(4/13 中国の国旗だらけの商店街を歩くウイグル族の男性たち カシュガル【5月20日 WIRED】)
【「ウイグル人権法案」に署名したトランプ大統領 暴露本では習氏に「ウイグル族強制収容所の建設を進めるべきだと語った」とも】
アメリカ議会が可決していた「ウイグル人権法案」にトランプ大統領が署名したことで、同法案が成立しました。
人権問題にはあまり関心がないトランプ大統領としては中国との「取引」を難しくし、新たな火種を抱え込む同法案には消極的でしたが、対中国批判を強める議会の流れに乗った・・・と言うか、乗るしかなかったというところでしょう。
****米ウイグル人権法成立 トランプ大統領が署名 中国の反発は確実****
トランプ米大統領は17日、中国新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族ウイグル族らを弾圧する中国当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名し、同法は成立した。
中国はウイグル問題を絶対に譲歩できない「核心的利益」と位置づけており反発を招くのは確実だ。新型コロナウイルスへの対応や香港への統制強化を巡って対立する米中は、新たな火種を抱えることになる。
ウイグル人権法は、米政府が180日以内に弾圧に関与した中国の当局者や個人のリストを作成し、議会に報告するよう求めている。対象者には査証(ビザ)発給の停止や米国内資産の凍結などの制裁を科すよう要請する。
また、中国当局が弾圧に使用している顔認証システムなどの先端技術を使った製品の対中輸出制限も盛り込んだ。
トランプ氏は、同法の一部について、大統領の権限を制限する恐れがあるとして「勧告であり、法的拘束力はない」とする声明を出した。
米国務省が6月10日に発表した「世界の信教の自由に関する2019年版報告書」では、ウイグル族など100万人以上の人々が施設に収容されて強制労働をさせられているなどと指摘している。
法案は、共和党のマルコ・ルビオ上院議員ら超党派のグループが提出し、5月27日までに上下院で圧倒的な支持を得て可決。ホワイトハウスに6月8日に送付されていた。
ルビオ氏は「ウイグル族を支援し、中国の甚だしい人権侵害に対抗するための歴史的な一歩だ」とのコメントを発表した。
米政府は、中国によるウイグル族らへの弾圧を繰り返し批判してきたが、トランプ氏自身は対中貿易協議への影響なども踏まえ、これまであからさまな批判は避けてきた。
昨年9月に国連本部で信教の自由擁護に関する国際会合を主催した際も、ペンス副大統領が中国を名指しで非難する一方で、トランプ氏はウイグル問題に触れなかった。
新型ウイルスへの対応や、中西部ミネソタ州の黒人男性暴行死事件の抗議デモに強硬姿勢を示したことで、国内ではトランプ氏への批判が高まっている。法案に署名をせずに、拒否権を行使したとしても、上下院による再可決で成立するのは確実。
こうした状況を踏まえ、署名することで改めて対中強硬姿勢を示すことにしたと見られる。【6月18日 毎日】
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興味深いのは、たまたまなのか、意図的なのか、同じ日に、ボルトン前大統領補佐官の「トランプ大統領は、習近平主席に対し、ウイグル族強制収容所の建設を進めるべきだと語った」という暴露本内容が報じられていることです。
****「トランプ氏が習氏に再選協力を懇願」ボルトン氏が暴露****
昨年9月に更迭されたボルトン前大統領補佐官がトランプ政権の内幕を暴露した回顧録の一部が17日、明らかになった。
ボルトン氏によれば、トランプ米大統領は昨年6月、中国の習近平国家主席との会談で、自身の大統領選再選に協力してくれるように懇願したという。
弾劾(だんがい)裁判に発展した「ウクライナ疑惑」に続き、外国政府に大統領選への介入を促したと受け取られかねない発言であり、大きな批判を浴びそうだ。
複数の米メディアが17日明らかにした。ボルトン氏の回顧録によれば、トランプ氏は昨年6月29日、G20出席のために訪問した大阪での米中首脳会談の席上、中国の経済力について言及し、習氏に対し自身が大統領選で勝つことが確実になるように懇願。そのうえで選挙においては農家を始め、中国が大豆と小麦の購入を増やすことが重要だと強調したという。
トランプ氏はまた、同じ大阪でのG20の開幕式の晩餐(ばんさん)会で、通訳だけを交えて習氏と会談。習氏が中国新疆ウイグル自治区での強制収容所の必要性を説明したところ、トランプ氏は習氏は強制収容所の建設を進めるべきだと語ったという。
トランプ政権は中国をロシアと並び「競争国」と位置づけており、米中間の貿易紛争など対立関係を深めてきた。だが、実際の交渉の場ではトランプ氏が習氏に対して再選への協力を要請するという選挙介入を促したと受け取られる発言をしたり、ウイグル族への人権弾圧に理解を示したりしたことが暴露された格好となり、大統領選に向けたトランプ氏の選挙運動に大きな打撃となる恐れがある。
回顧録のタイトルは「それが起きた部屋 ホワイトハウス回顧録」で、今月23日に出版予定。しかし、トランプ氏は15日、「(自身との会話は)極めて機密性が高い」と述べ、出版は「刑事責任に問われる」と警告。ホワイトハウスは16日に出版停止を求めて提訴しており、法廷闘争に発展している。【6月18日 朝日】
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「トランプ氏が習氏に再選協力を懇願」に対し、習近平主席の方も「トランプ氏ともう6年、一緒に働きたい」と秋波を送っていたとか。
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ボルトン氏は、18年12月にアルゼンチンであった米中首脳会談の様子も紹介。習氏が「トランプ氏ともう6年、一緒に働きたい」などと、再選に期待する発言をしたと明らかにした。この時もトランプ氏は中国による農産物購入増加を求め、引き換えに関税を下げることを示唆したという。
米中は当時、通商交渉の途中だった。今年1月には「第1段階の合意」に署名し、中国は米側に対し、大豆や小麦などの農産物を今後2年間で計800億ドル輸入することを約束した。【6月18日 朝日】
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ウイグル族の問題に関連する人権問題への意識としては、“19年6月に香港で「逃亡犯条例」をめぐって大規模なデモが起きた際には、ボルトン氏に「巻き込まれたくない」と話したという”【同上】とも。
また“トランプ大統領について「陰謀論などにこだわる一方、政権運営について無知」と酷評し、「テレビのショー」となる機会を常にうかがっていたと厳しく批判した。”【6月18日 共同】とも
ホワイトハウスはこうした暴露本内容を否定しています。
****ボルトン氏の暴露「事実無根」=米高官****
米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は17日、トランプ大統領が中国の習近平国家主席に再選に向けた支援を要請したとするボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録の内容について「全くの事実無根だ」と強く否定した。上院財政委員会の公聴会で語った。
ライトハイザー氏は、トランプ氏が習氏に支援を求めたとされる昨年6月の大阪での会談に同席していた。回顧録の内容に関し「そんな(支援要請という)とんでもないことがあれば、忘れるはずがない」と強調。ボルトン氏の主張に「絶対にない。全くばかげている」と反論した。【6月18日 時事】
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もっとも、トランプ大統領が自身の再選のために習近平主席と「取引」しようが、人権問題に無関心だろうが、国家権力に盾突く連中は「テロリスト」として厳しく取り締まるべきと考えていようが、テレビ演出のことしか考えていなかろうが・・・今更誰も驚きません。
事実かどうかは知りませんが、問題なのは「彼だったら、そう言うだろうな・・・」と思える人間が、アメリカ大統領というポジションにいることでしょう。
【海外在住ウイグル人 旅券更新停止で、帰国して拘束されるか、不法滞在で怯えて暮らすかの選択】
ウイグル族の問題に関する報道は最近はあまり目にしませんが、海外在住のウイグル族が、パスポートの更新が停止しているため、また、滞在国(多くはイスラム国)の中国への配慮もあって、拘束される危険を冒して帰国するか、そのまま不法滞在して絶えず国外追放におびえながら暮らすかという選択を迫られている実態を報じた記事が下。
****帰国すれば拘束の危険も…中国、海外在住ウイグル人の旅券更新停止****
サウジアラビアに留学中のウイグル人男性は、目に涙を浮かべながら、とっくに期限が切れている中国の旅券(パスポート)を見せた。サウジアラビアと中国は関係を深めていることが、この男性の未来をさらに不透明にしている。
駐サウジアラビア中国大使館は、2年以上前からイスラム系少数民族ウイグルのパスポートの更新を停止している。活動家らはこれを、国外に住むウイグル人を強制的に帰国させるために多くの国で中国政府が実施している圧力戦略だと指摘する。
AFPはサウジアラビア在留のウイグル人6家族のパスポートを確認したが、いくつかの有効期限は切れており、期限が迫っているのもあった。中国では100万人以上のウイグル人が強制収容所に拘束されていると考えられており、この家族らは口々に帰国するのは怖いと訴えた。(中略)
現在、サウジアラビアのウイグル人には、中国へ帰国する場合にだけ適用される片道の旅行証が提供されている。ウイグル人らは、拘束される危険を冒して帰国するか、サウジに不法滞在して絶えず国外追放におびえながら暮らすかという不可能に近い選択を迫られている。(中略)
■沈黙を守るイスラム教国
ウイグル人コミュニティーをさらに不安にさせているのは、ウイグル人に対する中国の扱いに対し、パキスタンからエジプトまでイスラム教徒が大半を占める国々が沈黙を守っていることだ。これらの国々は、経済的な影響力が大きい中国と対立することを避けているのだ。(中略)
■中国帰国後、消息不明に
サウジアラビアに在留するウイグル人はわずか数百人と推定されている。主に神学校の学生、貿易業者、亡命希望者などで、その多くは中国で拘束されている家族とのつながりが絶たれている。
サウジアラビアに住むあるウイグル人実業家は、不法滞在となった同胞ウイグル人の期限切れのパスポート8冊のコピーをAFPに示しながら、彼らの多くが中国のスパイだと疑われることを恐れており、隠れて暮らすことを余儀なくされている人もいると語った。
また、サウジアラビアに留学中のウイグル人学生はAFPに、友人3人が2016年後半に強制送還され、中国到着後に「消息不明」となったと語った。友人らは中国政府が対過激派対策だと主張するいわゆる「再教育施設」にいる可能性が高いという。
アユップ氏はAFPに、2017年以降サウジアラビアで5件の強制送還を確認していると語ったが、5件以上あるとするウイグル人活動家もいる。エジプトやタイでも同様に、ウイグル人の強制送還が報告されている。
強制送還が、中国からの圧力を受けサウジアラビア政府が実施したものか、同国独自の不法滞在者の取り締まりによるものかは定かではない。サウジアラビア当局はコメントの要請に応じていない。
駐サウジアラビア中国大使館は「サウジアラビア当局と協力してウイグル人を強制送還」してはいないとAFPに語った。パスポート更新の拒否について尋ねると同大使館は、ウイグル人の「兄弟姉妹」のための領事業務は停止していないとのみ答えた。
■「どうすることもできない」
ウイグル人学生のグループは昨年、西部ジッダの中国領事館に書簡を送った。この中で学生らは、中国領事館はサウジアラビア在留の漢民族のパスポートは更新しているのに、なぜウイグル人の申請は無視するのかと問い、「私たちは同じ国の出身ではないか」と訴えた。
「私たちは2年間も中国の父、母、きょうだいたちと連絡が取れていない…私たちがサウジアラビアで学んでいるために、彼らは拘束されたと聞いている」
あるウイグル人の若い女性は青色をしている片道の旅行証を引き合いに出しながらこう語った。「妊娠して子どもを産みたいとは思わない――赤ん坊には青色の書類と暗い未来が待っているだけだ」「私たちにはどうすることもできない」 【4月11日 AFP】
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【中国政府の“もうひとつのウイルス”への勝利? 文化は“消毒”され“ディズニー化”した新疆】
最近あまりウイグル族関連の報道を目にしないのは、中国によるウイグル族文化抹消がすでにある程度完成しているためでもあるでしょう。
****新疆ウイグル自治区の文化は“消毒”され、“ディズニー化”している****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、中国の西の外れに位置する新疆ウイグル自治区もほかの地域と同じように、ほぼ全面的なロックダウン(都市封鎖)を数カ月前から続けてきた。その態勢も、いまは徐々に解除されつつある。
一方で中国政府は過去6年にわたり、新疆ウイグル自治区に広がる別の“ウイルス”(であると政府はみなしている)の蔓延を食い止めることに力を注いできた。
そのウイルスとは、イスラム急進主義である。 2019年に『ニューヨーク・タイムズ』にリークされた機密文書には、「宗教に基づく過激思想に感染している者たちには、学習させる必要がある」と書かれている。「人々の思考のなかにあるこのウイルスが根絶され、健全さを取り戻して初めて、自由は実現するのだ」
まるで戒厳令のような現状
(中略)フランス人写真家のパトリック・ワックが新疆ウイグル自治区を初めて訪れたのは、16年から17年にかけてだった。そのときの目的は、米国の風景写真文化にインスパイアされたシリーズを撮影することだった。
しかし、ワックは19年、地元民に対する弾圧の影響を記録すべく、現地を再び訪れた。 「現在の新疆ウイグル自治区には、警察や軍の検問所がいたるところにあります」と、ワックは語る。「まるで戒厳令が敷かれているかのようです」
変わり果てた街の姿
伝統的なウイグル文化を示すさまざまなものが、いまやほとんど消えてしまっていることに彼は気づいた。
「女性たちはスカーフを巻いていません。イスラム教や少しでも中東のように見えるシンボルは、どれも撤去されています。そこはまるで別の場所でした」
ワックがいちばん驚いたのは、20~60歳の男性が明らかに街からいなくなっていることだった。彼らの多くは、まとめて洗脳キャンプに入れられてしまっているようだった。
チベットとは異なり(チベット自治区を訪れるには特別な許可が必要である)、新疆ウイグル自治区はいまでも訪問者を自由に受け入れている。だが、そのなかのいくつかの都市では、ワックは私服警官に尾行され、一部の検問所では撮った写真を見せるように命じられたこともあった。
ときには写真の削除を命じられたこともあったが、幸いにも彼はこれらのファイルのコピーをふたつもっていた。
地元民からキャンプの話を聞くのは不可能だった。「話しかけることもほとんどできません。そんなことをすれば、人々を危険に晒してしまうからです」と、ワックは語る。
「政治的なことを口にしようものなら、すぐに話を切り上げてしまいます」 ワックが洗脳キャンプを訪れることなど許されるはずもなかった。そこで彼は、新疆ウイグル自治区の変わり果てた姿を記録することで、その様子を示唆することしかできなかった。
“ディズニー化”された土地
中国共産党は長年にわたり、ウイグル族のアイデンティティを示すものを取り除き、新疆ウイグル自治区をもっと「中国」に見えるようにつくり変えようとしてきた。
政府は「一帯一路」の一環として、自治区を走る高速鉄道や高速道路などの大型インフラプロジェクトに取り組んでいる。
また、自治区内で暮らすウイグル族の割合を減らすため、中国の主要民族である漢民族に対して、新疆ウイグル自治区への移住を促してもいる。
「新疆ウイグル自治区の人々は“中国人”のような服を着るようになり、“中国人”のように見えるようになりました」と、ワックは語る。
「それぞれの都市は、完全な中国の都市へと変わりつつあります。各都市の伝統的な部分は破壊されています。たとえ残されたとしても、遊園地につくり変えられているのです」
事実、新疆ウイグル自治区は漢民族が訪れる観光地として人気を高めている。観光客の目当ては、そこにある砂漠の風景や、かつてシルクロードの一角を占めていたというロマンティックな歴史だ。クムタグ砂漠などの景勝地を訪れる観光客が目にするのは、ウイグル族の「消毒された」文化と歴史である。
「中国人の友達と話していると、『そう言えば、うちの両親が去年初めて新疆に行ったんだ』と言う人もちらほらいます」と、ワックは語る。
「そうした人たちが体験できるのは、“ディズニー化”された新疆です。支配体制がその文化を滅ぼそうとしている一方で、新疆のエキゾチック化が進んでいるのです」
悲しいことに、中国共産党が現状を続ける限り、そこに残るのはこの「ディズニー化された新疆」だけなのかもしれない。【5月20日 WIRED】
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中国各地には古い街並みを観光資源とした「古鎮」と呼ばれる街が多くあります。ただ、それらのほとんどは伝統文化とは切り離された、土産物屋が並ぶ“ディズニー化”された観光地です。
新疆全体がそうした「古鎮」のような存在になりつつあるようです。漢族にとっては十分にエキゾチックな観光地なのでしょうが。