ジャズ批評2013年5月号(No.173)は、特集を「スタンダード厳選100曲」として、曲の解説と、収録作品を紹介しています。昔からよくある企画ですが、小針俊郎さんによる責任編集でまとまりがあります。高木信哉さんが書いた”「スタンダード厳選100曲」と「スタンダード」とは何か?”(132~133ページ)という記事も印象に残ります。つまらない記事も多いジャズ批評誌ですが、今号の特集部分は読み物として面白く、新しいアルバムも載っていて参考にもなります。ぱっと開いたら目にとまった「All The Things You Are」の名演。
ART TATUM (アート・テイタム)
ART TATUM BEN WEBSTER (PABLO 1956年録音)
「All The Things You Are」は、オスカー・ハマースタイン2世作詞、ジェローム・カーン作曲により、1939年のミュージカル「Very Warm for May」(5月にしては暑すぎる)のために書かれた曲です。曲がアドリブの素材として面白いようで、インストのヴァージョンが非常に多く、その中でも名演の誉れ高いのが、今回取り上げたアルバム中の演奏です。
メンバーは、アート・テイタム(p)、ベン・ウェブスター(ts)、レッド・カレンダー(b)、ビル・ダグラス(ds)。アート・テイタムとベン・ウェブスターの名人芸を聴いていると、バラード中心に極上の一時を過ごすことができます。スイングスタイルのピアノ演奏に慣れない方もいるかもしれませんが、原メロディを元に装飾したり、音階を弾いたりしているので、聴いているうちに馴染んでくると思います。
曲はスタンダードで、「Gone With The Wind」(風と共に去りぬ)、「All The Things You Are」(君は我がすべて)、「Have You Met Miss Jones?」(ジョーンズ嬢に会ったかい?)、「My One and Only Love」、「Night and Day」(夜も昼も)、「My Ideal」、「Where or When」(いつかどこかで)の7曲。CDでは、別テイクが3トラック追加されています。
「All The Things You Are」では、ベン(ts)がゆったりとメロディを吹き、テイタム(p)が細かな音でそれに寄り添っています。テイタムのソロでは、原メロディを見え隠れさせながら、感傷的なこの曲の気分(曲の楽譜を見るとセブンスコードが目につきます。)に相応しい変奏が繰り広げられます。また、渋くて甘美、透明感もあるベンの音色は、こういう甘く切ない曲には、うってつけです。「Gone With The Wind」でも、テイタム(p)の巧みな前奏に続いて、テナーが入ってくるところなどぞくぞくしますし、他の曲も魅力に富んています。
【ジャズ批評2013年5月号】