構造改革は暗記教育の成果

2006-07-11 16:14:25 | Weblog

 半年も前のことだが、05年11月の米国大統領ブッシュとの日米首脳京都会談終了後の記者会見で、小泉首相は「日米関係がよければよいほど、中国、韓国、アジア諸国をはじめ世界各国と良好な関係を築ける」と確信に満ちた様子で言ってのけた。会談でブッシュ個人との強い絆だか友情を再確認して、そのことが日米関係の今後の揺るぎのなさを保証するとしたらしいことも問題だが、その確かさに目の前に開ける世界が前途洋々たる極彩色のバラ色に輝き、すべてが日米関係どおりにうまくいくと思い込んでしまったのだろうか。

 日本の「中国、韓国、アジア諸国をはじめ世界各国」それぞれとの間に現在抱えている利害、あるいは将来的に抱えることになる利害がアメリカとの間に抱え、抱えることになる利害と常に同一・同様に推移するというなら、日米関係に於ける問題解決の方法を他の国々にも応用させることも可能で、日米の良好な関係がそっくりそのままに世界各国にも反映・投射されるだろうが、現実には国によって抱える利害がそれぞれに異なる。

 小泉首相の言うとおりなら、韓国と中国との間に抱えている竹島、尖閣諸島等の領有権問題にしても歴史認識の問題にしても、日米関係の良好さが遠い昔に解決してくれていたことだろう。北方四島問題にしても同じことが言える。

 他の国々との間のそれぞれに異なる関係式をその異質性を無視して日米間の関係式に一括りしてしまう客観的分析能力は世界の中で日本の指導者に関してはふさわしい単純さ・情緒性と言えるのかもしれない。

戦後60年間のときには感情的な国益の衝突をもたらしもしたが、ほぼ一貫して良好・緊密な日米関係が日本の経済的な繁栄をもたらした。そのような受け止めは正解と言える事実であろう。だから、世界各国とも良好な関係が築けると錯覚したのかもしれない。

 だが、日本が日米関係に主体的に関わりつつ日本独自に創り出した政治・各制度を駆使して築き上げた経済的繁栄ではなく、後追いして採りいれたか、あるいは直接的に指示・誘導を受けて採りいれたアメリカ発日本着の政治・制度が与えてくれた、いわばアメリカの果実・恩恵を受けた従属的経済的繁栄が実態といったところだろう。

 その従属性を痛いほど知っていたからか、あるいは無意識に弁えていたから、「日米関係がよければよいほど」とアメリカを後ろ盾としていれば大丈夫だとする従属意識を滲ませた言葉となって口を突いて出たのかもしれない。

 日本の経済的繁栄が〝アメリカ発日本着〟の政治・制度の成果であることを証明する『朝日』の記事『検証・構造改革⑥第1部・官から民へ 米の要求、多くが実現』(06.7.7朝刊)がある。

 会談で「日米が互いに規制緩和を求めた協議の成果をまとめたものだ」とする『日米規制改革及び競争政策イニシアチブ・第5回報告書』が公表されたそうだが、アメリカからの対日要求を受けて「日本側措置」として実現させた改革が、いわば〝アメリカ発日本着〟の政治・制度によって構造改革の名のもとに推進・結実させた成果と重なることを伝える内容となっている。

 尤もその〝従属性〟は「構造協議以来、日本政府は米国の要求を多くのんだ。ただそれが圧力に屈したとばかりは言えない。要求内容には日本の消費者の要望を巧みに取り 込んだ物が少なくなかったからだ」と擁護してもいるが、「圧力に屈した」とまでいかない場合であっても、日本自らが創り出した教材ではなく、既にあるアメリカの教材をサンプルとして、それを後追いしなぞった政治・制度である事実(従属性)は残る。

 一覧表で紹介してあった「米国政府の主な対日要求と日本政府の対応」を転載してみる。

 米国政府の要望  ――  日本の法・制度改革
大店法の廃止     92~94年 大店法緩和
             00年  大店法廃止
通信分野の競争強化    97年 NTT分割・分離
建築の規制緩和       98年 建築基準法改正
人材派遣の自由化   99~04年 労働法改正
会計制度改革        01年 時価会計制度導入
外国人弁護士の参入     03年  外国人弁護士法改正
医薬品販売の拡大      04年 コンビニでの医薬品
               販売解禁
医療分野の開放       04年 混合診療の一部解禁
談合排除
課徴金制度の強化     05年  独禁法改正
郵政民営化         05年  郵政民営化法
合併手続きの柔軟      05年 新会社法
知的財産の保護       06年  特許法改正
(米国政府の要望は89年の日米構造協議以降、05年までの
 主張)
――――
 郵政民営化がアメリカの対日要求であったのだから、小泉首相が「改革の本丸」と位置づけたのはブッシュとの親密な関係からして当然の措置だったわけである。

 一覧表には出ていないかったが、記事の中で一部触れている銀行等の不良債権処理策を含めた金融改革のアメリカの制度・政策の取り込みも〝アメリカ発日本着〟の従属性の一端を物語るものだろう。

 また、政治関係以外でも、セカンド・オビニオン制度やインフォームド・コンセント、バイオエシックス(生命倫理)と言った医療分野における制度・思想、身体障害者の盲導犬・介助犬・聴導犬に関する障害者の生活機能向上を含めた社会参加拡大を目的とした制度・思想、同じく身体障害者を企業に雇用の促進を義務づける同じく社会参加拡大を策す制度・思想、あるいは生命に関わる病気治療新薬の審査機関を短くする米国式スピード認可への追随、経営の透明性を高めるための米国型企業統治(コーポレートガバナンス)や社外取締役制度の導入、不動産や住宅ローンの証券化といった様々な新規金融商品等の導入開発は同じ線上にある〝アメリカ発日本着〟の従属性として存在する制度・思想であろう。

 しかしこういった政治・制度、あるいは思想の対米〝従属性〟は驚くに当たらない。日本は大和政権以来、中国・朝鮮半島の文物・制度・技術・思想を移入し、それらを基盤に国・社会を成り立たせてきて以来、織田・豊臣時代から江戸時代末期にかけてはオランダ・ポルトガルの、江戸末期移行はイギリス・フランス・ドイツの、戦後以降は主としてアメリカのと、それぞれの国・地域の制度・思想・技術を順番に付け加えて、それらに従属する形で国・社会の維持を図ってきたことを歴史・伝統・文化としてきた政治・制度の〝従属性〟なのである。

 世界に学ぶべき教材が存在したにも関わらず、それを無視して〝従属〟とは離れた場所で自らが創り上げた〝日本発〟の政治・制度と言ったら、1950年代には在宅治療が主流の世界標準に反して独自に1996年まで強制隔離政策を続けてきたハンセン病(らい病)に関わる政治・制度、同じく世界の教材を無視して政治の企業寄りの姿勢・思想による不作為によって世界各国と比較して対策が大幅に遅れ、被害を無意味・いたずらに拡大させた血友病患者のエイズ拡大やアスベストに関わる政治・制度を挙げることができる。

 水俣病は世界に教材はなかったが、日本独自の企業寄りの政治・制度が成果とした無意味・いたずらな被害拡大という点では、エイズ・アスベストと同根の政治災害といったところだろう。
以上見てきたように日本が自らの歴史・伝統・文化としている政治・制度の自らは独自に創り出すことのできない〝従属性〟は何が原因とした日本の歴史・伝統・文化かと言うと、日本人が歴史・文化・伝統的に行動様式・思考様式としてきた権威主義以外には考えられない。

 権威主義自体が上が下を従わせ・下が上に従う〝従属性〟を核とした行動性であって、そのような行動性を最も象徴的な具体的・現実的方法で日本人の年齢的に初期・中期的な人間形成に関わって日々補強・充填し、確固とした不動の行動性とする働きをしているのが学校教育(暗記教育)である。

 機会あるごとに言っているのだが、暗記教育(学校教育)は教師が教科書やその教科書に関係する参考書の知識をなぞって、なぞったままに生徒に覚えるべき知識として伝え、生徒はその知識をなぞった形で暗記していく既知の知識への従属を構造としている。いわば、覚えること(=記憶すること)を主体とした教育となっているのだが、覚えること(=記憶すること)とは知識への従属を意味する。そこにとどまらないことによって、知識は従属から離れて独自性を獲得していくのだが、日本の教育はその手立てを持たない。

 これは人間関係に於ける権威主義の上が下を従わせ、下が上に従う日本人の〝従属性〟が知識の授受に於いても反復発揮され、そのままで終わっている状況を受けた〝従属性〟であろう。

 いわば権威主義の行動・思考様式が学校に於いても教師・生徒間に当然のこととして作用し、そのような権威主義の力学に則っただけの知識の授受が暗記教育の形を取って日々新たな刷り込みを繰返し、そこから一歩も出ていないということである。

 そこでの議論は当然のことだが権威主義の行動・思考様式を反映させた知識のなぞり(=〝従属性〟)の支配を受けて、なぞることで既知となっているその範囲内の言葉のやり取りに限られ、そこから一歩出て自他の考えを主張しあったり、相互に吟味・批判することで新しい言葉を付け加えることもなく、そのように言葉を新しく創り出していく議論の不在が生徒それぞれの想像性(創造性)の育成を阻み、当然知識は従属から離れて独自性を獲得することもなく、独自性を欠いた〝従属性〟のみを資質とする日本人を結果として無目的的に連続生産していく役目を学校教育は担うことになる。

 そのような教育の洗脳を受けて、日本人は従属型人間となって成長していく。〝外国発日本着〟の〝従属性〟に支配された政治・制度を日本の歴史・伝統・文化とするに至ったとしても、従属型日本人としては何の不思議もない当然の帰結現象である。
 
 小泉改革を含めた日本の政治の構造改革にしても、日本人の行動様式となっている〝従属性〟からの支配を免れることはできず、〝外国発日本着〟の〝従属性〟によって成り立たせている政治・制度を基盤とした改革となるのは必然としてある成果であって、その遠因が日本人の行動様式に於ける〝従属性〟をより確かなものとして育み、刷り込むこととなる暗記教育にあるというわけである。

 小泉構造改革にバンザイを唱えるとしたら、日本の暗記教育にこそバンザイを唱えるべきだろう。

 ◎参考までに既出の一覧表を除いて『朝日』の記事の全文を転載しておきます。

 『検証・構造改革⑥第1部・官から民へ 米の要求 多くが実現』(06.7.7『朝日』朝刊)

 6月29日,ワシントンでのブッシュ大統領と小泉首相の会談は「歴史上、最も成熟した2国間関係」と共同文書で謳い、5年間の蜜月ぶりを示した。
 会談ではもう一つの文書が公表された。「日米規制改革及び競争政策イニシアチブ・第5回報告書」。日米が互いに規制緩和を求めた協議の成果をまとめたものだ。郵政民営化、特殊法人改革、司法制度改革、新会社法・・・・。「日本側措置」と書かれたページには米国の対日要求で実現した事項が並んでいる。

 日米構造協議

 60~80年代にかけて、繊維、鉄鋼、自動車、半導体などの対米輸出が貿易摩擦の火種となり、日本はその都度、輸出自主規制で対応した。それでも貿易不均衡は変わらず、米財務省は日本の大蔵省(現財務省)に「日本の市場開放のため、輸出を妨げている構造問題を協議しよう」と持ちかける。
 そこで米国から大規模小売店法(大店法)の見直しをはじめ、240超の要望が出た。当時交渉の最前線立った畠山譲・元通商産業省審議官は「内政干渉の制度化だった」と振り返る。
 構造協議はその後クリントン政権で日米包括協議、日米規制緩和対話などに衣替えし、ブッシュ政権で「イニシアチブ」になった。

 細かく具体的

 日米双方がお互いに規制緩和を求める「年次改革要望書」は相互主義だが、米国からの要望項目の方が多いし、中身も具体的で細かい。ここに載った郵政民営化、不良債権処理の加速、公正取引委員会の強化などのメニューは、小泉構造改革の内容と重なる。
 ただ、90年代と様変わりなのは、かつて製品ごとの輸入目標やシェア目標の設定まで求めてきた米国の高圧的な姿が今は見えないことだ。
 『騙すアメリア騙される日本』の著書がある元外務省職員原田武夫氏は『竹中総務相や規制改革・民間開放推進会議議長の宮内義彦氏など、米国流の市場経済を志向する人が政策チーム入り、米国が強硬に要求するまでもなくなった』と分析する。
 小泉政権で『経済政策の司令塔』と言ってもいいほどの役割を果たしてきた竹中総務相には、幅広い米国人脈がある。米ハーバード大留学時代に培ったものだ。
 02年秋、竹中氏が金融相となり大胆な不良債権処理策を進めようとして自民党内から激しい批判を浴びたとき、『米国は竹中氏を支持する』と助け舟を出したのは竹中氏が旧知のハバード米大統領経済諮問委員会委員長(当時)だった。
 郵政民営化の制度設計を進めていた頃、郵政民営化準備室の幹部らは、米国の財務省、通商代表部、駐日公使ら政府関係者や米民間人と頻繁に会った。
 野党議員から『米国の言いなりの郵政民営化ではないか』と批判された竹中氏は『おとぎ話のような批判だ』と反論した。
 構造協議以来、日本政府は米国の要求を多くのんだ。ただそれが圧力に屈したとばかりは言えない。要求内容には日本の消費者の要望を巧みに取り込んだ物が少なくなかったからだ。
 大店法の見直しもその一つ。米国が『市場参入の障壁の象徴』と撤廃を求めてきた背景には、米大手玩具チェーンのトイザラスの対日進出があった。ただ、安くて豊富な品揃えの大型店が地元にできることを歓迎する消費者の声があったのも事実だ。大店法は92年から段階的に緩和され、00年に廃止された。

 出店規制復活

 その出店規制が今、別の形で復活する。大型店が郊外に移ることで中心市街地の商店街がさべれる『シャッター通り』化を問題視した政府は、大型店の郊外出店を規制する改正法を先の通常国会で成立させた。
 改正法案の提出をめぐって、政府内では議論もあった。昨年末の経済財政諮問会議。民間議員の本間・大阪大教授は『構造改革に逆行するととらえられるとマイナスだ』と批判。二階経産相が『中心市街地の空洞化は目を覆わんばかり。放置は許されない』とは論した。
 構造協議で共同議長も務めた内海孚・元財務官は日本が受け入れた政策を振り返り、こう反省する。『米国の主張のすべてが世界標準ではなかった』(大滝俊之)」

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