宮崎さんがウクライナ近隣の訪問記からシリーズで取り上げてくれています。今回はモルドバだそうです。
と言っても、全く知りませんでした。色んな国があるんですね。もしかしたら大陸というのは一つに纏まるのは人類の性格としして無理があるのでしょうか。
こうなると、案外太平洋の島嶼国のように国が海で隔てられた島であることが世界平和の前提なのかも。
それにしても、そんな世界の国を歩き回って情報を目に浮かぶように書いてくれる宮崎さんは本当に貴重な方です。有難うございます。
「宮崎正弘の国際情勢解題」より 令和四年(2022)2月28日(月曜日) 通巻7236号 <前日発行>
ウクライナ残留ユダヤ人、モルドバへ「エクソダス」
オデッサからとなりのモルドバで待機、エルサレムへ帰還
エルサレムポスト(2月26日)によれば、ウクライナ西南部の港湾都市オデッサから、戦争の難を逃れてモルドバへ避難した 在留ユダヤ人はおよそ一万人(ほかに3万3000人がウクライナ各地に居住)が、近くエルサレムへ帰還する。
(以下は拙著『日本が全体主義に陥いる日』(ビジネス社)のモルドバの章の縮約。すでに7219号でウクライナ取材記を、 7223号でベラルーシ紀行を再録した。本編は、シリーズ第三弾)。
▼モルドバは社会主義計画経済の残滓、繁栄にはまだまだ遠い
モルドバの首都キシニウ空港に降り立った。
朝日に輝く光景のなか、管制塔のほか高い建物がなく、まるで片田舎の小さな飛行場。日本の米子鬼太郎空港や小松空港よりこじ んまりとしている。通関してロビーに出ても、両替所もない。
(これって国際空港か?)
予約していたコスモスホテルへタクシーで向かうが、道路は埃っぽく、街路樹が排ガスや土埃をかぶって黄色く汚れている。
鉄道駅前は古着や、何に使うのか不明の金具、部品などをこまごまと並べた露店がいくつも店開きしている。ショッピングセン ターの入った近代的ビルの斜め前、二十二階建てのコスモスホテルは、規模とは裏腹に旅客が少なく、照明も薄暗い。
しかもこのホテルでも両替はできず、ボーイが隣のビルの両替所まで案内してくれた。待たせていたタクシーに現地通貨(ルーマ ニアと同じくレイ)で運賃1500円を支払った。すぐさまシャワーで旅の埃を落として着替えをして、ようやくさっぱりと落ち 着いた。成田からイスタンブール空港で乗り換えた。十八時間の長旅だ。
キシニウの街並みはソ連時代の計画経済の名残か、碁盤の目のように縦横はきっちりしている。
しかし建物はと言えば旧式のいかめしいビルがあるかと思うと、隣は瀟洒なガラス張りのレストラン、とても計画的には見えな い。カジノが至る所にあって、二十四時間スーパー、怪しげなストリップ劇場、入れ墨専門店が軒を並べ、寒い国にこそ需要があ りそうなマッサージの店は少なく、目抜き通りには女性向けの美容室も見かけない。異常な環境である。
▼豪華なレストランもあれば、ホームレスも。町は埃だらけ
物価が安いので欧米からの観光客は結構多い。そうした人々と行きかうのだが、中国人、韓国人には滅多に出会わない。日本人 とは全く会わない。それなのにあちこちに寿司バアがある。世界的に健康食として寿司が静かなブームになっている。
一日目の夕食としてグルジア料理でもと目抜き通りから一歩奥まった、中庭が緑に囲まれている店を選んだ。
屋外の席に陣取ったが、隣では着飾った男女が騒々しいパーティ。何かと思えば一歳の子供の誕生日を祝う若夫婦が、友人たちを 招待した一団だった。ロシアの新興財閥のような、結構豊かな階層がモルドバにも出現している。
ほかにビジネス客、常連客とアメリカ人の老夫婦らもめずらしいものを見るような目でこのパーティを眺めていた。旧共産党幹部 らの国営企業民営化のどさくさに紛れての汚職が絶えない。加えて、こうした所得格差も社会的憤懣となってくすぶっているのだ ろう。
凱旋門の中心に大統領府、市庁舎、議会前にはテント村が出現している。泊まり込みでハンガーストライキを続けるグループを よく見かけた。
同じ場所で憩う市民もいる。キシニウ市内で一番大きな公園は初代国王シュテファン大公を記念するもので、そういえばモルド バ通貨のデザインはすべてこの国王の肖像をあしらっている。キシニウの目抜き通りの名称もシュテファン・チェル・マレ通り だ。国会ビルを取り囲む緑豊かな公園の、日陰のベンチにはのんびりと憩う老人たち、テキストをひろげる学生に混ざってカップ ルが肩を寄せ合っている。その横をスケボーの少年らが勢いよく走り抜け、近くのアイスクリーム屋に殺到していた。
こんな光景を眺めていて、戦争の傷跡がほとんど見当たらないことに気が付いた。
中古市、骨董市などを覗くと旧ソ連時代のバッジ、軍帽、ブレジネフのバッジまで売っている。そのとなりの店にはドナルド・ト ランプのマトリョーシカが客待ち顔で鎮座する。
▼EU加盟をロシアが阻止
モルドバはEU加盟を政治目標にしている。ところがこれを不快とするロシアから、モルドバ産ワインの輸入禁止などの嫌がら せを受け、ガスパイプラインを止めると脅されたりするので、なかなか前進させることができないのである。
「モルドバ語」と表記される言語も実態はルーマニア語であり、国旗はと言えば中央にオーロックス(牛の原種)が描かれてはい るが、ルーマニアそっくりの青・黄・赤の三色旗。ロシア語族は沿ドニエステルを中心に11%程度。
モルドバは価値紊乱の真っただ中、文化の多様化という混乱の様相を見せていた。
モルドバ国民の悲願は将来のルーマニアとの合邦にあるが、ロシアは絶対反対である。
モルドバの西側はルーマニア人の居住する農業地帯で、モルドバワインは世界的に有名、多くのモルドバ国民はルーマニアへの 復帰を望み、言語もルーマニア語を話す。
モルドバはながらくルーマニアと一緒で元の名前は「ベッサラビア」。2018年にはベッサラビア誕生百周年の記念行事も予 定されている。
第一次世界大戦でベッサラビアはソ連により分割され、モルドバはソ連圏に編入された。
まさにその東西冷戦の残滓がまだ居残り、微妙なバランスの中、政治的な綱渡りを演じているのがモルドバ共和国だ。親西側を 鮮明にはしつつも、もう一歩踏み切れないもどかしさ、すぐ東がウクライナだからだ。
モルドバの安定はウクライナ情勢の帰結に深く連動しており、EUが全面支援には踏み切れない理由付けにもなっている。プー チンは沿ドニステルの武装勢力と、ルーマニア国内のプロ・ロシア政党、ならびにモルドバ国内のロシア工作員を通じて一連の地 下工作を展開するからだ。
しかしモルドバは経済的に行く詰まり、繁栄にはほど遠く、かつ国内政治はプロ・ロシアの政党がまた力をもっており、国民の 意識調査では西側への傾斜があきらかではあっても、法体系と治安制度から、多数派には達しない。
そのうえロシアのクリミア併合とウクライナの混乱を目撃すれば、急激な政治的路線変更はロシアの介入をまねくことを極度に 警戒しているからだ。
やはり、ソ連の夢を未だに捨てられないロシア・プーチンの罪は重いようです。
共産主義は一度信じたら捨てられない魔力でもあるのでしょうか。それとも、独裁が問題なのか。
やはり、シラス国という最良の民主主義を世界に広めるべきなのでしょう。権威と権力の分離を取り入れた日本の凄さを世界に広めよう。