際的に日本がこれほど賞賛されたのは記憶にありません。
非常に喜ばしいことではありますが、この「国際公約」は実現できるのか、そのためには国民生活の負担はどの程度になるのか、それに対する国民合意が得られるのか・・・等々の不安が伴います。
鳩山首相は、中国、インドなど「すべての主要(排出)国」の参加が日本の国際社会への約束の前提であることを強調してはいますが、これだけ持ち上げられると、“前提”が整わなかったのであれはなかったことに・・・というのも風当たりが強そうです。

実現可能性については、鳩山首相は「政治の意思として国内排出量取引制度や再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の導入、地球温暖化対策税の検討をはじめとして、あらゆる政策を総動員して実現を目指す決意だ。」と述べています。

従来の「中期目標」達成に必要な主な政策としては
・太陽光発電を、現状(05年)の142万キロワットから、20倍に引き上げ
・ハイブリッド車など次世代自動車の新車販売に占める割合を、現状1%から50%に高め、保有台数の20%に
・新築住宅に占める省エネ住宅の割合を、現状の約40%から約80%に高める
・風力発電を、現状の168万キロワットから500万キロワットに拡大(10万キロワット×34基を新設)
・高効率給湯器を2800万台に
・原子力発電所を9基新設。現状6割の設備利用率を8割に
などが挙げられていました。【6月11日 毎日より】
当然、「90年比25%減」となると、更に強力な政策が必要になります。

また、3月に政府の中期目標検討委員会が公表している削減率の国民生活への影響でみると、25%減では、実質国内総生産(GDP)が20年までの累積で最大6%押し下げられ、失業率も最大年平均1.9%の増加要因になるとしています。また、20年の1世帯当たりの可処分所得は、「7%減」で4万~15万円押し下げられ、「25%減」では22万~77万円押し下げられるとのことです。【3月27日 毎日より】

このあたりの数値はあくまでもモデル試算で、現在の経済危機の影響を考慮しておらず、GDPが年1.3%ずつ増加する成長モデルを前提としているとのことです。
実際の影響は、経済全体の状況と、どういう政策を取るかによっても大きく変わってきます。
いずれにしても、強力な政策誘導と合わせて、負担に関する国民合意が必要になります。

負担については、国際的には先進国と新興国・途上国の間で厳しい対立がありますが、温暖化が人類の活動の結果引き起こされているという立場に立つのであれば、これまで経済活動による便益を集中的に享受してきた先進国側が相当の負担をすべきという主張は筋論ではあります。
その意味で、負担が増えるのはイヤ・・・とは言えないことを含めて、国民的合意が必要でしょう。
その負担を国内でどのように配分するかは、また難しい問題です。

コメント (1)
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