孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  新型コロナ遺族団が首相の責任を問い告訴 検察は首相の事情聴取

2020-06-12 23:00:12 | 欧州情勢

(イタリア・ロンバルディア州ベルガモ近くの倉庫に保管された多数の棺桶【5月2日号 週刊東洋経済Plus】)

【中国政府に賠償を求める訴訟は、責任を問う相手が違う感も】
新型コロナに関する訴訟というと、ひところメディアで散見されたアメリカなどにおける中国の責任を追及するものが思い浮かびます。

****コロナで8か国100兆ドル賠償請求に中国「ならリーマンは?」****
新型コロナウイルスは世界中で猛威を振るっているが、感染拡大の原因は中国の初動対応の誤りが主要な原因だとして、現在、米国、英国、イタリア、ドイツ、エジプト、インド、ナイジェリア、オーストラリアの8カ国の政府や民間機関が中国政府に賠償を求める訴訟を起こしている。
 
これに対して、中国内では大きな反発の声が上がっている。ネット上では「1918年のスペイン風邪で死者が推定で最大5000万人に上ったが、その原因は第一次世界大戦で欧州に派遣された米兵が感染を拡大させたことだ。しかし、そのとき、アメリカ政府は賠償金を支払っただろうか。いま中国に賠償金を要求するのならば、アメリカが当時の責任をとって、賠償金を支払ってからにせよ」などとの痛烈な批判が出ている。

『香港経済日報』によると、今回の新型コロナの感染拡大による中国への賠償金の要求額は総額で100兆ドル(約1京1000兆円)を上回り、中国のGDP(国内総生産)7年分に相当する額に達している。
 
英国のシンクタンク「ヘンリー・ジャクソン協会」は今回の感染拡大は中国当局による情報統制が最大の原因で、多くの湖北省武漢市民が感染に気づかぬまま春節連休前に出国したためだと指摘。経済的損失は先進7カ国(G7)に限っても最低4兆ドル(約425兆円)に上ると試算している。
 
中国政府が世界保健機関(WHO)へ十分な情報提供をしなかったことは国際保健規則に反するとして、国際社会は中国政府に法的措置を取るべきだと提言した。
 
このような賠償請求額について、中国外務省報道官は記者会見で、「中国政府は速やかにWHOや米国を含む関係国・地域に新型ウイルスの情報を提供してきた。これらの訴訟は乱訴というべきだ」と強い不快感を示している。
 
また、共産党機関紙『人民日報』系の『環球時報』は7日付朝刊で「ウイルスはいかなる国にも出現する可能性があり、どの国が最初にまん延しようとも法的責任はない。世界的な疫病のいくつかは最初に米国で広まったが、米国に賠償を求めた国はない」とする大学教授の論評を掲載した。
 
崔天凱・駐米国中国大使も「世界的な経済停滞を招いたアメリカ発のリーマンショックや世界恐慌などで、アメリカに賠償を求めた国はない」と強調。

さらに、崔氏は米紙『ワシントン・ポスト』のコラムに寄稿し、新型コロナ感染拡大の原因が中国にあるとの主張は、世界の2大経済大国である米中を「分断」する恐れがあると指摘した。崔氏はまた、中国への疑念の高まりが新型コロナとの闘いや世界経済の再始動における米中協力を脅かしているとの見解を示している。【5月24日 NEWSポストセブン】
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個人的には、この件に関しては「世界的な経済停滞を招いたアメリカ発のリーマンショックや世界恐慌などで、アメリカに賠償を求めた国はない」という中国側の主張の方に共感します。

仮に、中国がもっと早い段階で情報を開示していたとしても、欧米各国は「アジアの病気にすぎない」という対応を変えることなく、結局は今と同じことでしょう。

どこかの国に責任を転嫁するのではなく、自国政府・自国指導者の対応に問題はなかったかを考えるべきでしょう。

【中国国内でも、武漢で地元政府を責任を問う訴訟】
自国政府の対応・・・ということでは、中国・武漢で中国政府の責任を追及する訴訟が起こされたとか。

****武漢コロナ遺族、地元政府を提訴 情報隠しで謝罪や賠償を要求****
中国湖北省武漢市で新型コロナウイルス感染症により父親を亡くした男性が10日、発生初期に情報を隠し、医療現場からの警告の声を抑えつけたとして、湖北省政府や武漢市政府などに謝罪や賠償を求める訴訟を起こした。中国で新型コロナの遺族による提訴が明らかになるのは初めて。
 
10日付で武漢市中級人民法院(地裁)に訴状を送ったが、受理されない可能性もある。

男性は張海さん(50)で、2月1日に父立法さん(76)を亡くした。「長期間にわたり武漢市政府は遺族の訴えを無視し、責任追及の動きにさまざまな圧力を加えている」と提訴の理由を話した。【6月10日 共同】
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“中国のような国”でこういう行動をとって大丈夫なのか?とも心配になりますが、当然ながら、まともには対応されないでしょう。

【イタリアでは検察が首相を事情聴取】
同じような告発はイタリアでも。

****伊のコロナ遺族団体、首相を刑事告発 検察が事情聴取へ****
新型コロナウイルスの感染の中心となり約3万4千人が死亡したイタリアで、遺族団体が10日、感染拡大の刑事責任を問う告発状を北部ベルガモの検察に提出した。同国メディアによると、検察は12日にもコンテ首相を事情聴取し、政府の感染拡大防止策や当時の医療システムについての実態解明を進める方針。
 
イタリアでは、ベルガモのある北部ロンバルディア州を中心に、2月下旬から感染者が急増。集中治療室がパンクしたり、医療従事者にも感染が広がって在宅医療が機能しなくなったりするなど、医療システムが危機的な状況に陥った。
 
コンテ氏は3月8日に同州全域など同国北部一帯のロックダウン(都市封鎖)に踏み切り、10日には全土を封鎖。

だが2月下旬にはベルガモ県内で最初の死者が出て、同州の死者数は6月10日時点で1万6349人に上った。

遺族団体は「2月下旬の時点でベルガモ県内を封鎖していれば、これほど感染者や犠牲者は出なかった」と主張。何の対策も取られず、当時の医療機関での感染予防策も不十分だったとして、保健医療を管轄する州や政府に感染を拡大させた刑事責任があると訴えている。【6月11日 朝日】
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こちらは中国より“まともな対応”がされており、コンテ首相が検察に事情聴取されます。

****イタリア首相を検察が聴取へ 新型ウイルス拡大、遺族ら告訴****
新型コロナウイルスの感染が拡大したイタリア北部ロンバルディア州ベルガモの検察は、政府の感染対応に不備があった疑いがあるとして、12日にもジュゼッペ・コンテ首相を事情聴取する。COVID-19(新型ウイルスの感染症)で亡くなった患者の遺族50人が10日に告訴状を提出していた。

事情聴取は、今年3月のロックダウン(都市封鎖)開始前に最も甚大な被害が出ていた、ミラノ近郊のベルガモで行われる予定。

コンテ首相は事情聴取について「全く心配していない」と述べた。
検察はルチアーナ・ラモルゲーゼ内相と、ロベルト・スペランツァ保健相についても、12日に事情聴取を行う。

市民団体「Noi Denunceremo」(私たちは報告する)は10日、ベルガモの検察当局に告訴状を提出した。遺族らは、感染のホットスポットをもっと早い段階で封鎖すべきだったと訴えている。

COVID-19の被害者家族らで構成された同団体は、ロンバルディア州の町アルツァーノとネンブロについて、感染のアウトブレイク(大流行)が確認されてからすぐに「レッドゾーン」に指定すべきだったと主張している。

イタリアでは、新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)に端を発した集団告訴は今回が初めて。一方でロンバルディア地方では新型ウイルス対応をめぐり、多くの人が中央政府ではなく、右派政党レーガ党率いるロンバルディア州政府を非難している。

ロンバルディア州では欧州で最初に感染が拡大し始めた。イタリアの死者の半数以上は同州で確認されている。
イタリアの公式データによると、11日までの死者数は3万4114人で、欧州ではイギリスに次いで2番目に多い。世界では4番目に死者数が多い。
しかしイタリアの感染数は減少していることから、当局は厳格な制限措置を段階的に緩和している。

中央政府の責任か、ロンバルディア州の責任か
コンテ首相は事情聴取について、「私が知っている全ての事実を誠実に説明する。全く心配していない」と述べた。
「全ての捜査を歓迎する。市民には知る権利があり、我々には回答する権利がある」

コンテ氏は今年4月初旬のBBCのインタビューで、新型ウイルスの危機を過小評価していたとの訴えを否定。新型ウイルスのクラスター(小規模な集団感染)が初めて確認された初期の段階でロックダウンを命じていたら、「人々は私を気がおかしい男扱いしていただろう」と述べていた。

また、感染の発生源となった中国・湖北省武漢市のような大規模なロックダウンを迅速に敷くことができたのではとの指摘を一蹴した。

一方、ロンバルディア当局は感染のホットスポットを封鎖するのは中央政府の責任だったと主張。同州保健当局トップのジュリオ・ガレラ氏は、2月23日からアルツァーノとネンブロで多数の感染者が出ていたのは明らかだったとしている。

しかし中道左派連立政権を率いるコンテ氏は、「ロンバルディア州がその気になればアルツァーノとネンブロをレッドゾーンに指定できた」と反論したと、AFP通信が報じた。
検察は既にロンバルディア州の高官を事情聴取している。(後略)【6月12日 BBC】
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いささか、国と州の責任の押し付け合いのようにも。

【英米でも「1週間ロックダウンが早ければ・・・」】
ロックダウンをもっと早く行っていれば・・・ということでは、イギリスやアメリカでも犠牲者がはるかに少なくてすんだはずだとの数字がだされています。


****イギリスのロックダウン、「1週早ければ死者半数も」 元政府顧問****
イギリス政府で新型コロナウイルス対策顧問を務めていたニール・ファーガソン教授は10日、同国でロックダウン(都市封鎖)が1週間早く始まっていれば、COVID-19による死者は半分に収まったのではないかと発言した。

ロックダウンの判断にも関わっていたファーガソン氏によると、ロックダウン開始直前は3~4日ごとに、アウトブレイク(大流行)の規模が2倍に拡大していたという。

これに対しボリス・ジョンソン首相は、新型ウイルス政策に対する評価を下すには時期尚早だと指摘。
「政府は対策のすべてを振り返り、そこから学ぶ必要があるだろう。だが何もかもが時期尚早だ。この病気はまだまだ続く」と話した。

イギリスでは3月23日にロックダウンが開始された。同国の新型ウイルスによる死者は、10日時点で4万1128人に上っている。

インペリアル・コレッジ・ロンドンに所属するファーガソン教授は5月、ロックダウン中に移動の制限などのルールを破ったとされ、政府顧問を辞任している。(中略)

<解説>ジェイムズ・ギャラガー健康・科学担当編集委員
新型ウイルスは2月と3月に「予想を超えて」広がった。

BBCニュースが取材した科学者らは、イングランドではロックダウンが開始される前、毎日およそ10万人が新たに感染していたと推測している。

ロックダウンが1週間早く始まっていればこの数も大きく減り、その結果として死者も少なかったはずだという。
なぜそうならなかったのか。それが政府のパンデミック対策に対する大きな疑問のひとつだ。

その時その時に判断を下すよりも、過去を振り返るほうが格段に簡単だ。当時は情報が少なく、イギリス全体のアウトブレイクの規模も明らかでなかった。

しかし一部の科学者は、実際にロックダウンが始まる数週間前から、その必要性を説いていた。【6月11日 BBC】
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****アメリカのロックダウン、1週間早ければ「3・6万人の命救えた」=研究****
米コロンビア大学の研究チームはこのほど、アメリカで1週間早くロックダウン(都市封鎖)を始めていれば、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)が原因の死者数を3万6000人少なく抑えられていたはずだという推計を発表した。

この研究ではさらに、ロックダウンが2週間早い3月1日に始まっていれば、5万4000人の命が助かっていたと試算。これは研究対象となった5月3日までの死者6万5300人の83%に当たる。(中略)

ドナルド・トランプ米大統領は、この研究は「政治的な暗殺が目的だ」と一蹴している。(中略)

トランプ大統領は3月16日に、国民に対し移動を制限するよう指示した。これは世界保健機関(WHO)が、新型ウイルスがパンデミック(世界的流行)になったと発表してから5日後に当たる。

アメリカでは各州が異なる時期にロックダウンに入った。カリフォルニアとニューヨークはそれぞれ19日と23日にロックダウンを開始した。一方、最も遅かった州のひとつ。ジョージアでは4月3日にロックダウンを始めた。

トランプ政権が欠陥のある検査を導入し、その実施が遅れたことで、各州が2月から3月末にかけてアウトブレイクの情報を十分に持っていなかったこ可能性もあると批判する声もある。

トランプ大統領自身もこの期間は、感染リスクを軽視していた。

「私の決断はとても早かった」
ミシガン州を訪問中にこの研究について質問されたトランプ氏は、「私の決断はすごく早かった。だれが考えるよりも早かった」と話した。その上でトランプ氏は、コロンビア大学の研究については、自分への政治的攻撃が目的だと一周した。

しかし研究は、他の政治家が市民に自宅待機を命じた時期についても疑問を投げかけている。
たとえばアメリカの感染の中心となったニューヨーク市では、ニューヨーク州全体がロックダウンされる1週間前に学校の閉鎖を決めている。

この研究について聞かれたニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、「この国がもし情報をより多く、より早く得ていたら、もっとたくさんの人を救えたかもしれない」と認めた。(後略)【5月24日 BBC】
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“その時その時に判断を下すよりも、過去を振り返るほうが格段に簡単だ。”というのは事実でしょう。
こうした議論がイタリアのように刑事告発に馴染むものなのかについては疑問も。

ただ、政治の場にあっては、議会等で議論・検証され、最終的には政府の対応の妥当性について国民が判断すべきものでしょう。

もっとも、イタリアでは、2009年のラクイア大地震に関して、当時起きていた群発地震は大地震につながらないと発表した(その数日後に本震が発生)国家委員会の科学者たちが告訴され、一審では殺人罪で有罪となっています。(二審では無罪)

専門家たちが安全を保証したため、住民たちは家の中に留まることになり、本震に襲われたときの被害(309人が死亡)が拡大したとの告発でしたが、一審の裁判官は科学者らに対し、起訴よりも2年長い禁固刑を命じる判決を下したため、科学界では、イタリアの裁判所が科学そのものを裁判にかけたとする批判が高まりました。

そうしたことを考えれば、今回の新型コロナに関する刑事告発も、あながち現実味がない訳でもありません。

そのイタリアでも封鎖は解除されつつありますが、告発云々はともかく、欧州の中でもとりわけ深刻なダメージを受けていることは間違いありません。

そして、そのことは、EUとしてイタリア経済の救済にどのように対応するのかという厄介な問題を惹起するでしょう。

そのあたりの話は長くなるので、また別機会に。

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