孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルクメニスタン  天然ガス争奪戦と五輪シティ

2009-04-20 23:23:29 | 国際情勢

(トルクメニスタンの首都アシガバードに建つ故ニヤゾフ前大統領の黄金像
“flickr”より By martijnmunneke
http://www.flickr.com/photos/martijnmunneke/3417788960/)

【三つ巴】
トルクメニスタン・・・中央アジアの旧ソ連の国家ですが、正直なところ場所も定かではありません。
カスピ海の東岸、北がウズベキスタン、南がイラン・アフガニスタンという位置関係のようです。
普段はあまり話題にならない国ですが、天然ガス資源の話になるとにわかに国際的注目を集める国でもあります。

*****トルクメニスタン:資源争奪三つどもえ 欧米・中・露******
トルクメニスタンをめぐるパイプライン計画
カスピ海沿岸の旧ソ連のトルクメニスタンは、エネルギー開発で欧米諸国へ接近を図っており、これまで主要なガス輸出先だった「旧宗主国」ロシアと距離を置き始めている。トルクメンの豊富な天然資源を巡っては、中国も自国につながるパイプライン建設を進めており、欧米、ロシア、中国が三つどもえで争う構図が生まれている。

トルクメン政府は今月16日、ドイツのエネルギー大手RWEとの間で、カスピ海の同国沿岸部でガスの試掘と開発に関する覚書を締結した。覚書は初歩段階の協力だが、RWEが中央アジアからロシアを迂回(うかい)して欧州へつながるガスパイプライン計画「ナブッコ」に参加していることから、今後の展開が注目されている。
ナブッコは欧州連合(EU)の支援を受けているものの、トルクメンやウズベキスタンなどが資源供給に応じることが、計画の前提条件だ。そのため欧州諸国が旧ソ連諸国の資源市場に割り込みを図る格好となっている。
トルクメンのベルドイムハメドフ大統領は15日、同国を訪れた米国のバウチャー国務次官補(南アジア担当)ともエネルギー問題で協議した。席上、今月末にトルクメンで開かれる国際会議に米企業も参加する旨が国務次官補から伝えられた。

トルクメンとRWEの覚書締結を受け、ロシアのプーチン首相は16日にエネルギー担当の閣僚を呼び出し、「戦略的なパートナーと密接な関係を維持すべきだ」と指示した。
ロシアはトルクメンとの間で、今月以降の天然ガスの購入価格交渉をまとめられていない。また今月上旬、両国間のガスパイプラインで爆発が起きたが、トルクメン政府が「ロシア側がガスの受け入れを制限したことが原因」と批判する事態に発展している。
ロシアでは資源供給能力の頭打ちが顕著になっている。国内で新規ガス田を開発するまで、中央アジア産ガスを独占的に購入して補てんしながら、欧州に供給する狙いだ。

90年代に資源輸入国に転じた中国は、トルクメンからウズベク、カザフスタンを経由して自国西部へつながるガスパイプラインの建設を進めており、2011年の運用開始を目指している。しかし「トルクメンが中露両国へガスを輸出すれば、欧州に供給する余力はない」(エネルギー問題の専門家)との指摘もあり、3者の獲得競争が激化するとみられる。【4月19日 毎日】
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ロシアとの関係では、先月、パイプラインの建設に関する合意書への署名が延期されたとの報道がありました。

****ガスパイプライン建設の合意書への署名を延期=ロシアとトルクメン*****
ロシアとトルクメニスタンは25日、トルクメニスタン産天然ガスのロシアへの供給につながるトルクメン国内の東西パイプラインの建設に関する合意書への署名を延期した。
ロシアのメドベージェフ大統領とトルクメンのベルドイムハメドフ大統領がモスクワで、トルクメンからカスピ海に沿ってロシアに至るガスパイプライン(カスピ海パイプライン)およびトルクメンのガス田と接続する同国国内のパイプライン(東西パイプライン)の建設について協議していた。

トルクメン産天然ガスは東西パイプラインを通じてカスピ海パイプラインに供給され、ロシアに輸送される。東西パイプライン計画はトルクメン国内に約600キロにわたってパイプラインを建設するもので、ロシアとトルクメンは25日、同パイプラインに関する合意書に署名するとみられていた。ロシア、トルクメン、カザフスタンの3カ国首脳は2007年にカスピ海パイプランの建設で合意している。
メドベージェフ大統領の外交政策側近のセルゲイ・プリホドコ氏は東西パイプラインに関する合意書について「近く署名されることになろう」との見解を示した。同氏は「意見の相違はない。完全を期す必要がある。重要な合意書だ」と述べた。クレムリンの当局者は匿名を条件に、両首脳は6月にサンクトペテルブルクで開催される経済フォーラムの折か7月の競馬大会の折に再び会談することになろうと明らかにした。【3月26日 時事】
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冒頭記事によれば、この後ガスパイプラインで爆発事故などもあって、ややこじれているようです。
ナブッコ・パイプラインを推進するEUも、供給するガスがなくては話にもなりません。
資源をがぶ飲みしている中国も、何とか確保したい・・・。
引く手あまたのトルクメニスタンです。

【不思議な国】
この国は以前は故ニヤゾフ前大統領の独裁体制下で、鎖国的な風変わりな国家運営を行っていました。
例えば、「わが国固有の芸術でなく、国民にはわからない」などの理由でオペラやサーカスを禁止。
また、「田舎の人は字が読めないから」と地方の図書館も廃止。
一方で、数百万ドルもの大金を投じて国内各地に利用者皆無の宮殿や大統領自身の黄金像の建設しながら、国民の大半は生活に困窮している・・・そんな状況だったようです。

現在のベルドイムハメドフ大統領に代わってからは随分是正されたようで、オペラ・サーカスも解禁されましたし、大学院も復活したようです。
それでも“何だろう?”と思うようなニュースもあります。

****候補地ではないトルクメニスタン、なぜか「五輪シティ」建設へ****
世界各国が金融危機の影響で経費削減に取り組む中、中央アジアのトルクメニスタンは8日、五輪開催候補地でもないのに15億ドル(約1500億ドル)を投じて「Olympic City(五輪シティ)」を建設すると発表した。
首都アシガバートは平均気温が摂氏40度を越える過酷な環境のカラクム砂漠に位置しているが、当局によると、同市に冬季スポーツ用スタジアムが建設される見通しだ。

同国のグルバングルイ・ベルドイムハメドフ大統領が6日に、トルコの建設会社に1万人を収容できる同スタジアムの建設に同意する文書に署名したことにより、「五輪市」の建設が事実上開始されたと、観光スポーツ省当局は述べている。
トルクメニスタン当局が外国人記者にビザを発行することはめったにないが、五輪市にはプレスセンターを備えた800室のホテルも建設されるという。【4月12日 AFP】
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天然ガス収益の使い途に困っている訳ではなく、多分、何かの理由があってのことでしょうが、ちょっと不思議な国です。


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アメリカ  銃規制に口を閉ざすオバマ政権

2009-04-19 14:14:59 | 世相

(オハイオ州の農場主でKKKメンバー NYやLAとはまた別の世界があります。
“flickr”より By escapedtowisconsin
http://www.flickr.com/photos/69805768@N00/2859898521/)

【銃規制強化には踏み込まず】
アメリカの社会・文化で、日本のそれと大きく異なるもののひとつに“銃規制”の問題があります。
アメリカでは過去1ヶ月間に58人が銃乱射事件で亡くなっているとか。【4月22日号 Newsweek】
銃規制に反対する“全米ライフル協会(NRA)”の力が強いこともよく聞きます。
そんな銃乱射事件やNRAの話を耳にするたびに、「どうしてアメリカはそんなに銃にこだわるのだろうか?」という素朴な疑問を感じます。

“変化”を掲げるオバマ政権誕生で、そんなアメリカ社会も変わるのだろうか・・・と思ったら、必ずしもそういう訳ではないようです。

****米「麻薬戦争」に支援 メキシコへの武器密輸阻止****
オバマ米大統領は16日、訪問先のメキシコでカルデロン大統領と会談し、メキシコ国内で続く麻薬組織の掃討作戦に米国が深く関与する方針を表明した。メキシコ側は「新たな時代の到来だ」と歓迎する。しかし、焦点の米国製武器の密輸封じ込めでは、米国内の銃規制議論とも絡んでくることから、米側に歯切れの悪さを残しつつ協力に踏み出す形となった。

カルデロン政権と麻薬組織の戦いは、「麻薬戦争」と呼ばれる。軍・警察と組織の双方で昨年約6300人が死亡する非常事態を迎えている。同政権は「武器の大半が米国からの密輸品だ」と不満を示し、腰の重かったブッシュ前政権に代わり、オバマ政権が今回の初訪問で、武器の密輸阻止に全面協力することを期待していた。

ホワイトハウスによると、オバマ大統領は首脳会談後、麻薬組織の活動が「米国でも社会を混乱に陥れている」と述べ、カルデロン政権の掃討作戦を米国が支援する方針を表明した。犯罪にかかわる銃器情報のデータベース化を進め共同運用するほか、国境を越えた武器移転の規制強化の法的な枠組み作りを進めることなどが柱だ。麻薬資金の洗浄など、金融にかかわる捜査情報の交換などでも合意した。
だが、オバマ大統領は「(銃器所持の権利を認めた)合衆国憲法修正2条を尊重しつつ、メキシコへの流入を抑えることは可能だと信じる」と述べ、米国内の銃規制強化にまでは踏み込まなかった。【4月18日 産経】
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問題は“オバマ大統領は「(銃器所持の権利を認めた)合衆国憲法修正2条を尊重しつつ、メキシコへの流入を抑えることは可能だと信じる」と述べ、米国内の銃規制強化にまでは踏み込まなかった。”という部分です。

【司法省に緘口令】
アメリカでは近年、外国製の攻撃用銃器の輸入をほぼ解禁しており、ルーマニアやブルガリアなど東欧製の安価なAK47が大量に流入しているそうです。
オバマ大統領は、大統領選挙期間中は「一部の自動小銃規制を復活させる」という公約を掲げていましたが、今のところ具体化の動きはありません。

それどころか、今年2月ホルダー司法長官がメキシコの麻薬組織へ流れるのを防ぐため攻撃用銃器規正法復活を訴えたところ、NRAの激しい抗議活動が起こり、結局ホワイトハウスから司法省職員に対し“攻撃用銃器規制については話すな”という指示が出されたとか。【4月22日号 Newsweek】

クリントン国務長官など、これまで銃規制を支持してきたオバマ政権幹部も、銃規制問題には口を閉ざしています。
オバマ政権としては、経済再建や医療保険改革など重要案件を抱えた今この時期にNRAともめたくない・・・という本音があるそうです。

【修正第2条】
ところで、銃規制反対の根拠とされているアメリカ合衆国憲法修正第2条というのは次のようなものです。
****修正第2条 ****
(人民の武装権)
規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、市民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない。
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私はこれまで、「個人の生命・財産など、自分の身を守るために銃をもつ権利がある」という考え方かと誤解していましたが、そうではなく、「他国からの侵略や、自国の政府が国民の自由を抑圧する可能性があるから、国民が組織だってそれと戦うことができるように、国民には武器を持つ権利がある。」という考え方のようです。

こうした考え方の是非を論じるのは私の手にはあまりますが、少なくとも、タガーナイフが犯罪に使用されるとその所持が禁止されるような日本、更に言えば、日本国憲法の前文及び第9条の精神とは全く異なるものがあります。
アメリカは日本の最重要パートナーではありますが、こうした明確で深い溝が両社会の間に存在していることは念頭に置いてつきあう必要があります。

それはさておき、アメリカ合衆国憲法修正第2条の立場に立ったとしても、銃乱射事件やメキシコ麻薬組織への攻撃用銃器流失などをそのままにしておいていいという話にはならない・・・と、日本人には思えるのですが。
それでも銃にこだわるのがNRAやアメリカ市民の考え方であり、アメリカ社会においても恐らく一般的には「自分の身を守るために銃をもつ権利がある」といったように考えられているのではないでしょうか。

銃規制に対する考え方の違いは、国家の安全保障や核廃絶などの軍縮への理解など、非常に大きな問題とも関係しているとも考えられますが、話が手におえなくなるので、今日はここまで。



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中国  胡耀邦元総書記の死去から二十年

2009-04-18 21:06:51 | 世相

(1989年6月の北京 天安門広場での学生達の民主化要求運動を鎮圧に向かう戦車 その車列の前に立ちはだかる男性 中国が変わるのでは・・・との思いでTV画面を見つめていました。 “flickr”より By laihiu
http://www.flickr.com/photos/laihiu/159409428/

【再評価の動き警戒】
大躍進政策の失敗、文化大革命の混乱を経て、GDPですでにドイツを抜き、やがて日本を抜いて世界第2位になるのも数年後と見られている経済大国・中国、政治的にも国際的に大きな影響力を行使し、アメリカがカウンターパワーとして意識する存在となりつつある中国ですが、胡耀邦とか趙紫陽、あるいは天安門事件に関係した時節・事柄になると今でも穏やかではいられないようです。
古傷がうずくと言うか、過去の亡霊の呪縛から解き放たれていないと言うか、自らの手を汚した血におののくと言うか・・・。

****天安門契機 胡耀邦氏死去20年 再評価の動き警戒 中国当局****
中国での民主化運動を弾圧した天安門事件(1989年6月)のきっかけとなった胡耀邦元総書記の死去から、15日で20年を迎えた。胡氏の再評価や、当時のハンスト学生を見舞ったことなどで失脚した故趙紫陽元総書記の名誉回復を求める動きが出ているが、当局はこうした状況を警戒し、締めつけを強化している。

関係者によると、胡氏が眠る江西省北部の「共青城」で15日、遺族らにより追悼行事が行われたもようだ。「遺族らは取材には消極的」とされ、当局から天安門事件に関した取材は受けないよう要請されている可能性がある。
天安門事件で鎮圧した側の人民解放軍兵士、張世軍氏は3月に外国メディアの取材で「(鎮圧には)罪悪感がある」と語ったがその後、行方不明となった。当局に拘束されたとみられている。民主化活動家によると、山東大学の孫文広元教授は趙元総書記の墓地を訪れた際、暴漢に襲われ重傷を負った。
「当局は今年、極めて敏感になっている」(孫氏)という中、北京の一部大学では、学生が集団討論する動きを大学側が牽制(けんせい)。北京大学では部外者の構内入校に際し、身分証の検査と登録を始めるという。

胡績偉・元人民日報社長など70~90歳代の元幹部12人は、胡耀邦氏らの徹底した名誉回復と天安門事件の再評価を求める文集を今月、香港で出版する予定だ。しかし、ネット上からは同事件や胡氏に関する文章や書き込みが削除されている。
昨年12月に一党独裁体制の集結を求めた「08憲章」も一連の規制に阻まれており、起草者で反体制派作家、劉暁波氏の拘束は「実際は天安門事件20年の刊行物発行を計画していたことが理由」(関係者)とも指摘されている。【4月16日 産経】
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例外的には、“中国の改革派月刊誌「炎黄春秋」4月号だけは「胡耀邦に学ぼう」と題した故毛沢東主席の元秘書、李鋭氏の追悼論文を掲載した。同誌は執筆陣に党元幹部が名を連ね、広く読まれる大衆誌でもないため、当局から黙認されているようだ。論文は「党史の出版物で胡耀邦の名前を見ることはできない。(共産党の)唯物主義者がしてはならないことだ」と批判した。”【4月15日 毎日】といったこともあるようです。
「胡耀邦に学ぼう」というストレートな論文ですから、単に“広く読まれる大衆誌でもないため黙認”という訳でもないようにも思えますが。

多くの問題を抱えつつも冒頭にあげたような経済的・政治的実績を達成しながら、自らに自信がないのか、自己変革を迫るような動きに対して寛容になれない体質、一党独裁の殻に閉じこもり異論を許容しない体質というのは理解できないところです。
政治理念の問題と言ってしまえばそれまでですが。

【中国社会の今】
ここ数日で目にした中国社会に関する記事。

****中国の億万長者82万人 最多の北京、113人に1人*****
資産が1千万元(約1億5千万円)以上ある富豪が中国には82万5千人いる――。中国の民間の研究機関「胡潤百富」が15日に発表した調査で、こんな結果が出た。都市別では北京が最多で113人に1人の割合。中国都市部を中心とした購買力の高さが裏付けられた形だ。
胡潤が個人の投資金額や納税額、車や家の購買状況などをもとに算出した。富豪は大都市に偏っており、1位の北京は14万3千人で全体の17%。2位の広東省(13万7千人)、3位の上海(11万6千人)の3地域で、ほぼ5割を占めた。富豪の割合は、中国全体では約1700人に1人だった。
資産には株式のほか近年、値上がりの著しかった不動産も含まれるという。
胡潤によると、同規模の資産家の割合は英国が150人に1人、米国が100人に1人で、北京や上海は肩を並べた形。今回の調査に協力した人の8割は、金融危機後も生活に大きな影響はなかったと答えたという。
一方、資産が1億元(約15億円)以上ある大富豪は中国全体で5万1千人にのぼった。【4月18日 朝日】
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113人に1人が大富豪とは・・・貧乏人の私としては驚きです。
一方で、中国社会の歪を示す記事も。

****中国で人口男女比に大幅な不均衡、数十年間続く見通し 研究成果****
男児を好んで産む傾向がある中国では、女児より男児のほうが3200万人多く男女不均衡が今後数十年間続くことが予測されるとの調査報告が、10日の英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」電子版に掲載された。
「この問題には思い切った対策がいくつか提案されているが、どのような対策をとっても男性過多の世代が間もなく登場するのを防ぐことはできない」と、報告は指摘している。
ほとんどの国では、女性の数より男性の数がわずかに上回り、男女性別比は103-107程度(女性を100とした場合)になるのが普通だ。
ところが中国やアジアのいくつかの国では、男女性別比が大幅に不均衡となっている。伝統的に男児が好まれている上、安価な超音波検査で出産前に性別が分かり中絶が可能であることから、男女産み分けに拍車がかかっているためだ。とりわけ、一人っ子政策が徹底していた地方や地方都市では男女比不均衡の傾向が顕著にみられる。

2000年以降、中国政府はこの不均衡の緩和に乗り出し、女児の必要性を訴えるキャンペーンを展開したほか、相続法の改正にも着手している。
1992年に男女性別比が229という驚異的な水準を記録した韓国では政府が対策に乗り出し、啓発キャンペーンを行うとともに男女産み分けに関連する法律の適用を厳格化した。この結果、04年までに男女性別比は110に回復した。ある専門家は中国も韓国と同じ方向性に進む可能性があるとみている。【4月10日 AFP】
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一人っ子政策や男児を望む社会風潮の問題のほか、生まれてくる子供の基本的人権に関する認識の問題でもあります。
中国が人権の問題で大きな課題を抱えていることは周知のところですが、

【人権】
人権と言えば、こんな話も。

****中国が人権に関する行動計画を発表*****
中国は人権に関する行動計画を発表し、国民の法的保護強化や所得拡大などの方針を示した。新華社が伝えた政府計画は「中国は依然、多くの課題に直面しており、人権の向上に向けた取り組みにおいての道のりは長い」としている。
その上で「必要最低限の生活や発展のための国民の権利保護を最優先する」と表明。
さらに、政府は「公共医療サービスにおける平等の権利」を目指すほか、貧困層、高齢者、障害者のためのより良い福祉や、農民の所得拡大を約束。「厳正かつ公平な裁判」を保証するとしている。
また、国民が政府に請願する際、政府職員の嫌がらせや拘束などを受けるという状況を踏まえ、電話や電子メールなどでの請願受付を増やす方針を示した。【4月13日 ロイター】
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“国民が政府に請願する際、政府職員の嫌がらせや拘束などを受ける”というのはどういうことか・・・なんてことはともかく、きちんとした成果を望みたいもおです。

かつて胡耀邦は“チベット視察に訪れ、その惨憺たる有様に落涙したと言われ、ラサで共産党幹部らに対する演説にて、チベット政策の失敗を明確に表明して謝罪し、共産党にその責任があることを認め、ただちに政治犯たちを釈放させ、チベット語教育を解禁した。更にその2年後中国憲法に基づき、信教の自由を改めて保証した上で、僧院の再建事業に着手させ、外国人旅行者にもチベットを開放した。しかし、この政策は党幹部から激しく指弾され、胡耀邦の更迭後撤回された。”【ウィキペディア】とか。
また、趙紫陽は“天安門広場で絶食を続ける学生たちの前に現れ、「我々は来るのが遅すぎた。申し訳ない」と声を詰まらせながら約8分間、拡声器を手に学生たちに絶食をやめるよう呼びかけた。”とか。【ウィキペディア】

彼等を生かせる体制であれば、人権問題も今とは違った状況になっていたのでは・・・とも思えます。

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ソマリア  海賊行為の過激化 新大統領への期待

2009-04-17 21:34:11 | 国際情勢

(ソマリアの首都モガディシオ入りしたアハメド新大統領 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/3304780320/)

【海賊 “報復”へ過激化】
東アフリカ・ソマリア沖の海賊対策には日本も海上自衛隊の2隻の護衛艦を派遣して海上警備行動を行っていますが、一時減少したかに見えた海賊行為が再び活発化しています。

****ソマリア海賊:再び活発化 2週間で19隻襲われる****
東アフリカ・ソマリア沖の海賊活動が再び活発化している。国際海事局や報道によると、海上自衛隊の派遣部隊が日本関連船舶の護衛任務を開始した先月30日から12日までに、19隻の商船などが襲撃され、6隻で乗組員が人質に取られた。
各種報道によると、現在、海賊は17隻前後を捕獲、約250人を人質に取っている。昨年1年でソマリアの海賊は身代金で1億5000万ドル(約150億円)を手にしたとの推計もある。
アデン湾周辺には日本も含め20カ国前後の軍艦船が海賊対策を展開している。しかし、対象海域は広大で「どこでも急行とはいかない」(米国防総省)のが実情だ。海賊は活動範囲をソマリア南東海域に移しつつあり、「いたちごっこが続く」(船舶警備会社の担当者)見通しだ。【4月14日 毎日】
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特に、人質救出のためアメリカ軍が12日に海賊3人を、フランス軍が10日に海賊2人を射殺して以来、これまでの金目当てのビジネスとしての海賊行為から、“報復”の色合いを帯びて過激化する懸念がでてきています。
中東の海域を管轄する米海軍第五艦隊のゴートニー司令官は12日の記者会見で、「今回の出来事が、この海域における暴力をエスカレートさせることに疑問の余地はない」と語っています。【4月14日 時事】 

14日には、ソマリア沖を航行中の米貨物船「リバティ・サン」が海賊の乗った船からロケット弾や自動小銃の攻撃を受け被弾しましたが、AFP通信は海賊側の話として、米海軍が人質となった米人船長救出作戦で海賊3人を射殺したことに対する報復として攻撃したと報じています。【4月16日 毎日】

また、国際テロ組織アルカイダ系の「アラビア半島のアルカイダ」は15日、海賊対策のためイエメンやソマリア沖などに派遣されている欧米の海軍艦艇などへの攻撃を、周辺地域のイスラム教徒に呼び掛ける音声声明をウェブサイト上で発表しています。【4月16日 毎日】

陸上でも、アメリカの人質救出劇から数時間後、ソマリアの首都モガディシオの空港に、迫撃砲が撃ち込まれました。
当時、海賊対策を協議するためソマリア入りした米下院外交委員会委員のドナルド・ペイン議員が空港にいましたが、議員にけがはありませんでした。【4月14日 AFP】

アメリカ側も緊急対策を発表しています。
****海賊:米国が四つの緊急対策 武器購入ルート遮断など柱に*****
東アフリカ・ソマリア沖で多発する海賊に対処するため、クリントン米国務長官は15日、国際会議招集や海賊の武器購入ルート遮断などを柱とする四つの緊急対策を明らかにした。長官は「17世紀の犯罪」に「21世紀の解決策」が必要と述べ、国際的な取り組みを訴えた。
海賊対策に関する国際会議への参加国は30カ国以上とみられる。海賊は身代金で高性能な船や武器を購入していることから、各国が協力して海賊との取引業者の取り締まりなどを行う。
また、ソマリア暫定政府や地域の部族長らと協力するための外交チームを派遣する。【4月16日 毎日】
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上記アメリカの対策には、海賊行為に対する刑事手続きの強化のほか、海賊が身代金などで得た資金の追跡調査や凍結などが含まれています。

【ソマリア国内情勢】
「21世紀の解決策」も結構ですが、ソマリア海賊問題を語る人の皆が口にするように、基本的には無政府状態のソマリア国内の安定なくしては問題が解決しないことは言うまでもありません。

ソマリアの混乱は、氏族間の対立・内戦とイスラム原理主義勢力の台頭、ソマリアに潜伏するアルカイダ勢力とアメリカの対立、アメリカの代理として侵攻した隣国エチオピアとエリトリアの対立・・・といったいくつかの軸が絡み合っています。

長年の氏族間の内戦に疲弊した国民の支持も集めて、06年6月にイスラム原理主義「イスラム法廷会議」が首都を押さえましたが、同年12月にはエチオピアが侵攻、アメリカもこれを支援。
いったんはイスラム原理主義勢力を駆逐しました。
しかし、「イスラム法廷会議」の残党との戦闘、エチオピア介入に対する国民の抵抗で戦火は一向に収まらず、暫定政府の混乱も続き、暫定政府が押さえているのは首都の一部のみといった状況です。

****政変機に海賊激増*******
海賊対策に躍起な米側は「原因はソマリア政府の不安定さだ。全土を支配できない政府が、海賊を摘発できずにいる」(米海軍第5艦隊報道官)とし、ソマリア側の責任を強調する。
だが、海賊の襲撃が急増し始めたのは、首都を制圧していたイスラム法廷会議が、エチオピア軍に敗れた06年末以降のことだ。
法廷会議と国際テロ組織アルカイダの関係を疑ったブッシュ米政権は、エチオピア軍の侵攻を支持した。法廷会議はそれまでの半年間、治安を改善し、海賊の摘発を強化していただけに、米の後押しによる政変が、以後の混とん状態と海賊の激増につながったと指摘される。

海賊と背後で結びついていると疑われる組織がある。イスラム法廷会議から分派し、「ソマリアのタリバン」とも言われる若い武装勢力「アルシャバブ」だ。現地の情報では、法廷会議より過激で暫定政府をも揺るがしている。
海賊と連携し、得た身代金を武器購入にあてているとの報道もある。
米政府は08年3月、アルシャバブをテロ組織に認定した。アルカイダと海賊にも関連づけ、掃討を図ろうとしている。
だが、現地では「対テロ戦争を進めながら、結果的に過激派の伸長を招いた米政策は完全な失敗だった」(アブドラ氏)との見方が強い。08年5月に米軍の攻撃でリーダーを失ったとされるアルシャバブは反米姿勢を強めており、米側への攻撃も予想されるという。【08年11月27日 毎日】
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【アハメド新大統領への期待】
昨年12月末には、イスラム法廷会議の残存勢力からなるソマリア再解放同盟との和解交渉をめぐって首相と対立が続いていたユスフ暫定政府大統領が辞任。
今年1月には、治安悪化に嫌気したのか、エチオピアが撤兵。
1月31日、イスラム教穏健派の指導者シャリフ・アハメド氏が暫定大統領に選出されました。
バーレ政権が崩壊した1991年以来、暫定政府の発足は15回目となります。

“アハメド氏は、昨年に暫定政府と停戦合意し、今年1月に暫定議会に加わったイスラム勢力、ソマリア再解放連盟(ARS)の指導者。2006年に首都モガディシオを勢力下に置いたイスラム原理主義組織「イスラム法廷会議」を率いた過去があり、同組織から分派した過激派などとの局面打開に期待がかかる。
だが、エチオピア軍の撤退後、暫定政府の拠点都市バイドアを制圧した過激派は徹底抗戦の構え。他の武装勢力も活動を活発化させており、アフリカ連合(AU)の平和維持部隊の支援で、首都を部分掌握するだけの暫定政府の前途は険しい。”【1月31日 読売】

歴代の暫定政府は首都に拠点を置いたことはなく、今年1月の暫定議会の大統領選も隣国ジブチで行われました。
2月始め段階では、“アハメド大統領本人がソマリアの首都モガディシオに入ることを目指しているが、国土の大半を押さえる過激派勢力は徹底抗戦の構えを崩していない。”と報じられていました。

2月22日、アフリア連合ソマリア平和維持部隊(AMISOM)司令部への武装勢力「アルシャバブ」の攻撃でブルンジ兵11名が死亡しましたが、その直後にアハメド新大統領は空路モガディシオに入ったようです。

大統領が首都に入るのが難しい政権というのも想像し難いものがありますが、有力氏族出身で、イスラム過激派との人脈もある大統領への期待もあります。
“アハメド新大統領は反政府勢力が主張するイスラム法(シャリア)施行の要求を一部受け入れるなど、国内各勢力の和解に向けて動き出している。”【ウィキペディア】とも。

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タイ  タクシン派の抗議行動中止、“次”はあるのか?

2009-04-16 21:13:40 | 国際情勢

(4月9日 バンコク市内の幹線道路を封鎖する“赤シャツ”UDD “flickr”より By adaptorplug
http://www.flickr.com/photos/11401580@N03/3426798006/)

【エスカレートした反政府行動】
タイ・バンコクでのタクシン元首相を支持する「反独裁民主戦線」(UDD)の反政府行動、治安当局との衝突、そして強制排除が迫るなかでの行動中止・・・これら一連の騒ぎについては連日TV等でも報じられているところです。

タクシン首相については、その金権体質、強引な政治手法等に批判はあります。
ただ、現在のアピシット首相を支える側も、06年9月の軍事クーデター、更に、昨年来の司法権力を使ってタクシン派のサマック政権とソムチャイ政権を崩壊に追い込んだやり様は、タクシン政治以上に強引です。

どちらがより広い国民の意思を反映しているかということを“選挙”というものではかるなら、言われているように、バラマキ政策・利益誘導政治との批判はありますが、地方農民や都市貧困層の強い支持を受けるタクシン派に利がありました。

しかし、今回の復権に勝負をかけたタクシン元首相に煽られた「反独裁民主戦線」(UDD)の行動は行き過ぎました。
タクシン元首相は、06年のクーデターの黒幕は国王側近のプレム枢密院議長と枢密院議員のスラユット元首相だと名指しで非難、タクシン派UDDの行動に12日夜、国外から電話で「これは人民革命だ」と称賛するメッセージを伝えています。

タクシン派は11日、中部の都市パタヤで東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議会場のホテルに乱入、会議を中止に追い込んだことで、調子に乗りすぎたようにも見えます。
治安当局の対応を甘く見ていたようにも思えます。
12日の非常事態宣言直後、首相がいる内務省の建物に乱入。建物を出ようとする首相の車を取り囲み、棒で殴りかかるなどの暴行を働くなど次第に統制を失い、暴徒化していきました。

【住民への発砲】
治安当局が強制排除の強い対応に出ると、火炎瓶での対抗、バスへの放火と次第に過激化し、ついには住民への発砲にまで至ります。

****タイ:タクシン派へ怒り 住民2人死亡の現場*****
タイの首都バンコクを大混乱に陥れたタクシン元首相支持派組織「反独裁民主戦線」(UDD)のデモ隊撤収から一夜明けた15日、同市内は平穏を取り戻した。だが、タクシン派による銃撃で住民2人が死亡した現場では同派への怒りが渦巻き、今回の騒乱がタイ社会に与えた亀裂を浮き彫りにした。

「この地域を守りたかっただけなのに、あいつらは撃ってきた」。骨董(こっとう)品店を経営していた叔父のボムさん(54)を殺害されたトンさん(18)は、こう話した。
タクシン派が陣取っていた首相府周辺から約300メートル南のナンルン市場には1000軒以上の店舗兼住宅が並ぶ。13日夜、殺害された2人はいずれも市場の住民だった。
赤シャツを着たタクシン派は同日午後2時ごろ、2台のバスで市場近くの交差点をふさぎ、火をつけようとガソリンをまき始めたという。バスが炎上して市場に延焼するのを恐れた住民約200人が強く抗議すると、タクシン派はそのまま立ち去った。

ところが、午後7時過ぎ、十数台のバイクに乗ったタクシン派が再び市場に現れ、デモへの参加を強制し始めた。住民が拒否すると今度は火炎瓶を投げ始めた。あたりに警官や兵士の姿はなく、住民が警察署に電話をかけても応答がなかった。
そのうち、逃げ惑う住民に向かって銃撃が始まった。「誰もタクシン派が銃を持っているとは思わなかった」と、一部始終を目撃していたオンさん(52)は語気を強めた。
ボムさんは胸を撃たれ死亡した。市場に住む19歳の男性も同じく銃撃の犠牲となった。ボムさんの妻バンチューさん(43)が現場に駆けつけたときには、夫は路上でうつぶせに倒れ、口から血を流していた。夫婦は政治に関心がなく、デモが始まってからは危険を避けるため2人の娘と一緒になるべく家の中にいるようにしていたが、ボムさんは同日夜、家族のため夕食の食材を買いに行く途中、たまたま騒乱に巻き込まれた。「タクシン派は許せないが、私たちにはどうしようもできない」とバンチューさんは涙をぬぐった。【4月15日 毎日】
***************************

【徒労感とダメージ】
こうした暴徒化したタクシン派の行動は国民の批判を浴び、治安当局の強気の対応を支えることになりました。
海外に逃亡中のタクシン元首相は「これは(敗北ではなく)一時停戦だ」とのコメントを発表していますが、これだけの騒ぎを起したタクシン派のダメージは大きなものがあります。

****「何も変わらなかった」=徒労感にじますデモ隊-タイ****
「結局、何も変えられなかった」。デモ中止の決定を受け、タイ・バンコクの首相府周辺では14日昼前から、タクシン元首相支持派「反独裁民主同盟」メンバーが撤収作業を始めた。トラックの荷台に分乗するなどして現場を離れていったが、メンバーらは「敗北としか言いようがない」と徒労感をにじませた。
この日昼すぎ、幹部の1人はステージ上から最後の演説をすると、自ら警察へ向かった。これを合図に、残っていたメンバーも次々と会場から引き揚げ始めた。
3月26日の抗議行動初日から参加していたという男性(38)は「首相の退陣や新たな選挙を求めていたのだから、敗北だ」。抗議行動に意味はあったかとの問いには、「何も」と。別の男性(25)は「民主主義のある国にしたかった。次もまた来る」と語った。【4月14日 時事】
********************

対立の構図は何も変わっていませんが、タクシン派が“次”を起せるかは疑問です。
直接的には資金的な問題があります。

“「UDDが参加者の多くに日当を支払っていたのは間違いない。空港を占拠した反タクシン派の民主市民連合(PAD)参加者にも日当が出たが、違いはPADの資金は反タクシンの財界や中間層の市民など広い範囲から集められたのに対し、UDDはタクシン氏個人から出ていたことだ」。地元記者はそう解説した。”【4月14日 毎日】

“タクシン個人”とは言っても、タクシン元首相の個人資産はすでに押さえられていますので、タクシン周辺の者の資金が使われていたのではないでしょうか。
おそらく、政府側は今後、そうしたタクシン派の活動資金になりうる資産を封じ込めにかかるのでは。

また、混乱のなかでタクシン元首相の子供や前夫人が次々に国外に“脱出”していることが、支持者に過激な行動を煽りながら、身内は守ろうとする身勝手として批判を浴びています。
当面はタクシン派に“次”を起せるエネルギーは残っていないように思えます。

ただ、選挙となればまた違う展開もありえます。
今回の騒動でタクシン派の支持がどれだけ下がったかはわかりませんが、仮に選挙でタクシン派がまた多数の支持を受けるようであれば、タクシン派に政権を委ねるのが“筋”でしょう。
もっとも、たとえ選挙についても、発砲で死者まで出した代償は大きいようにも思えますが。

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パキスタン  イスラム法(シャリア)導入を認める和平協定で開く「タリバン化」への水門

2009-04-15 20:50:38 | 国際情勢

(“flickr”より By sunxez
http://www.flickr.com/photos/sunxez/100616629/)

【ザルダリ大統領署名により発効】
パキスタンのアフガニスタン国境隣接地域における武装勢力とパキスタン政府の和平協定はイスラム法(シャリア)の導入を認めることが条件となっています。

和平協定によってパキスタン国内の治安は一定に改善され、紛争地域の住民生活改善も期待できます。
しかし、武装勢力側が今後“心置きなく”アフガニスタンのタリバンとの協調活動を活発化させると予想されることに対するアメリカの反発が強く、またイスラム法支配の実態に対する不安が欧米諸国及び国民にもあることから、発効に必要な署名をザルダリ大統領は棚上げしていました。

11日ブログで取り上げたように、大統領のこうした姿勢に、武装勢力側は平破棄を警告。
和平交渉を担ってきた州政府の政権党「アワミ国民連盟」も、「大統領が署名しなければ(ザルダリ氏が率いるパキスタン人民党との)連立関係を解消する」と通告し、新たな政局問題に発展する懸念が高まっていました。

結局、首都へ向けて進軍を開始した武装勢力、及び、国内治安改善を求めるパキスタン下院の圧力もあって、ザルダリ大統領は和平協定に署名し、協定が発効したようです。

****パキスタン大統領:武装勢力との和平協定署名 米国は反発*****
パキスタンのザルダリ大統領は13日夜、北西辺境州スワート地区の武装勢力と2月に合意した和平協定に署名し、協定は14日に発効した。これに基づき、同地区にイスラム法が導入され、武装勢力側も武装解除を約束した。戦闘再開による貧困拡大の危機にあった地元では、協定の発効を歓迎している。
ただ、米国は和平に反発しており、今後、米国のアフガニスタン包括戦略のパキスタン支援に影響する可能性もある。

下院は13日、ザルダリ大統領に早期署名を求める議案を賛成多数で可決。ザルダリ氏は東京で17日から始まるパキスタン支援国会合出席のため出国する直前、署名に応じた。
武装勢力側は「ザルダリ氏が署名を棚上げしている」と批判し、首都へ向けて進軍を開始。州政府与党も、ザルダリ氏が率いるパキスタン人民党との連立解消を通告し、新たな政局問題に発展する恐れが高まっていた。 【4月14日 毎日】
***********************

【「タリバン化」への水門】
今回の協定については、「パキスタンの「タリバン化」を進める『水門』を開けてしまった」との批判もあります。

***パキスタンの「タリバン化」への水門を開けた****
北西辺境州、そしてアフガニスタン駐留米軍との対決を支持する数千人を率いる親タリバン派の地元武装勢力指導者スーフィ・モハマド師と今回、ザルダリ大統領は和平合意に調印したわけだが、この決断に対する風当たりは強い。
レーマン・マリク内相は、シャリア導入でスワート周辺の勢力が武装解除し、事態が収拾に向かうことを期待するが、「パキスタンの「タリバン化」を進める『水門』を開けてしまった」というのが批判派の反論だ。
モハマド師の広報担当は「タリバンは武装解除し始めた。まだの者もじきに解除するはずだ」と述べているが、在スワートのタリバン広報担当ムスリム・カーン氏は「イスラム法が施行されれば、もはや発砲する必要はないだろう」と武装放棄が決して無条件ではないことを示唆している。

4月初旬には、スワートでベールをかぶった女性が公衆の面前でむち打ちの刑に処されるビデオ映像が明るみに出て、シャリア導入への批判はいっそう高まったが、カーン氏は「女性は仕事にも市場にも行くことは許されない。彼女たちを見せ物にしたくないからだ」と述べ、学校でも「イスラムの教えに即した」授業を行うと強調した。

イスラマバードの持続可能開発政策研究所の専門家A.H. ネイヤー氏は、前述の「タリバン化の水門」について警告する。
「(シャリア導入により)今後数か月で州全体がタリバンの手に落ちると予測する。タリバンはほかの州にも圧力をかけるだろう。そうすればパキスタンは『暗黒の時代』に舞い戻ってしまう」
【4月15日 AFP】
****************************

公衆の面前でむち打ちの刑に処される女性の件については、4月5日および11日ブログでも取り上げたところです。
タリバン側の「女性は仕事にも市場にも行くことは許されない。彼女たちを見せ物にしたくないからだ」という発想は理解に苦しみますが、女性は人前に姿をさらさないことを前提にしている彼等の思考においては、女性が人前に姿をさらすことはいかがわしい行為であり、当然に男性側もそのような目で彼女等を眺める・・・ということになってしまうのでしょう。

【駆け落ち男女を公開銃殺 女性州議員を射殺】
最近のアフガニスタンでのタリバン支配の状況については、次のような記事もあります。

****駆け落ち男女を公開銃殺…アフガンでタリバン****
アフガニスタン西部ニムロズ州で13日、駆け落ちした若い男女が旧支配勢力タリバンに見つかり、反イスラム教的だとして公開処刑された。
男女が住む村の宗教指導者が決定したというが、アフガンでタリバン支配の影響が強まっている状況を浮き彫りにした。
州当局によると、女性(19)には両親が決めた婚約者がいたが、男性(21)と恋愛をして家を出た。その後、州内でタリバンに拘束され、村のモスク前で銃殺された。同州はタリバン勢力が伸長していることで知られる。
アフガンでは、1996年~2001年のタリバン政権時代、イスラム法(シャリア)に基づき、公開処刑やむち打ちが行われ、国際社会の非難を浴びていた。【4月14日 読売】
**********************

イスラム法(シャリア)とは直接関係はありませんが、タリバンの女性の権利に対する意識、彼等の対処方法をうかがわせるものとして、次のようなニュースもあります。

****アフガニスタンの女性州議員、射殺 タリバンが犯行認める*****
アフガニスタン南部カンダハル州で12日、同州議会の女性議員が、イスラム原理主義組織タリバンの戦闘員に狙撃されて死亡した。州当局が同日明らかにした。
殺されたのは高校教師で女性権利活動家でもある50代の女性議員、シタラ・アチクザイ氏。
ハミド・カルザイ大統領の兄弟でもあるアフマド・ワリ・カルザイ州議会議長によると、議員はカンダハルの自宅前で、バイクに乗った2人の男に射殺された。警察が事件を捜査している。

タリバンのユスフ・アフマディ報道官はAFPとの電話インタビューで、事件がタリバンによる犯行であることを認めた。アチクザイ議員を狙った理由は議員の経歴が「好ましくなかった」からだと述べたが、詳しい説明は避けた。

 アチクザイ議員は、医師で大学講師の夫と共に長年ドイツで暮らしていたが、カンダハルで働くために帰国した。会見を開いたTuryalai Wesa州知事は、議員を「勇敢な女性だった」と評し、その死を悼んだ。【4月13日 AFP】
*********************

登校する女生徒の顔に硫酸をかけたりするタリバンにしてみれば、女性活動家というのは許すべからざる存在なのでしょう。
それにしても、“経歴が「好ましくなかった」”と射殺してしまうやり方、それを隠そうともしない態度は、前述パキスタンにおける和平協定・シャリア支配容認についての「タリバン化の水門を開けた」という警告を思い出させます。

住民がタリバン的な考えに賛同しているのなら、価値観の違いとしてやむを得ないところもありますが(異なる価値観をどこまで許容するかというのは、簡単でない部分がありますが)、現実のタリバン支配は多分に力と恐怖による支配でもあり、また、争いが続きミサイル攻撃に曝されたり、銃弾が飛び交うよりはタリバン支配の方がまし・・・ということではないでしょうか。

アフガニスタン政権のタリバンへの7割移譲案のように、アメリカも最終的にはアルカイダさえ排除できれば・・・という考えのようです。
アフガニスタン・パキスタンでタリバン支配の現実味が増していることに、大きな懸念を感じます。

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オバマ大統領の「核なき世界」 その実現に向けて

2009-04-14 21:57:45 | 国際情勢

(アメリカのタイタンⅡ ICBMとしてはすでに退役しており、写真は博物館のものです。“flickr”より By Kingdafy
http://www.flickr.com/photos/kingdafy/499360896/)


【これまでとは一線を画する決意】
アメリカ・オバマ大統領は、今月5日のプラハでの演説で「米国が核兵器のない世界の平和と安全を実現するために取り組んでいくと、はっきりと信念を持って宣言する」「すぐにたどり着けるゴールではない。私が生きている間には、おそらく無理だろう。忍耐と粘り強さが必要だ。しかし、わたしたちは、世界は何も変わらないという声を無視しなければならない」などと、「核なき世界」への決意を表明しました。

かつて、レーガン大統領も「あらゆる核兵器」の廃絶を提唱したことがありますし、歴代大統領はロシアとの核削減交渉を行ってきました。
それらの取組みと、今回のオバマ大統領の決意表明との間に差があるのかどうか、今までの延長線上にあるにすぎないのか・・・という点については、やはりオバマ大統領の主張はこれまでとは一線を画するものがあるというのが、大方の解釈のようです。

オバマ大統領が核軍縮を外交政策の中心に位置付けていること、「核兵器を使った唯一の核兵器保有国として米国は行動する道義的責任がある」と“道義的責任”に言及していることなどが注目されています。

具体的な取組みとして、オバマ大統領が2月に発表した2010会計年度の予算教書で、冷戦時代に作られ老朽化した核弾頭を新型弾頭と入れ替えるための技術開発計画や米ネバダ州ユッカ山地で計画されている高レベル放射性廃棄物の地下最終処分場計画を中止する方針を示していることも、演説が単なる“スローガン”ではないという期待を関係者に抱かせています。

【核保有国は冷ややか】
ただ、オバマ大統領の演説に対する他の核保有国の反応は冷ややかです。
中国共産党機関紙・人民日報が発行する時事情報紙「環球時報」は7日、「激情演説『これぞ空想』と評論家」との見出しで演説を報じています。

フランス・サルコジ大統領の外交補佐チームが作成した内部文書は、アメリカが核実験全面禁止条約(CTBT)を批准していないなど、アメリカの核廃絶の取り組みの遅れを逆に指摘、「大部分がブッシュ前政権の政策の焼き直し」「理念ばかり唱えず行動すべきだ」「米国のイメージ向上を狙った対外的なポーズにすぎない」と酷評しています。【4月11日 時事、毎日】

【アメリカ国内でのCTBT批准】
アメリカ国内においても、大統領方針の現実性を疑問視する声は多くあります。
さしあたり、CTBT批准が課題となります。
CTBTはすべての核実験を禁止する国際条約で、1996年に国連特別総会で採択されたが、まだ発効していません。
当時、クリントン大統領は批准を目指しましたが、アメリカ上院は1999年に条約への批准を否決。
オバマ大統領は、批准について再考するよう上院に要請する構えです
CTBT批准には上院で出席議員の3分の2の賛成が必要ですが、これをクリアするためにはあと7人ほどの賛成者が必要だとも報じられています。【4月7日 毎日】

その点で動向が注目される議員のひとりが、大統領選挙を争った共和党マケイン議員です。

****来日中のマケイン氏、オバマ大統領の核政策を支持
2009年昨年の米大統領選でバラク・オバマ大統領と大統領の座を争った共和党のジョン・マケイン(John McCain)上院議員は10日、都内で記者会見し、オバマ大統領が提唱する「核なき世界」構想への支持を示した。
アジア歴訪の一環で来日中のマケイン氏は、都内の米国大使館で行った記者会見で、「地球から核兵器を廃絶するというオバマ大統領の壮大な目的に対する誓約を、わたしは心から支持する」と述べ、核廃絶の取り組みは、北朝鮮とイランから始めるべきだと語った。【4月10日 AFP】
********************

「わたしは心から支持する」とは言いつつも、“核廃絶の取り組みは、北朝鮮とイランから始めるべきだ”との言いようは、あまり“支持”しているようには聞こえないように思えるのですが。
どっちかと言うと、“ご立派なこと言う前に、北朝鮮とイランを何とかしろよ!”と言ってるようにも・・・。

【イランと北朝鮮】
ロシアとの核軍縮は、お互いに削減したい思惑がありますので、それなりに進みそうですが、イランと北朝鮮の核開発をどうするのか・・・。

国連安保理常任理事国(米英仏中露)とドイツからなる6カ国核協議へのイラン参加要請をアメリカが了承したことを受けて、イランも参加を正式表明しました。
6カ国側は以前からウラン濃縮活動停止に対する経済的な「見返り案」など妥協案を提示しており、イラン参加によって、今後ようやく実質的な協議に入れる可能性が出てきました。

しかし、4月10日ブログで取り上げたように、イラン側は核開発そのものについては平和利用であるとして、一貫して核開発を独自の権利として継続する姿勢を崩していません。
そうであるにしても、協議の場が成立したことは大きな前進でしょう。

一方、北朝鮮は6か国協議からの撤退を表明しています。

****北朝鮮、6か国協議からの撤退を表明 安保理声明に抗議****
2009年04月14日 13:03 発信地:ソウル/韓国
北朝鮮は14日、国連安全保障理事会が北朝鮮の長距離ロケット打ち上げを非難する議長声明を採択したことに抗議し、6か国協議からの撤退を表明した。同国の国営朝鮮中央通信が、外務省声明として発表した。
これによると、北朝鮮は国連安保理による議長声明を「断固、拒絶する」とし、「もはや、(北朝鮮の核問題を協議する)6か国協議を開催する必要はない。われわれは今後、こうした協議に参加することはないし、6か国協議でなされたいかなる合意にも縛られない」としている。
さらに今後は独自の核抑止力を強化し、使用済み核燃料棒を再処理するため無能力化した核施設を再開する作業を開始すると表明した。北朝鮮は2007年2月の6か国協議での合意の一部として兵器級プルトニウムを製造する寧辺の核施設を無能力化している。
北朝鮮は、安保理が5日の打ち上げを批判すれば6か国協議から撤退すると警告していた。【4月14日 AFP】
***********************

これから、いろいろな駆け引きが行われるのでしょうが、これまでの経緯を考えると、事態の進展はあまり期待できません。

こうした困難な課題が山積した現状で、“夢物語”と足を引っ張るのは簡単ですが、唯一の被爆国であり、核廃絶を国是としてきた日本としては、一歩でも理想に近づけるようにサポートして行きたいものです。

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イスラエル  ネタニヤフ首相、アッバス議長と電話協議

2009-04-13 22:43:01 | 国際情勢

(今年1月、イスラエル・テルアビブ大学 ガザでの戦争に反対する集会の様子
イスラエルにも当然いろんな考えの人々がいます。 リーベルマン外相を支持する人々も、ガザ侵攻に反対する人々も
“flickr”より By yairmlll
http://www.flickr.com/photos/70308638@N00/3210405403/)

【「和平実現の努力を継続する・・・」】
イスラエルでネタニヤフ首相の右派政権が誕生したことで、中東和平の先行きに懸念が生じていることは、4月3日ブログでも取り上げました。
ネタニヤフ首相はイスラエル・パレスチナの2国家併存案支持を明言しておらず、「エルサレムの帰属とか入植地からの撤退という問題からではなく、パレスチナの経済発展と(イスラエルに危害を加えることがないように)治安部隊の強化・安全保障の確立から着手すべき」という考えと言われています。

ただ、ネタニヤフ首相としても、あからさまに中東和平に背をむけることは国際世論を敵にまわすことにもなりますし、前回首相を務めたときのように、最大のスポンサーであるアメリカとの関係を損なうことにもなります。
そういうこともあって、一応は“それなり”の姿勢は見せてはいるようです。

****イスラエル:首相がパレスチナ議長と電話協議****
イスラエルのネタニヤフ首相は12日、3月末の政権発足後初めてパレスチナ自治政府のアッバス議長と電話協議し、和平交渉の促進に向け緊密に協力すると述べた。
イスラエル、パレスチナの「2国共存」案に消極的とされるネタニヤフ氏だが、13日から始まるミッチェル米中東特使の中東歴訪や近く予定されるムバラク・エジプト大統領との首脳会談を前に、一定の柔軟姿勢を演出したと見られる。

イスラエル首相府によると、アッバス氏が電話をかけてユダヤ教徒の休日「過ぎ越し祭」を祝い、和平実現への取り組みを呼びかけた。ネタニヤフ氏は過去の「協力や議論」に言及、和平実現の努力を継続すると語った。
米露や欧州連合(EU)、国連が求めている2国共存案に対し、新政権の外相で極右政党わが家イスラエルのリーベルマン党首は、反対を表明したことがある。パレスチナ側は、和平交渉再開の条件に同案の支持を求めており、両者の隔たりは依然大きい。【4月13日 毎日】
********************

記事にもあるように、ムバラク・エジプト大統領との首脳会談も予定されています。
ムバラク大統領としては、いささか困惑しつつも、イスラエル側の姿勢を確認しようというところのようです。

****エジプト大統領:イスラエル首相との首脳会談受け入れ*****
エジプトのムバラク大統領は6日、イスラエルのネタニヤフ新首相にエジプトでの首脳会談を申し入れ、ネタニヤフ首相も受け入れた。イスラエル政府が発表した。
ネタニヤフ氏はパレスチナとの和平促進に消極的との観測が強まる中、ムバラク氏は直接相手の姿勢を確認するとともに、和平協議の停滞を防ぐ意図があるとみられる。(中略)
エジプト側は、ネタニヤフ新政権の発足は和平の一層の停滞を招くと警戒していた。
首相自身がイスラエルとパレスチナの2国家共存を明言していないうえ、アラブ系住民の事実上の排除を呼びかけ、エジプトにも批判的な極右政党わが家イスラエル党首のリーベルマン氏が外相として入閣したためだ。【4月7日 毎日】
**********************

【「和平の障壁」】
冒頭記事でも上記記事でも問題にされているのが、外相として入閣している極右政党「わが家イスラエル」党首のリーベルマン氏の存在です。
イスラエル国内からのアラブ系住民の排斥を主張しているリーベルマン氏を外相に置くことだけでも、ネタニヤフ首相の中東和平に対する消極姿勢が感じられます。

“イスラエル政府は03年に中東和平4者協議が提示した中東和平案(ロードマップ)の原則受託を承認。
07年にアナポリスで行われた米・パレスチナ・イスラエルの3か国首脳会談では、このロードマップを再確認するとともに、パレスチナ国家を08年末までに樹立することを目指して交渉を再開するとの覚書を発表した。
しかしリーベルマン外相は就任後初の演説で、「イスラエルに履行義務がある文書は1つきりで、それはアナポリス会議の覚書ではない。ロードマップだけだ。イスラエル政府と議会は、アナポリスを一度も承認してはいない」と述べた。
この発言に、パレスチナ自治政府側は反発。リーベルマン外相は「和平の障壁」だと非難し、国際社会に対し、イスラエルに対話路線に戻るように圧力をかけるよう要請した。”【4月2日 AFP】

更に、リーベルマン外相は現行の枠組みに代わる新たな方針を示す意向であることを表明しています。

****中東和平交渉は「行き詰まり」=米大統領発言に不快感-イスラエル外相****
対アラブ強硬派のリーベルマン・イスラエル外相は7日、パレスチナ自治政府との和平交渉について「われわれは行き詰まっていることを認めなければならない」と断言した。その上で、現行の枠組みに代わる新たな方針を示す意向であることを表明した。
和平を仲介する米国のオバマ大統領は6日、トルコ国会での演説で、交渉継続の必要性を訴えていた。イスラエル紙ハーレツ(電子版)によると、同外相はこれに対し「イスラエルは他者の領域に足を踏み入れない。同じことを望む」と述べ、オバマ大統領が干渉しているとして露骨な不快感を示した。【4月7日 毎日】
***************************

“新たな方針”とはどういうものでしょうか?
4月3日ブログでも触れたような「第3次中東戦争以前からのイスラエル領であるワディアラ地区のアラブ人をパレスチナ自治区に移住させて、パレスチナ自治区内のイスラエル人入植地をイスラエルに併合する」といった内容でしょうか?
いずれにしても、パレスチナ側が乗れそうな案がリーベルマン外相から提示されるとはなかなか期待できません。


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アメリカ  アフガン政権の7割移譲提示 水面下協議、タリバン拒絶

2009-04-12 13:15:25 | 世相

(凧揚げに興じるアフガニスタンの子供達 タリバン支配下ではこうした伝統的娯楽も禁じられました。 タリバン以外の軍閥等武装勢力も暴力で住民・女性の権利・尊厳を蹂躙しましたが、タリバンは徹底した宗教的・部族習慣的な制約で人間の存在、その精神を抑圧・圧殺しました。
“flickr”より By Michael Foley Photography
http://www.flickr.com/photos/michaelfoleyphotography/396084542/)

アフガニスタン情勢についての記事、驚きました。
パキスタン情報当局筋が共同通信に明らかにしたとのことで、他紙の報道は目にしていませんので、詳細・真偽のほどはよくわかりません。

****米、アフガン政権の7割移譲提示 水面下協議、タリバン拒絶****
アフガニスタンの停戦に向けた水面下の協議に関与したパキスタン情報当局筋は11日までに、米国側が反政府武装勢力タリバン側の政権入りを認め、閣僚や官僚など「政権の7割」を移譲することを打診したと明らかにした。同筋によると、タリバンは米軍の撤退を求め拒絶した。
 タリバンの影響力が強い政権が樹立されれば、ブッシュ前米政権がタリバン政権を攻撃し、崩壊させた2001年以前に逆戻りすることになる。オバマ米政権は将来のアフガン撤退を見据えて大きく譲歩した形だが、攻勢を強めているタリバンは強気の姿勢。アフガン問題解決の難しさがあらためて浮き彫りになった。
 当局筋によると、米側が提示した条件は、タリバン側が閣僚や官僚の7割を掌握し、カルザイ現政権が1割、有力政治家で構成される唯一の全国政党「国民戦線」が1割、残りを他の各グループが担う一方で、タリバンは内部から国際テロ組織アルカイダを放逐する。
 米側はタリバン関係者のほか、タリバンと協力関係にある武装勢力「ヒズブ・イスラミ」を率いるヘクマティアル元首相の関係者とも協議。今年に入り、米政府代理人らが出席し、英ロンドン、リビア、サウジアラビアで協議は少なくとも3回開かれた。【4月11日 共同】
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タリバンの攻勢によってアメリカのアフガニスタン戦略が非常に厳しいことは周知のところですが、先日オバマ大統領が、6万人規模への駐留米軍増派と民生支援拡充、多国間の協力枠組み構築を一体的に進める包括的新戦略を打ち出したばかりです。

新政権への穏健派タリバン勢力の参加というのは模索されているとは思っていましたが、“閣僚や官僚など「政権の7割」を移譲”というのは、“本当かね・・・?”といった感じです。
7割を移譲すれば恐らくその後は実質的に殆どをタリバン側が掌握する体制になる、全面的移譲に近い内容ではないでしょうか。

こういう案でしか出口が探せないというのは、“いよいよ追い込まれたのかな・・・”との感があります。
そしてその案すらタリバン側が拒否するというのは、今後の展開への自信でしょうか。
タリバン側は最高指導者オマル師も参加して三月中旬に幹部会議を開いて提案を検討しましたが、これまで同様“米軍撤退”要求を貫くことで一致したそうです。

殆ど表に出てこないオマル師は一体どこに、どういう形で潜んでいるのでしょうか?
“2006年初頭にアフガニスタン国軍により拘束されたタリバンのムハマド・ハニーフ報道官の供述に拠れば、オマルは現在パキスタン軍の保護下にあり、パキスタン国内の安全な場所に滞在しているという。”【ウィキペディア】とも言われていますが、パキスタンの内情を含めよくわからない世界です。

それにしても“カルザイ現政権が1割”とは・・・、いろいろ汚職等の問題が多いカルザイ政権ではありますが、カルザイ大統領はこうした交渉を了承しているのでしょうか?
また、“残りを他の各グループが担う”とのことですが、それで収まるのでしょうか?
かつての軍閥勢力が現在どのような状況にあるのか知りませんが、再び内戦へという懸念はないのでしょうか?
まあ、アメリカですら押さえ切れなかったタリバンですから、多少の抵抗があっても敵ではないのかもしれませんが。

なお、昨年伊藤和也さんを拉致した犯人は「ヒズブ・イスラミ」のメンバーであったと言われています。
“ヒズブ・イスラミとは、ソ連軍と戦ったムジャヒディン(イスラム戦士団)各派のひとつで、指導者のグルブッディン・ヘクマティアルは、1989年のソ連軍撤退後カブールに成立した連立政府の首相だった人物だ。ヘクマティアルは1998年にタリバンが全土掌握した頃から国外に亡命していたが、タリバン政権崩壊後は帰国してヒズブ・イスラミの活動を再開させていたという。アフガン情報筋によると、タリバンとヒズブ・イスラミは米国に支えられたカルザイ政権打倒を共通の目標に掲げ、共闘関係にあるという。両者ともアフガニスタンとパキスタンの国境沿いに古くから住むパシュトゥン人部族集団を基盤にしている”【08.9.26 伊藤力司 リベラル21】

いくつもの“???”が伴う話ですが、仮にタリバン政権復活やむなしということであれば、一番気懸かりなのは、女性問題にみられるような人権に関する価値観の違いです。

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パキスタン  イスラム武装組織との和平協定破棄と公開女性むち打ち刑

2009-04-11 14:50:22 | 国際情勢

(パキスタン-アフガニスタン国境の山岳地帯 “flickr”より By stvno
http://www.flickr.com/photos/stvno/3116044049/)

【次々と和平協定】
アフガニスタンのタリバンなど反政府勢力の活動を支える要になっているのが、パキスタン北西部の部族支配地域や北西辺境州スワート地区などのアフガニスタン国境隣接地域と見られています。
そのパキスタンの国境隣接地域では、今年2月、これまでパキスタン政府と戦闘を行ってきた武装組織が次々と政府側との和平協定を結びました。

その先陣をきったのが、北西辺境州スワート地区の武装勢力で、2月16日に同地区へのイスラム法の導入を条件に政府側と和平協定締結で合意しました。
スワート地区では、政府軍・武装勢力双方の激しい戦闘が続き、学校や病院は閉鎖され、住民の生活は破綻、昨年11月のインド・ムンバイ同時テロ事件後、政府軍はインドとの軍事的緊張を背景に戦闘部隊を縮小して劣勢となり、武装勢力が地区の9割を実効支配。住民は武装勢力支持へと傾いているとも報じられていました。【2月17日 毎日】
2月21日には、16日の合意内容を更に進めた“恒久停戦”で合意したことも報じられています。

政府側としては武装組織との和平により治安悪化をくいとめる狙いがあり、パキスタンの主要メディアも「住民の生活を守る最善策だ」などと合意を支持しています。
しかし、パキスタン政府との戦闘を停止した武装勢力側はアフガニスタンでの活動を強化するものと見られており、アメリカはこれを強く警戒、越境ミサイル攻撃を継続しています。

スワート地区での和平合意は昨年5月に続き2回目。
前回は、アメリカの圧力を受けたパキスタン政府がイスラム法導入の協定内容を守らなかったことなどから、8月に破棄されています。
今回合意については、ザルダリ大統領が停戦状況を見極めた上で署名し、発効する・・・ということでしたが。

【協定破棄 アメリカの圧力とむち打ち刑】
****パキスタン:スワート武装勢力が和平破棄 戦闘再開の恐れ*****
パキスタン北西辺境州スワート地区の武装勢力が、政府側との和平破棄を通告し、戦闘再開の恐れが高まっている。武装勢力は、2月に政府側と締結した和平合意の発効に必要な署名をザルダリ大統領が棚上げしていると非難している。
ザルダリ氏が応じないのは、和平に反発する米国の圧力や、和平条件にあるイスラム法導入で人権侵害が起きるとの西側諸国の懸念が背景にある。戦闘が再開されれば住民生活は再び破壊され、貧困が深刻化するのは確実だ。

武装勢力の代理人は9日、「大統領が約束を守らないため、我々は(停戦監視区域から)引き揚げる」と語り、和平破棄を警告した。和平交渉を担ってきた州政府の政権党「アワミ国民連盟」も、「大統領が署名しなければ(ザルダリ氏が率いるパキスタン人民党との)連立関係を解消する」と通告。新たな政局問題に発展する可能性も高まっている。

スワートは、ガンダーラ仏教遺跡群で知られる世界的観光地だったが、07年夏に本格化した政府軍の武装勢力掃討で観光客は途絶えた。地元には「停戦が最大の貧困対策」との思いが強く、州政府の求めに中央政府が和平合意に応じ、政府軍は軍事作戦を中止した経緯がある。
しかし、停戦によって武装勢力がアフガニスタンで対米攻撃を強めると懸念する米国は、和平に反発。オバマ米大統領は3月発表のアフガン包括戦略で、パキスタンの民生支援を打ち出す一方、掃討活動の強化を求めた。
さらに4月上旬、イスラム法が禁じる「姦通(かんつう)の罪」を犯したとして武装勢力が女性を公開むち打ちするビデオが流出し、西側諸国から和平への懸念が高まった。
ザルダリ氏を批判する武装勢力は、和平条件にある武装解除に応じる気配を見せず、政府側との相互不信を生んでいる。反政府色を強める武装勢力は、首都イスラマバードがある東側へも影響力を伸ばし始めており、近い将来、首都が戦場化する恐れもある。【4月10日 毎日】
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【漂流するパキスタンの政治】
ザルダリ大統領は、チョードリー前最高裁長官の復職を認めざるを得なくなったことから、自身の汚職に関する問題も再度表面化することが予測されています。
また、前長官の復職問題で政権を揺さぶるシャリフ元首相の影響力が増しており、与党内でも求心力を失いつつあるとも言われています。
更に、この北西部国境隣接地域での和平協定をめぐる国民の反米感情とアメリカの要請の板ばさみ・・・。
八方塞りの状態にも思えます。

こうした機能麻痺にも見えるパキスタンでは、他の分野での政治・行政はどうなっているのでしょうか?
また、この国は核保有国で、しかも、もうひとつの核保有国インドとかねてより対立関係にあります。
パキスタンの不安定化の影響はアフガニスタン問題だけではありません。

【「少女は罰を受けなければならない」】
上記記事にある“武装勢力が女性を公開むち打ちするビデオ”の件は、4月5日ブログ「イスラム法による司法、公開女性むち打ち」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090405)でも取り上げました。
その後の続報では次のように報じられています。

****タリバンの恐怖 パキスタン衝撃 少女むち打ち映像****
パキスタンの北西辺境州のスワト地区で、17歳の少女が、夫でもない男性と家にいたのはイスラムの教えに反するとして、イスラム原理主義勢力タリバンのメンバーからむち打ちを受ける場面がテレビで放映され、国内に衝撃が広がっている。スワト地区では州政府と武装勢力の合意によりイスラム法が導入され、市民はタリバンの勢力拡大を懸念しており、むち打ちの映像をその脅威と受けとめているようだ。
映像では、大勢の男性が取り囲む中、2人の男性に上半身と下半身を押さえられた少女が、もう1人の男性からむちを打たれ、「やめて」と懇願する様子などが映し出されている。
タリバン側は事実を認めたうえで「少女は罰を受けなければならない」と、むち打ちを正当化している。むち打ちの理由をめぐっては、ある少年が少女に求婚したが、少女の父親が拒否したため、それに対する報復との説などもある。ただ、真相は不明だ。

一部の報道によると、むち打ちの様子は携帯電話で撮影され、テレビでも繰り返し放映された。世論の反響は大きく、このため中央政府は、北西辺境州への権限が及ばないのにもかかわらず、地元政府などに事実関係の調査を指示した。最高裁も6日、関係者から事情を聴いたもようだ。
スワト地区では、イスラム武装勢力による治安の悪化が著しく、地元政府は武装勢力側が求めるイスラム法の導入を受け入れ、これと引き換えに、2月に和平合意を結んだ。地元政府と武装勢力は「映像は1月の出来事だ。和平合意を妨害しようとする勢力の謀略だ」と反発している。【4月7日 産経】
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個人的には、文化・宗教の違いの問題かとも思うものの、こうした行為に対する強い拒否感を感じて4月5日ブログを書いたのですが、同じような違和感は欧米諸国だけでなく、パキスタン国内世論にもあるようです。
地元政府と武装勢力は“謀略だ”と主張していますが、今後イスラム法による支配が行われた場合、こうしたことは起きないのでしょうか?
少なくとも、アフガニスタンのタリバン支配下では、日常茶飯事になるのでは?

【メスード司令官 ISI】
パキスタン部族支配地域と北西辺境州スワート地区を拠点に武装闘争を展開する組織は。各地に独立した勢力がありますが、うち北、南ワジリスタン管区を統治するベイトラ・メスード司令官が、他地域・地区の計6人の司令官を傘下におさめ、反米・反政府闘争を指揮しているとか。(昨年10月頃には死亡説も流れましたが。)
なお、いずれの司令官も、タリバン最高指導者オマル師支持を公言し、タリバンとの関連が深いとも。【2月26日 毎日】

メスード司令官はブット元首相殺害テロの首謀者とも言われていますが(真偽はともかく)、最近では3月30日、ラホールの警察学校襲撃事件の黒幕とも言われています。
ラホールの事件後、メフスードを名乗る人物が電話取材で「われわれはもうすぐワシントンに攻撃をしかけ、世界中を驚かす」と語っています。【4月15日号 Newsweek】

あまり信憑性は感じられませんが、メスード司令官等の武装勢力は今なおパキスタン情報機関・軍統合情報部(ISI)の一部から支持を受けているともよく言われます。
ISIはかつてタリバンを育成したことで知られていますが、今もイスラム武装組織と一部がつながり、そのように言われながら粛清もされずに活動している・・・このあたりがパキスタンのよくわからないところです。
アフガニスタンからのアメリカ撤退後をにらんで、タリバンや武装勢力との関係を保持しているとも言われますが。


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