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動詞renounceは「(正式に)放棄する、棄権する」。たとえば、Japan has renounced war. (日本は戦争を放棄した)という形で使われる。
この動詞はわれわれ日本国憲法第9条に効果的に用いられている。
そして、先日、日本国憲法を英語で考える刺激的な本が刊行された。
『現代語訳でよむ 日本の憲法』(アルク)だ。
本日のGetUpEnglishは日本の憲法第9条および動詞renounceの使い方を考えてみよう。
日本国憲法第9条の英文は、次のようになっている。
◯Practical Example
ARTICLE 9. Aspiring sincerely to an international peace based on justice and order, the Japanese people forever renounce war as a sovereign right of the nation and the threat or use of force as means of settling international disputes.
この従来の訳は次のとおりだ。
「第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」
これに対して、 『現代語訳でよむ 日本の憲法』(アルク)で、翻訳者の柴田元幸は次のようにわかりやすく訳している。
「正義と秩序にもとづく国際平和を心から希って、日本の人びとは永久に戦争を放棄する。国として戦争を行なう権利を放棄し、国同士の争いに決着をつける手段として武力で威嚇することと、また武力を行使することを放棄するのである。」
分詞構文を作る動詞aspiringを「希って」と流れのいい動詞表現で訳し、そしてこの節で一度文を切りながら、次の帰結節に自然につなげている。さすが柴田元幸の翻訳だ。
●Extra Point
9条の後半は次のようになっている。
◎Extra Example
(2) To accomplish the aim of the preceding paragraph, land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained. The right of belligerency of the state will not be recognized.
従来の訳はこうだ。
「二 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
柴田元幸は次のように訳している。
「(2)前段落で述べた目的を達するため、陸軍、海軍、空軍、その他いっさいの戦争能力を、日本は絶対に維持しない。国の交戦権も認めない。」
この部分は受動態で書かれているが、背後に隠れている「日本」を主語に立てて日本語にしているあたりがさすがだと思う。
『現代語訳でよむ 日本の憲法』(アルク)は、大変英語と翻訳の勉強になる1冊だ。戦後70年を迎えるこの時期に、ぜひ多くの人に読んでほしい。