孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中印国境  今月6日の「平和的解決」合意にもかかわらず、死者が出る両軍の小競り合い 

2020-06-16 23:31:29 | 南アジア(インド)

(【6月16日 毎日】)

【双方の衝突で死者が出るのは1975年以来、45年ぶり】
インドと中国の国境地帯の領有権をめぐる争いは今に始まった話ではなく以前からのもので、しばしば衝突・小競り合いを繰り返しています。

最近も国境をはさんで両軍がにらみ合うなかでの小競り合いが起きており、中国と対立するアメリカは中国を批判し、トランプ大統領が仲介を申し出ているという話は5月28日ブログ“インドが抱える多くの国境問題 中印国境紛争にトランプ大領が仲裁申し出”でも取り上げたところです。

その中印国境で死傷者がでる衝突が報じられています。

****インド「北部で中国軍と衝突、将校ら3人死亡」 中国側にも死傷者報道 ****
インド軍は16日、北部ラダック地方の中国との係争地で、両軍が衝突し、インド軍の将校と兵士計3人が死亡したと発表した。

中国メディアも中国側に死傷者が出たと伝えた。

両軍による小競り合いは長年起きてきたが、死者が出るのは極めて異例。双方は5月上旬からにらみ合いを続けていたが、今月6日には「平和的解決」で合意していた。
 
インド軍などによると、衝突は15日夜に発生。発砲はなく殴り合いや投石があった模様だ。今月6日の合意後は、増派された数千人の両軍兵士の一部撤収も報じられたが、衝突を機に緊張が高まる懸念もある。
 
中国外務省の趙立堅(ちょうりつけん)副報道局長は16日の定例記者会見で「インド側が緊張緩和の合意に違反して境界線を越え、中国側を挑発、攻撃して衝突が起きた」と主張し、インド側に強く抗議したと明かした。

一方で、中国側の犠牲者の有無は明かさず、「引き続き対話によって問題を解決することで合意している」とも指摘。米国との緊張関係が高まる中、インドとの関係を悪化させたくない意向をにじませた。【6月16日 毎日】
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インド・メディアによると、双方の衝突で死者が出るのは1975年以来、45年ぶりとか。

ここ数年で見ると、“中印の国境問題では2017年に両軍が約2カ月にらみ合い、緊張が高まる事態も起きたが、モディ首相が中国の武漢を訪れ、習近平国家主席と会談。冷え込んでいた中印関係を改善させる節目をアピールしていた。”【6月16日 朝日】というのが、ひとつのピークでした。

最近5月の状況については以下のようにも。

****中国とインド、国境周辺で衝突 殴り合いや投石で死者****
(中略)インド軍関係者によると、両軍の間ではこれまでも衝突があり、インド北部の連邦直轄地ラダックのパンゴン湖近くなど2カ所では5月5日、両軍の兵士が殴り合ったり、投石し合ったりして双方に負傷者が出た。

インド側が自国の支配地域内に道路を建設したことに中国が反発したことが背景にあるとされ、両軍とも数千人を増派してにらみ合いが続いていた。

インド北東部シッキム州の国境でも同月9日に殴り合いの衝突が起きた。今月6日に両国の軍司令官レベルで協議し、「平和的に解決」することで合意。一部地域では両軍の撤退が始まっていた。
 
インド外務省は「インドの活動はすべて実効支配線からインド側にある」と主張。中国軍によるインド領への侵入が増えており、中国軍の強硬姿勢が緊張の背景にあるとの立場だ。(後略)【6月16日 朝日】
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【中国はインド側の道路建設を問題視 その道路建設に日本が支援】
衝突の経緯は不明ですが、当然ながら、両国は非は相手側にあるとしています。

“インド側が自国の支配地域内に道路を建設したことに中国が反発したことが背景にある”という点に関して言えば、これら道路建設を日本が支援していると中国メディアは報じており、日本もあながち無関係ではありません。

****インドが国境地域で66本の主要道路を整備、大部分で日本が支援していた=中国メディア**** 
中国メディア・東方網は1日、中国との国境地域の強化を進めるインドが、日本の支援を借りて66本の主要道路を整備していると報じた。

記事は、インドがここ数年国境地域のインフラ建設を加速させており、特に道路、橋、トンネルなどの建設に力を入れていると紹介。インド紙エコノミック・タイムズが29日にインド北部ウッタラカンド州のトンネル工事が3カ月前倒しで完了し、今年10月には開通予定であると報じたことを伝えた。

そして、同紙が「わが国では66本の道路の主要道路整備を行い、国境の前線に向けて道を通す予定だが、急速なインフラ整備を完全に自力で行っているわけではなく、日本から大きな支援を得ている。日本が大部分の道路、トンネル建設任務を請け負っているのだ」と解説したことを紹介している。

その上で、日本企業がこのほどインド北東部のラダックとウッタラカンド州を含む大部分の道路建設プロジェクトを請け負い、その総距離が2000キロに達するという日本メディアの報道と伝えた。

記事はまた、インパールとコヒマを結ぶ道路、マニプール州の道路関連プロジェクト、シロンとダウキを結ぶ道路、ダウキの大橋などといった道路交通インフラプロジェクトを主として進めているのがいずれも日本企業であるとした。【6月3日 Searchina】
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このインド側道路建設を日本が支援していることへの中国の反発は数年前からのもので、過去には“日本がインドで中印国境道路を建設、「日本はけんかを売る気か?」と中国は猛反発―露メディア”【2014年11月7日 レコードチャイナ】といった記事もあります。

【武器を使わないなど、本格的な戦闘を避けるための対策とは言うものの、死者がでる殴り合い・投石というのも・・・】
さすがに中印両軍とも大規模衝突に至らないように、「武器は私用しない」という一線は守っているようです。

****中国インド実効支配線付近で両軍殴り合い、投石 武器使わず深刻化避ける****
中国とインドの実効支配線付近で今月上旬以降、両軍が対峙(たいじ)している。インドメディアによると、両軍の兵士250人による殴り合いが発生したほか、双方が兵士5000人を増派した。

沈静化のめどは立っていないが、両国は実効支配線付近で警備する兵士同士が衝突しても武器を使わないなど、本格的な戦闘を避けるための対策を講じており、対話を通じた事態打開の道を探っているとみられる。
 
インドメディアによると、インド北部の連邦直轄地ラダックのパンゴン湖近くで5日、インドが進める道路建設を巡って両軍兵士が殴り合ったり、投石し合ったりして負傷者が出た。
 
その後、他の複数の場所で中国側が兵士を増派し、インド側も対抗する形で兵力を増強した。インド側は「中国側が先に越境してきた」と主張している。9日にはインド北東部シッキム州の両国の国境でも兵士による殴り合いが起きた。
 
両軍兵士による殴り合いなどはこれまでも度々発生してきた。核保有国の両国は、領土問題で緊張が過度に高まることは望んでおらず1993年、96年、2013年の計3回、国境防衛に関する合意を結び、本格的な戦闘を避ける対策を講じてきた。
 
中印関係に詳しい印シンクタンク、オブザーバー研究財団のラジャゴパラン氏によると、両軍とも警備では重武装せず、兵士が衝突しても武器を使用しないことになっているという。
 
ただ、それでも領土問題が絡むだけに17年にはインド、中国、ブータン3カ国の国境地帯で中印両軍が約2カ月にらみ合い、緊張が高まる事態も起きた。
 
一方、今回の両軍の動きについて、中国外務省の趙立堅(ちょうりつけん)副報道局長は27日の定例記者会見で「中印国境地区の情勢は安定し、管理されている。中印両国は関連する問題を対話によって解決することができる」と強調した。
 
中国紙「環球時報」は5月中旬、原因は「インド側の違法な防衛施設建設に対する必要な対抗措置だった」との人民解放軍関係者の主張を伝えていた。しかし、中国としては、香港問題などを巡り米国との関係が深刻化する中で、これ以上の中印関係の悪化は避けたい考えだとみられる。【5月30日 毎日】
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ただ、個人的印象としては、物陰からの銃撃よりは“両軍の兵士250人による殴り合い”の方がよほどホットな感じも。

ましてや今回は死者もでているということで、一体どういう“殴り合い・投石”を行ったのか・・・想像するだけでも凄まじいものを感じます。

冒頭記事にもあるように、今月6日は“手打ち”がされた・・・との報道があったばかりですが・・・

****中国とインド、国境摩擦で「手打ち」 平和的解決で合意と発表 なお火種も****
中国とインドの実効支配線付近で5月から両軍が対峙(たいじ)していた問題で、インド外務省は7日、両軍司令官が6日に会談して「平和的解決」で合意したと発表した。

中国外務省の華春瑩(かしゅんえい)報道局長も8日の定例記者会見で「双方は、意見の相違を争いに発展させないことで共通認識に達した」と説明した。ただ、中印間では近年、国境紛争を巡る摩擦が強まっており、合意の実効性は不透明だ。
 
中印両軍は5月上旬から、インド北部のラダック地方で、インド側が道路建設を進めたことをきっかけに、両軍兵士の殴り合いなどが発生。インド外務省によると、両軍司令官が6日に現地で会談し、「双方は現在の状況を解決し、国境地帯の平和と安定を確保するため軍事・外交的関与を続ける」ことで一致した。
 
中印が事態収拾のために歩み寄った形だが、火種はくすぶっている。中国紙「環球時報」(英語版)は8日、中国軍が中印国境に近い西北部で行った訓練を伝える記事でインドとの国境紛争に言及。軍関係者の解説として「中国軍が国内のどこにでも兵力を迅速に展開できる能力があることを示した」と報道した。【6月3日 毎日】
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今回の小競り合いは“火種はくすぶっている”ことを示す結果にも。

【地域限定的な軍事衝突が発生したら・・・】
こういう状況になると必ず出てくるのが“もし両軍戦わば・・・”という「想像」
もちろん、核兵器を使用しての全面戦争ではなく、あくまでも国境紛争地域における通常兵器による地域限定戦争の話です。

****中印の軍事衝突が発生したら…、米専門家「兵力ではインドの圧勝」―仏メディア****
2020年6月15日、仏国際放送局RFIの中国語版サイトは、米国の専門家が「中国とインドで軍事衝突が発生した場合、兵力面ではインドの圧勝」との見解を示したとする、インドメディアの報道を伝えた。 

記事は、インドメディアであるインディア・トゥデイの報道として、米ハーバード大学ベルファー・センターが今年初めに発表したインドと中国の武力戦略に関する論文で、中国との戦いにたびたび敗れてきたインドは中国を主なターゲットとする戦力配備を進め、中国との国境に約22万5000人の兵力を配備可能であるとした。 

そして「中国軍はインドよりも多くの兵力を動員できそうだが、研究によればそれは誤りであり、中国は対ロシア、新疆やウイグルの反乱などの問題を抱えており、インドとの戦闘に全精力を注ぐことは不可能であるほか、中国の大部分の軍隊はインド国境から離れた場所にあるため、対中防御に専念できるインドに比べると、兵力で確かに劣る」と伝えている。 

また同研究が空軍戦力の比較においても、インドは112機の戦闘機をもっぱら対中戦に投入することができるのに対し、中国軍西部戦区司令部が所有する101機の第4世代戦闘機の一部は対ロシア警戒任務に当たる必要があるうえ、実戦経験でもインドのパイロットの方が上回っており、中国軍は地上の指揮に大きく依存せざるを得ない状況だと分析したことを紹介した。【6月16日 レコードチャイナ】
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どうでしょうか? 個人的にはインド軍に高い戦闘能力があるようなイメージはあまりないのですが・・・
(1962年の中印紛争では中国側がインドを圧倒しましたが、周恩来とネルーの時代の話で、今とは全く状況が異なるでしょう。)

地理的にインドの方が国内中央に近く有利という話はあるのかもしれませんが、“対中防御に専念できるインドに比べると・・・”という点については、もし万一の事態になれば、インド・パキスタンが争うカシミールに飛び火する可能性があり、そうなるとインドは国境地帯全域の防御に追われることにもなります。

【国境での緊張高まりの背景に、中国側が香港問題から国際的批判の目をそらす意図・・・との指摘も】
まあ、いずれしても「想像」の話ですし、両軍ともそこまで愚かでもないでしょう。(突発的・偶発的事態からの紛争拡大という線はありますが)

両国ともいまは国内的にはコロナを抱えてそれどころではない状況です。
インドは制限緩和したものの感染拡大が急増している状況で、再制限の話も出ています。
中国も封じ込めたと勝利宣言したものの、北京での第2波で緊張が高まっています。経済の回復も習近平指導部にとっては死活的に重要な課題となっています。

対外的には、特に中国は米中対立、香港問題を抱えています。

もっとも、そういう時期だからこそ、国内外の関心をヒマラヤ奥地の中印国境に持っていきたい、それで国内求心力を高めたい・・・という思惑が働く余地もあるとも言えますが・・・。

****中印軍1万人が印東北部でにらみ合い 中国挑発の背景は ****
(中略)インド側は外交的な努力を続ける意向だが、中国軍は多数の軍事車両や最新鋭の兵器を持つ砲兵部隊も現地にかけつけている。

中国側が軍事的にインドを挑発している形で、折から欧米から批判を浴びている香港問題に関する関心を逸らす意図も働いているとの指摘もある。米ブルームバーグ通信が報じた。
 
両軍は5月5日、標高が3500メートル以上のチベット高原の氷河湖であるパンゴン・ツォのほとりで衝突、双方の多数の兵士が負傷した。それ以来、にらみ合いが続くなか、両軍の部隊が増強されている。
 
中国軍は5月下旬の段階で、ラダック地域の中国国境に約5000人の兵士と装甲車両を配置し、砲兵部隊も増強。インド側も北部国境に軍を集結させており、両軍で1万人が対峙している。
 
両国は5月22、23日に外交関係者が協議を行ったが、解決には至らず、今後も交渉を続けることにしている。
 
中国側もインド側も軍事的な衝突は望んでいないが、軍の衝突は偶発的なきっかけで起こる可能性もあり、予断は許さない状況だ。
 
インドのモディ首相は26日、国家安全保障顧問のアジット・ドバル氏とビピン・ラワット国防参謀総長らと協議。この結果、国境で厳しい軍事的姿勢を維持しながら外交ルートでの解決を目指すことに決定した。
 
駐インド中国大使は27日、声明を発表し「中国とインドは新型コロナウイルスにともに闘っており、我々は関係を固めるために重要な仕事をしている。我々の若者(兵士たち)は中国とインドの関係を認識すべきだ。私たちは意思を疎通して、問題を解決しなければならない」と指摘した。
 
これについて、あるインド政府の元外交官は「中国人は長い間この地域でプレゼンスを拡大してきたが、問題は、なぜ中国がこれをやっているのか、なぜ今なのかということだ」と疑問を投げかける。

中国は香港問題で、欧米諸国との緊張を高め、東南アジア諸国とも南シナ海問題で関係が不安定になっているとして、「これらの国際的な問題から目をそらせようとするように、インドとの軍事的な緊張が高まっているのは偶然の出来事だろうか」と指摘している。【6月6日 NEWSポストセブン】
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香港問題から目をそらすために中印の衝突を引き起こすほどの“危ない橋”を渡ることもないとは思いますが、起きてしまった衝突をそういった国際状況を睨んで利用するというのはあるのかも。

 

コメント
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