九代目市川團十郎は華奢で小さな人物だが、当時の実見記を読むと、舞台からはみ出すように見えたという。團十郎像の作者は、未完に終わったであろう高村光太郎を含め九代目の舞台を観ているだろう。新海竹太郎は暫くの扮装しているところを制作用に目の前で撮影させている。いずれにしても“肝心なことは写真には写らない”と全員が思ったはずである。坪内逍遥など、よほど歯がゆかったか写真集『舞臺之團十郎』に“團十郎のあの爛々たる大きな目をぐっと睨ませて、如實に撮影し得たと想像して見たまへ”と『実際の團十郎はこうだ』とばかりに補足している。私は逍遥のこの一文に煽られ私の九代目を作った。 亡くなって十年、演劇雑誌に九代目の奥さんが思い出を寄稿している。釣りばっかりして、借金取りが怖くて部屋の奥で小さくなっていたらしい。そう思うと普段着の団十郎はちゃんと写真に写っている気がしてくる。当時の習慣かもしれないが、レンズをまっすぐ見つめる写真は1カットもなく、こっち見てる、と思って拡大してみたらレンズより下を見ている。写真嫌いとはいえ、そんなところも普段と舞台とはギャップがあった人物ではなかったか、と思わせるのである。
青木画廊サイト。小津安二郎像に写真2点出品。
開廊55周年記念「眼展2016Part1〜妄想キャバレー〜」銀座青木画廊
2016.11/05(土)~2016.11/18(金)アートスケープ 展評『深川の人形作家 石塚公昭の世界』
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