孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  「プリゴジンの乱」でアフリカ・中東でのワグネルの活動は?

2023-07-11 23:25:38 | ロシア


(【6月28日 NHK】)

【はっきりしない反乱後のプーチン大統領とプリゴジン氏の関係】
プリゴジン氏率いる民間軍事会社「ワグネル」の武装反乱・・・「プリゴジンの乱」は一体何だったのか、どうして唐突に収束したのか、収束時にどのような「取引」がなされたのか、プリゴジン氏及びワグネルは今後どうなるのか、ロシア政治・プーチン体制に及ぼす影響はどの程度のものか・・・・等々、わからないことが多いなかで、昨日・今日も新たな事実が報じられています。

****プリゴジン氏、反乱後にプーチン氏と会談 露報道官「忠誠示した」****
ロシアのペスコフ大統領報道官は10日、プーチン大統領と武装反乱を起こした露民間軍事会社「ワグネル」トップのプリゴジン氏が反乱収束後の6月29日に、モスクワの露大統領府で3時間にわたり会談したと明らかにした。タス通信が伝えた。

ペスコフ氏によると、会談にはプーチン氏に招待されたプリゴジン氏やワグネルの指揮官、同社経営陣ら計35人が出席。

プリゴジン氏らは6月23〜24日の反乱に関する自身の見解を述べたほか、プーチン氏への忠誠を示し、「今後もロシアのために戦う」と表明したという。ペスコフ氏は会談に関するその他の詳細にはコメントしないとした。【7月10日 産経】
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プーチン大統領がプリゴジン氏を「裏切り者」と非難してからわずか数日後に両者の会談が行われていたも驚きですが、そのことをロシア政府が公式に認めたことはもっと驚きです。

****プーチンが「裏切り者」のプリゴジンと会談していたことで深まった反乱の謎****
(中略)
かつてイギリスの国防担当大使館員としてロシアに駐在していたジョン・フォアマンは、「会談には、中世で言うところの宮廷儀礼としての意味があったのだと思う。反乱を起こしたが敗北したワグネルが君主の前に膝をつき、反乱は君主に対するものではなかったと説明して恩赦を請うたのだろう」と述べた。「プーチンは寛大なところをアピールし、プリゴジンの反乱に決着をつけることもできる」(中略)

米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」デジタルフォレンジック研究所の非常勤研究員で、ロシアの偽情報や民間軍事組織についての研究を行っているルーカス・アンドリウカイティスは(中略)「プーチンは大丈夫だという神話を維持するためにロシア政府が考えたことだろう」と分析した。(後略)【7月11日 Newsweek】
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更に、「プリゴジンの乱」がかなり危険な状態にあったことを示す状況も報じられています。

****ワグネル、反乱時にロシア核兵器貯蔵基地に接近か****
ロシアの民間軍事会社ワグネルが6月24日の反乱で首都モスクワへ向けて北上していた際、複数の車両が東へ外れてロシア軍の核兵器貯蔵基地「ボロネジ45」の方向に向かったことが、インターネットに投稿された動画や現地住民の話で明らかになった。

ワグネル車両の軌跡は同基地から約100キロメートルの地点で途絶えた。ロイターは、その後に何が起きたのかを確認できなかった。西側の当局者らは、ロシア軍が貯蔵する核兵器が反乱の際に危険にさらされることはなかったと繰り返し述べている。

だがウクライナ軍情報機関トップのブダノフ国防省情報総局長はロイターの単独インタビューで、ワグネルの戦闘員はその後も進行し、核兵器貯蔵基地に到達したと話した。ワグネルの意図は、反乱の「勝算を高める」ために旧ソ連時代の小型核兵器を抑えることだったと説明した。

ブダノフ氏によると、戦闘員らは核兵器貯蔵施設のドアの前まで到達したが、ドアが閉鎖されていたため中に入れなかった。同氏はこうした説明の証拠を示さず、この件を巡り米軍その他の同盟国とどのような話し合いがあったかについてもコメントを避けた。戦闘員がその後撤収した理由も説明しなかった。

ロシアの占領下にあるウクライナ東部の消息筋は、この事態をロシア政府は憂慮し、ベラルーシのルカシェンコ大統領を仲介役とする反乱終結を後押しする要因になったと述べた。

米国家安全保障会議(NSC)のホッジ報道官はこの件について「裏付けを得られていない。いずれの時点でも核兵器や核物質が危機に瀕していたと示す情報は全くなかった」と述べた。【7月11日 ロイター】
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ドアが閉鎖されていたため中に入れなかった・・・・ソ連時代の小型核兵器を奪取することを狙っていたなら、ドアが閉まっていたからといって諦めることはないでしょう。爆破してでも押し入るのでは。

真相はわかりません。事実なら、反乱軍が核兵器を手にする可能性があったということになります。

【とりあえず急務となるアフリカ・中東で活動するワグネルの処遇】
まだまだわからないことだらけですが、藪の中のロシア国内の事情はともかく、さしあたりの問題(かつ、外部の人間にも比較的わかりやすい問題)はワグネルがロシア正規軍の代わりに担っていたアフリカや中東での役割が今後どうなるのか?ということ。

反乱を起こした当事者が、そのまま海外で「ロシア」として活動するというのは、常識的にはあり得ないことです。

****ワグネル反乱で影響必至の中東・アフリカ情勢****
ロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱は同組織が活動を拡大してきた中東やアフリカにも少なからぬ影響を与えるのは必至だ。すでにシリアではロシア軍によるワグネル戦闘員の拘束も始まっている。米国はこの混乱を同地域で低下した存在感を回復するチャンスとみており、今後ロシアとの緊張が高まりそう。

先兵として十数カ国で活動
ワグネルは中東・アフリカ地域への進出とともに成長した。その過程を探ると、ロシアを再び世界の大国にするというプーチン大統領の野望を実現するため、ロシア軍の影の部隊、先兵として各地に浸透していった実態が浮かび上がってくる。

情報を総合すると、ワグネルが関与した同地域の国は18カ国にも上り、現在も2万5000人前後が駐留しているとみられている。(中略)

元々、中東・アフリカにはロシアの幾つかの民間軍事会社が進出していたが、ワグネルとしては15年、ロシアがシリアのアサド政権を救うため軍事介入してから本格化した。プーチン氏との親密な関係をテコにワグネルをロシア軍の別動隊として拡大させていったのが今回の反乱の首謀者であるプリゴジン氏だ。

内戦や紛争につけ入って独裁者らの警備を担当し、時には反政府勢力の掃討作戦に参加し、数百人規模の虐殺にも加担したと非難されてきた。

同氏は17年には、北アフリカのリビアに部隊を派遣し、東部を支配する「リビア国民軍」のハフタル将軍を支援、国連の手助けで発足した中央政府への攻撃に加わり、スナイパー部隊を動員した。リビアへの進出に当たってはロシア軍が海軍の空母にハフタル将軍を招待するなど厚遇、プーチン政権とワグネルが一体となって作戦を推進していることが浮き彫りになった。

その後はスーダンやモザンビーク、中央アフリカ、西アフリカのブルキナファソ、マリなどに部隊や顧問団を派遣、警備や軍隊の訓練、反政府勢力との戦闘など、活動を広げていった。

戦闘活動に現時点も従事していると見られているのはマリと中央アフリカだ。ワグネルの行動の多くは秘密裏に行われ、場合によって報酬は金やダイヤモンド、ウラン鉱石の採掘権という形で与えられた。

こうしたワグネルとアフリカ諸国との密接な関係はウクライナ侵攻を非難する国連総会決議の採決にも如実に表れている。侵攻当初のロシア非難の国連決議は圧倒的多数で可決されたが、棄権票を投じたアフリカ諸国のうち、半数ほどはワグネルの進出国だった。

各地で明らかになっている蛮行
ワグネルの戦闘員には、今回の反乱前から元囚人が多いとされる。プリゴジン氏自身も強盗や詐欺の罪で服役した過去がある。

国連などの調査によると、ワグネルの作戦の中で、最も問題視されているのがマリでの住民虐殺への関与疑惑だ。ニューヨーク・タイムズなどによると、昨年3月、政府軍がマリ中央部のモウラでイスラム過激派の掃討作戦を展開したが、約400人の住民が虐殺された。

軍はヘリコプターからの無差別乱射や住民らの処刑、略奪などを5日間にわたって続けた。政府軍にはワグネルの戦闘部隊も参加していたことが目撃者の証言から明らかになっている。  

マリは元々フランスの植民地だったこともあり、過激派掃討のために仏軍が派遣されていた。しかし、フランスとマリ政府との関係が悪化したため仏軍が撤退、この穴を埋めるようにしてワグネルが進出した。同国ではこれまでにモウラの住民虐殺も含め政府軍の作戦などで約500人が犠牲になっている。  

中央アフリカでもワグネルの蛮行が明らかになった。国連の調査団によると、ワグネルは2018年にトゥアデラ大統領の警備のため契約を結び、イスラム勢力との戦闘に加わった。ある時にはワグネルの戦闘員がモスクに侵入し、祈っていたイスラム教徒住民らをその場で射殺したという。(中略) 

反乱のきっかけはシリア情勢
そもそもワグネルの反乱はプリゴジン氏とショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長との確執が原因の一つとされているが、その始まりはシリアだった。(中略)

問題は今回の反乱失敗の影響が中東・アフリカ諸国を大きく揺さぶるのかどうかだろう。結論から言えば、ロシアにとってこれら地域でのワグネルの存在はロシアの戦略的国益に多大に寄与しており、故にプーチン政権がワグネルの活動を縮小する可能性は小さいのではないか。  

しかし、混乱が生じることは否めない。ロシア軍がワグネルを吸収するという話も出ているが、米専門誌によると、シリアではワグネル戦闘員の一部が駐留ロシア軍に拘束され始めている。しかもロシア副外相が6月26日にアサド・シリア大統領と会談、軍の同意なしにワグネル戦闘員を国外に出国させないよう要請したとされ、ワグネル側には動揺が広がっているようだ。

米露の直接衝突の懸念高まる
米軍関係者らによると、ワグネルがロシア軍に統合されると、シリアでは〝緩衝勢力〟がいなくなり、ロシア軍と米軍が直接衝突するリスクが高まるのではないかという。ロシア軍機による米軍支配空域の侵犯が1日3、4回にも上っており、米側は懸念を深めている。  

しかし、バイデン米政権はワグネル反乱の混乱について、中東・アフリカ地域で米国が存在感を復活させるための「巻き返しの好機」と見なしており、米露の対決が今後、エスカレートする恐れがありそうだ。【7月4日 WEDGE】
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シリアでは〝緩衝勢力〟がいなくなり、ロシア軍と米軍が直接衝突するリスクが高まる・・・というシリア情勢については、すでにロシア軍の“危険な”行動をアメリカは非難しています。

****ロシア軍機がシリア上空で米軍無人機を連日妨害 過激派組織「イスラム国」掃討作戦中****
ロシア軍の戦闘機が中東シリアの上空でアメリカの無人偵察機に対し、照明弾を投下したとアメリカ空軍が明らかにしました。

新たに公開された映像には、左下に映るアメリカの無人偵察機の近くでロシア軍の戦闘機が複数の照明弾を投下する様子が捉えられています。

アメリカ空軍によりますと、現地6日、過激派組織「イスラム国」の掃討作戦でシリア上空を飛行していたアメリカ軍の無人偵察機に対し、ロシア軍機SU−34など2機が異常接近して照明弾を投下し、進路を妨害したということです。

シリア上空では5日にも、ロシア軍機が「フレア」と呼ばれるおとりの火炎弾を投下し、アメリカの無人機を妨害する事例があったばかりで、アメリカ空軍は「プロ意識を欠いた危険な行動だ」と非難しています。【7月7日 テレ朝news】
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そのシリアでは・・・
*****ワグネル統制強化、中東・アフリカで懸念高まる****
先月のロシアでの反乱の際、シリアに駐留していたワグネル戦闘員は、港湾都市ラタキアでロシア国防省が運営する空軍基地に入ろうとしたが、入れなかったという。

現地住民の話を聞いたという元シリア政府高官のバッサム・バラバンディ氏が明らかにした。同氏およびシリアを注視している欧州の政府関係者によれば、シリアで主に単独行動していたワグネル幹部らは、その基地から出られないようになったという。

バラバンディ氏によれば、ロシア国防省はシリアの都市パルミラにある油田・ガス田からワグネル戦闘員を排除し、協力関係にあるISISハンターズを代わりに配置したという。【7月10日 WSJ】
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【アフリカで歓迎されているワグネル 人道上の問題も】
アフリカにおけるのワグネルの活動が目立つのが西アフリカのブルキナファソ、マリ。そして中央アフリカです。
これらの国ではワグネルは救世主的に歓迎されています。

***アフリカのマリ、熱狂的な「親ロシア」の実態 暫定政権、危うさも****
ウクライナ侵攻で欧米から厳しい制裁を科せられたロシアは、「グローバルサウス」(新興・途上国)との関係強化を重視している。そのロシアと、アフリカで最も親密な国が西部マリだ。

ロシアはマリへ民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員や兵器を送り、マリ側はロシア支持を鮮明にする。露国内で6月下旬に起きたワグネルの反乱後も両国の蜜月は揺らいでいない模様だ。現地で「親ロシア」の実態を探った。

6月16日、首都バマコのスタジアムで開かれた暫定政府の憲法改正案を支持する市民集会。「協力 マリ、ロシア」と書かれたプラカードと露国旗カラーの横断幕を掲げる若者らが「ウィ!(イエス)」と気勢を上げながら入場してきた。

会場では、プーチン露大統領とマリのゴイタ暫定大統領を「英雄」として並べたポスターも販売。両国旗を掲げたティジャニ・カンさん(55)は「ロシアがなければ今のマリは存在しない。ロシアはマリに自由をもたらす」と話した。

集会はロシアとは直接関係ないのに、なぜ人々は熱狂的に親露姿勢を示すのだろうか。実は、マリでは近年、北部を中心にイスラム過激派の動きが活発だ。2012年には北部の主要都市を占拠し、当時の政府は旧宗主国フランスに助けを求めた。

介入した仏軍は1カ月ほどで各都市を奪還していったが、過激派は広大な国土の地方で抵抗を続けた。10年近く過ぎても治安は改善せず、政府と仏軍に対する不満が高まった。

これを巧みにくみ取ったのが軍出身のゴイタ氏だ。クーデターで21年6月に政権を奪うと、対露関係強化による治安改善の方針を打ち出す。ロシアからヘリコプターや武器を大量購入し、ワグネル戦闘員は「指導員」として受け入れている。ロシアの軍事支援は対テロ作戦で一定の成果を出し、ゴイタ氏は「ロシアと共に戦う強いリーダー」の印象を国民に植え付けた。仏軍との連携は打ち切った。

暫定政権の親露路線は国民の圧倒的な支持を得ている。ドイツのフリードリヒ・エーベルト財団による今年2月の世論調査(対象2295人)では、70%が「3カ月前より治安が改善した」と評価し、98%はゴイタ氏に「非常に満足」か「満足」と回答。91%が「ロシアが治安対策を助けてくれると確信」していた。

フランスは海外支援で人権などの価値観も重視するが、強権国家のロシアは一切こだわらない。親露路線で支持を伸ばすマリの政治団体「イエレウォロ」の広報担当シリキ・クヤテ氏は「フランスは何事も押し付けてくる。対露関係では我々に選択の余地がある」と語る。ただ、「ロシア頼み」には危うさもある。テロ対策の最前線からは深刻な人権侵害の疑いが報告されている。【7月4日 毎日】
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【中央アフリカではワグネル撤収の動きも 何らかの「再編」か】
フランス軍に代わってロシア・ワグネルが・・・という構図は中央アフリカでも同じです。
ロシアは軍事支援の見返りとして、「金、ウラン、ダイヤモンドへのアクセスを得た」とも言われています。金やダイヤモンドなどの鉱山にはワグネルのグループ会社が参入し、その利益はワグネル幹部やロシア政府にも流れていたとも。

その中央アフリカでは、ワグネル戦闘員が撤収しているとの情報が。

****「ワグネル」中央アフリカから撤退か 戦闘員が大勢出国の情報 組織内で再編の可能性***
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員らが中央アフリカから撤退しているとの臆測が出ています。組織内で、なんらかの再編が行われている可能性があります。

ロイター通信などによりますと、中央アフリカで、大勢のワグネル戦闘員が飛行機に乗って飛び立ったとの報道が相次いでいるということです。匿名の軍関係者が、数百人規模のワグネル戦闘員が最近、出国したことを認めたということです。

中央アフリカ大統領府の報道官は8日、「撤退ではなく、人員の交代だ」と報道を否定しています。

中央アフリカでは反政府軍の鎮圧を支援するため、ワグネル戦闘員が2018年ごろから活動しており、直近では1900人ほどの傭兵(ようへい)が駐留していたとみられます。

ワグネルは中央アフリカ政府を支援する一方で、現地で金の採掘権などを得ているとされ、アメリカは先月、違法な資金調達に関与した疑いで現地の企業数社に制裁を科しました。【7月9日 テレ朝news】
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ワグネル戦闘員撤収の動きについては、“フランスの治安筋はこの動きについて、「今後数か月の給与支払いに対する強い不透明感と、ワグネルに同行している家族が報復を受ける可能性への懸念」が原因との見解を示した。ワグネルの隊員は、民間人に戻るか、ロシア軍に入隊するか、ロシアの他の民間企業に転職するかの選択を迫られているという。”【7月8日 AFP】とも。

従来どおりプリゴジン氏のもとでのワグネルが・・・・という訳にもいかないでしょうが、ロシアとしてもアフリカにおけるワグネルのはたしてきた役割を放棄することもできないので、何らかの「再編」を行うのでしょう。プリゴジン氏の影響力がどうなるのかはわかりませんが。

プーチン大統領と「裏切者」プリゴジン氏との関係がはっきりしないのも、こうした今後の海外におけるワグネルをどうするのか?という問題があるせいでしょう。

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スウェーデンNATO加盟  11日からのNATO首脳会議での結着に「期待」 水差すコーラン焼却

2023-07-10 23:41:28 | 欧州情勢

(ストックホルムで発生した反トルコデモ(2023.1.21)。NATO加盟問題を機にスウェーデンでは急速に反トルコ感情が高まっているが、その背景には反移民の機運の高まりもある。【7月4日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】)

【スウェーデンのNATO加盟 協議のヤマ場に 注目されるトルコ・エルドアン大統領の対応】
周知のように、スウェーデンのNATO入りには全加盟国の批准が必要ですが、トルコとハンガリーがまだ手続きを終えていません。トルコは、テロ組織と見なす非合法組織クルド労働者党をスウェーデンが支援していると非難し、テロ対策への協力を加盟の条件としています。

この問題で取り上げられるのはもっぱらトルコ・エルドアン大統領の対応で、ハンガリーについてはあまり取り上げられることがありません。トルコにのように明確な反対理由があるようにも思えませんが、EU・NATOの異端児オルバン首相は乗り気でないよう。そのあたりは、トルコの話が長くならなければ最後に触れたいと思います。

いずれにしても、トルコとの話がまとまれば、オルバン首相一人が抵抗するということはなさそうにも思えます。
そこで、トルコの話。

11〜12日に行われるNATO首脳会議を控えて、トルコの対応がどうなるのか・・・一つのヤマ場にさしかかっています。(この記事をアップする頃には、何らかの方向性が出ているかも・・・)

****スウェーデンとトルコ首脳会談へ NATO加盟を協議、ヤマ場に****
トルコのエルドアン大統領とスウェーデンのクリステション首相は10日、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれるリトアニア・ビリニュスで会談する。

トルコがスウェーデンのNATO加盟への反対を取り下げ、容認に転じるかどうかが焦点。注目の加盟協議はトップ会談という最大のヤマ場を迎えた。

NATOのストルテンベルグ事務総長も会談に参加。トルコが容認すれば、スウェーデンの加盟が事実上決まる。NATOの防衛力が強化され、ロシアに対する強力なメッセージとして11〜12日に行われる首脳会議への弾みとなる。一方で先送りとなれば、NATOの結束に打撃となる。【7月10日 共同】
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両国は6日にも外相レベルで会談していますが、トルコの合意を得られず、上記10日の首脳会談に持ちこしています。

****スウェーデン、トルコ説得できず NATO加盟 10日首脳会談に持ち越し****
スウェーデンは6日、北大西洋条約機構(NATO)加盟を巡り反対姿勢を貫くトルコを説得できずに終わった。11─12日にリトアニアで開催されるNATO首脳会議までの合意が期待されており、結果は両国が週明け10日に行う首脳会談に持ち越されることになった。

NATOのストルテンベルグ事務総長はNATO本部で両国の外相と会談後、スウェーデンの加盟は「手の届くところにある」という認識を示した。(後略)【7月7日 ロイター】
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トルコ・ハンガリーを除くNATO加盟国は、この7月のNATO首脳会議でスウェーデン加盟への合意を取り付けたいという期待があります。

****スウェーデン加盟実現に期待 NATO首脳会議で****
NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長はスウェーデンについて、来週開かれるNATO首脳会議で「前向きな決定が下される可能性がある」と述べて、加盟実現に期待感を示しました。

ストルテンベルグ事務総長 「いよいよスウェーデンがNATOに加盟する時が来た。来週の首脳会議で前向きな決定が下される可能性がある」

ストルテンベルグ事務総長は6日、スウェーデンの外相と加盟に難色を示すトルコの外相と協議しました。

その後の記者会見で、ストルテンベルグ氏は「協議で良い進展があった」としたうえで、来週、リトアニアで開かれるNATO首脳会議で「前向きな決定が下される可能性がある」と述べて、加盟実現に期待感を示しました。

トルコはスウェーデンに対し、加盟承認の条件としてテロ対策への協力を求めていますが、トルコのフィダン外相は「スウェーデンは対テロ法をすぐに実行に移すべきだ」と話すなど、慎重姿勢を崩しませんでした。(後略)【7月7日 TBS NEWS DIG】
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アメリカも「期待」では同様で、トルコ・エルドアン大統領への働きかけを行っています。

****バイデン氏、スウェーデンのNATO加盟「できるだけ早く」とトルコ大統領に意向伝える****
米国のバイデン大統領とトルコのタイップ・エルドアン大統領は9日、電話で会談し、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟問題について協議した。米ホワイトハウスによると、バイデン氏は「スウェーデンをできるだけ早くNATOに迎え入れたい」との意向を伝えた。

スウェーデンの加盟はトルコが議会批准を保留しているため実現していない。トルコ側の発表によると、エルドアン氏は、トルコがテロ組織とみなすクルド勢力が「デモを自由に続けている」ことを理由にスウェーデンへの不満を示した。両氏は11、12日にNATO首脳会議が開かれるリトアニアの首都ビリニュスで会談することで合意した。

米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官は記者団に、電話会談が約45分間に及び、バイデン氏はトルコにF16戦闘機を売却する方針に変更はないと伝えたことを明らかにした。米議会ではトルコへのF16売却に反対論が出ている。【7月10日 読売】
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もちろん、表向きはスウェーデンのNATO加盟問題とアメリカのF16売却問題は別個の問題です。
「2カ国のNATO加盟とF-16の購入という2つの独立した問題を、それぞれ条件にすることは適切ではないしフェアではないでしょう」(トルコのメヴリュット・チャヴシュオール外務大臣)【2月21日 ARAB NEWS】

しかし、実際はトルコ側としては、スウェーデンのNATO加盟に同意するときは“見返り”を最大化し、「なるべく高く売りつけよう」としているのは間違いないでしょう。

一方、エルドアン大統領からは、スウェーデンのNATO加盟問題とトルコのEU加盟問題を絡める発言も。

****トルコ大統領、EU加盟を要求 スウェーデンNATO加盟巡り****
トルコのエルドアン大統領は10日、同国の議会がスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を承認する前に、欧州連合(EU)はトルコのEU加盟に道を開くべきだと述べた。

リトアニアで開催されるNATO首脳会議への出発を控えた大統領は、スウェーデンの加盟は昨夏の首脳会議で合意した内容の履行にかかっているとし、トルコの譲歩を期待すべきでないと述べた。

ウクライナとロシアの戦争が終結すれば、ウクライナのNATO加盟プロセスも容易になるだろうと指摘した。

エルドアン大統領は、17日に失効するウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する合意について、延長についてロシアのプーチン大統領と協議する方針を示した。またプーチン大統領は8月にもトルコを訪問するとの見通しを示した。【7月10日 ロイター】
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トルコの長年の悲願にもかかわらず、トルコの人権状況などを問題視するEU側によって後回しにされ、後から加盟を申請した国に追い越されることにもなっています。

EU側の本音としては、難民問題で防波堤となるトルコとの決裂は避けたいものの、イスラム主義を強めるトルコ加盟を認める意思はまったくないでしょう。

エルドアン大統領もそうしたEU側対応に憤慨し、2017年当時にすでに「EU加盟はもはや必要ない」と開き直る事態にもなっており、現実的交渉議題からは外されています。

*****難航するEU加盟 トルコ大統領「もはや必要ない」*****
トルコのエルドアン大統領は(2017年10月)1日、難航するEUへの加盟交渉について「我々から交渉を打ち切るつもりはない」としたうえで、「もはやEUの一員になる必要はない」と述べ、加盟断念もやむなしとの考えを示しました。

トルコはEUの前身であるEEC(欧州経済共同体)の時代から加盟を希望し、EUへの加盟交渉は2005年から続いています。しかし、人権問題などを理由にEU側は難色を示していて、交渉は遅々として進んでいません。

近年、トルコはEU側と距離を置く一方で、ロシアやイランとの関係を強化しています。

難民流入問題で防波堤としての役割を担うトルコと、それに依存するEU側とで関係が悪化すれば地域の安全保障にも悪影響を及ぼす恐れがあります。【2017年10月1日 テレ朝news】
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エルドアン大統領としてもEU加盟問題が今前進するとは思っていないでしょう。そうした因縁の問題を改めて持ちだしたのは、“ハードルを高くするため”あるいは“嫌がらせ”でしょう。

【「期待」に水を差すコーラン焼却問題】
スウェーデン、ストルテンベルグNATO事務総長やバイデン大統領の「7月のNATO首脳会議で・・・」という期待に水を差す形になったのが、スウェーデンでのコーラン焼却問題。

****スウェーデン、NATO加盟へ視界不良 トルコが聖典焼却で硬化****
北欧スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟がなお難航している。同国の「対テロ協力」を承認の条件にする加盟国トルコが、スウェーデンで最近起きたトルコへの抗議デモを受け態度を硬化させたためだ。スウェーデンやNATOは11日のNATO首脳会議開幕までの加盟合意を目指すが先行きは不透明だ。(中略)

トルコがスウェーデンの加盟を拒むのは、トルコの非合法組織「クルド労働者党」(PKK)やそれに連なる「テロリスト」を支援しているとみるためだ。スウェーデンにはクルド系住民が多く暮らし、トルコのエルドアン大統領への抗議デモも頻発。そのためトルコ側はテロ対策の強化を求めていた。

スウェーデンはトルコの要望を受け6月1日、新たな反テロ法を施行した。過激派組織を支援などした個人に最高禁錮8年、テロ組織の指導者に終身刑を科す内容で、ビルストロム外相は「トルコの懸念を和らげるだろう」と歩み寄りを期待した。

エルドアン氏も5月末に大統領再選を果たし、態度を軟化させやすくなったとの見方もあった。

だが、法施行後もスウェーデンの首都ストックホルムではエルドアン氏への抗議デモが発生し、6月28日にはモスク(イスラム教礼拝所)前で男がイスラム教の聖典コーランを焼却。エルドアン氏は「テロリストのデモを許すなら、友好関係は決して築けない」と反発を強めた。(中略)

一方、東欧の加盟国ハンガリーもスウェーデン加盟の批准を保留中。欧州連合(EU)内で強権政治を批判されるハンガリーのオルバン首相は、スウェーデンがハンガリーの民主主義の健全性に関し「噓」を広めていると批判。

ハンガリーは経済的なつながりが強いトルコを重視しているともされ、ハンガリーのシーヤールトー外相は「トルコの姿勢に変化があれば(加盟の)手続きを遅らせない」と述べている。【7月5日 産経】
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ハンガリー・オルバン首相が重視しているのは、トルコというより、ロシアのプーチン大統領との関係ではないでしょうか。

それはともかく、コーランに火を付けたのはイラクから数年前に逃れてきた難民の男性。

****モスク前でのコーラン焼却デモを許可 スウェーデン警察****
スウェーデン警察はイスラム教の犠牲祭(イード・アル・アドハ)の3連休初日に当たる28日、首都ストックホルムの主要モスク(礼拝所)の前でイスラム教の聖典コーランを燃やすデモを許可したと発表した。

焼却に伴う治安上のリスクが懸念されるものの「現行法下で(デモ)申請の却下を正当化できる性質のものではない」としている。

スウェーデンでは今年1月にトルコ大使館の前でコーランが焼かれたことをきっかけに、数週間にわたる抗議デモが発生。スウェーデン製品のボイコットが呼び掛けられたり、トルコ政府の態度硬化で北大西洋条約機構加盟プロセスのさらなる停滞が生じたりした。

警察はその後の2月、治安上のリスクを理由に、トルコ大使館とイラク大使館の前で計画されていた個人と団体による二つのコーラン焼却デモを禁止した。しかし控訴裁判所は2週間前、この決定を退けた。

28日のデモを申請したのは、2月に個人によるデモを却下されたサルワン・モミカ氏で、申請書には「ストックホルムの大モスクの前で抗議し、コーランに関する自分の意見を表明したい。コーランを破って燃やす」と記している。

警察は28日、全国から警官を動員し、警備を強化すると発表。AFP特派員によると未明にはすでに数台のパトカーがモスク付近に駐車していた。

スウェーデンの政治家たちはコーラン焼却を批判はしているが、表現の自由の権利も断固擁護している。 【6月28日 AFP】
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「表現の自由」ということでは、禁止することもできない・・・悩ましいところ。
コーラン焼却事件に対するスウェーデン首相の姿勢は「合法だからといって、必ずしも適切だとは限らない」というもの。

****スウェーデン首相「他者侮辱する必要ない」 コーラン焼却デモ受け****
スウェーデンのウルフ・クリステション首相は6月30日、首都ストックホルムの主要モスク(イスラム礼拝所)前で行われたイスラム教の聖典コーランを燃やす抗議活動から距離を置く見解を示した。この抗議活動はイスラム世界の一部から反発を受けている。

中道右派のクリステション氏は「どんな結果を招くのか予測は難しいが、反省すべき人は大勢いると思う」「これは重大な安全保障上の問題だ。他者を侮辱する必要はない」と述べた。

イラク出身のサルワン・モミカ氏は6月28日、警察から事前に抗議活動の許可を得た上で、ストックホルム最大のモスク前でコーランを踏み付け、火を付けた。

警察が抗議活動を許可していたことについて、クリステション氏は「合法だからといって、必ずしも適切だとは限らない」と主張した。(後略)【7月1日 AFP】
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もっとも、控訴裁判所判断は政府の意向を受けたもので、こうしたコーラン焼却を認めたスウェーデン側の状況の背景には、スウェーデン政府・社会の右傾化があるとの指摘も。

“トルコ政府の神経をあえて逆なでするようなスウェーデンの対応は、昨年9月の選挙で保守派政権が発足したことに起因する。その中心にあるスウェーデン民主党は大戦期のナチスに起源をもち、移民排斥や同性婚反対を主張する、いわゆる極右政党だ。”【7月4日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】

“スウェーデンで今年1月に行われた世論調査では、約8割の回答者が「たとえNATO加盟が遅れても安易にトルコと妥協すべきでない」と応えた。つまり、スウェーデンでは党派を超えて反トルコ感情が強くなっているとみてよい。”【同上】

当然ながら、エルドアン大統領は態度を硬化させています。

****スウェーデンのNATO加盟努力、抗議活動で台無し=トルコ大統領****
トルコのエルドアン大統領は、同国がテロリストとみなす組織の支持者による抗議活動がスウェーデンで続いていることが、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟に向けた取り組みを台無しにしているという認識を示した。

トルコ大統領府によると、エルドアン大統領はオランダのルッテ首相との電話会談で「スウェーデンは反テロ法の改革など、正しい方向に向けた措置を講じている」と指摘しつつも、トルコがテロリスト組織とみなすクルド労働者党(PKK)の支持者が引き続き「テロ行為を称賛するデモを自由に組織しており、スウェーデンが講じた措置を無効にしている」と述べた。

11━12日にリトアニアで開催されるNATO首脳会談までにスウェーデンのNATO加盟に向けた道筋をつけることが期待されていたものの、トルコが首脳会議前に反対を取り下げるかどうかについてはなお不透明感が漂う。【7月6日 ロイター】
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上記のような“不透明感が漂う”中で行われる、10日のスウェーデンとトルコ首脳会談、11日からのNATO首脳会議・・・・どういう結論になるでしょうか。

【NATO首脳会議ではウクライナ加盟問題、日本連絡事務所開設問題も議題に】
なお、NATOに関しては、ウクライナがロシアとの戦争終了後の加盟を希望しており、今回の首脳会議で加盟時期に関する道筋を示すように求めています。

このウクライナ加盟に関しては、トルコ・エルドアン大統領はゼレンスキー大統領との会談で支持を表明しています。
一方、バイデン大統領は「まだNATO加盟の準備ができていないと思う」と「時期尚早」との考えを示しています。

NATO首脳会議では、フランス・マクロン大統領が反対しているNATOの日本連絡事務所開設問題も議題になる予定です。

****仏、NATO日本事務所に反対 マクロン氏、事務総長に伝達****
フランス大統領府は7日、北大西洋条約機構(NATO)が検討している日本連絡事務所の開設について、マクロン大統領がNATOのストルテンベルグ事務総長に反対の意向を伝えたと明らかにした。フランスが反対し続ければ開設が難しくなる。

日本事務所開設については、リトアニア・ビリニュスで11日から開かれるNATO首脳会議でも議論されるとみられる。

フランス大統領府当局者は7日、首脳会議を前に記者団に対し「NATOは『北大西洋』条約機構の略だ。条約の条文には北大西洋という地理的範囲が明記されており、こうした原則的な理由から賛成していない」と指摘した。【7月8日 共同】
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日本連絡事務所の開設には、中国の軍事的な台頭を念頭に、NATOと日本などアジア太平洋地域との連携を強める狙いがありますが、マクロン大統領は中国を過度に刺激し、緊張が高まるのを懸念しているとみらています。
実現には加盟国全部の賛成が必要ですので、フランスが反対する限り実現しません。

ということで、スウェーデン加盟問題を始め、注目される議題が多いNATO首脳会議です。
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ベトナム  中国との関係を重視しつつ、警戒感も 中国牽制でアメリカとの関係も強化

2023-07-09 23:11:41 | 東南アジア

(「果物の王様」と呼ばれるドリアンの消費大国・中国が、ベトナムやフィリピンからの輸入を相次いで許可するなど調達を拡大している。ベトナム政府は中国政府が将来、輸入規制で揺さぶりをかけるシナリオを警戒し、コメから転作しようとする生産者に「待った」をかけている。(中略)

ベトナムではコメなどから転作する動きが広がっているが、ベトナムメディアは3月、ベトナム政府が「際限のないドリアン生産」を警告したと報じた。ベトナム政府は「過剰供給など予期せぬ結果につながりかねない」と懸念しているという。

ベトナム政府が懸念する背景には、中国がこれまで政治的思惑から農産物輸入を突然停止するケースがあったことへの危機感がある。2021年には「害虫の検出」を理由として、台湾産パイナップルの輸入を止めた。

中国とベトナムは南シナ海で領有権を争っている。「中国は輸入の可否をある種の『武器』のように使っている」(ベトナム外交筋)との見方もあり、過度な中国依存を避ける思惑もあるようだ。【5月30日 読売】)

【歴史的にみるとベトナムは中華文明の一翼を担う東アジアの国 対中国で腐心するのは他の周辺国と同じ】
中国に隣接する日本など周辺国は、経済的・文化的につながりが深いものの、中華思想的な自己主張が強く、ときに厄介な国でもあるこの「大国」との付き合い方に腐心しています。

最近、韓国の中国に対する好感度が対日本以上に悪いことはこれまでも折に触れ取り上げてきました。

北朝鮮にしても、朝鮮戦争以来の「血の同盟」「血の絆」とは言っていますが、その実体は・・・。何かにつけて上から目線の対応をしがちな中国に対する反感は金一族など政権指導部や一般市民でも相当なものがあるようです。ただ、中国の支援が国家存続に不可欠という現実もあって、その対応は微妙、かつ、状況に応じて変化します。(金日成氏は中国を毛嫌いしていたと言われていますし、金正恩政権も親中派の張成沢を粛清した頃は「中国は千年の敵」と言っていました)

中国国内の内モンゴル自治区に同胞を持つモンゴルと中国の関係も微妙。内モンゴルにおける同化政策強化に対する反感がモンゴルで拡大すると、王毅国務委員兼外相(当時)がモンゴル訪問時(2020年9月)に、口出し(干渉)しないよう経済制裁もちらつかせて警告するなども。

ベトナムも同様。
歴史的経緯もあって中国への強い反感は他国同様で、南シナ海の領有権争いでも反中国の先頭に立つベトナムですが、深い経済的関係、1979年の中越戦争のように砲火を交える事態となる危険性もあることなどから、その対応は慎重。国内の反中国感情が行き過ぎるとこれを抑制することも。

そもそも、日本ではあまり意識されませんが、ベトナムは日本と同じく漢字文化圏であり儒教文化圏でした。歴史的にみると中華文明の一翼を担う東アジアの国であり、ベトナム特有の対中国感情を有しているようです。

****中国と「対等かつ独立した存在」と考えるベトナム人の誇り「南国意識」とは何か****
<自分たちこそが中華文明の正しい継承者であるとする、ベトナム人の自負について。『アステイオン』98号の特集より「ベトナム──誇り高き南の中華」を一部抜粋する>

(中略)
ベトナムにとって最重要の大国とは
結論から述べる。ベトナムにとって最重要の〝大国〟とは北で隣接する中国である。今日のベトナムは多方面外交を基調としているが、政治外交分野において最重要の二国間関係はと問えば、それは対米関係でもなければ対日関係でもない。

歴史的にみてベトナム国家の存立基盤はひとえに対中関係の安定化にかかっている。
経済分野においても中国の存在感は今や圧倒的である。ジェトロ作成の2022年速報データによると、ベトナムの輸入相手国の1位は中国である(2位が韓国、3位が日本、4位が台湾、5位がアメリカ)。
輸出相手国こそ1位をアメリカが占めるが、2位は中国である(3位が韓国、4位が日本、5位が香港)。

中国は輸出入ともに数値を年々上げてきており、国内経済の動向が中国経済の動向に大きく左右され始めている点では東アジアの日本や韓国と似たような状況になりつつある。

文化面ではどうであろうか。ベトナムという国名がそもそも「越南(ヴィエッナーム)」と漢字表記が可能なように、ベトナムは伝統的に漢字文化圏かつ儒教文化圏に属した。これは紀元前2世紀から紀元10世紀までの間、1000年以上にわたる中国の歴代王朝による支配に多大な影響を受けたからである。

独立を達成した後においてもベトナムの各王朝は中華帝国の冊封体制下の朝貢国であり続けた。19世紀後半から20世紀の半ばまでフランスによる約100年の植民地支配を経験したが、国民各層において漢字と儒教の影はなお色濃く残った。

たとえば、高等文官採用のための国家試験である科挙については、フランス植民地体制下においても1919年まで実施されており、〝本場〟である中国(1905年廃止)よりも遅くまで続いた。

このように、ベトナムでは政治・経済・文化のあらゆる面で中国(および中華文明)のファクターが浸透しており、これを抜きにベトナムを対象とした人文社会の諸科学研究を進めることはまずもって不可能である。

ベトナムはASEANのメンバーであり東南アジアの一国として自他ともにカテゴライズしてしまいがちだが、歴史的にみると中華文明の一翼を担う東アジアの国であった。

国際社会における中国のプレゼンスが極限にまで高まりつつあるなかで、日本や韓国とも経済的つながりのあるベトナムが東アジアのなかに自身の立ち位置を再確認する場面は今後ますます増えてゆくことだろう。(中略)

誇り高き人々
中国はよくメンツ(面子)の国であると言われる。これは中国に留まらず、日本や朝鮮半島も含めて、儒教とりわけ朱子学の影響を強く受けた東アジアに顕著な特徴である。ベトナムもその例外ではない。

これは著者の個人的経験に基づく全くの主観ではあるが、メンツへのこだわりは中国人よりも韓国・朝鮮人やベトナム人のほうがむしろ強いのではとの印象さえある。(中略)

ベトナム人のかくも高きプライドは前近代の封建王朝の時代に各社会階層における儒教の浸透とともに醸成され、最後の独立王朝となった阮(グエン)朝の時代(1802年~1945年)に頂点を迎えた。

阮朝の歴代皇帝とその周囲においては、同時代の清朝を満州族による(漢民族ではない)〝夷狄〟の王朝であると侮蔑し、自分たちこそが中華文明を正しく継承しているのだと自認する傾向がみられた。

そもそも儒教で理想とされる古代中国の都市国家「周」は小さかったのであるから、領土の小さいベトナムこそが純粋に儒教の教えを守っているのだとの自負さえあった。これは同時代の朝鮮王朝にもみられたいわゆる「小中華思想」である。

このベトナム版中華意識のことをベトナム史研究では「南国意識」とよぶ。〝北国〟である中国に対して、〝南国〟であるベトナムは文明的に対等かつ独立した存在であるとする国家意識である。
これぞすなわち、ベトナム人の誇り高きメンツの淵源である。【6月14日 牧野元紀氏(東洋文庫文庫長特別補佐) Newsweek】
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【昨年10月にはチョン書記長訪中で関係強化】
経済的な中国とのつながりは上記のとおりですが、人的にも“ベトナムには、2019年時点で75万人の中国人が住んでいました。この数字は日本の2万人、韓国の20万人と比較しても圧倒的に多いことがわかります。”【7月7日“【巨大な隣国】ベトナムと中国の関係について” CRE倉庫検索】といった強い関係があります。

そうした中国との強い関係を背景に、2022年10月末にベトナムのチョン書記長が訪中し、コロナ禍にあって習近平国家主席との異例の会談を行っています。

****習国家主席がベトナム書記長と会談、サプライチェーン構築などで協力****
中国の習近平国家主席は10月31日、北京市でベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長と会談した。

中国外交部の発表によると、双方は「四好精神」(注1)と「16字の方針」(注2)を堅持し、伝統的な友好関係を固め、戦略的コミュニケーションを強化するとした。

また、政治的な相互信頼を深め、意見の不一致の適切な管理を進め、新時代の両国間の全面的な戦略的協力パートナーシップを新たな段階に引き上げることで一致したとしている。

習国家主席は、経済面では両国間で安定した産業チェーン・サプライチェーンシステムを構築し、中国の技術集約的企業がベトナムへ投資することを奨励するとした。また、医療・衛生、グリーン発展、デジタル経済、気候変動対応分野での協力を深めるとした。

会談を受けて、11月1日付で「中越の全面的な戦略的協力パートナーシップのさらなる強化と深化に関する共同声明」が発表された。上記の協力のほか、ベトナムとの貿易不均衡緩和のために、ベトナムから中国側へのサツマイモ、かんきつ類、ツバメの巣などの輸入、中国からベトナム側への乳製品の輸入について市場アクセスを進めるとした。

また、南シナ海の状況について、2011年の「中国・ベトナムの海上問題解決指導の基本原則に関する合意」を引き続き順守するとともに、各自の主張・立場に影響しない過渡的、臨時的な解決方法を協議するとした。その上で、双方が受け入れることができる基本的かつ長期的な解決方法を探り、国際法に適合する「南シナ海行動基準」の合意を目指すとした。ベトナム側が「一つの中国」原則を支持することも盛り込まれた。(中略)

(注1)「良い隣人、良い友人、良い同志、良いパートナー」の関係。中国語では全て「良い」という意味の「好」という文字がつく。
(注2)「長期安定、未来志向、善隣友好、全面協力」という方針。中国語で16文字で表現されている。【2022年11月04日 JETRO】
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【南シナ海等では中国を警戒 アメリカとの関係も強化】
ただ、繰り返すようにベトナムの中国への対応は、上記のような関係性重視と警戒感の両にらみです。
中国への警戒感は、特に南シナ海問題で先鋭化します。

****「バービー人形」実写化の新作映画 ベトナムで上映禁止に 映画に登場する「南シナ海の地図」が原因 中国主張の領有権含まれる****
「バービー人形」をモチーフにしたアメリカの新作映画について、ベトナムでの上映が禁止されました。映画に登場する「南シナ海の地図」が原因だということです。

映画「バービー」は、着せ替え人形の「バービー」を実写化したコメディ作品です。豪華俳優陣が出演することもあり、アメリカでこの夏、期待される映画のひとつとされ、今月21日にはベトナムでも公開予定でしたが、ベトナム国営メディアは3日、当局が国内での上映を禁止したと伝えました。

映画には「南シナ海の地図」が登場しますが、この中に中国側が領有権の範囲として主張する線の「九段線」が含まれていたとされ、南シナ海の領有権を争うベトナム側が反発した形です。

ロイター通信などによりますと、ベトナムでは過去にも同じような地図を作品に用いたとしてアメリカやオーストラリアの映画・ドラマが禁止されています。【7月4日 TBS NEWS DIG】
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こうした南シナ海での中国進出を警戒する立場から、ベトナムはアメリカなどとの関係を強め、中国を牽制しています。

****ベトナムに相次ぎ日米艦 結束アピール、中国けん制****
米原子力空母ロナルド・レーガンが25日、南シナ海に面するベトナム中部ダナンに寄港した。事実上の空母化を目指す海上自衛隊の護衛艦「いずも」も23日まで同国に停泊している。相次ぐ寄港で日米の結束をアピールし、南シナ海の領有権をベトナムと争う中国をけん制する狙いがありそうだ。

日米の両艦はベトナム入り前の10〜14日、沖縄南方から南シナ海でフランス軍やカナダ軍との海上共同訓練に参加。南シナ海問題に関与する姿勢を強く打ち出した。

ロナルド・レーガンは30日まで寄港し、米海軍はダナン市内の児童養護施設慰問や楽団のコンサートといった交流プログラムを実施する。【6月25日 共同】
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アメリカ・ブリンケン米国務長官は4月15日にベトナムを訪れ、首都ハノイで共産党のグエン・フー・チョン党書記長らと会談、南シナ海や台湾海峡で軍事活動を活発化させる中国への警戒感を背景に、安全保障協力や二国間関係の強化を協議しました。

【共産党一党支配という現実も】
かつて、あれほど激しく戦ったベトナムとアメリカの関係強化・・・当初は違和感もありましたが、最近ではごく普通のことにもなりました。

日本についても、戦後のアメリカとの良好な関係は他国から見れば奇妙なものがあるのかも。ベトナムの場合も、それと似たようなものか?

ただ、ベトナムの場合、共産党一党支配体制のもとで政府の方針に反することは厳しく禁じられているという事情もあります。本音としてベトナム戦争時の恨みを感じている人も、政府がアメリカとの関係を強めると言えば、反対はできません。(ベトナム政府は、対中国・対アメリカなどの対外政策は極めて現実的です。利があるならどんな相手とでも手を結ぶ・・・厳しい戦争を生き抜いた現実主義でしょうか)

****報道の自由度ランキング、ベトナムはワースト3位に後退****
言論・報道の自由の擁護を目的としたジャーナリストによる非政府組織「国境なき記者団」(本部:フランス・パリ)は、「2023年度 世界報道自由度ランキング(World Press Freedom Index 2023)」を発表した。

ベトナムは前年から4ランク後退し、180か国・地域中178位だった。日本は前年から3ランク上昇の68位。

同ランキングは、世界各国・地域における報道の自由度をランキング化したもの。政治的背景、経済的背景、法的枠組み、社会的背景、安全性の5つの指標に基づいて指数を採点している。

 今年度のランキングでは、前年と同じくノルウェーが1位に立った。続いて、2位:アイルランド、◇3位:デンマーク、◇4位:スウェーデン、◇5位:フィンランドの順。

ワースト1~5位は、最下位が北朝鮮で、これに中国、ベトナム、イラン、トルクメニスタンが続いた。(後略)【5月5日 VIET JOE】
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日本に実習生としてやってくるベトナム人は最多で、また、日本からも多くの人がベトナムを観光・ビジネスで訪れますが、少なくとも観光客にあっては、上記のようなベトナムの厳しい政治事情はあまり認識されていません。(私も観光で何回か訪れていますが、観光している分には、共産党一党支配を感じることは先ずありません)
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アメリカ  バイデン・トランプ氏の「消去法の選挙戦」を左右する可能性がある「第三政党候補」

2023-07-08 23:30:59 | アメリカ
(【ウィキペディア】)

【「消去法の選挙戦」】
次期大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領は高齢のためか、不用意な発言、言い間違い、あるいは唐突な「女王陛下、万歳」みたいな意味不明な発言が多々あるのは周知のところ。

*****バイデン氏、連日言い間違え 外交に支障、認知機能の衰え懸念*****
バイデン米大統領は28日、ロシアのプーチン大統領が「イラクでの戦争に明らかに敗北している」と述べ、ロシアが侵攻するウクライナとイラクを言い間違えた。ホワイトハウスで記者団に語った。

前日にも全く同じ間違いをしており、再選を狙う2024年大統領選を前に認知機能の衰えを懸念する声が高まっている。

バイデン氏は中国の習近平国家主席を「独裁者」と発言して中国の反発を招いたほか、日本の防衛費増額方針は自身が岸田文雄首相を説得した結果だと失言して波紋を広げた。外交にも支障が出ている。【6月29日 共同】
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日本の防衛費増額方針はバイデン大統領が岸田首相を説得した結果・・・実際、そうなのかも(と、考えている向きが多いようです)。
ただ、日本政府の立場を考えれば、同盟国として通常その類は口にはしないことです。アメリカの圧力で防衛費を増額した・・・なんて話が公になったら、しっかりした野党が存在する国なら国内政治は大問題になります。

習近平国家主席を「独裁者」云々も似たような話。実際そうだとしても、外交上は口にしない発言です。

****バイデン大統領「誤解招く発言だった」 日本の防衛費増額で「私が説得した」発言を修正****
アメリカのバイデン大統領が日本の防衛費の大幅増額をめぐり、「私が3回にわたって日本の指導者を説得した」などと述べた発言について、「誤解を招くものだった」として修正しました。

バイデン大統領は今月20日、日本の防衛予算の大幅増額について「私が3回、日本の指導者と会い、説得した」などと、自身の説得で岸田総理が決断したかのような発言を行いました。

しかし、27日にメリーランド州で開いた集会では、「私の説得は必要なかった」「岸田総理はすでに決断していて、防衛費を大幅に増やし、ヨーロッパの戦争に関与した」と述べて発言を修正。

「誤解を招く発言だった」「説得したのは韓国との関係改善だった」などと説明しました。

バイデン大統領の当初の発言に対しては、日本政府がアメリカ政府に対して「誤解を招き得る」と申し入れを行っていました。【6月29日 TBS NEWS DIG】
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一方、このまま行けば対立候補となるトランプ前大統領は、すでに起訴された訴訟、今後予定されている訴訟が示すように、政治家としての資質云々以前に、人間として品格を疑うような人物(と、私には思えますが、そう思わない人も多いようです)。

****トランプ氏?機密所持を認めるような音声 CNNが放送****
CNNは、アメリカのトランプ前大統領が機密文書の所持を認めるような発言をしているとされる音声記録を放送しました。

CNNが公開したトランプ氏とされる音声:「びっくりするだろ?文書の山があるんだ。見てくれ」「秘密だ。これは機密情報だ。これを見てくれ」

CNNが27日に放送した約2分の音声は、トランプ氏が大統領退任後の2021年に出版関係者からのインタビューに応じた際に記録されたものだとしています。

イランへの攻撃計画に関するものとみられる文書についてトランプ氏とされる音声は、「高度な機密だ」「これがその文書だ」と述べ、文書をめくりながら見せる様子が伺えます。

また、「大統領として機密解除もできたが今はできない。まだ機密のままだ」という音声も確認でき、機密扱いの文書だと認識していたことを示唆する内容となっています。【6月28日 テレ朝news】
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何を考えているのか・・・と言うか、やっていいことと、そうでないことの区別がつかず、ただ自己顕示欲に突き動かされて行動している・・・といった幼児性がうかがえます。

今後の起訴が予想される、アリゾナ州知事に大統領選挙での不正投票の証拠を見つけるように圧力をかけた件、議会襲撃への関与はもっと深刻で、民主主義の根幹にかかわる問題です。

高齢バイデン大統領と人格を疑うトランプ前大統領の再対決で、「トランプ氏以外ならいい」対「バイデン氏よりはマシ」という判断しか働かない「消去法の選挙戦」になってしまう”【7月5日 清水克彦氏 DIAMONDonline】といった「見るに堪えない」【同上】状況。

【拮抗するバイデン・トランプ氏の支持率】
両者の支持率は、バイデン氏リードは誤差の範囲というように拮抗しています。トランプ氏については“隠れ支持者”がいることは、これまでの選挙でも明らかになっています。(支持を公にできないような候補に投票するというのはどういうことか?・・と、個人的には思いますが)

また、周知のようにアメリカ大統領選挙は州ごとの戦いですから、実際の選挙では重要州を得た方が勝つということで、全国集計の支持率とは別物の側面もあります。

****バイデン氏、僅差で支持率リード トランプ氏との再対決想定****
米NBCテレビは25日、2024年大統領選で再選を目指す民主党のバイデン大統領(80)と、共和党の候補指名争いで首位に立つトランプ前大統領(77)の再対決を想定した世論調査でバイデン氏が4ポイントリードしたと伝えた。

世論調査は16〜20日に実施され、回答した有権者の49%がバイデン氏、45%がトランプ氏を支持した。支持率の差は誤差の範囲内としており、拮抗しているとみられる。

私邸への機密文書持ち出しで8日に起訴されたトランプ氏の共和党内の支持率は4月の46%から51%に上昇。党内で捜査への反発が広がり、追い風になっている。【6月26日 共同】
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【他に候補者は? 二大政党の枠内ではバイデン、トランプ氏に対抗するのは困難】
「消去法の選挙戦」ということで、「他に誰かいないのか?」と考える有権者も多いのが現実。

民主党では、バイデン氏以外では、暗殺されたジョン・F・ケネディ元大統領の甥で、やはり凶弾に倒れた弟のロバート・ケネディ元司法長官の息子、ロバート・ケネディ・ジュニア氏が参戦しています。

****【1500万再生動画】ケネディ元大統領のおいジュニア氏 大統領レースに向け筋肉アピールも…腕立て9回で力尽きる 米****
大統領選に出馬しているロバート・ケネディ・ジュニア氏が、腕立てをする動画が話題になっている。投稿からわずか2日で、1500万回再生された動画がある。(中略)

ケネディ・ジュニア氏は、元々は環境活動家。ここ数年は、新型コロナのワクチン反対運動などで注目を集めていた。そして、ケネディ・ジュニア氏は2カ月ほど前に、大統領選挙に民主党から立候補すると表明した。

しかし、直後は人気が低迷していた。それが、ケネディ・ジュニア氏は、現在の世論調査では14.0%。現職のバイデン大統領に次ぐ、2番人気と予想外の大健闘をしている。

年齢を筋肉でアピールも9回で力尽きる
ケネディ・ジュニア氏の人気急上昇のワケが、筋肉と関係していた。バイデン大統領は、歴代最高齢の80歳だ。カメラの前で、度々転んでいる。時には、亡くなって、その場にいないはずの議員を探すなど、大統領を続ける事に不安の声が上がっていた。

一方のケネディ・ジュニア氏は、11歳年下の69歳。その年齢を、筋肉でアピールしていたのだ。ちなみに動画では、10回を目標に腕立てをスタート。しかし、9回で力尽きていた。本人は、「最後のセットだった。10回以上できる」と弁明している。(「イット!」 6月27日放送より)【6月28日 FNNプライムオンライン】
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世界の将来に極めて重要な影響力を有する米大統領が腕立て伏せで決まるというのは・・・ため息が出る状況。

****泡沫候補のはずが、ケネディ人気がうなぎ登りなわけ****
民主党支持層はバイデン70%、ケネディ17%

このところ米主流メディアが民主党大統領候補、ロバート・F・ケネディ・ジュニア(69)について競って報じている。

暗殺された故ロバート・F・ケネディ司法長官の息子だという「金看板」。現職大統領を有する与党・民主党から2024年大統領選に立候補したという「泡沫候補」とはいえ、ニュースバリューもある。

常識にとらわれず現在の沈滞した米社会のムードを一掃しようとする既成政治家にないケネディ氏の「突飛さ」に拍手しているようにも見える。

何よりも高齢問題、不人気に加えて、二男ハンター氏の有罪騒動も飛び出して、米国民のジョー・バイデン大統領に対する嫌悪感が増している昨今、無傷のケネディ氏は一服の清涼剤になっているからだろう。(後略)【6月26日 高濱 賛氏 JBpres】
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環境保護の弁護士として地道な社会活動を続けてきたケネディ氏ですがコロナワクチンに関し「このワクチンは幼児の自閉症を併発する。危険な薬物だ」と異論を唱え、脚光を浴びました。

①海外800か所ある米軍基地の閉鎖、米軍撤退②ロシアの主張をある程度受け入れる形でのウクライナ戦争の即時停戦③メキシコ国境地区の完全封鎖などを打ち出しています。

一方、共和党はトランプ前大統領以外に、ロン・デサンティス フロリダ州知事(44)、マイク・ペンス 前副大統領(64)、ニッキー・ヘイリー 元国連大使(51)、その他、共和党の上院議員では唯一の黒人であるティム・スコット氏、中西部ノースダコタ州のダグ・バーガム知事、南部アーカンソー州のエイサ・ハッチンソン前知事、起業家のビベック・ラマスワミ氏、ラジオ番組司会者のラリー・エルダー氏が立候補を表明しています。

玉石混交状態ですが、なかには・・・

****米共和候補「ウイグルって何?」 スアレス市長、無知を露呈****
2024年米大統領選の共和党候補指名争いに名乗りを上げた南部フロリダ州マイアミのスアレス市長(45)が27日のラジオ番組で、人権状況が懸念される中国の新疆ウイグル自治区の人々について選挙戦で語るのかと問われ「ウイグル人って何?」と返答し、この問題で無知を露呈した。

スアレス氏は番組の最後にも「調べてみるよ。何て言った? ウィーブル?」と発言。司会者からウイグル人に関して知っておく必要があると言われ「私はのみ込みが早いんだ」と答えた。

その後、CNNテレビの取材に「(司会者が言ったウイグルという)発音を認識できなかった」と弁明した。【6月28日 共同】
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国外のことには無関心なアメリカ人の国際情勢への認識はこんなものでしょう。ただ、大統領候補がこれでは・・・。

いずれにしても、民主党・共和党という二大政党の枠内では、バイデン、トランプ氏に対抗するのは難しいでしょう。共和党のデサンティス フロリダ州知事も伸び悩んでいます。

【民主、共和両党の支持率を大きく上回る「無党派層」 二大政党以外からの第三の候補者が重要州で数%の票を得るだけで、バイデン、トランプ氏の勝敗を左右】
ただ、バイデン、トランプ氏が拮抗している状況では、二大政党の枠外から出る者が数%の支持を得ることができれば、バイデン、トランプ氏の勝敗に大きく影響します。

****二大政党制はもう古い? 米国でも増える無党派層****
二大政党制はすでに時代遅れか
伝統ある米世論調査機関「ギャラップ」社(中略)によると、2004年当時、「民主党」支持35%、「共和党」支持33%、「無党派」31%だったが、その後は毎年のように無党派層が増え始め、今年3月時点での無党派層はついに49%にまで達した。そして、民主、共和両党の支持率(いずれも25%)を大きく上回ったことが明らかになった。

既存政党にくみしない無党派が、両党合わせた支持層とほぼ横並びになったことを示しており、米国政治風景が大きく変わりつつあることを示している。

今回の調査結果について、政治メディア「Axios」は、「増大する無党派層は今後もさらに2大政党制の存在を脅かし続けると同時に、今の政治の二分化がいかに脆弱かを暗示している」と指摘した上で、「ギャラップ」社アナリストのジェフ・ジョーンズ氏の以下のようなコメントを紹介している:

「無党派層の増加は、主として若年世代の意識の変化に起因している。若者が従来の政党に不満を抱いていること自体、珍しいことではない。ただ、今回調査で際立つのは、『X世代GenerationX』(1965~1980年生まれ)や、『ミレニアル世代』(1980~1995年生まれ)が年齢を重ねても政党を選ばず、無党派のままでいる点だ。これは、メガトレンドというべきものであり、彼らの多くが、今の政治システム、政府機関、二大政党制について、時代遅れで機能せず、あるいは極端な党派主義に偏っているとみなしている」

そして、こうした無党派層の増加は、ただちに来年の大統領選に重大な影響を及ぼすことは避けられない。

注目集まる「第三政党候補」
とくに、その後の別の世論調査でも、民主、共和両党の最有力候補とみられるバイデン大統領、トランプ前大統領のいずれにも与せず、「第三政党候補」の出馬を待望する有権者が全体の5割近くにも達したことが、大きな話題となっている。  

(中略)さらに「具体的に他に誰を支持するか」を尋ねたところ、21%がバーニー・サンダース上院議員(無所属、バーモント州)、10%が共和党に反旗を翻したリズ・チェイニー前下院議員(ワイオミング州)、7%が民主党異端分子として知られるジョー・マンチン上院議員(ウェストバージニア州)の名を挙げた。また、43%が 「その他の第三政党候補」と回答した。  

この結果を踏まえ、政治メディア「The Hill」が、名前の上がった対象者にそれぞれ感想を求めたところ、チェイニー女史は、第三政党からの立候補の可能性を否定せず、とくに「トランプの共和党指名獲得阻止のためなら、あらゆることをする」と語った。  

また、マンチン上院議員も、立候補を否定しなかった。サンダース上院議員は「バイデン候補を支持する」と回答したという。

過去にも第三政党候補が台風の目に
無党派層の増加は、とくに民主党のバイデン、共和党のトランプ両陣営にとって重大関心事となりつつある。 過去にも、第三政党候補が民主、共和両党候補による大統領選での最終決着に少なからぬ影響を及ぼしたケースがあるからだ。  

例えば、1992年選挙では、保守系政治家のロス・ペロー氏が、再選を目指したジョージ・H.W.ブッシュ共和党大統領、ビル・クリントン民主党候補相手に第三政党候補として戦いを挑み、最終的に本選で、1900万票もの支持票を獲得した。  

結果的に、クリントン氏が現職のブッシュ氏を破り、大統領に選出されたが、ブッシュ氏敗退の一因として、ペロー氏が共和党支持票を分断したことが指摘され、話題となった。  

2000年選挙には、民主党アル・ゴア副大統領、共和党ジョージ・W・ブッシュ・テキサス州知事のほか、第三政党から環境保護運動の旗手といわれたラルフ・ネーダー氏が出馬した。本選では、ブッシュ、ゴア両候補が最後まで大接戦を演じ、最終的にフロリダ州でブッシュ氏がわずか537票差で勝利した結果、初当選を果たした。  

これに対し、ネーダー氏の支持票は全体のわずか3%程度にとどまったものの、その大部分は民主党から流れたといわれる。このため、ネーダー氏はその後、全米の民主党支持者の多くから〝スポイラー〟(略奪者)の烙印を押されたほどだった。  

しかし、その後、無党派層はさらに増え続け、支持率でも2大政党を直接脅かすほどの存在になってきたことから、来年選挙では、これまで以上に第三政党候補が台風の目になる可能性がある。

すでに民主党陣営では、「第三政党候補が、バイデン再選を阻む恐れがある」として、その動向を危惧する声が出始めている。 とくにホワイトハウス選挙参謀たちが気にかけているとされるのが、「No Labels」と呼ばれる超党派グループの存在だ。  

去る6月11日付けの議会専門電子メディア「The Hill」によると、「No Labels」は、来年選挙は「バイデン、トランプ両候補による再試合」の公算が大きいとして、両党以外から別の〝統一候補〟を立てるべく、着々と準備に入っている。(後略)【7月7日 WEDGE】
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かりに重要州のアリゾナ、ジョージア、ウイスコンシン3州において、本来の民主党支持層からわずか4万4000票程度のアンチ・トランプ票が「No Labels」候補に流れた場合でも、バイデン氏の全米での勝利は微妙になります。

実際、緑の党からの立候補を目指している第三の候補もいますが、民主党左派からの評判が悪いバイデン氏の票を食ってしまう可能性も。

****米大統領選 進歩派のウェスト氏、緑の党から立候補目指す****
2024年米大統領選に第3党からの立候補を表明している進歩派的な活動家で哲学者のコーネル・ウェスト氏(70)が、緑の党からの立候補を目指していることが判明した。(中略)

ウェスト氏はアフリカ系米国人の著名な政治思想家で、今月5日に第3党から立候補する意向を表明した。この際は「人民党」の候補者として臨む考えを示していた。しかし、17年設立の人民党は全米での基盤を持っておらず、大統領選ではほとんどの州で投票用紙に政党名と候補者名が記載されない可能性が指摘されている。

一方、緑の党は、民主・共和の2大政党、小政党のリバタリアン党に次ぐ存在だ。全米に基盤を持ち、近年の大統領選では毎回候補者を擁立している。連邦選挙委員会によると、00年に288万票、16年に145万票を獲得。いずれも、主張が近い民主党支持層の票を激戦州で奪い、結果的に共和党候補を利する「スポイラー(妨害)効果」があったとみられ、注目を浴びた。(中略)

エマーソン大が22日に発表した世論調査では、大統領選の本選を想定した設問で、民主党のバイデン大統領支持が43・5%、共和党のトランプ前大統領支持が43・4%で互角だった。だが、ウェスト氏を選択肢に加えた場合は、トランプ氏41・4%▽バイデン氏40・3%▽ウェスト氏5・8%――だった。【6月28日 毎日】
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バイデン、トランプ氏の争いが僅差の勝負になればなるほど、第三の候補の存在が大きく影響します。

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ウクライナ  進度が遅い反転攻勢 より強力な武器を・・・クラスター爆弾、劣化ウラン弾など

2023-07-07 22:29:59 | 欧州情勢

(ウクライナ東部ハリコフ郊外の地面に刺さった、空になったクラスター弾の容器=2022年6月(ロイター=共同)【7月6日 共同】)

【「ハリウッド映画とは違う」反転攻勢】
日々報じられているウクライナの戦況については、ウクライナ軍の反転攻勢が行われているものの、ロシア軍の抵抗も厳しく、ゼレンスキー大統領が「ハリウッド映画とは違う」と言うような状況です。

****ウクライナ軍、東部でロ軍の攻撃に直面 南部に進展=国防次官****
ウクライナのマリャル国防次官は2日、ウクライナ軍が前線の東部地域でロシア軍の攻撃に抵抗し、北東部では厳しい戦況になっているが、東部ドネツク州の激戦地バフムトの周辺や南部では、攻勢が進展していると述べた。

ロシア側は前線地域について、バフムトを取り囲む集落やそれより南部の地域でウクライナの攻撃を撃退し、北東部でウクライナ軍を抑え込むのに成功したと報告していた。

ロイターは、どちらの報告も確認できていない。(後略)【7月3日 ロイター】
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ロシア軍については、ひと頃言われていた装備不足や士気の低さに関する記事を最近はほとんど目にしなくなりましたので、それなりに防御に向けて力が入っているのでしょう。

そうなると、準備を整え待ち構えるロシア軍の防衛線をウクライナ軍が突破し一気に進攻というのは難しくなります。

****ウクライナ反攻作戦、遅い進度 強固な防御線、弱点探る 侵略500日へ****

ロシアによるウクライナ侵略戦争は8日で500日目を迎える。ウクライナ軍は6月上旬、国土奪還を目指す反攻作戦を本格的に始めたが、露軍の強固な防御線や航空戦力に阻まれ、期待されたペースでは進めていない。

他方のロシア側では、民間軍事会社「ワグネル」のトップ、プリゴジン氏が6月下旬に起こした武装反乱の余波が注視される。

ウクライナは、東部国境から南部クリミア半島に至る露占領地を分断し、クリミアを孤立させる戦略を描く。このため南部戦線を特に重視し、要衝メリトポリの奪還やアゾフ海への進出を狙っているとされる。

ただ、約1カ月間の反攻で解放できた国土は南部戦線で約160平方キロ。これは東京23区の約4分の1にあたるが、国土の約2割を占める全占領地の奪還にはほど遠い。ウクライナ高官は、東部戦線も含めて露軍の補給拠点をたたきつつ、防御線の弱点を探っている状況だとしている。

米シンクタンクの戦争研究所はウクライナ軍の進軍を阻んでいるものとして、①塹壕(ざんごう)、地雷原などで固められた防御線②対戦車ヘリなどの航空戦力③無人機やミサイル攻撃を妨害する電子戦−を挙げている。【7月7日 産経】
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「ウクライナは必要な軍事力が整わないまま、反転攻勢を開始した」(元北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍副最高司令官のリチャード・シレフ氏)【7月4日 読売】との指摘も。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領としては、欧米諸国の“支援疲れ”が表面化しないように、何としても「成果」を早く示す必要に迫られ、反転攻勢をせかされていた面があります。

一方で、欧米諸国からの武器支援が思うように進んでいないことへの“恨み”も。

****反転攻勢「早く始めたかった」=武器提供の遅れに苦言―ウクライナ大統領*****
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻に対する反転攻勢について「もっと早い時期に開始したかった」と述べ、欧米諸国の武器供与が遅れたために苦戦を余儀なくされているとの見解を示した。5日放映された米CNNテレビのインタビューで語った。

オデッサで取材に応じたゼレンスキー氏は、複数の地域でウクライナ軍が「必要な武器」を入手できないため、攻撃開始を「考えることすらできずにいる」と強調した。

また、米国の支援に謝意を示しながらも、欧米の指導者に「もっと早期の反攻開始を望んでおり、そのための武器と物資が必要だと伝えていた」と指摘。

「開始が遅れれば、敵(ロシア軍)に地雷敷設や守備態勢構築の時間を与えると、誰もが分かっている」と訴え、ロシア側が防御を固めたことで、ウクライナの進軍ペースが落ちたとの認識を示した。【7月7日 時事】 
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【勝つためにはクラスター爆弾、劣化ウラン弾、更に対人地雷も】
戦局を動かずためには、一にも二にも「武器」がもっと必要、もっと強力な武器が必要・・・ということで、ウクライナや支援するアメリカもなりふり構わない状況にも。

*****米、ウクライナにクラスター弾供与を計画 7日発表も=高****
米国が殺傷力の高いクラスター弾をウクライナに供与する計画と、米高官が6日明らかにした。ウクライナ軍の反転攻勢後押しが狙い。しかし、クラスター弾が無差別に人を殺傷する兵器であることから、人権団体からは反対の声が上がっている。

米政府高官3人によると、クラスター弾を含む軍事支援パッケージが7日にも発表される見通し。
ホワイトハウスは、ウクライナへのクラスター弾供与を「積極的に検討している」としつつも、現時点で発表することはないとした。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは6日公表の報告書で、ウクライナ国内でロシア、ウクライナ双方の軍がクラスター爆弾を使用し、民間人の死者を出していると指摘。両国に使用の中止を訴え、米国にはクラスター爆弾を供与しないよう求めた。

クラスター弾は通常、1発の爆弾から多数の子爆弾をまき散らすため、広い範囲で無差別に殺傷する可能性があり、民間人を危険にさらす。また、不発弾は紛争終結後も何年にもわたり人々を脅かす。

国際条約で製造や使用、保有が禁止され、約120カ国で採択されているが、米、ロシア、ウクライナは署名してない。

政府高官らによると、発表予定の支援パッケージは最大8億ドル規模で、高機動ロケット砲システム「ハイマース」の弾薬、歩兵戦闘車「ブラッドレー」、装甲車「ストライカー」なども含まれる見通し。

最終決定されておらず、変更される可能性もあるという。緊急時に大統領が議会の承認なしに備蓄から物資などを移転できる大統領引き出し権限(PDA)を活用する。

米国による対ウクライナ軍事支援策の承認はロシアの侵攻開始以降42件目となり、総額は400億ドルを超える。【7月7日 ロイター】
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上記記事にもあるように、クラスター爆弾についてはロシア軍は昨年2月の侵攻当初から多用し、ウクライナ軍も使用しているとされています。

「ロシア軍の塹壕に対して特に有効だ」(米国防総省のクーパー副次官補)【7月6日 共同】とのことのようです。

開発、製造、貯蔵などを全面禁止したオスロ条約のウクライナ・アメリカ・ロシアは加盟していないということもありますが、人道上の問題云々とり、とにかく強力な武器が必要ということでしょう。

使用について賛否がある武器としては対戦車貫通力が大きい劣化ウラン弾も。

****米、ウクライナに劣化ウラン弾提供へ 戦車での使用想定 WSJ報道****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは13日、複数の米政府関係者の話として、米国がウクライナに対して劣化ウラン弾を供与する見通しだと報じた。秋までに引き渡される米軍の主力戦車「M1エーブラムス」による使用が想定されている。

劣化ウラン弾は貫通力は強いが、ウランの微粒子が人体に入り込んだ場合は「体内被ばく」を引き起こす危険性も指摘されている。

劣化ウラン弾は、核兵器製造や原子力発電のためのウラン濃縮過程で生じる廃棄物「劣化ウラン」を使った砲弾。鉄や鉛の弾頭に比べて貫通力が強く、遠距離からでもロシア軍の戦車の厚い正面の装甲を貫通できるという。

米政府は今年1月に31両のM1エーブラムスを提供すると決定。現在はウクライナ兵がドイツで操縦訓練を受けている。国防総省はM1エーブラムスの装備として劣化ウラン弾の供与を要請しており、米政府高官は承認の手続きに大きな障壁はないと見ているという。

劣化ウラン弾を巡っては、英国が3月にウクライナに提供した主力戦車「チャレンジャー2」の装備に含まれていることを発表した。ロシア側は「核の成分を備えた兵器」の提供と反発している。【6月14日 毎日】
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更に、対人地雷も。こちらはウクライナも禁止条約を批准していますが・・・

****ウクライナの対人地雷使用巡り新たな証拠、国際人権団体が報告****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は30日、ウクライナ軍が2022年に侵攻したロシア軍に対し、禁止されている対人地雷を使用した新たな証拠を発見したと発表した。

HRWはウクライナ政府に対し、対人地雷を使用しないという約束や軍の使用疑惑を調査し責任を追及するという方針を履行するよう求めた。

在ワシントンのウクライナ大使館は現時点でロイターのコメント要請に応じていない。
ウクライナは05年、対人地雷を禁止し在庫破棄を義務付ける1997年の国際条約を批准した。【6月30日 ロイター】
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戦争は勝ってなんぼのもの、クラスター爆弾だろうが、劣化ウラン弾だろうが、対人地雷だろうが・・・といったところでしょう。それが戦争の現実です。賛否は別にして。

【捕虜交換の現実】
そうした厳しい戦争の中にあっても捕虜交換は行われています。

****ロシアとウクライナが捕虜交換、それぞれ45人解放****
ウクライナとロシアは6日、45人ずつの捕虜を交換したと発表した。

ロシア通信(RIA)によると、ロシア国防省は45人の軍関係者がウクライナから帰国したと明らかにした。

一方、ウクライナ大統領府のイエルマク長官は、45人の軍関係者と2人の民間人が帰国したとテレグラムに投稿、「一人一人が英雄だ」と称賛した。

ウクライナ議会の人権オンブズマン、ドミトロ・ルビネツィ氏は、解放された捕虜の大半が重傷で、全員がリハビリ治療を受けると説明した。【7月7日 ロイター】
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最初、人道的配慮か・・・と思ったのですが、“解放された捕虜の大半が重傷”ということで、要するに「自軍兵士の治療で手一杯なのに、敵兵士の治療などできるか!」という話でしょう。

放置して死なせると国際批判を浴びて面倒、帰してしまうのが一番・・・対人地雷同様に相手に治療の負荷をかけることも出来るし・・・という、これまた戦争の現実の一面のように思えます。
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イラン  不穏な動きが絶えないホルムズ海峡 注目される最高指導者交代時のイラン情勢

2023-07-06 23:00:53 | イラン

(【6月18日 読売】 イラン情勢が緊迫するたびに注目されるホルムズ海峡 日本にとっても重要なシーレーン)

【米・イラン 水面下の「静かな外交」】
イラン核合意復活協議がなかなか進展しないなか、イラン核開発に歯止めをかけたいアメリカとイランの“静かな外交”というか、水面下の交渉については、6月17日ブログ“イラン核合意の本格的交渉再開は未だ 米、事態悪化を防ぐ「クールダウン」のための「静かな外交」展開”でも取り上げたところです。

****強まるハメネイ師健康不安説 米国は革命体制を打倒できるか?*****
(中略)
米国はイランが核開発を制限する代わりに日量100万バレルの原油輸出を認める合意が近づいているという報道が出ていたが、6月8日、米政府はこれを否定した。しかし、バイデン政権が米国人人質とイランの凍結資産の一部解除を取引する何らかの秘密交渉が行われているのは間違いないだろう。

恐らく米側は、イランが捕らえている米国人人質の解放の代償として、「凍結解除は国連の分担金の支払いと新型コロナウイルスワクチンのため」との名目でごく限定的な在米イラン資産の凍結解除の用意があるのであろう。

他方、イランは、この機会に日量100万バレルの原油輸出を認めさせて一気に制裁の事実上の解除を狙っているのではないか。現在、中国が買っているのが日量100万バレルと言われるから、これは制裁の骨抜きに他ならない。

恐らく、イラン側は、経済制裁が続いてもイラン経済は崩壊せず、核開発も進んでいることから自分達の方が優位にあると考えているのであろう。  

なお、その後の6月14日の米ニューヨークタイムズ紙は、バイデン政権が、米国とイランの間の緊張を緩和するためにオマーンで秘密裏にイランと間接交渉を行っていると報じている。

それによれば、イランがウランの濃縮度を60%以上に引き上げず、シリアとイラクで米軍関係者を攻撃せず、さらにIAEAの査察に協力し、ロシアに弾道ミサイルを売却しないこととの引き換えに、米国はこれ以上制裁を強化せず、イラン産原油を積んだ外国タンカーを拿捕せず、国連やIAEAでイランに対して懲罰的な制裁決議を提案しない由である。

さらに、イランが3名の米国人人質を解放する代わりにイランの数十億ドルの凍結資産を解除することも交渉されている。【6月30日 WEDGE】
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【アメリカへの対抗姿勢を強める動き タンカー拿捕が相次ぐホルムズ海峡】
ただ、イラン経済を支える石油輸出への制裁は、何らかの妥協に向けてイランを追い込むまでの効果はあげていないようでもあります。

****イランの5月原油輸出が5年ぶり高水準、増加分は闇市場か****
海運データや関係者などによると、米国の制裁にもかかわらず、イランの5月の原油輸出と生産量が5年ぶり高水準に達した。

イランの原油輸出は、2018年にトランプ前政権下の米国が2015年の核合意から離脱し、対イラン制裁を復活させて以来、制限されている。だが、現在のバイデン政権になってからは輸出が増加している。イランと欧米の当局者によると、米国はイランと協議を行い、核開発計画を制限するための措置を検討している。

データ提供会社ケプラーによると、イランの原油輸出は5月に日量150万バレルを超え、単月としては2018年以来の高水準となった。18年の米国の核合意離脱前は日量250万バレル程度だった。

イランの発表では、5月の原油生産量は日量300万バレル超に増加。これは世界の供給量の約3%に相当し、石油輸出国機構(OPEC)のデータによれば18年以来の高水準だった。

国際エネルギー機関(IEA)が今週発表したイランの5月産油量は日量287万バレルで、イランの公式発表値に近い。(中略)

米国務省の報道官は、全ての対イラン制裁が引き続き有効だとし、制裁回避者に対して措置を講じることを躊躇しないと述べた。米財務省は、コメント要請に応じていない。

アナリストや海運データによると、中国がイラン産原油の最大の輸入国。【6月19日 ロイター】
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こうした懐事情を反映したものか、このところのイランの動きはアメリカへの対抗姿勢を強める方向のものが目立ちます。7月4日の上海協力機構首脳会議(SCO)で中国・ロシアが主導する同機構へのイランの加盟が決定されました。

制裁を続ける米欧に頼れないイランにとって、世界人口の4割を占めるSCOは魅力的な市場です。
また、SCO加盟によって、自国が孤立していないことを国内外にアピールしたい狙いもあるとされています。

****イラン、上海協力機構に正式加盟へ ロシア外相****
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は6月30日、上海協力機構について、「7月4日の首脳会議で、イランが正式に加盟する」と明らかにした。モスクワのSCO関連施設の開所式で述べた。イラン外務省も、同首脳会議でSCOの張明事務局長から正式発表があるとしている。

イランは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成される新興5か国への早期加盟も希望している。

SCOは、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタンの8か国で構成され、事務局は中国・北京にある。【7月1日 AFP】
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また、ホルムズ海峡周辺ではイランの軍艦から航行タンカーへの発砲があり、米軍が拿捕を阻止する事態が起きています。

****イラン海軍がホルムズ海峡周辺でタンカーに発砲か 米軍が拿捕を阻止****
米海軍第5艦隊(司令部・バーレーン)は5日、中東の要衝ホルムズ海峡に近いオマーン沖の公海で、イラン海軍による原油タンカー2隻の拿捕(だほ)を阻止したと発表した。イランの軍艦からタンカーに向けて複数の発砲があり、船体に命中していた。

ホルムズ海峡周辺ではイラン海軍による商用船の拿捕が相次いでおり、米軍などが警戒を強化しているが、原油や天然ガスの輸送の安全性への懸念が高まっている。

米海軍によると、5日午前4時ごろ、オマーンの首都マスカットの沖合約30キロをアラビア海に向けて航行中のバハマ船籍の原油タンカーが米海軍に遭難信号を発した。イラン海軍の艦艇がタンカーの1・6キロ以内に接近し、停止を要求。さらにタンカーに向けて小火器や銃器で複数回発砲した。タンカーの乗組員に被害はなかったが、数発は船体に当たった。

米海軍の誘導ミサイル駆逐艦が現場に急行すると、イラン軍艦はタンカーから離れた。米軍は上空から発砲の様子を捉えたとする映像を公開した。ロイター通信によると、タンカーは米石油大手シェブロンが管理しており、サウジアラビアからシンガポールに向かう途中だった。

発砲事案の約3時間前には、イラン海軍の別の艦艇が、オマーン湾の公海を航行中だったマーシャル諸島船籍の原油タンカーに接近。米軍艦が到着すると、イラン軍艦は現場を離れた。

米中央軍海軍のクーパー司令官(中将)は5日の声明で「非常に重要な海域で航行の権利を守るため、今後も油断せず備えていく」と述べた。

米軍によると、イランは過去2年間、ホルムズ海峡周辺を中心に、少なくとも6隻の商用船を拿捕した。今年4月にはオマーン湾で、イラン海軍の特殊部隊がヘリコプターを使って米国行きの原油タンカーを急襲して拿捕。イラン政府は「イランの船と衝突したために拿捕した」と説明したが、「衝突」の証拠は示さなかった。

5月にはイラン革命防衛隊の艦艇がホルムズ海峡で、アラブ首長国連邦(UAE)に向かっていたパナマ船籍の原油タンカーを拿捕した。イランは「司法当局の命令」としたが、米国が対イラン制裁の一環でイランの原油タンカーを没収したことへの報復だとの見方もあった。

米軍は2019年、ホルムズ海峡周辺で民間船への攻撃が相次いだことから、航行の自由を守る「海洋安全保障イニシアチブ」を発足させ、多国籍連合軍による警戒監視活動を続けている。

自衛隊は独自にアラビア海やオマーン湾で艦船や哨戒機による情報収集活動を実施し、米軍とも情報共有しているが、イランへの刺激を避けるためにホルムズ海峡やペルシャ湾では活動していない。【7月6日 毎日】
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上記のタンカーのうち、バハマ船籍のタンカー(米石油大手シェブロンが管理)については、イランの船舶と衝突したとしてイラン裁判所が拿捕をイラン海軍に命じていたとのこと。

****米海軍阻止のシェブロン船舶拿捕、衝突受けイラン裁判所が命令****
イランの裁判所は、オマーン湾でイランの船舶と衝突した石油タンカーを拿捕するようイラン海軍に命じていた。

このタンカーは米石油大手シェブロンが管理するバハマ船籍の石油タンカー「リッチモンド・ボイジャー」。米海軍は5日、イラン海軍が同タンカーを含む2隻を拿捕しようとしたため、阻止したと発表していた。

イラン南部ホルモズガーン州の海洋捜索救助センターが国内メディアのIRINNに明らかにしたところによると、リッチモンド・ボイジャーは乗組員7人が乗ったイラン船と衝突。イラン船の5人が負傷し、船内に浸水したが、リッチモンド・ボイジャーは事故後も停船しなかった。その後、イラン船の船主がタンカーの拿捕を要求したという。

シェブロンは、リッチモンド・ボイジャーの乗組員は無事で通常通り航行しているとコメントした。

米海軍によると、イランは約1カ月前、1週間で石油タンカー2隻を拿捕している。【7月6日 ロイター】
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詳細はわかりませんが、緊張した状況が続いているのは確かなようです。

なお、イラン革命防衛隊による2020年1月のウクライナ旅客機撃墜を巡り、ウクライナ、カナダ、英国、スウェーデン4ヶ国が国際司法裁判所(ICJ)に提訴したとも。

****旅客機撃墜でイラン提訴 国際司法裁判所に、カナダなど****
ウクライナ、カナダ、英国、スウェーデンは5日、イラン革命防衛隊による2020年1月のウクライナ旅客機撃墜を巡り、イランに4カ国の犠牲者遺族への謝罪と賠償などを求め、国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。AP通信が伝えた。

ウクライナの旅客機は、イランの首都テヘランの空港を離陸した直後に撃墜され、乗客乗員計176人全員が死亡。犠牲者には4カ国の国民が含まれていた。

イランの裁判所は今年4月、ミサイルを誤射したとして革命防衛隊の防空システム担当官に禁錮13年の判決を言い渡すなどしたが、4カ国は「見せかけの裁判」だと指摘。「公平な犯罪捜査を怠った」と批判した。【7月6日 共同】
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イラン側の反発が今後あるのか・・・。

【今後のイラン政治の転換点として注目される最高指導者交代】
一方、イラン国内では体制引き締めを図る動きも報じられています。

****イランでスカーフ強化法案 未着用者増で引き締め****
イラン政府は2日までに、女性が髪を隠すスカーフの着用の義務付けを強化する法案を国会に提出した。昨年に全国化した抗議デモ以降、街中でスカーフをかぶらない女性が増えたため、引き締めを図るのが狙い。

法案に対し、イスラム教の教えに厳しい保守強硬派は罰則が不十分と主張。自由拡大を求める改革派の市民は「人権に反する」と非難している。

イランでは外国人も例外なく、女性は公共の場でのスカーフ着用が必須。
法案によると、違反者はショートメッセージサービス(SMS)で警告を受ける。2回目で罰金が科され、3回目からは訴追手続きが取られるとしている。罰金額など詳細は不明。【7月2日 共同】
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引き締めを図る・・・ということは、それだけ国民の体制への不満が強いということの裏返しでもあります。

そこで体制存続に関して問題となるのが次期最高指導者に誰がなるのか・・・
ハメネイ最高指導者は84歳と高齢で、健康不安説がしばしば流れる状態。

****イランの次の最高指導者は誰に? カギ握る革命防衛隊****
英エコノミスト誌5月25日号の解説記事‘Who will be Iran’s next leader’は、いずれイランの最高指導者の交代があるだろうが、革命防衛隊が実質的な権力を握って専制政治を敷くであろう、とする予測を示している。要旨は次の通り。

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誰が最高指導者ハメネイ師の後継者となるのか、果たして中東の最後の神権政治が生き残れるのか誰も分からない。信心深いイラン人ですら神権政治に対する信頼を失い始めている。

ハメネイ師の後継者としてハメネイ師よりさらに宗教的権威が劣る2人の有力候補がいる。一人は、保守強硬派で現大統領のライシ師、もう一人は、ハメネイ最高指導者の次男のモジュタバ師である。

1989年にハメネイ師を最高指導者に任命した時と大きな違いは、革命防衛隊が大きな力を持っていることである。革命防衛隊は、聖職者より優位にいる。過去30年間、ハメネイ最高指導者は、革命防衛隊を利用して宗教界のライバルを押しのけ、民衆の抗議デモを排除して権力を掌握してきた。

今後、革命防衛隊は最高指導者をお飾りにしてしまうように思われる。その意味で、ライシ師は革命防衛隊にとりピッタリの人物と言える。恐らく革命防衛隊は権力を掌握し、「聖職者による支配」を有名無実化するが、今と同様な専制政治体制を敷くだろう。しかし、体制に対して不満な中産階級をこれ以上刺激しないだろう。

対外政策は強硬なままで、核武装に走るだろうが、ペルシャ湾地域での米国のプレゼンスに反対しつつも、「大悪魔(米国)」と協議することにはより柔軟だと思われる。

一部の専門家は、革命防衛隊は服装や飲酒に対する自由をより認める新たな社会契約を国民と結ぼうとするのではないかと考えている。国民はこのような社会契約を喜ぶであろうが、しかし、政治的な自由はこれまで以上に制限されるであろう。

ハタミ元大統領やムサヴィ元首相といった真の改革派は、革命防衛隊や聖職者が支配する体制ではなく、非宗教的な市民社会を実現しようとするであろう。
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これは大変良い分析である。ホメイニ師のようなカリスマと宗教的な権威に欠けるハメネイ最高指導者が宗教界を抑え、権力を掌握するために革命防衛隊を利用した結果、革命防衛隊の力が強くなり過ぎ、次期最高指導者は、お飾りとなり、実権を革命防衛隊が握って、専制政治を行うというシナリオは説得力がある。

革命防衛隊のメンバーの国会議員の占有率は約4分の1であるのに対して、聖職者の比率は11%である由である。1980年には、それぞれ6%と52%だったのが大きく逆転している。これは、革命防衛隊の聖職者に対して優位に立ったことをよく表している。イラン経済についても、その30%を革命防衛隊が支配しているといわれている。

革命防衛隊が権力を握れば、国内的には、服装や飲酒の規制を緩めてイラン国民を惹きつけるだろう。対外政策は強硬で、特に「核武装しない」とのハメネイ師のファトワ(宗教指導者の命令)を廃止して核武装を進めるが、その一方で米国とも交渉することがあり得るかもしれない。

もっとも、現実には、革命防衛隊内には筋金入りの強硬派が少なくないと思われ、革命防衛隊にそのような現実的な対応ができるかどうかは、革命防衛隊内部の統制がどれだけ取れているかに掛かっているのではないか。しかし、革命防衛隊の内部は部外者にはブラックボックスであり、部外者には皆目分からない。

とはいえ革命防衛隊も不人気
一つ付け加えると、イスラム革命から40年以上が経過し、イラン国民が「聖職者による支配」に飽きているのと同様に、革命防衛隊も国民の間で不人気なのは間違いない。

去年のスカーフ・デモが典型だが、国内で反政府デモが起きると鎮圧の先頭に立つのは革命防衛隊だ。そして、イスラム革命体制下で聖職者と革命防衛隊は様々な特権を有しているのにも関わらず両方ともリクルートに苦労しており、国民の間での不人気ぶりを物語っている。  

なお、改革派について言及があるが、今となっては、改革派が勢力を盛り返すチャンスは、ほとんどない。革命防衛隊が権力を掌握し、服装や飲酒の規制を緩めれば、大多数の国民はそれで満足してしまうからである。【6月23日 WEDGE】
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この最高指導者交代は欧米側にとっては、イラン体制転換を図る好機ダ・・・との指摘も。

****強まるハメネイ師健康不安説 米国は革命体制を打倒できるか?****
トランプ政権時の国家安全保障問題担当補佐官であったジョン・ボルトンが、6月6日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘Iran Exploits Biden’s Fecklessness’で、バイデン政権下でイランに対する制裁は形骸化しており、米国は湾岸のアラブ産油国やイスラエルを見捨てているが、手遅れになる前にイランのイスラム革命体制を崩壊させなければならず、高齢のハメネイ最高指導者の死去がそのチャンスであり、米国は今から準備すべきである、と論じている。(中略)

米国がイランの核武装を阻止する明白な決意を欠いていることから、イスラエルによるイランの核施設に対する武力行使の可能性が高まっている。

それを止めるためには、イランの神権政治体制を崩壊させるしかない。米国政府は、最低限、84歳のハメネイ最高指導者が死去する際に起きる内政の混乱に注目するべきである。最高指導者の死去は、イラン国民がイスラム革命体制を倒し、抑圧を終わらせる好機となろう。(後略)【6月30日 WEDGE】
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英エコノミスト誌が指摘するような、神権政治から実質的に革命防衛隊による統治への権力転換が実現し、国民は“ささやかな”自由を与えられることと引きかえにそれを容認するのか・・・、あるいはボルトン氏が指摘するように、体制への不満が噴出して混乱が広がる状況でアメリカなどがつけ入る隙ができるのか・・・

これまでのイラン政治を思えば、最高指導者交代に伴う多少の政治混乱はあったとしても、アメリカも軍事的に介入することもできませんので、結局は体制に力で封じ込まれ、革命防衛隊だか何だかによる新たな支配体制が確立する・・・というのが一番ありそうなシナリオに思えます。
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イスラエル  史上最も右寄り超保守政権を追い風に過激化するユダヤ人入植者の暴力

2023-07-05 22:38:36 | パレスチナ


(パレスチナ自治区ヨルダン川西岸ハワラで2月26日、街に火を放つユダヤ人入植者【3月9日 東京】
1938年、ナチス政権下のドイツでユダヤ人が襲われた「水晶の夜」になぞらえる声も。ナチス・突撃隊が主導するユダヤ人襲撃で破壊されたガラスが月明かりに照らされて水晶のように光っていたことから「水晶の夜」と呼ばれています)

【イスラエル軍の大規模軍事行動、“とりあえず”終了 深まるばかりの暴力の連鎖・報復の応酬】
イスラエルは3日からパレスチナ自治区ジェニンに対する大規模軍事行動を行ってきました。

ジェニンはパレスチナ自治区の難民キャンプの中でも歴史がく、約1万8千人が密集して居住する地域です。
難民キャンプとは言っても、日本で想像するようなものではなく、2,3階建ての建物が並ぶ街を形成しています。

また、パレスチナ自治政府の統治が及びにくい地域で、武装組織イスラム聖戦やハマスの活動の拠点ともなっており、イスラエル軍はこれまでも「対テロ作戦」を実施してきました。

****武装組織の温床、「歯止め」狙う=ヨルダン川西岸で大規模作戦―イスラエル****
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ジェニンでのイスラエル軍の大規模軍事作戦は4日、2日目に入った。パレスチナ保健省によると、これまでにパレスチナ人10人が死亡、約100人が負傷した。

イスラエルのネタニヤフ首相は、ジェニンの難民キャンプがパレスチナの武装組織の温床となっている状況に「歯止めをかける」と主張。「必要な限り作戦は続く」と強硬姿勢を示している。

イスラエルのメディアによると、軍は難民キャンプをドローンで空爆。1000人以上の地上部隊を展開し、武装組織と交戦した。西岸では2000年代の第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)以降、最大規模の作戦という。【7月4日 時事】
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今回のイスラエルの軍事行動は、過激派組織の重要拠点を破壊し、多くの武器や資金を押収したことで“ひとまず”終了したようです。

****イスラエル軍、ヨルダン川西岸ジェニンから撤退開始 死者12人****
ヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治区ジェニンにおいて過去20年間で最大規模の軍事作戦を実施したイスラエル軍は4日、ジェニンから撤退を開始したもようだ。国防筋とロイター関係者が語った。(中略)

一方、ジェニンの病院やその近くで銃撃戦があったとの報告もあるが、詳細は確認できていない。

パレスチナ当局によれば、攻撃で少なくとも12人が死亡した。

イスラエルのネタニヤフ首相は「われわれは任務を完了しつつある。ジェニンでの作戦は一度限りではない」と述べた。【7月5日 ロイター】
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なお、AP通信によると、“少なくともパレスチナ人13人、イスラエル兵1人が死亡。パレスチナ保健当局は、負傷者は100人以上で、多数の重傷者がいる”とのこと。

ただ、拠点を破壊、武器を押収と言っても、一時的な成果にすぎず、しばらくすればまた似たような状況にもなるのでしょう。

今回のイスラエル軍への報復と思われる、ガザ地区からイスラエルへの攻撃、更にそれへの報復としてのイスラエル軍の空爆も。

****イスラエル軍がガザ地区を空爆 ロケット弾の報復****
パレスチナ自治区のガザ地区からロケット弾が発射されたことに対する報復として、イスラエル軍がガザ地区を空爆しました。

イスラエル軍によりますと、5日未明、ガザ地区からロケット弾5発が発射されたことへの報復として、ガザ地区の関連施設2カ所を空爆しました。地下にある武装組織の兵器工場を攻撃したとしています。【7月5日 テレ朝news】
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また、個人レベルでの”報復”も。

****イスラエルで歩行者に車突っ込む、運転のパレスチナ人は射殺****
イスラエル中部テルアビブで4日、パレスチナ人の男がピックアップトラックで歩行者に突っ込んだ後、周囲にいた人を刃物で刺す事件が起き、8人が負傷した。イスラム原理主義組織ハマスはこの男はメンバーだったと表明した。

警察によると、運転していたのは20歳のパレスチナ人の男で、武装した市民に射殺された。イスラエル総保安庁(シンベト)は、この男無許可でイスラエルに入国したが、治安犯罪の経歴はないとしている。

救急隊によると負傷者のうち1人が重傷で、数人が刃物による傷を負った。

ハマスはこの男はメンバーだったとした上で、イスラエル軍がヨルダン川西岸のジェニンで3日に行った急襲作戦に報復するため、イスラエルの商業都市で襲撃したと表明。声明で「この英雄的な行動は、ジェニンで続いているシオニストによる虐殺と破壊の犯罪に対する自衛行為だ」とした。

イスラエルのイタマル・ベン・グヴィル警察相は現場を訪れ「ジェニンで作戦を開始した時点で、テロリズムの台頭は想定されていた」とし、路上攻撃を阻止するために市民に武器を携帯するよう改めて呼びかけた。【7月5日 ロイター】
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【極右勢力も参加する超保守政権を追い風に過激化するユダヤ人入植者の暴力】
イスラエル・パレスチナの状況は、6月22日ブログ“パレスチナ 中国の和平仲介 しかし、悪化する「暴力の応酬」 イスラエルは入植地拡大政策を止めず”でも取り上げたばかりですが、“相変わらずの暴力の連鎖、報復の応酬”としか言い様のないところです。

そうしたなかで、極右勢力も参加したイスラエル超保守政権を追い風として、ヨルダン川西岸におけるユダヤ人入植者の暴力が過激化しているようです。また、入植者の暴力行為にイスラエル軍兵士が同行しているとも。

****「ここはおまえらの国ではない」、入植者は叫んだ イスラエル・パレスチナの報復の連鎖、今年に入り150人以上が死亡****
長年続くイスラエルとパレスチナの対立が今年に入り激しさを増している。昨年末、新たに発足したイスラエルのネタニヤフ連立政権に、対パレスチナ強硬派の極右政党が加わった影響が大きく、沈静化の兆しは見えない。イスラエル軍の武装パレスチナ人に対する急襲作戦、パレスチナ人によるイスラエル人襲撃…。

2月には数百人のユダヤ人入植者がパレスチナ人集落を襲撃、住宅や自動車に無差別に放火し焼き打ち事件の様相に。5月にはイスラエル軍とパレスチナ自治区ガザの過激派「イスラム聖戦」が空爆とロケット弾攻撃の応酬を5日間繰り広げ、ガザでは33人が死亡した。国連によると、1月以降の死者はパレスチナ側で130人以上、イスラエル側は約20人に上る。

報復の連鎖はどこまで続くのか。国際社会は双方に緊張緩和を促すが、事態は悪化の一途をたどっている。イスラエルによるパレスチナ軍事占領のあり方も問われている。

 ▽まるでポグロム
2月26日夜、イスラエル軍が占領するヨルダン川西岸の北部ハワラ。自宅2階から入植者による襲撃を目撃したパレスチナ人、ユスフさん(40)が振り返る。

「入植者が火炎瓶のようなものを自動車に投げ込むと、燃え始めた。路上では催涙弾が大量に投げられ、街は霧がかかったように曇った。やつらが玄関の扉をたたいたので、洗濯機をバリケードのように置いて侵入を防いだ」。襲撃は5時間以上続き、入植者は「ここはおまえらの国ではない。出ていけ」と叫んでいたという。

この日の日中、ハワラで入植者2人がパレスチナ人に銃撃され死亡、その報復だった。複数のパレスチナ人目撃者によると、午後5時ごろ、多数のイスラエル軍兵士が路上を歩き始め、店舗に営業休止を要請。約1時間後にバスなどで入植者400人以上が到着した。兵士も行動を共にしていた。

数十軒の住宅や店舗、数十台の自動車が放火されたほか、投石や鉄パイプなどによる破壊もあった。中には実弾で銃撃する入植者もおり、パレスチナ人1人が死亡、約100人が負傷した。
投石で右腕をけがしたアンマールさん(37)は「助けに来てくれた隣人も入植者に襲われた上、兵士にも殴られた」と証言する。自宅2階から見ていた少女ラマールさん(10)は「燃える自動車の周りで、あの人たちは躍り上がっていた」と語った。家畜の羊まで傷つけられたという。

入植者が多数だった上、兵士の同行もあり、「逃げることさえできなかった」と多くの住民が口にする。イスラエル軍は共同通信の取材に「(警備の)準備に不十分な点があった」と回答したが、治安維持の責任を負う兵士が入植者と行動を共にしており、準備不足という説明には疑問も残る。

 ユスフさんらはスマートフォンで襲撃の様子を撮影した。暗闇の中で自動車や住宅が燃え上がる映像はインターネット上に出回り、激しい反発の声が上がった。歴史的なユダヤ人迫害になぞらえる批判も相次いだ。

「ハワラで『水晶の夜』(ナチス政権下のドイツでユダヤ人が襲われた事件)が起きた」
「(ロシアで起きたユダヤ人迫害の)ポグロムのようだ」

 ▽有罪判決わずか3%
欧州連合(EU)や欧州約20カ国の外交官らは3月3日、ハワラを視察し、イスラエル政府や入植者を非難した。視察中、入植者がパレスチナ人の住宅敷地内に侵入。追い出そうとする住民と小競り合いになり、介入した兵士が外交官らの前でパレスチナ人に催涙弾を投げる場面もあった。

EUの駐パレスチナ代表スベン・フォンブルクスドルフ氏は「襲撃犯はきちんと裁かれるべきで、財産を失った人は補償されなければならない。占領当局(イスラエル)にはパレスチナ人を保護する義務がある」と怒りをあらわにした。
憤りの背景には、入植者によるパレスチナ人への暴力がほとんど処罰されない現実がある。2月26日の襲撃は過去に例を見ない大規模なものだったが、入植者の暴力はオリーブの木や家畜小屋の破壊などを含めれば、日常茶飯事だ。

だが、イスラエルの人権団体「イェシュディン」の調査によれば、2005〜22年に入植者らによるパレスチナ人への暴力に関しイスラエル当局が捜査した1531件のうち、起訴に至ったのは107件で、有罪判決はわずか3%の46件だった。
外交官らのハワラ視察を企画したイスラエルの人権団体「ベツェレム」のハガイ・エルアド代表はこう語る。
「ハワラ襲撃は兵士に保護されており、入植者の暴力ではなく、国家による暴力だ。私も入植者もユダヤ人として、ポグロムがどんなものか知っている。かつての被害者が今は加害者になっている。これは何十年も続く抑圧的な占領政策の結果だ。人種差別的なアパルトヘイト政策は終わらせなくてはならない」

 ▽「ハワラ消滅が必要」
現在、暴力の連鎖が続く主な舞台はヨルダン川西岸だ。1950年以降、ヨルダン統治下にあったが、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが軍事占領し、現在も軍が統治する。イスラエルはここでユダヤ人入植地を拡大、現在約130の入植地が存在し、40万人以上のユダヤ人が暮らす。

入植地とは簡単に言えば新興住宅街で、入植地建設とは新しい街の建設だ。元々西岸に暮らすパレスチナ人からすれば、住宅や農地など生活基盤を根こそぎ奪われることを意味し、当然摩擦が生じる。

ジュネーブ条約など国際法は占領地における土地や財産の没収、住民の強制移動、自国民を移住させる入植活動を禁じ、国連も重ねて「入植活動は国際法違反だ」と指摘する。

国連安全保障理事会は2016年に入植活動の停止を要求する決議を採択、2021年にはパレスチナの人権を担当するマイケル・リンク特別報告者が「戦争犯罪」とまで言い切った。そもそも安保理はイスラエルによる占領地からの撤退を決議している。

しかし、イスラエル政府は決議を無視し、入植地拡大で占領を既成事実化してきた。当初はイスラエル建国運動に連なる農業開拓精神などに基づく入植者が主流だったが、近年影響力を持つのは宗教的動機の入植者だ。西岸を古代にユダヤ人が暮らした土地と見なし、神から将来にわたり与えられた「約束の地」と信じる彼らにとって、入植活動はユダヤ民族の贖罪であり、救世主到来を早める行為と映る。

そんな「民族宗教派」の入植者に支持され、昨年末発足のネタニヤフ政権に入閣したのが極右政党「ユダヤの力」党首のイタマル・ベングビール国家治安相や、極右政党「宗教シオニズム」党首のベツァレル・スモトリッチ財務相だ。パレスチナ自治政府の解体や入植地拡大、イスラエルへの西岸の一部併合を目指す。入植地拡大が彼らの存在意義ともなっている。

ネタニヤフ政権はこの2人に強く影響され、昨年末に発表した指針で「ユダヤ人は(西岸を含む)イスラエルの全ての土地で独占的で議論の余地のない権利を持つ。政府は入植活動を促進する」と宣言した。スモトリッチ氏は「ハワラの消滅が必要だ」と発言、襲撃した入植者を擁護する姿勢を示している。

 ▽消せない自由への希求
イスラエル軍による武装パレスチナ人への急襲作戦は「拘束」が目的とされるが、「対テロ作戦」と称し、パレスチナ側が抵抗すれば周囲の民間人が犠牲になることもためらわず攻撃する。
一方、パレスチナ側は一般市民を標的にするケースが多く、1月27日には東エルサレムのシナゴーグ(ユダヤ教会堂)で銃撃し、7人を殺害した。

パレスチナ人による占領への抗議デモでも衝突が相次ぐ。西岸南部ヘブロンでは2月24日、イスラエル軍がデモ隊に催涙弾などを発射し衝突に発展、多数のパレスチナ人が負傷した。1994年に極右入植者の医師がヘブロンのモスク(イスラム教礼拝所)で礼拝中のパレスチナ人に銃を乱射し29人を殺害した事件から29年となるのに合わせたデモだった。丸腰で投石するパレスチナ人に重武装の兵士が「もっと近づいてこい」と笑いながらあおり、催涙弾を撃ち込む場面もあった。

ベングビール国家治安相はこの医師の熱烈な崇拝者として知られ、自宅の壁に写真を飾っていたと報じられている。

報復の連鎖に収束の兆しが見えない中、パレスチナ人ジャーナリスト、ダウード・クターブ氏はイスラエル紙ハーレツで、こう指摘した。
「人々は外国軍の占領下で生活するのを嫌う。歴史的なトラウマ体験を持つイスラエル人がなぜこれを理解しないのか、推し量るのは難しい。急襲作戦で何人かの武装勢力を殺害しても、パレスチナ人の自由への希求を消し去ることはできない。むしろ憎しみと報復への動機を与えるだけだろう。互いに民族自決を認め合ったときに初めて、一連の暴力は終わる」【6月27日 47NEWS】
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****ユダヤ人入植者による襲撃激化=イスラエル当局も非難―ヨルダン川西岸****
イスラエルが占領するヨルダン川西岸で、ユダヤ人入植者によるパレスチナ人襲撃が激化している。イスラエルのガラント国防相はパレスチナ自治政府高官と異例の電話会談を行い、事態収拾を模索。

ただ、イスラエルは西岸のユダヤ人入植住宅増設を承認しており、対立をあおる措置に国際社会から懸念の声が上がっている。

西岸のパレスチナ自治区ジェニンで6月19日、イスラエル治安部隊がテロ容疑者の拘束を目的に急襲作戦を行い、パレスチナ人7人が死亡した。翌20日にはパレスチナ人の男2人が急襲作戦への報復として西岸の入植地近くで銃を乱射。これ以降、ユダヤ人入植者とパレスチナ人の間で衝突が続いた。【7月2日 時事】 
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国際的批判もあって、イスラエル軍・警察は“入植者の行動は「民族主義的テロリズム」に当たる”として取り締まることを明らかにしていますが、極右閣僚はこれにも反発しています。

****イスラエル閣僚、「集団懲罰」と警察批判 入植者の暴力取り締まりで****
イスラエルの国家安全保障相であり、極右政治家のイタマール・ベングビール氏は25日、警察当局によるユダヤ人入植者の扱いは「集団的懲罰」に当たるなどとして強く批判した。

ヨルダン川西岸地区ではこのところ、パレスチナ人とユダヤ人入植者の対立が激化の一途をたどっており、対応を巡りイスラエル治安当局と政府の間に亀裂が広がっている。

イスラム組織ハマスがイスラエル人4人を殺害したことへの報復として、ユダヤ人入植者がパレスチナの町や村で暴力を行う事件が相次いで発生。国際社会から非難の声が上がり、米政府は懸念を示した。

イスラエルの軍と警察は24日に声明を発表し、入植者の行動は「民族主義的テロリズム」に当たるとし、これと闘うと約束した。

治安当局が入植者の行為を「テロ」を表現したことに、ネタニヤフ首相率いる連立政権の極右メンバーは反発。その1人であるベングビール国家安全保障相は、アテレトのユダヤ人入植地への門を封鎖し、近くに立っていた人をテーザー銃で撃った理由を説明するよう警察に要求した上で、入植者に対する「集団的懲罰」は受け入れられないと述べた。

アテレト入植地は、自動車への放火事件が24日に起きたパレスチナのウムサファ村に近い。事件は入植者によるものとみられている。【6月26日 ロイター】
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“国家安全保障大臣のイタマール・ベン=グヴィールは、かつて非合法化されたカハネ主義の支持を明言しており、着任直後の1月3日にはイスラーム教徒の聖地であるハラム・アッシャリーフを訪問してハマースを挑発する声明を出した。

財務大臣と国防省内大臣を兼任するベツァルエル・スモトリッチは、1月8日にパレスチナ自治政府への付加価値税の送金を停止し、2月に起きたフワラ襲撃では「村を消し去れ」と入植者らをあおり呼びかけた。”【6月27日 錦田愛子氏(慶應義塾大学教授) Newsweek】

【アメリカは“深い憂慮” でも、それだけでは止まらない現状】
こうした極右閣僚の影響もあって、イスラエル政府はユダヤ人入植地を拡大する姿勢を見せており、アメリカは「深い憂慮」を示しています。ただ、「憂慮」だけでは今のネタニヤフ政権を止めることはできません。

****米、イスラエルの入植住宅承認に「深い憂慮」****
米国務省のミラー報道官は26日、イスラエル政府が占領下のヨルダン川西岸地区で新たにユダヤ人入植者用の住宅5700軒の建設を承認したことに「深い憂慮」を表明した。

同氏は、米政府当局者がこれまで西岸地区のユダヤ人入植拡大に公式にも非公式にも反対してきたと強調し、イスラエル、パレスチナの2国家共存への「障害」になると訴えた。

イスラエルのネタニヤフ政権は昨年末の発足以降、入植者用の住宅7000軒以上を新たに承認している。

入植地をモニタリングするイスラエルの人権団体「ピースナウ」は「イスラエル政府は西岸地区の完全併合に向けた動きを前例のないスピードで進めている」と指摘した。【6月27日 ロイター】
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フランス  警官による17歳少年射殺事件からの暴動 背景にフランス社会の移民対応、警官の差別体質も

2023-07-04 22:55:52 | 欧州情勢

(1日、パリのシャンゼリゼ通りで警官隊に追われ逃げる人たち(ロイター=共同)【7月2日 産経】)

【北アフリカ系の17歳の少年が警察官に射殺された事件への抗議行動が暴動へと激化】
フランスでは、6月27日朝、北アフリカ系の17歳の少年が停車命令に従わなかったとして警察官に射殺された事件への抗議行動が暴動へと激化する状況が続いています。

事態の方は、ようやく沈静化に向かっていますが、パリやリヨンなどの都市や郊外で警察署や役所が打ち上げ花火で攻撃されたり、商店が略奪したりなどの被害が広がり、多くの若者(その多くが10代)が逮捕されています。

きっかけとなった事件については、下記のとおり

****フランスで大規模な暴動が起きた理由は? 17歳少年を警察官が射殺したことへの怒りが発端だった****
(中略)
17歳のナエル・Mさんの死
ナエルさんは27日朝、パリ北西に位置するナンテールで、検問中の警察から車で逃走しようとして、至近距離から撃たれた。

事件の様子を撮影した映像によれば、2人の警察官が黄色い車を停止させ、そのうち1人が運転手に銃を向けて、走り去ろうとする車の中に銃を発砲した。

車はその後、ナンテールにあるネルソン・マンデラ広場の近くの歩道に衝突し、運転していたナエルさんが死亡した。車には他にも2人の人物が乗っていたが、そのうち1人は警察に逮捕され、もう1人は逃走した。

映像の前に何があったのか、ナエルさんと警察官の間でどのような会話を交わされたかは明らかになっていないものの、17歳の少年の死は多くの人々の怒りに火をつけ、フランス全土に抗議活動が広がった。

警察側の主張
警察によると、警察官はポーランドナンバーのメルセデスベンツの車両がバス優先車線を走っており、運転手が非常に若かったために停車させたとしている。車は停車するまでの間、信号を無視して走ったという。
さらに警察は、運転手は警察官に危害を加えようとして車を発進させたと主張している。

しかし映像には、警察官が運転手に向かって窓越しに武器を向け、走り去ろうとする車に発砲する様子が映っていた。

AFP通信によると、映像では誰かが「頭を撃つぞ」と言っているのが聞こえるが、それが誰の発言なのかは明らかになっていない。

フランス全土で抗議活動
フランスでは2023年、警察の銃撃でナエルさんを含めて3人が死亡している。2022年の死者数は13人だった。
2017年の法改正で、フランスでは警察官がより幅広い状況での銃使用が可能になった。ル・モンドによると、この改正以降、走行している車両に対する警察の発砲件数が増加している。

また、ロイター通信によると、2017年以降に警察の銃撃で死亡した人のほとんどが黒人やアラブ系だった。今回亡くなったナエルさんは、北アフリカにルーツがあった。(後略)【7月1日 HUFFPOST】
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【背景に移民系若者に対する人種差別が】
背景には北アフリカからの移民が多いフランスにおける人種差別をめぐる対立があって、問題は根深いものがあります。

****揺れるフランス 各地で若者ら暴動、人種差別の分断浮き彫りに****
フランスが各地で続く若者らの暴動に揺れている。パリ西郊ナンテールで警察官が車の停止命令を拒んだ北アフリカ系の17歳の少年を射殺し、これに反発した人々が暴徒化したためだ。暴動は沈静化しつつあるが、人種差別を巡るこの国の分断が改めて浮き彫りになり、社会不安が広がっている。

6月27日に射殺事件が起きて以降、仏各地では警察署や役所、学校などの破壊・放火や商店の略奪などが相次いでいる。3日までに3000人以上が逮捕された。多くが10代の若者だった。

複数の自治体は先週末、夜間の外出禁止令を発令した。パリ近郊ライレローズでは7月2日、市長の自宅が襲撃された。仏紙ルモンドによると、市長宅に車が突入。市長本人は不在だったが、妻や子供が逃げる際に負傷した。
マクロン大統領は2〜4日に予定されていたドイツへの国賓訪問を中止し、外交への影響も出ている。

仏内務省によると、2日に逮捕されたのは160人弱で、前日の約720人から大きく減少し、暴動は収束に向かっている模様だ。ただ、一連の混乱は、仏社会に根深い人種差別を巡る対立を再燃させている。

射殺された少年はアルジェリアとモロッコにルーツを持つ移民系のフランス人だった。仏警察はこれまでも、移民系住民らへの過剰な取り締まりなどが問題視されてきた。2005年にはパリ東郊で警官に追われた移民系の少年2人が変電所に逃げ込み感電死し、この時も全土で警察への抗議、暴動が広がった。

仏社会学者のエマニュエル・ブランシャール氏はルモンドに「フランスは(北アフリカなどに)植民地を保有していた時代から、警察が人種差別的な(手法で社会の)統制をしてきた歴史がある」と指摘。今回の暴動では、そうした仏社会に対する移民系や貧困層の若者らの怒りが噴出したとみられる。

SNS(ネット交流サービス)では放火や略奪の動画が投稿、拡散されている。マクロン氏はSNSが若者に暴動を促していると訴えるが、一方で、こうしたマクロン氏の主張を「問題のすり替えだ」と非難する声も多い。

サッカーのフランス代表で、両親がアフリカ出身のエムバペ選手は、ツイッターで「この受け入れがたい死が起きた状況に無関心でいることはできない」と少年の射殺に対する憤りを示しつつ、「暴力は何も解決しない」と強調した。【7月4日 毎日】
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フランスでは、今回のような移民系若者と警察の対立を繰り返しきました。
よく取り上げられるのが2005年の事件です。

****2005年パリ郊外暴動事件****
2005年パリ郊外暴動事件とは、2005年10月27日にフランス・パリ郊外で北アフリカ出身の3人の若者が警察に追われ逃げ込んだ変電所で感電し、死傷したことをきっかけにフランスの若者たちが起こした暴動。最終的にフランス全土の都市郊外へ拡大した。

事件の発端
10月27日夜にパリの東に位置するセーヌ=サン=ドニ県クリシー=ス=ボワにおいて、強盗事件を捜査していた警官が北アフリカ出身の若者3人を追跡したところ、逃げ込んだ変電所において若者2人が感電死し、1人が重傷を負った。

この事件をきっかけに、同夜、数十人の若者が消防や警察に投石したり、車に放火するなどして暴動へと拡大した。警官隊の撃った催涙弾がモスクに転がり込んだことも火に油を注ぎ、大騒動となった。

背景
発端となる事件の起きたクリシー=ス=ボワなどフランス語で「バンリュー」と呼ばれる郊外部は貧困層の住む団地が多くスラム化しており、失業、差別、将来への絶望など積もり積もった不満が一気に噴出したものとみられている。

これらの地域では犯罪が多発しており、機動隊の導入など強硬な治安対策がとられていたが、これによって若者たちとの緊張も高まっていた。

当時フランスの若年層(18~24歳)の失業率は23.1%、移民人口は431万人(1999年国勢調査)。移民の多い地区では、失業率は全国平均よりも高く、40%に達する地区もあった。
(中略)
移民
フランスは、1960年代ころ高度経済成長を支える労働力として、100万人を超える移民を導入した。 彼らは、都市郊外にある中・低所得者向け公営集合住宅(HLM)などに多く住む。その2世・3世にあたる若者が、この暴動へ多数加わったとされる。 

フランスの国籍法は変遷を経て出生地主義的になっており、移民の子孫はフランス国籍をもつ。しかし、貧困、高等教育の機会、就職差別などをめぐって不満が鬱積している。(後略)
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問題の背景は、上記2005年当時と変わっていません。
2005年以降もパリの車に火がつけられるなどの暴力行為が絶えず、車への放火は若者らの鬱積した不満によって年越しの「年中行事」化しているような面もあります。

2005年の暴動時、当時のサルコジ内相はこのような移民若者を“クズ”と罵り、それは一部世間の喝采を浴びたとか。下記は2007年12月8日ブログからの抜粋です。

****フランス なお残る植民地問題と移民問題*****
(中略)
植民地の痕跡が移民問題に姿を変えてフランス社会に大きな負担を課しています。
もともとフランスは、人種、民族、血統というもので国家・国民が自動的に形成されるのではなく、「自由・平等・博愛」の理念を共有する国民の共同体として国家があるという考え方で、これまで難民や亡命者を含め、多くの外国人をフランスは受け入れてきました。

しかし、アルジェリアなど北アフリカ諸国からの大量のアラブ・イスラム移民については、これを社会的に十分に消化できなかったようです。
特に9.11以降のテロリズムに対する不信感、経済不況・失業問題がイスラム移民に対する厳しい視線を招いています。

移民の問題は二世の段階で本格化します。
フランスで生まれ、フランス的価値観を受け入れた、フランスでしか生活したことのない二世にとって、自分たちに向けられる不信感・差別の目は耐えがたく、就職・住宅環境などの面での格差は理不尽なものに移ります。

結果、アウトローの世界に走る者も多くなります。
治安悪化の問題は、移民を排除したい側にとっては好都合な理由になりえます。
05年の暴動時、当時のサルコジ内相はこのような移民若者を“クズ”と罵り、それは一部世間の喝采を浴びたようです。

サルコジ大統領は自分自身がハンガリー移民2世であり、そのような環境でも現在の地位を得たことに対する強烈な自負があるのでしょう。逆に、“境遇を理由にして努力が足りない”思われる者は“クズ”ということになるのでしょう。

サルコジ大統領は“自分が移民や少数派に偏見を持っていないことを示す”がごとく、新内閣にも何人かの"minorite visible"(黒人、アラブ人あるいは東洋人といった、欧州人種とは明らかに外見が異なる人たち)を投入しています。(後略)【
2007年12月8日ブログからの抜粋】
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【移民に「開放的」であると同時に「閉鎖的」なフランス社会】
フランスは民族的血統に拘らずに移民を受け入れる「開放的」側面と、フランス的価値観を求める「閉鎖的」側面の両方があります。

下記は2005年暴動に関する論説ですが、現在にもそのままあてはまります。

****フランスの暴動 ―欧州の移民社会とフランスのジレンマ―****
(中略)
■「普遍性の共和国」フランス:開放性と閉鎖性
この一連の暴動自体は突発的な契機で始まったものだが、この事件の背景には「普遍性の共和国」フランスの根深い社会問題がある。

元々ガリアとローマの混淆の歴史に始まるフランスは、革命を経て国民国家の嚆矢となってからも、フランス国民の定義を民族的血統に求めたことは一度もない。フランス語を話し、フランス共和国市民たる意思を示せば基本的にフランス人たりうる。

その点ではアメリカと同様、フランスのナショナリティーは開放されており、人種・民族を問わずフランスで出生した人はフランス国籍の取得が可能である。

したがって移民の二世・三世も容易にフランス国民となりうる。近年では、フランスの旧植民地であるアフリカ地域、特にマグレブと呼ばれるアルジェリアやモロッコなどの北アフリカ地域からの移民が急増しており、とりわけ今回の暴動の発端となったパリ郊外やマルセイユなどでは、移民が住民の多数を占めてコミュニティを形成している地区が点在している。

その一方で、フランスには国是としての政教分離(ライシテ)の原則が厳然と存在する。フランスで政教分離を徹底する法律が制定され、公共の場でスカーフを被ることが禁じられたことは内外で大きな議論を引き起こした。

政教分離の原則を徹底することは、(中略)元々個人の信仰と社会的行為が不可分であるイスラム教を信仰する人々にとっては、ともすれば強制的な同化主義のように映ってしまい、信仰を否定されたように感じ国家に対して疎外感を抱くイスラム系移民が増えるという現象がある。

また、フランスの社会は、門戸は開かれているとはいえ、芸術やスポーツなどの特定の分野を除けば、移民にとって社会的な上昇の経路は少ない。

フランスはある意味では日本よりも遥かに明確な学歴社会である。学歴によって就業の機会や昇進の度合いは全く異なる。

高校卒業・大学入学資格のための試験(バカロレア)で哲学の小論文が課されるようなフランスの教育にあっては、知識の詰め込みだけで大学に入れるという仕組みではなく、高等教育を受けられる機会は経済事情によっては左右されないものの初等・中等教育段階の学習環境によって大きく左右される。

そして初等・中等教育の環境は居住地区によってある程度決まってしまう。その点でフランスにおける社会階層の再生産、固定化の傾向は否定できず、特に移民のコミュニティに暮らす若者にとってフランスの社会は将来に希望が持ちにくい社会であるかもしれない。

そしてフランスの景気の低迷によって最も影響を蒙っているのも彼らである。フランスの失業率は約10%であるが、移民の多い地域では倍の20%近くに及ぶ。若者だけで統計を取ればその率はさらに高くなるであろう。

社会に疎外感を抱き、将来に希望の持てないそうした若者たちの鬱積した不満は、既に治安の悪化などに表れており、移民のコミュニティがパリの郊外に多いことから「郊外問題」という現象が指摘されていた。今回の暴動も、こうした若者たちの鬱積した不満が暴発してしまった結果であると言えよう。(後略)【2005年11月9日 小窪千早氏 日本国際問題研究所】
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【極右勢力の反発を惹起】
近年、フランスではルペン氏に代表される極右勢力が大統領の座をうかがうほどに台頭していますが(ルペン氏自身は極右色を薄めていますが)、移民系若者の暴動は、これに対する激しい反発を惹起し、両者は激しく対立することにもなります。

****発砲警官に支援2億円=極右呼び掛けで物議―フランス暴動****
フランス全土に拡大した暴動の発端となったパリ郊外での北アフリカ系少年(17)射殺事件を巡り、発砲した警官の家族を支援する動きが極右主義者の提唱で広がり、物議を醸している。クラウドファンディングで集まった資金は3日、計129万ユーロ(約2億円)に達した。事件に対する抗議は放火、略奪といった破壊行為に変質しており、治安強化を求める人々が賛同しているとみられる。

支援を呼び掛けたのはジャン・メシア氏。昨年の仏大統領選で「反イスラム」を掲げ落選した極右候補陣営の報道官を務めた。発砲した警官について「自分の仕事をして高い代償を払う」ことになったと同情。「警察を支えよう」と訴えた。(後略)【7月4日 時事】 
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【警察官の差別的「体質」への指摘も】
また、移民系若者の暴力が多いことやテロの脅威もあって、警官側の対応にも問題がある面も。国連人権高等弁務官事務所が治安当局による人種差別を指摘する事態にもなっています、

****「従わなければ逮捕だ!」警察から受けた不条理な脅しの実体験 暴動に揺れるフランスは本当に自由・平等・友愛の国?****
(中略)果たしてフランスは自由・平等・友愛の国なのか。筆者がフランスで取材中に体験した、治安当局とのエピソードを紹介する。

ロックダウン下での出来事
新型コロナの蔓延を受けて、フランスが初めてのロックダウンに踏み切った2020年3月。外出禁止令が発出されていたものの、外出の理由を記載した「外出証明書」を携帯している場合、問題なく通行できるとされていた。(中略)

フランスはジャーナリズムの国である。ジャーナリストに税制上の優遇措置を講じるほど、国民の「知る権利」に応えるこの仕事を重視している。以下は、そのフランスで起きたことだ。

同僚の記者がシャンゼリゼ通りで日本と中継をつないでリポートをしようとした時のこと。直前に数人の警察官が近寄ってきた。「ここからすぐに立ち去れ!」

日本メディアであることを説明し、外出証明書も提示したが、「立ち去らなければ逮捕する」とまで言われた。仕方なく、屋外でのリポートを断念した。この際の警察官による恫喝が原因で、この記者は後までトラウマを抱えることになった。

翌日、今度は筆者が取材のためカメラマンと共にシャンゼリゼ通りを歩いていたところ、数人の警察官らに呼び止められた。歩いていただけで、威圧的な言葉で立ち退くよう言われた。

日本のメディアであり、取材中であることを話してもその姿勢は変わらなかった。我々が理由について説明を求めたところ、彼らが発したのは「これ以上従わなければ逮捕する」という言葉だった。

カメラマンはすぐに、「あなたたちが言うことが本当かどうかパリ警視庁に確認する」と電話を取り出した。すると突然、「もういいから、もう分かったからどうぞ行って!」と、手のひらを返したように態度を変えたのだ。一連のやりとりから見て、ある種の嫌がらせのようなものであることが分かった。

カメラマンは、「差別だ」とつぶやいた。フランスで育った彼は、警察官による人種差別をよく知っている。

これは取材中の一幕にすぎない。この他、生活必需品を買いに行くために外出した際にも、他にも歩いているフランス人がいるにも関わらず、呼び止められるのはなぜかアジア系の筆者。一度や二度ではない。こうした声は、パリ在住の日本人の知人たちからも多く聞かれた。

「フランスは人種差別に真剣に対処を」
2023年6月27日、パリ近郊ナンテールで、交通取り締まりの検問を逃れようとした17歳の少年を警察官が射殺した事件をきっかけに、フランス全土で暴動が起きている。少年はアルジェリア系の移民2世だった。

事態を受けて国連人権高等弁務官事務所は6月30日、「フランスは人種差別主義や治安当局による人種差別の根深い問題に真剣に対処する時だ」と指摘した。フランスは、「自由・平等・友愛」を掲げる国。人種差別を指摘されるなど、大変な不名誉である。

フランス政府はすぐに、「根拠がない。フランスとフランスの治安当局は人種差別やあらゆる差別と断固として闘っている」と反論した。(後略)【7月4日 FNNプライムオンライン】
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タイ  総選挙に勝利した前進党・ピタ党首は首相になれるのか? その前途は多難

2023-07-03 22:58:37 | 東南アジア

(連立政権を目指す覚書に調印し握手する「前進党」など8党の党首ら(2023年5月)【5月30日 NHK】
前列、左から4人目が前進党・ピタ党首)

【前進党・ピタ党首にタイ政治「新たな始まり」の可能性も】
周知のように、5月14日に行われたタイ総選挙では、王制改革や徴兵制廃止を掲げる前進党(ピタ党首)が選挙直前に若者らを中心に急速に支持を伸ばし、それまで勝利が確信されていたタクシン元首相系の貢献党を抑えて下院(500議席)の第1党の座を獲得しました。

なお、親軍勢力の与党は予想どおり大きな議席を獲得することはできませんでした。

この結果、今月13日に予定されている首相指名選は前進党・ピタ党首を軸に調整が行われてきました。

しかし、第1党の前進党(152議席)と第2党の貢献党(141議席)、更にはその他野党勢力を合わせても、軍の意向に沿うことが予想されている上院(250議席)を含めた議員総数(750議席)の過半数に足りていません。

****タイ 野党8党が連立覚書締結 政権奪取狙う****
タイの下院総選挙で第1党となった野党「前進党」が政権交代を見据え、他の野党との連立について正式に覚書を交わしました。

前進党は22日、選挙で第2党となったタイ貢献党を含む野党8党での連立について、正式に覚書を締結したと発表しました。

覚書では、経済格差の是正や強制的な徴兵制の原則廃止など、23の項目で各党が合意しています。

ただ、選挙戦で前進党が訴えていた王室への侮辱行為を罰する「不敬罪」の改正については合意項目には盛り込まれませんでした。

前進党ピタ党首:「(不敬罪改正について)国会に持ち込まれれば議論が進むだろう」

前進党は不敬罪の改正を国会で議論するとしていますが、連立を模索する各党での立場も異なるため実現の可能性は低く、支持者の一部からは失望の声が上がっています。

また、今回の野党の連立により下院では過半数を超える見込みですが、首相の選出には上院議員による投票も含まれることから、政権交代が実現するかどうかは依然、不透明な状況です。【5月22日 テレ朝news】
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(不安要素はいったん脇に置いて)最初に「可能性」の話をすれば、もし前進党のピタ党首が首相に指名されることになれば、これまでタブーとされてきた王制改革や軍部の抵抗が予想される徴兵制廃止なども国会での議論が行われ、タイ政治の大きな変革の可能性になります。

*****タイ総選挙で躍進 ピタ党首ってどんな人?「新たな始まり」とは?****
「タイの人々が未来に向かうことを求めた結果だ」
(中略)タイ「前進党」ピタ・リムジャラーンラット党首政治家になる前、実業家としてたびたび日本を訪れ、日本語も少し話せるというピタ氏。NHKとのインタビューでも冒頭、日本語で自己紹介をしてその場を和ませるなど、柔らかな物腰、笑顔が印象的です。

(中略)現地では地元メディアが連日、ピタ氏がどこで何をしたか、何を言ったのかなど、一挙手一投足を伝える「ピタフィーバー」と呼ばれる現象まで起きています。

1980年生まれの42歳という若さで、大方の予想を覆して第一党に躍進した「前進党」を率いるピタ氏はいま、「民主化のシンボル」として注目を集めています。

ハーバード大卒で実業家に そして政界へ
ピタ氏はタイの大学を卒業した後、アメリカのハーバード大学とマサチューセッツ工科大学で修士号を取得。
父親の急死にともない25歳の時に、父親が立ち上げた米油などを手がける会社の経営を引き継ぎました。その後事業を成長させ、若手実業家として注目を集めます。

前回、2019年の総選挙で、軍政からの脱却などを掲げ新党ながら第3党に躍進した「新未来党」の候補として初当選し下院議員に。

翌年、プラユット政権下で「新未来党」が解党され、党幹部の政治活動が禁止されると、ピタ氏が中心となって新未来党に所属していた議員とともに、後継となる「前進党」を立ち上げて党首に就任しました。

今回の総選挙で下院500議席のうち151議席を獲得し、「前進党」を第一党に躍進させたピタ氏に、首相就任に向けた戦略や王制改革、徴兵制の廃止といった公約をどう実現するのか、話を聞きました。

※以下、ピタ氏の話。
「前進党」躍進の理由は何か?
今回の選挙結果は、タイの人々が「過去に戻るのではなく、未来に向かうことを望む」と声を上げた結果です。
支持者と握手するピタ氏(2023年5月)(クーデター以降の)9年間、タイでは経済、政治がさまざまな理由で混乱してきました。このことが変化をもたらす要因になったのです。

政府と国民、議会と国民との間にほとんどつながりがありませんでした。コロナ禍での政策は、公衆衛生の面で迅速で十分な対応ができなかったことを明確に示しました。

そして労働改革、教育改革、環境改革を含む多くの先進的な法案を提出しても、軍の影響力の強い議会を通りませんでした。

さらに、平等をもたらすはずの「法の支配」が機能していないのです。(中略)

不敬罪については、議会の場で議論し改正する必要があります。
法律を提出するのには議員20人が必要ですが、前進党は150人あまりの議員がいて、自分たちだけで提出することができるのです。

私たちはこれまで王室と国民の関係、特に新しい世代との関係をどうよりよいものにするかについて真摯しんしに考えてきました。

21世紀の現代において、王室の地位や権威を、ほかの立憲君主制の国々と比較してどのように位置づけるかです。
タイの王宮(バンコク)これまでほぼ間違いなくできなかった議論を、このように話すことができるようになっています。すでに進歩しているとはいえます。

徴兵制の見直しについてはどうか?
徴兵制の見直しを含む軍改革により、より新しい課題に予算を振り向けたいです。パンデミックや気候変動の影響、高齢化など、私たちは新たな脅威に直面しています。

タイが防衛力をもつことは非常に重要だと思います。ただ、大規模な兵力をもてば、国の安全保障を向上させられるというわけではありません。国防を国内経済に転換するということです。(中略)

このインタビューのあと、連立相手の「タイ貢献党」との対立が報じられ、「連立の枠組みが崩れるのでは」との臆測も流れるなど、今、民主派政権の樹立には暗雲が立ちこめつつあるのも事実です。

多くの国民の支持を受けて第一党に躍進した「前進党」、その党首のピタ氏がタイを率いるリーダーとなり「新たな始まりの時」を迎えられるのか。タイ政治の今後を大きく左右するものとなりそうです。【5月30日 NHK】
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外交的には、現在のタイ・プラユット政権は軍部出身ということでミャンマー・軍事政権にも宥和的ですが、前進党主導の政権になれば、ミャンマーに対し厳しい姿勢に変化することも予想されます。

【難航する上下両院での「過半数確保」 軍の意向を受ける選管からのピタ党首に対する選挙違反疑惑も足かせ】
いずれにせよ、まず最初のハードルは上下両院750議席の過半数をどうやって獲得するのか(過半数まで野党8党を合計しても64議席足りません)・・・軍によって選任された上院をどこまで切り崩すことができるのかという問題。

当然ながら、ピタ党首は自信を示していますが・・・

****MFPピタ党首、上院からの首相指名に自信 投票は来月中旬****
昨日の2023年6月27日、タイのMFP(Moving Forward Party)党のピタ党首は、同党から下院議員に選出された150名の議員とともにタイメディアの取材に答え、来月中旬に予定されているタイの次期首相指名でタイの上院(定員250)からも十分な得票が得られ、首相指名がされる見込みについて自信を表明しました。
タイの全国ニュースを伝えるTPN National Newsが伝えています。

タイのMFP党のピタ党首は、現在は8政党での連立となっており、この後は来月中旬に予定されているタイの次期首相指名で第30代のタイ首相に選出されることに自信を語りました。

このピタ党首のコメントは、タイの上院議員の一部が、上院250人のうち5人しかピタ党首には投票しないだろうとコメントした事が伝えられた後に、発されたものです。

現在、MFP党(前進党)などを中心とする野党の連立は8政党、タイ下院(定員500)のうち312人となっています。
タイの首相指名は、タイ上院250名と下院500名の合計750名で投票されるため、この過半数の376名の投票を得なければいけませんが、これにはまだ64票の議員票が足りません。(後略)【6月28日 PJA NEWS)】
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ピタ党首への支持が広がらない背景には、(軍の意向を反映する)選挙管理員会がピタ党首の選挙違反疑惑を問題視していることもあります。

躍進した野党勢力や対立する政党を、挙管理委員会や裁判所を使って法律・規則違反の難くせ・言いがかりをつけて追い落とすのは、タイ保守勢力の常套手段であり、また今回も・・・という事態が懸念されています。

****タイ総選挙から1カ月…「新政権樹立」は不透明 広がらない連立支持、第1党ピター党首の選挙違反疑惑も****
5月14日に投開票されたタイ下院総選挙から1カ月が過ぎた。第1党となった革新系の前進党は新政権樹立に向けて連立協議や政策の擦り合わせを進めるが、親軍派が多い上院議員への支持は広がらず、ピター党首の首相就任に必要な議席を確保するメドは立っていない。ピター氏のメディア企業の株式保有を巡る選挙違反疑惑もくすぶり、不透明感が強まっている。(中略)

◆ピター氏の疑惑は「投票回避の口実になる」
また、選管はピター氏の選挙違反疑惑も調査中だ。

ピター氏は総選挙時、活動休止中の放送局「iTV」の株式4万2000株を保有していた。

下院議員選挙法の第42条は、メディア企業の株式を持つ候補者の立候補を禁止。第151条は、選挙に立候補する資格がないことを知りながら出馬した場合、10年以下の禁錮と20万バーツ(約82万円)以下の罰金が科せられ、選挙権を20年間剝奪すると規定している。

ピター氏は総選挙後に親族に株式を譲渡している。

首相指名選は下院議員500人のほか、軍政下で任命された上院議員250人が投票する。前進党は少なくとも40人の上院議員の支持を得られると説明しているが、過半数の376議席には届いていない。

専門家は「(選管の調査は)上院議員がピターへの投票を回避するための口実になる」と指摘し、支持を呼びかける上で障害になるとの見方を示した。【6月17日 東京】
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中央選挙管理委員会は現段階では最終判断を保留しています。

****ピタ党首のメディア株保有問題 選管「証拠・証言が不足している」****
総選挙で最多議席を獲得した前進党のピタ党首が法に反してメディア株を保有したまま総選挙に立候補したとされる問題で、中央選挙管理委員会はこのほど、最終的な判断を下すにはまだ証拠、証言が不足しているとの見解を明らかにした。

問題のメディア株はピタ党首の亡父が所有していたものだが、同党首は父の死去に伴い遺言執行人になったに過ぎず、株は相続していないと主張している。 また、メディア株とはテレビ局の運営などを行っていたiTV社の株のことだが、同社は休眠状態とされ、「iTV株はメディア株とは見なせない」といった指摘も出ている。【6月21日 バンコク週報】
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今この段階で「違反」としてピタ党首を排除すれば国際的にも批判を浴びますので、敢えてそういう方法はとらず、「いつでも違反にすることができるぞ!」とピタ党首に圧力をかけ続け、同氏・前進党の今後の行動に制約を課す狙い・・・でしょうか。選管からは「下衆の勘繰りだ」と怒られそうですが。

【不安定なタイ貢献党との協調関係】
第2党である貢献党との関係も、今後の不安材料のひとつ。

最初の首相指名選でピタ党首が過半数を取れない場合、多数派工作をいろいろ行って、2回目の首相指名選挙に挑むことになりますが、貢献党は2回目では自党のペートンタン氏(タクシン元首相の次女)を首相候補とすることを提案する可能性があります。

その場合、野党8党の連立協議は破綻し、タクシン系の貢献党と親軍政党の連立が模索される可能性もあります。

タクシン系の貢献党と親軍政党の連立・・・・以前では考えられない旧敵同士の組み合わせですが、王制改革などの議論からすれば、両者ともに既存政治の枠内にある存在で、枠外から突如台頭した前進党よりも体質的には近いものがある・・・かも。

日本メディアによれば前進党と貢献党は下院議長の選出でも協議を続けていますが、結着していません。(タイ地元メディアでは、6月中旬に“下院の正議長1人を前進党、副議長2人をタイ貢献党から出すことで意見が一致した”という報道がありましたが・・・)

貢献党は「首相を前進党から出すなら、下院議長は第2党の貢献党から」と主張していますが、前進党としても、今後の議会運営(王制改革・不敬罪廃止などの審議)を現実のものにするためには下院議長ポストが欲しい・・・という話のようです。

仮に政権を取得出来ても、貢献党とうまくやっていけるのか、軍部の抵抗があるのでは(極端な場合、クーデター)という不安がつきまといますし、激しく軍の意向に背くと選管が「選挙違反問題」を持ちだしてピタ氏を排除するということも・・・。

なんだかんだで、多くの波乱含みですが、先ずは7月13日の首相指名選挙がどうなるのか、それを受けて、前進党・ピタ党首、貢献党、親軍勢力がどう動くのか・・・注目されます。

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中国  当世若者事情 厳しい競争社会 人生を決める“一発勝負”「高考」 20%超の失業率

2023-07-02 22:51:14 | 中国

(【6月29日 FNNプライムオンライン】 中国のSNSで流行っている、大学を卒業した人たちによる“死んだふり”をした写真の投稿、通称「死亡卒業写真」)

【「厳しい競争社会」の中で「自分の身は自分で守る」自分優先主義】
昔は社会主義の悪弊として、働いても働かなくても結果は同じみたいな悪平等、その結果として、働くモチベーションが低く、生産は非効率に陥る・・・と言われていましたが、現代の「中国の特色ある社会主義」は全く事情が異なります。

資本主義以上の熾烈な競争社会であり、これの一体どこが社会主義なのか?という感も。

****“周りは敵ばかり” 自分を優先する中国社会と中国人の生き方****
渋滞に見る“自分優先主義”
中国・北京で誰もが経験するのが交通渋滞だ。日本と違い交差点の中にまで車両が入るため、ひどい時には縦横斜め全てが行き詰まる無秩序に陥る。まさに「にっちもさっちもいかない」状態で、それが渋滞にさらに拍車をかける悪循環だ。

なぜ交差点にまで車を入れるのかを友人に聞いたところ「行けるときに行っておかないと損をするからだ」という。確かに中国の交差点は、方向が同じだからといって信号機の色が同じとは限らない。赤と青が交互に来る日本と違うので、信号待ちの時間は日本より長いところが多い。礼儀正しく待つよりも「行けるところまで行く」の気持ちはわからないでもない。

信号待ちに限らず、北京の交通事情は先に入った方が優先で、車両同士が譲り合う光景はほとんど見ない。感覚的には、ほかの車両を優先させていると自分はいつまでたっても前に進めない。つまり自分を優先させることが求められる。

交通事情が全てとは言わないが、確かに中国は「厳しい競争社会」(中国筋)である。政策が突然変わることもあれば、コロナ禍でのロックダウンのように自由が制限されることもある。仕事や生活環境は簡単に影響を受けるし、補償金などの話はほとんど聞かず、あてにする人も少ない。「自分の身は自分で守る」が基本なのである。

上海で焼き鳥屋を営む友人はコロナ禍の際、「いつ何があるかわからないので休めない」とこぼしていた。一概には比べられないが、中国にいると日本は人に優しい社会だとつくづく思う。

それを踏まえれば、中国の貧富の格差は当然の結果とも言える。14億人の競争は熾烈だし、急激な環境の変化に備え、自分の利益を追求、確保するのは当たり前だからだ。金持ちにはより金が集まり、貧しい人は浮上する余地がさらになくなる。問題は貧富の格差だけでなく、「格差が固定化していること」だと以前から言われている。

また、政治に参画できないことは「公」の意識を希薄にさせる。寄付の文化はほとんどない。高齢者や子供に優しい習慣があることに少しの安心を覚えるが、家族や親しい友人などの「味方」以外は、基本的に「敵」だという考え方なのだろう。

中国の友人に「残りものには福がある」という日本のことわざを教えたところ、「中国では残りものを待っても意味がない。なくなるだけだ」と言われた。自分勝手という印象もある中国人だが、言い方を変えれば生き残るために必死なのだろう。(後略)【6月11日 FNNプライムオンライン】
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結局のところ、「中国の特色ある社会主義」というのは、社会主義を標榜しながらも実際は資本主義を行う経済制度であり、 政治面では中国共産党の一党独裁を維持しながら、経済面では中国政府が定めている規制の中で市場経済を実行している制度です。

そこでの「厳しい競争社会」を生き抜くルールは「自分の身は自分で守る」ということであり、周りは敵ばかりという“自分優先主義”のようです。

(もちろん、上記のような話は中国社会の特徴を表す一面であり、全部が全部そういうことだと言うつもりもありませんが)

【人生を決める“一発勝負”「高考」狂騒曲】
中国の若者にとって「厳しい競争社会」を生き抜くうえで必要になるのが学歴であり、人生を決める“一発勝負”ともなるのが、科挙の伝統を引き継ぐような「高考」です。今年は6月7日から始まりました。

****「きょうは人生の分かれ道」受験者は過去最多“約1290万人” 中国の大学入試「高考」始まる ゼロコロナ政策終了後 初の実施****
厳しい学歴社会と言われる中国で、全国統一大学入試「高考」が始まりました。ゼロコロナ政策終了後、初となる実施です。(中略)

今年の高考の受験者数は過去最多のおよそ1290万人。「ゼロコロナ政策」の終了により、北京の会場では、▼マスクの着用義務はなくなり、▼48時間以内のPCR検査の陰性証明も不要になりました。(中略)

保護者 「子どもは十何年も勉強して大人になった。きょうは人生の分かれ道です」

縁起物のチャイナドレス姿で見送る母親も。中国で「人生を決める」とも言われる「高考」は、最長で10日まで続きます。【6月7日 TBS NEWS DIG】
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当然のように過熱する受験戦争、資力のある家庭が有利となる教育格差・・・・そうした現状を是正するため、中国政府は学習塾などを禁止する大胆な施策を実施していますが、「上に政策あれば下に対策あり」という中国社会のことですから・・・

****勉強は1日16〜20時間、書店員がやたらと親切な“闇学習塾”も出現 「一発で人生を変えられる唯一のチャンス」中国の大学受験戦争****
(中略)中国では当たり前でも、日本人からすると信じられない光景がある。そのひとつが「大学受験」。

中国の受験名物である、「赤いチャイナドレス」。漢字で書くと「旗袍(チーパオ:旗を掲げて勝利する)」を意味し、おめでたい色である赤のドレスを身にまとって、げんを担ぐ。最近では、教師や父親もチャイナドレスを着るという。「旗開得勝(勝って旗を掲げる)」を意味する中国語のTシャツも人気だ。

また警察は、受験票を忘れたり、遅刻しそうだったりする生徒を、パトカーや白バイで送り届けることも。また入試が近づくと、カラオケ店や飲食店が大きな音を出さないよう、取り締まりも行われる。

受験生はこの時期、1日16時間から20時間勉強するため、集中できるようにするための施策だ。受験科目は国文や数学、英語など4科目あるが、中でも大変なのが5000年にわたる「歴史」だという。

中国に詳しいジャーナリストの高口康太氏は、大学受験が「一発で人生を変えられる唯一のチャンス」だと指摘する。

かつて中国には、世界最古の官僚試験「科挙」があった。科挙に合格すると「一族を三世代にわたって食わせられるような権力」を得られた時代からの伝統が、受験戦争の背景にあるという。

また、激しい経済成長のなか、貧しい人でも「自分はともかく、子どもたちは出世できるのではないか」との見込みもあると、指摘する。

試験結果によって、「一本大学」「二本大学」「三本大学(短大・専門学校)」のレベルに分けられ、公務員や有名企業といった就職の道筋も定められる。

こうした学歴システムは、格差のない共産主義と矛盾しているようにも思える。事実、過熱する受験戦争の抑制と、受験勉強の格差を是正するため、学習塾などが禁止されたものの——。

「たとえば、学校の参考書を売っている『書店』の名目だが、店員がやたらと親切で、買いに来た学生が質問すると、なんでも教えてくれる。超高学歴で英語も数学も教えてくれるメイドさんもいる」(高口氏)

では、そのような教育システムに弊害はないのか。高口氏は、「良い成績をとって良い大学を出なくても、いろいろな仕事はできる。今の中国の価値観だと軸が1つしかなく、そこから落ちこぼれた時にリカバリーの手段が少ない。エリートを輩出する仕組みとしては優れているが、想像力を発揮して、今までにないイノベーション、ビジネスを起こすのは、必ずしも『詰め込み教育』による高学歴人材とは限らない。社会の多様性がなくなってしまう」と指摘した。(『ABEMA的ニュースショー』より)【7月1日 ABEMA TIMES】
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【卒業しても20%を超える失業率】
そうした競争を経て大学を卒業しても、更なる試練が。

毎年大量の大学卒業生が労働市場に参入しますが、もはや「大学を卒業すれば、それにふさわしい職がある」といった時代ではなくなっており、若者の失業率は20%を超える状況。失業を避けて大学院に進む者も多く、そうしたことを考慮すると、実際の就職難は「20%」という数字以上とも推測されています。

働く場が絶対的に不足しているというより、大学卒業生が希望するような職種の新規雇用が少ないという“雇用ミスマッチ”が指摘されています。

****中国の大卒者は就職難 雇用ミスマッチ****
景気回復にもかかわらず若年層の失業率が上昇

中国では若年層の失業率の急上昇に歯止めがかからず、政府にとって大きな頭痛の種となっている。この問題には雇用のミスマッチが関係しており、政府が打ち出す解決策が何年も効果を発揮しない可能性もある、と多くのエコノミストが話している。

16~24歳の若者の失業率は4月に20.4%と過去最高を更新。数カ月前から大幅に上昇し、新型コロナウイルス流行前の水準をはるかに上回っている。2019年の失業率は概して13%以下にとどまっていた。

中国では4月の都市部全般の失業率が5.2%と前年同月の6.1%を下回っており、これが若者の失業率の高さを一層際立たせている。

今夏には過去最高となる1160万人の大学生が卒業する見込みであることから、若者の雇用市場は一段と悪化すると一部のエコノミストはみている。

エコノミストによると、主な問題点は中国が高賃金・高技能職を十分創出できていないことにある。同国では高学歴の若者が増えており、その多くは前世代の人たちよりも仕事に高い期待を抱いている。

多くの若者は、妥協して賃金が低めの仕事に就くことよりも、さらなるチャンスが訪れる可能性に賭け、就職を先延ばしにすることを選んでいる。

クレディ・スイス・グループの中国担当チーフエコノミスト、デービッド・ワン氏は「中国の若者の失業率の高さは一過性のものではなく、構造的なものだ」と指摘。「若者が訓練を受けているスキルと既存の雇用が必要とするスキルがマッチしていない」と述べた。(中略)

エコノミストの中には、この問題は一過性のものであり、中国経済全般の回復が進むにつれ、若者の雇用は増えるとみている人たちもいる。(中略)

しかし、この問題は中国経済の不均衡を反映していると指摘する人たちもいる。それが中国の若者がやりたい仕事を見つけるのを難しくしており、問題を長引かせる可能性が高いという。

中国経済全体に占めるサービス業の割合は高まっている。しかし、過去10年に創出されたサービス職の多くは配達員やレストランのウエーターなど、大卒者にとって必ずしも魅力的とは言えない低位職だ。調査会社TSロンバードの中国・アジア調査責任者ローリー・グリーン氏はそう話す。

中国では過去10年間で高等教育進学者が大幅に増加した。過去3年間に労働市場に加わった大卒者は2800万人を超え、都市部の新たな労働供給の約3分の2を占める。

求人サイトの智聯招聘の調査によると、今夏に卒業する大学生の約30%がインターネットや通信、教育業界での就職を希望している。しかし、それらの業界の多くがここ数年の規制強化で混乱し、雇用主は増員に慎重になっている。

また、求職者が増えているため、雇用主が採用のハードルを上げている場合もある。
フ・ツーハオさんは、北京で体育教師を募集しているほぼ全ての学校に履歴書を送ったが、全滅だったと話す。

「学士号しか持っていないため、断られた。最近の学校は、たとえ小学校であっても、体育教師に修士号を求めている」。瀋陽体育学院でスポーツトレーニングを専攻するフさんはこう話し、採用されるまで頑張ると述べた。

マッコーリー・グループの中国担当チーフエコノミスト、ラリー・フ氏は、中国の平均的な家庭が豊かになるにつれ、親世代と比べて求職活動に長い時間をかける余裕のある若者が増えていると話す。

多くの若者が、より高度な学位を得るために学校に戻っている。今年、大学院の募集枠120万人に対し、入学試験を受けた学部生は470万人と過去最高に達した。国営メディアの報道によると、2021年には上海の大学の3分の1近くで、既に大学院生の数が学部生の数を上回っていた。

米ノースウェスタン大学のナンシー・チエン教授(経済学)によると、就職を遅らせたり、求職活動を断念したりする若者は、公式統計では求職者としてカウントされない。カウントされれば、実際の失業率はもっと高くなるはずだという。

中国の丁薛祥副首相は今月開いた政府当局者との電話会議で、国有企業に今年、卒業生の採用を拡大させるよう命じた。同国はそうした措置などにより、2023年に約1200万人の新規雇用を創出する目標を掲げている。

4月には広東省政府が、今後3年間で30万人の卒業生を地方に送り込み、スタートアップ企業の育成支援やその他の仕事に就いてもらう計画を打ち出した。

当局はまた、高学歴の若者に仕事に対する期待値を下げさせ、自分の学歴に見合わないと見なしている仕事にも目を向けさせようとしている。

国営メディアの報道では、20世紀初頭の中国の小説に登場する、プライドが高過ぎて仕事に就くことも労働者と交流することもできなかった貧乏な学者を教訓として取り上げている。(後略)【5月25日 WSJ】
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20%超の失業率という状況のため、軍に入隊を希望する大学卒業生も増えているとか。

****中国で大学生6000人が軍への入隊申し込む 志願増加の背景には20%超の「失業率」****
中国で今、大学生の就職先として「軍隊」が注目されています。背景に何があるのでしょうか。

6000人が大学生が軍への入隊を志願
「張美瀚です。清華大学から来ました」
これは中国軍が作成した動画。習近平国家主席の母校で中国屈指の名門、清華大学を卒業したという兵士が訴えるのは。「皆さん、軍に参加して、建軍100年の目標に青年の力で貢献してほしい」

今、中国では軍への入隊を志願する大学生が増えています。首都・北京市ではインターネットで入隊を申し込んだ7000人のうち6000人が大学生でした。

地方の大学でも地元政府がイベントを開催。中国軍への入隊を呼びかけたところ、多くの大学生が集まりました。その背景にあるのが。

中国軍は待遇を改善 就職難の大学生と“思惑一致”
大学生 「(Q.就職状況について)あまり良くないです。卒業後すぐに就職できるのは、優秀な人だけ」
大学生の就職難です。中国の都市部に住む16歳から24歳の失業率は、新型コロナの感染拡大前の2019年の5月には10%前後でしたが、今年はおよそ2倍、20.8%に増えています。(中略)

危険が伴うとして、かつては避けられていた若者の軍への入隊。給与の引き上げなど待遇改善も進む中、就職難の大学生と人材確保を進めたい中国軍の思惑が一致した状況が生まれています。【6月27日 TBA NEWS DIG】
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一方で、中国のSNSでは大学を卒業した人たちによる“死んだふり”をした写真の投稿、通称「死亡卒業写真」が流行っているとか。

****中国・死んだふりをする「死亡卒業写真」大学卒業生が相次ぎ投稿 背景には“史上最悪の就職難”****
(中略)投稿された写真を見ると、2人の人物が階段の手すり部分に力なく もたれかかる写真とともに、「学校を離れたら死んだ方がいい」という一文が。

別の投稿では、木に力なくもたれかかる3人の姿や、「卒業したら失業するよ」という言葉を添えて投稿する人も。
なぜ、こうした写真の投稿が相次いでいるのでしょうか? そのヒントは、6月に北京で行われた就活フェアにありました。

就職フェア参加者:私の知っているクラスメートで、内定をもらった人はほとんどいません。
実は今、中国の大学生たちは史上最悪の就職難に直面しているのです。

中国メディアによると、5月の16〜24歳の失業率は20.8%。5人に1人が職に就けない状況にあるのです。
さらに、2023年は過去最高となる1158万人の大学の卒業生が、就職戦線になだれ込む見込みだといいます。

中国のこうした現状について、拓殖大学海外事情研究所の富坂聰教授は、理由のひとつに「大卒者が増えすぎた」ことがあるといいます。

富坂聰 教授: 大学が増えすぎて、大卒者が増えすぎた。それに反して大卒に見合った仕事が少ないんです。こういう慢性的な問題がある中で、さらにゼロコロナ政策によるダメージですべての経済が止まったので、全般的な雇用の問題を悪くしたと。

“ゼロコロナ政策”による経済活動の停滞と大学の卒業生の増加が相まって、狭まってしまった就職の門。今後改善の兆しは見えてくるのでしょうか。(めざまし8「NewsTag」より 6月26日放送)【6月29日 FNNプライムオンライン】
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激しすぎる競争に疲れ、競争に参加するのを拒否する・・・そんな心情でしょうか。
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