「企業の社会的責任」・「企業倫理」という言葉が虚ろに響く
昨夕(06.7.18)中堅ゼネコン水谷建設(三重県桑名市)が法人税法違反(脱税)の疑いで逮捕されたのを受けて、静岡県が水谷建設を2ヶ月間の指名停止処分にしたとNHKの地方ニュースが流していた。
2ヶ月は軽すぎる。法を犯す不正を働いたなら、その軽重に関わらず、永久停止するくらいでなければ、不正はいつまで経ってもなくならない。公共関係が指名永久停止したなら、民間も右へ倣えして、倒産に追い込まれることは確実となる。それが従業員を大勢抱える大企業であったなら、下請け関係も含めて影響も大きく社会不安を引き起こしかねない。そのことを予測して永久指名停止は厳しすぎる、行き過ぎだといった意見があるが、社会不安はあくまでも不正の結果であって、不正という原因をつくらなければ起きようがない二次的・三次的産物である。この原則こそを絶対的自覚としたら、企業の不正も起こらなければ、それを原因とした社会不安も発生しない。
日本人は健忘症民族と言われていて、大企業の倒産による二度や三度の社会不安を経験しても、すぐ忘れてしまうかもしれないが、五度六度も経験したなら、少しは企業は不正を控えるようになるのではないだろうか。
そもそも如何なる不正も行わないことが〝企業の社会的責任〟、あるいは〝企業倫理〟であって、実体的に自覚していなければならないその責任性を裏切って不正を行うのは、〝企業の社会的責任〟・〝企業倫理〟なる言葉が言葉で終わっていて、飾りに過ぎないことの証明であろう。
巨額脱税は水谷建設だけの問題ではない。パロマの死者まで出していながらの事故隠しにしても世界のトヨタの、その地位を汚すリコール隠しにしても、2000年に三菱自動車のリコール隠しが発覚して企業イメージを落とし、自ら経営を苦境に追い込んだ失態を反面教師・他山の石とすることができない愚かな同じことの繰返しであろう。例え世界のトヨタが屋台骨を揺るがすことにはならなかったとしても、トヨタお前もかの似た者扱いを受けることには変わりはない。
元トヨタ社長・会長を歴任し前経団連会長だった奥田碩氏は経団連会長だったときの各地の講演で〝企業の社会的責任〟・〝企業倫理〟なる価値観を企業が守るべき道義として盛んに主張し、「変わらないことが最も悪い」と警告を発してきているが、トヨタの上層部がそのような主張が講演で紹介されていることを知らないはずはなく(知らないとしたら、怠慢の謗りを免れない)、その主張に冷水を浴びせるリコール隠しをやらかしていた。
奥田氏の発言に「リストラするなら経営者は腹を切れ」というのがあるらしいが、リストラしなくてもいい業績最高潮のトヨタ出身者だから言える言葉であって、経営苦しい企業に所属していたら、言えもしない自己都合からの言葉でしかないだろう。
その他に、「拝金的な資本主義経済よりも、企業人は武士道精神のような心の規範を持つべきだ」という発言もあるらしい。出身企業という足元で不正が行われるとは夢にも思わなかったから言えた主張だろうが、そのように主張しなければならないこと自体がそういった精神を誰もが体現していないことの証明で、その哀しさに本人は気づいていないのだろう。
企業の社会的責任・企業倫理を裏切る不正に対して厳罰を以て臨んだ結果として発生するかもしれない社会不安を却って高くつくことを知らしめる現実の教材となるぐらいの覚悟を持つことが企業の不正に対するブレーキの役目を果たす。
再び小沢一郎「日本人は、心の豊かさ、モラルの高さでは西洋に負けないという誇りがあったが、どうして、こんなにすさんだ社会になってしまったのだろう」
このような的外れで見当違いな認識では、企業の不正だけではなく、政治家・官僚の不正もなくならない。一般人の犯罪の抑制にも役立たない。政治家・官僚と企業・業界が絡んだ事件を以前自作HP『市民ひとりひとり』で発表した「第50弾 政治家・官僚たちの事件簿(第1部)」から抜粋して的外れなことを具体的に証明してみる。
1997.11.4.「朝日」朝刊に載った記事の中の図表(「東京地検特捜部50年の歩み」)からの引用です。
1948昭電疑獄
復興金融公庫などから『昭和電工』への融資をめぐる疑獄事件。芦田均・元首相ら国会議員と、後に首相となる福田赳夫・大蔵省主計局長ら計64人が逮捕された。収賄側では栗栖赳夫・経済安定本部長官に執行猶予付きの有罪判決が確定したが、芦田均元首相、福田赳夫局長は無罪になった。
1954造船疑獄
造船業界に対する低利融資とその利子補給のための法案成立を目指した業界側の政治工作が発覚。自由党の有田二郎代議士らの逮捕を経て、同党の佐藤栄作幹事長に伸びるはずだった。しかし、犬飼健法相が佐藤幹事長の逮捕許諾をしないように指揮権を発動し、事件はしりすぼみになった。
1957売春汚職
売春防止法の成立を阻むため、売春業者の団体幹部らが自民党の真鍋儀十、椎名隆、須藤新八の3代議士にワイロを渡したとされた。真鍋、椎名両代議士は有罪、須藤代議士は無罪となった。
1961武州鉄道事件
武州設立認可をめぐり、同鉄道創立事務局代表が楢橋渡運輸相に計900万円のワイロを贈った事件。楢橋運輸相は有罪判決を受けた。
1968日通事件
政府所有の米麦を独占的に輸送する『日本通運』幹部が、国会質疑を封じようと贈賄した。日通労組出身で社会党の大倉精一参院議員が200万円の、自民党の池田正之輔代議士が300万円のワイロを受取ったとして起訴された。大倉参院議員は2審途中で死亡し公訴棄却、池田代議士は懲役1年6ヶ月の実刑判決が確定した。
1976ロッキード事件
大型ジェット旅客機の売込みを図るロッキード社から5億円のワイロを受取ったとして田中角栄元首相が受託収賄罪で起訴されたのを始め、計16人が起訴された。田中元首相は1,2審で懲役4年、追徴金5億円の有罪判決を受けたが、上告中に死亡し、公訴棄却。95年2月に最高裁が贈賄側被告の桧山広・丸紅元会長らの上告を棄却したことで、『総理の犯罪』が確定した形になった。
同じく受託収賄罪で起訴された橋本登美三郎自民党衆院議員は1、2審で有罪判決を受けたが、控訴審中に死亡し、公訴棄却。佐藤孝行同衆院議員は有罪確定。
1986撚糸工連事件
日本撚糸工連組合連合会側から200万円受取ったとされる横手文雄(民社)代議士が受託収賄罪で、500万円受取ったとされる自民党の稲村左近四郎代議士が収賄罪で起訴された。横手代議士は差戻し控訴審で執行猶予付きの有罪判決を浮け、上告中。」
これは、日本撚糸工業組合連合会から、同会に有利になる国の事業の早期実現などの質問をするよう頼まれたというもので、横手代議士・稲村代議士共に有罪が確定している。
1989リクルート事件
リクルートの江副浩正会長らが、関連企業の『リクルートコスモス』の未公開株を政治家や官僚、財界有力者に譲り渡した。収賄側では藤波孝生元官房長官、池田克也公明党代議士、加藤孝元労働事務次官、高石邦男元文部事務次官らが起訴された。」
藤波孝生元官房長官・池田克也公明党代議士・加藤孝元労働事務次官ら有罪確定。高石邦男元文部事務次官は1、2審で執行猶予付き有罪、往生際悪くと言うか、しぶとくと言うか、最高裁に上告中。しかし、懲役2年、3年、執行猶予3年、4年といった刑では社会的責任上、軽すぎる。高石邦男は学校と家庭の連携による新しい子育ての指針をわかりやすく解説したという、『親と教師の子育て読本』なる書物の編集代表さえ務めている。どちらから見ても、見事な倒錯である。
1992共和汚職事件
北海道のリゾート事業に絡み、鉄骨加工会社『共和』から8000万円受取ったとして、阿部文男・元北海道・沖縄開発庁長官が受託収賄罪で起訴され、2審の実刑判決を不服として上告している。
1992東京佐川急便事件
『東京佐川急便』の渡辺広康前社長ら経営陣が、広域暴力団稲川会の石井進元会長の関連会社などに巨額の融資・債務保証し、逮捕された。捜査の中で、自民党の金丸信元副総裁に5億円が渡ったことが発覚。東京地検は政治資金規制法違反に当たるとして略式起訴し、金丸元副総裁は罰金20万円を支払った。」
「5億円」受取って、「罰金20万円」とは、〝3日やったら、やめられない〟乞食どころか、永久にやめられないおいしさである。だからこその、政治家・官僚たちの乞食行為なのだろう。
1993金丸脱税事件
自民党の金丸信元副総裁が、ゼネコン各社などから寄せられた献金を税務申告せずに金融割引債を購入し、所得税法違反で逮捕された。99年3月、金丸元副総裁は脳梗塞のため死去、控訴は棄却された。」
機会あるごとに口にしていた「国家・国民のため」なる言葉は、自己権力欲充足・維持と、そのことを強力に可能とするカネに対する妄執をカモフラージュする勿体づけ(スローガン)に過ぎなっかったということなのだろう。
1993ゼネコン汚職
金丸脱税事件でゼネコン18社から押収した資料を基に捜査が行なわれ、石井亨仙台市長、竹内藤男茨木県知事、本間俊太郎宮城県知事が相次いで収賄容疑などで逮捕された。中村喜四郎元建設相が『鹿島』元副社長から公正取引委員会に圧力をかけ建設談合の告発を阻止するよう依頼されて1千万円を受取ったとして、94年3月、斡旋収賄罪で逮捕された。中村元建設相は懲役1年6ヶ月、追徴金1千万円を不服として控訴している。
その他に、共和製糖の不正追及を日本ぶどう糖工業会に頼まれ、また、共和製糖からは、追及を緩めるよう頼まれ、双方から現金を受け取ったとして相沢重明社会党参議院議員が受託収賄罪に問われた共和製糖事件 (67年)。全国砂利石材転用船組合連合会の加盟業者が、有利になる内容の質問主意書を内閣に提出させ、見返りに現金を受け取ったとして公明党の田代富士男代議士が受託収賄に問われた砂利船汚職事件 (88年)では、田代富士男代議士の有罪が確定している。
さらに、海上自衛隊の救難飛行艇開発・発注をめぐって、富士重工業に有利に計らって欲しいとの請託を受けて500万円を受取ったとして防衛政務次官だった中島洋次郎元衆院議員が受託収賄罪に問われ、1、2審共有罪判決を受けたが、上告中自殺した防衛庁汚職事件(98年)。中島被告はその他にも名義だけの政策担当秘書を雇い、国から給与分1千万円余をだまし取ったとして詐欺罪や、政党交付金を流用して虚偽報告した政党助成法違反、総選挙で、2千万円程度の買収資金などを陣営幹部らに渡した公職選挙法違反にも問われていた。
さらにさらに、「ものつくり大学」の予算措置に有利となるケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)の方針に添った国会質問をするよう請託を受け、前KSD理事長の古関忠男被告(80)らから現金2000万円と私設秘書の給与を負担させたとして受収賄罪に問われた小山孝雄(自民)参院議員と、現金5000万円を受け取ったされる村上正邦元労相(前参院議員・68)が受託収賄罪で起訴されたKSD事件(01)等が記憶に新しい。
小沢一郎は50年経っても、100年経っても、「日本人は、心の豊かさ、モラルの高さでは西洋に負けないという誇りがあったが、どうして、こんなにすさんだ社会になってしまったのだろう」と繰返していればいい。日本人のあったとする「心の豊かさ、モラルの高さ」をいくら当てにしても錯覚・幻想の類でしかないのだから、その言葉が繰返されることは政治家・官僚・企業の不正、あるいは凶悪犯罪がなくならず、それらの不正・犯罪の抑制にも何ら役に立たず、永遠の命を持ち続けていることの証明ともなるからである。