なぎのあとさき

日記です。

ペドロ・パラモ

2009年07月22日 | 読書メモ
小さな町に、
水たまりのように、
たまっていく時間。
時間は流れずに、
漂っている。

なので、一度読んですぐ、
はじめから読み返した。
何度でもループして、
読みたいような本だった。

でも、絶版の本で、
図書館に返さなければならない。

「シャボテン草のすえたにおいのしみこんだ八月の暑い風が吹く、
暑さのまっさかり」のお話。
主人公は、父親のペドロ・パラモを探して、
コマラにたどり着く。

暑さの描写がたまらない。

○太陽の照り返しの中で、平原はかげろうにとかされて透明な池のように見え、灰色の地平線がぼんやりと湯気の中に透けていた。

その向こうには山並み
さらに遠くには、涯(はて)がある。

○雲が引くと、太陽は石を輝かせ、あたり一面を彩り、地面の水をのみほして、木の葉とたわむれる風をもてあそびながら、葉の色を輝かせた。

○日没を告げる風に、ちりぢりに吹きとばされた雲のきれっぱしが流れていった。

町中に、わんさといる人の霊。
ペドロの声も聞こえる。
主人公は、夫婦のように暮らす兄弟の家に立ち寄る。

○ぬかるみのような身体。汗の中を泳いでいるようで、苦しくなる。
空気がほしくて外に出た。だが、熱気は依然として身体にまといつき離れなかった。
それというのも、空気がどこにもなかったからだ。

○八月の酷暑に熱せられた、けだるいよどんだ闇しかなかった。風も吹かない。

ソコデハ、命ハササメキノヨウニカゼニナビクノデス。

ペドロとミゲルに、手を貸してきたレンテリオ神父。
親子二代で、町中の女を食いちらかしてきたペドロ・パラモに、まんざらでもない女たち。

海の描写も素晴らしい。

○わたしは気持ちよく砂のぬくもりにからだを浸していた。海のそよ風に向かって目をつむり、手とあしをひろげた。(中略)
潮がさしてくると、わたしのあしに、あわのなごりをおいてさってゆく……
海の水がわたしのくるぶしをぬらしてははしりさる。その優しい腕をわたしの腰にまわす。乳房のあたりにうずまいてから、くびにだきつき、かたをしめつけてくる。わたしはすっぽりと中に沈む。

夜の描写も。

○深い闇につかってふやけ、ふくらんだ星は、夜空一面にちりばめられていた。月は顔を出したものの、じきにかくれてしまった。

そして、愛の描写も。
ペドロが、最後に愛した女性、スサナ。

○石みたいにかじかんだ足は、そこだとパンを焼くかまどのように暖められた。
(中略)
からだが裂けていくように感じ、暑い釘を打ち込まれるように身体がわれていくと、全身が虚無の中に消えていくようだった。
(中略)
暑い釘も生あたたかくなり、やがて甘いものになって、容赦なくやわらかいからだにくいこんで行った。

スサナは、
前の夫のことだけを考えている。

ひっきりなしに、
人の会話が聞こえるのに、
全編をつらぬく静けさ。
美しく、透明な景色。
遠い異国の空気を感じた。
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