(抗議デモ隊に対しバットを振り回す白人女性【6月8日 FNNプライムオンライン】)
【「団結させようと試みるそぶりすら見せていない」】
アメリカ・ミネアポリスで黒人男性が白人警官の過剰な対応によって死に至った事件に関しては、激しい抗議デモが続くなか、軍の投入に言及するなど強硬な暴徒鎮圧を主張し「法と秩序」をアピールするトランプ大統領に対し、アメリカ国内のメディア・著名人からも多くの批判があがっていることは報道のとおり。
それらの中から一つだけ挙げるとすれば、当初政権にも加わっていたマティス前国防長官の「トランプ氏は「(米国民を団結させようと試みる)そぶりすら見せていない。それどころか我々を分断しようとしている」との批判でしょう。
****マティス前国防長官、トランプ氏を批判 「成熟した指導力欠如の結果を目撃」****
米国のマティス前国防長官は4日までに、トランプ大統領について「私の生涯で初めて、米国民を団結させようとしない大統領だ」と述べ、黒人死亡事件をめぐるデモが激しさを増す中でトランプ氏を厳しく批判した。
マティス氏は続けて、トランプ氏は「(米国民を団結させようと試みる)そぶりすら見せていない。それどころか我々を分断しようとしている」と指摘した。
さらに「我々が目の当たりにしているのは、3年に及ぶこうした意図的な試みの結果であり、成熟した指導力の欠如の結果だ。我々はトランプ氏なしでも市民社会に内在する力によって団結できる。この数日の出来事が示すように、簡単なことではないが、他の国民や我々の約束を守るために命を流した過去の世代、そして子どもたちのために、我々にはそうする義務がある」としている。
米国ではマティス氏の発言に先立ち、黒人男性がミネソタ州ミネアポリスで白人警官の暴行により死亡した事件をめぐり、1週間以上にわたり各地で正義を求めるデモが続いていた。
これに対しトランプ氏は今週、自身を「法と秩序の大統領」と呼び、暴動が鎮圧されなければ軍を使って米国の秩序を取り戻すと言明した。
退役海兵隊大将のマティス氏は政権を離れて以来、おおむね沈黙を保ってきた。トランプ氏や軍関連の政策、国防総省などについてコメントを求められることも多かったが、兵士に相反する声を聞かせたくないとして拒否。言いたいことは全て辞表に記したと強調していた。
米軍にはマティス氏を崇拝する兵士が多い。軍の指揮命令系統を忠実に尊重するキャリアを送ってきたマティス氏だが、今回はトランプ氏の指揮なしでも米国は団結できるというメッセージを兵士に送った形だ。【6月4日 CNN】
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民主主義国における多くの指導者は、本音はともかく、人権・自由・国民融和といったものに対し、すくなくともその価値観を尊重する姿勢は見せます。そうした「建前」によって、一定にその言動に対し歯止めがかかります。
“そぶりすら見せていない”という対応は、そうした制止が全くかからないことを意味し、ひたすら自身の再選に都合のいい「分断による支持層固め」に走ることにもなります。
【バイデン氏との差拡大 「大統領は黒人差別に対する国民の意識が劇的に変化していることを読み間違えているようだ」】
全米に広がった抗議デモの矛先は、警察批判にとどまらず、そうした大統領の姿勢にも向けられています。
そうした状況で、大統領選挙に向けた支持率もトランプ大統領にとって厳しいものになりつつあるとの報道も。
****バイデン氏がリード拡大、トランプ氏と支持率11ポイント差-世論調査****
11月の米大統領選に関する最新の世論調査で、民主党候補に事実上確定したバイデン前副大統領が支持率でトランプ大統領に対するリードを一段と広げた。
白人警察官による黒人男性暴行死への抗議活動が一部暴徒化して社会不安が高まる中、米モンマス大学の調査によるとリードは11ポイントとなった。
今回の調査結果はバイデン氏の支持率が52%だったのに対し、トランプ氏は41%。5月はそれぞれ50%と41%、4月は48%と44%だった。
モンマス大世論調査機関の責任者、パトリック・マリー氏は発表資料で、「今度の大統領選は引き続き、現職であるトランプ大統領への国民投票という意味合いが強い。現在続いている国内の人種問題を巡る社会不安への最初の反応を示す今回の結果は、大半の有権者が大統領の状況への対応はあまり良くないと考えていることを示唆している」と説明した。
同調査は5月28日-6月1日に実施。誤差率はプラスマイナス3.6ポイント。【6月4日 Bloomberg】
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****トランプ支持基盤に離反の動き、抗議デモ、逆風の3つの要因****
白人警官による黒人暴行死事件をめぐる抗議デモはトランプ大統領をかつてないほどの窮地に追いやっている。とりわけ固い支持基盤の白人のキリスト教福音派の間での支持率が急落しているのが痛い。
この逆風は3つの出来事が大きな要因になっているが、その背景には「黒人の生命は大切だ」という差別撤廃運動に大多数が賛同するという国民意識の劇的な変化がある。
福音派の重鎮が大統領を“説教”
トランプ氏をホワイトハウスに送り込む原動力となったのは米国内の最大の宗教勢力である白人のキリスト教福音派の支持だ。ところがその支持傾向に大きな変化が表れている。
ニューヨーク・タイムズが4日、「公共宗教調査研究所」(PRRI)の世論調査の結果として伝えるところによると、3月の時点で、白人福音派の約80%が大統領の仕事ぶりを評価していたのに、デモが激化した5月末には、62%にまで急落した。
同じ宗教勢力である白人のカトリック教徒の間でもトランプ氏の支持率は3月と比較して27ポイントも下落した。
(中略)再選のためには絶対に必要な岩盤支持層の一部が離れていることは大統領にとっては深刻な事態といえるだろう。
この支持離れは黒人暴行死をめぐる抗議デモへの大統領の対応だけではなく、それ以前からの新型コロナウイルス対策の遅れに対する批判も反映されていると見られている。大統領は「4月になって暖かくなれば、ウイルスは消え去ってしまう」などと楽観論を繰り返し、初動対応が遅れ、米国が最多感染国になった責任を厳しく問われている。
福音派の一部にそっぽを向かれ始めた大統領のデモへの好戦的な姿勢に対し、同派の重鎮で、「キリスト教連合」創設者のテレビ伝道師パット・ロバートソン師はこのほど、「大統領、そんなことをしてはいけない。われわれは1つの人種であり、互いに相手を愛さなければいけない」と“説教”した。同師とトランプ氏は90年代からの旧知の間柄だ。(中略)
身内の共和党からも造反
大統領は最新の世論調査で、民主党の大統領候補に確定したバイデン前副大統領に7~10ポイントもの大差を付けられて劣勢にあるが、抗議デモの拡大でこの傾向がさらに加速しつつあるように見える。
ニューヨーク・タイムズが報じるところによると、5月26日から同28日の間に実施された無党派層に対する調査では、40%が大統領のデモ対応を支持していた。
しかし、大統領が同29日、「略奪が始まれば、発砲が始まる」と軍隊の投入をちらつかせて恫喝、力による鎮圧方針をツイートした後、無党派層の支持率は30%までに急減した。高齢者の支持率も58%から41%に落ちた。
トランプ氏は60年代のニクソン元大統領の主張を真似て「法と秩序」を強調しているが、デモの背景にある黒人差別の歴史や暗部については語らず、“ANTIFA”(反ファシズム)による陰謀論と、力による強硬姿勢を前面に出して保守層にアピールしようと躍起になっている。だが、結果はうまくいっていない。この29日のツイートが逆風の第1の要因である。
第2の要因は6月1日に起きた。ホワイトハウス周辺のデモ隊に催涙弾を浴びせて排除し、側近らを引き連れて徒歩で数分のセントジョンズ教会に行き、聖書を片手に記念撮影するというパーフォーマンスを演じたことだ。なぜこんな稚拙な演出をしたのか。一説には長女のイバンカ氏の勧めとされる。
その動機については、福音派にアピールするのが狙いだったこと、またデモ隊がホワイトハウスに向かって来た際、大統領は一時、地下壕に避難したが、一部から“意気地なし”と批判され、そのことに反発したためではないか、といった憶測を呼んでいる。だが、自らのパーフォーマンスのために平和的なデモを蹴散らしたことに対する国民の怒りと批判は予想以上に強い。
第3の要因は軍部だけではなく、国民の間でも人気の高いマティス前国防長官が大統領を痛烈に非難したことだ。
(中略)このマティス氏の声明の反響は大きく、共和党のマカウスキ上院議員(アラスカ州選出)は大統領が分断を煽っているとの見解に同意するとし「われわれはもっと正直であるべきだと思う」と表明した。
共和党内部の反トランプ派として知られるロムニー上院議員もマティス氏を称賛した。激怒したトランプ大統領はマカウスキ議員に、次の選挙では再選を阻止してやるとツイート、敵意をむき出しにした。
国民意識の変化を読み違え?
だが、大統領は黒人差別に対する国民の意識が劇的に変化していることを読み間違えているようだ。モンマス大学の世論調査によると、黒人差別が深刻な問題だと考えている国民は76%にも達している。2015年の調査と比べ、26ポイントも上昇している。
今回の抗議デモ参加者の怒りは完全に正当なものだとする人は57%、どちらかと言えば正当化できるとする人が21%。実に78%もの人がデモに好意的だ。他の調査でも、「黒人が警察官に不当に扱われている」とする人が57%いるが、白人の半数が「そう感じている」と回答しているのは注目に値する。
同紙は「明らかに国民意識の劇的な変化だ」という専門家の見解を伝えている。別の調査によると、オバマ氏が大統領に就任した2009年、黒人が平等な権利を獲得できるよう必要なことをやるべきだとする白人は36%しかいなかったのに、「黒人の生命は大切だ」運動が浸透した17年には、過半数を超える白人が黒人の権利向上に賛同している。
トランプ大統領はこうした国民の意識の変化を読み違えたか、あるいは理解しようとせず、再選のことだけを考えて力によるデモ抑え込みを図ろうとしているのではないか。デモの大半は平和的に行われているのに、大統領は一部の略奪者と一緒くたにしてデモそのものを取り締まろうとし、その反発にあえいでいる、というのが実際のところだろう。
しかも、政権内部から大統領の方針に公然と反旗を翻す動きも出始めている。エスパー国防長官は「軍投入は最後の手段」と言明し、ワシントン周辺に展開していた1600人の部隊の一部撤収と、同様に投入されていた4000人の州兵に対して武装解除するよう命じた。
トランプ大統領が「反乱法」を適用して軍投入を辞さず、との強硬方針を示していただけに、あからさまな抵抗ともいえる。大統領副報道官は「軍投入を判断するのは大統領だ」と国防長官をけん制しているが、政権中枢の亀裂が表面化した格好だ。【6月7日 佐々木伸氏(星槎大学大学院教授)WEDGE Infinity】
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もともと大統領に批判的なメディアやエスタブリッシュメントからの批判は「当然」のことですが、上記のような「岩盤」を誇った支持層からも批判の声があがり、支持が低下しているという話になると、これまで幾多の批判を浴びながらも、それらを吸収して支持層固めにに利用するようなブラックホールのような存在だったさしものトランプ大統領も、今回は人種問題という「地雷」を踏んだのか・・・という感じもします。
【抗議デモが拡大して過激になればなるほど「声なき多数派」は、トランプ支持に回るのかもしれない】
しかし、必ずしもそうとも言い切れない数字も。
****【全米デモ】暴動鎮圧のための米軍投入、過半数の52%が支持****
米ABCテレビと調査会社イプソスは7日、抗議デモが暴動に発展した場合に米軍部隊を投入するかどうかに関し、過半数の52%が「支持する」と回答したとする世論調査結果を発表した。「支持しない」は47%だった。
白人の56%、中南米系の60%が支持するとした一方、黒人の不支持は73%に上った。
党派別では共和党支持者の83%、無党派層の52%が支持、民主党支持者の72%が不支持だった。
調査は今月3〜4日、全米の有権者706人を対象に実施された。【6月8日 産経】
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あくまでも“暴動に発展した場合”という前提での質問ですが、トランプ大統領の「軍の投入」発言はあながち突飛な主張でもないようです。
****米国民は銃を買い求め、州兵動員を支持している「声なき多数派」がトランプ支持に回る可能性****
「このデモは社会を分断するだけ」
米国ミシガン州グランド・ラピッズ市で3日、静かな住宅街をデモ隊が行進していると、白髪の白人女性が野球のバットを振り回して行手を遮った。(冒頭画像)(中略)
近くに住むカリア・アンダーソンさん75歳で、「私の敷地から出てゆけ。あなたたちはここで暴動を起こす権利なんかない!」とデモ隊に向かって怒鳴っていた。
その後、テレビ局がインタビューをすると彼女はこう言った。
「このデモは黒人の命を大事にするものじゃないわよ。社会を分断するだけよ。扇動して・・・。私は怖くはないわよ。孫もいるし、この地域を平和にしておくためには何でもするから」
ミネアポリス市で、黒人が白人警察官に膝で首を押さえつけられて殺された事件に抗議するデモが全米各地に拡散し、略奪や放火も続いているが、それに対して一般市民の間で反感と不安も広がっていることをうかがわせる映像だ。
住民が最後に頼りにするのは銃か
アンダーソンさんが手にしてたのはバットだったが、今米国では護身用の銃器が飛ぶように売れて、銃砲店の在庫が枯渇しているという。
ニューヨーク州ユニオンデールの銃砲店では問い合わせの電話が鳴り止まず、店外には順番待ちの客の行列ができるほどだと、地元のテレビ局フォックス5のニュースサイトが伝えている。
「十分仕入れをしたつもりだったが、もうほとんど売り尽くしてしまった。考えられなかったことだ」と店主アンディ・チェルノフ氏は言う。(中略)
情勢分析で定評あるモーニング・コンサルト社が2日に発表した世論調査では、街を守るために州兵を動員することに有権者の42%が「強く支持」29%が「どちらかと言えば支持」11%が「強く反対」9%が「どちらかといえば反対」と回答している。
州兵の動員に賛成する71%の国民や、アンダーソンさんのような人たちをマスコミは「サイレント・マジョリティ(声なき多数派」と呼び、11月の大統領選にどう影響するのか注目し始めている。
「サイレント・マジョリティ」は誰を支持する?
大統領選があった1968年の夏も、キング牧師の殺害やベトナム戦争に抗議するデモが全米に広がったが、共和党のリチャード・ニクソン候補はひたすら「法と秩序」を訴え「声なき多数派」の支持を得て大差で当選した。
この前例に倣ってか、トランプ大統領も「法と秩序」と言い始めているが、反トランプ急先鋒のワシントン・ポスト紙は、3日の電子版に次の見出しの論評記事を掲載して民主党側に警戒を促した。
「民主党は、トランプの"法と秩序"という虚言をなぜ心配しないのか」
抗議デモが拡大して過激になればなるほど「声なき多数派」は、トランプ支持に回るのかもしれない。
【6月8日 木村太郎氏 FNNプライムオンライン】
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トランプ大統領が黒人差別に対する国民の意識が劇的に変化していることを読み間違えているのか、あるいは「サイレント・マジョリティ」は大統領の強硬姿勢を支持しているのか・・・?
私個人としては、地下室に避難したことが批判されると「視察しただけだ」と子供じみたウソを平気で話す、自分の選挙のことしか頭になく国民分断を煽るような人間には、国際政治の場から1日も早く去って欲しいと思っていますが、どうなるでしょうか?
抗議行動は続いていますが、“これまでのデモは一部が暴動化し、放火や略奪、破壊行為が相次いだことを受けて、複数の州で州兵が動員された。ただ、ミネアポリスの検察当局がフロイドさんを死亡させた元警官デレク・ショビン容疑者を当初より重い第2級殺人の容疑で訴追することを決め、現場にいた他の警官3人も殺人ほう助と教唆の容疑で逮捕・訴追したことから、3日以降、沈静化し始めた。”【6月8日 Newsweek】ということであれば、「サイレント・マジョリティ」が大統領支持に回るという事態はさけられるのかも。