トマトってかわいい名前だね、上から読んでもトマト、下から読んでもトマト・・なんて子どもが小さいころ、歌っていた。
トマト、今では世界中で食べられているトマト。たいていの言葉がトマトという音に近い。トマトをいっぱい食べる国、イタリア語はポモドーロとちょっと変わっているが。
トマトの原産地はアンデス高原、ということはかなり知られている。原種のトマトを見たこともある。だからトマトといえば、アンデス、と反射的に思い浮かべる。ところがトマトの語源は、メキシコ先住民アステカの「トマトゥル」。「トマトゥル」とは「ふくらむ果実」という意味だそうだ。ジャガイモもそうだが、原種のなかには食用に適さないものがある。実際には、適さないものの方が多いのだが、食用に適した種を見つけ、改良して今私達が食べている野菜にしてくれた、人間のご先祖さまたちの努力には感謝している。
メキシコで発見されているトマトの野生種は、アンデスと同じく実は小さいが、熟すと赤くなるタイプのものだけ。遺伝子的にもメキシコの野生種の方が、現在のトマトに近い。ということから、トマトの生まれ故郷はアンデス、栽培種に改良した育ての親はメキシコ、というのが定説になっている。アンデスからメキシコにどうして運ばれたのかは、いまだに謎だそうだ。
トマトもジャガイモもピーマンも唐辛子も、もちろんナスもナス科の植物。子どもの頃、ジャガイモの茎にトマトの芽を継いで、地下ではジャガイモ、地上ではトマトがなる、といった実験をした人は多いだろう。ナスの原産地はインドだが、ナスの仲間の多くはアンデスが原産地である。どうして同じ仲間が遠く離れたのかもわかっていないらしい。大陸移動説をあげる人もいるようだ。そういえばキュウリも北インドが原産地だった。世界を制覇した野菜と言ったら、ナス科の仲間がいちばんだろう。
以前、ジャガイモの歴史でも触れたとは思うが、トマトやジャガイモがヨーロッパに持ち込まれたのは16世紀、アステカを征服したコルテスやコンキスタドールたちによってだった。新大陸から持ち込まれたジャガイモもトマトも、今思えば、バカなことと笑えるが、聖書に載っていない「悪魔の食べ物」として、迫害された。だからトマトもながいこと観賞用にされてきた。たしかに緑の果実が膨らみ、赤くなる様は観賞に値する。
トマトが記されたヨーロッパの古い文献は、1544年、イタリアのマッティオーリの「博物誌」で、彼は「マンドラゴラの異種がイタリアにもたらされた・・はじめ緑色で、熟すると黄金色になる」と書いた。それがイタリア語のトマト、ポモドーロ(黄金のリンゴ)の語源になった。マンドラゴラとは、旧約聖書に登場するナス科の植物で、毒草である。この毒草は媚薬効果があるともいわれていた。
毒のある実を食べた勇気ある人の初めて物語、エピソードはたくさん残っている。もちろん何でもなかった。でも毒と信じる人は多く、当時、この毒を消すために、最低2時間は煮込むといい、と言った噂もあった。で、トマトをソースに使い始めたようだ。18世紀になると、シェフたちから、何ににもあう、こんなおいしい調味料はないと絶賛されるようになる。彩りも華やかだ。トマトには酸と甘みに加えてグルタミン酸が多く含まれる。鰹節より多いそうだ。
そうそう、トマトは野菜に入る。アメリカだったかな、野菜か果物かで裁判まで行われた。それは税金のためだったようだが。結果、トマトはデザートにならないという理由で野菜になったのだそうである。
日本にもたらされたのはオランダからではないかといわれている。唐ナス、赤ナスとか言われていた。
戦後、何もない時代、畑で赤くなったトマトをもいで、丸かじりし、おいしかった記憶がある。当時のトマトは大きくて、扁平で、襞がよっていた。ミニトマトが現れたのは、とずっと後のことだ。
私もトマトは生食よりソースとして使うことの方が多い。水煮の缶詰や瓶詰、トマトジュースは常備してある。よく使う。
いま、ミニトマトに塩とオリーブオイルをかけて、低温のオーブンでじっくり焼いて付け合わせにしている。