ネタ元である英一蝶の滝に打たれる不動明王は、背中の火焔や剣などの持ち物を濡れないように傍に置いている。絵師と太鼓持ちの二刀流らしいユーモアである。画調は戯画タッチであり、濡れている所までは表現されていない。不動明王が濡れるシュチュエーションはまずないだろうし、必要もない。 仮に濡れる不動明王を描こうとした絵師がいたとして、ネックになるのは火焔だろう。一蝶の〝着脱式火焔”というアイデアのおかげで、濡れる不動明王という、制作上のテーマを得る事が出来た。天を衝く怒髪も滝に打たれれば、いくら癖っ毛の剛毛でも、衝いてばかりもいられないだろう。 幼い頃、迷子除けか、真鍮製の米兵の認識票みたいなのを首から下げていた。住所と酉年の守り本尊、不動明王が筋彫りされていた。『ゲンと不動明王』という小柳徹主演の映画を家族でテレビで観た記憶もある。不動明王は三船敏郎だった。