安倍続投は歓迎すべき現象

2007-07-30 19:04:00 | Weblog

 民主党の中にも安倍続投の方が戦いやすいという意見もあるということだが、田中角栄が金脈問題で国会で追及を受けて内閣総辞職を余儀なくされたとき、国民の怒りをかわすために当たり前なら総理大臣という果実を手に入れることが難しい小派閥の領袖に過ぎない三木武夫を首相に据えてそのクリーンイメージを利用してその場を凌いだ場面に代表される自民党政権存続の美しい伝統的な常套手段を再度持ち出して、三木武夫的な役割を持たせた谷垣前財務相や、あるいは女性ということで核所持容認論者であるものの、狼の顔に羊の顔をかぶせるように柔らかいイメージの小池百合子防衛相を首相に持ってきてひたすら低姿勢を演じて国民を懐柔するといった方法に出られたら、自民党政権存続という同じことの繰返し、十番煎じ、二十番煎じとならない保証はない。

 衆議院で第一党の自民党が政権を担うことに変わりはないのだから、他の内閣に変わって変幻自在の柔軟な低姿勢に出られるよりも、ここは安倍クンに頑張って貰って、その単細胞な、口先だけで約束する中身のない政治を攻撃した方が得策かもしれない。ブロガーとしても、俎上に上げやすい政治家である。

 国民の生活する姿、その実質よりも国の強い姿を追い求める国家主義者である。いわば国民という中身よりも国家というハコモノを優先させて、そこに価値を置く国家主義に骨の髄まで染まっている。そのため安倍晋三なる政治家が求める強い経済、優秀な工業技術力、軍事力の充実は国民の福祉を第一目的としてではなく、日本という国を誇るための国家の体裁が主目的であって、国民の福祉は追加事項とされている過ぎない。そのような日本を「美しい国」と思い定めている。

 国家対国民をそのように関係づけた国家主義的政治観が国民への果実配分の保証のない経済成長優先、景気優先の政治へと向かわせている。所得格差・地方格差に行き着いているのはそのためであろう。

 国の体裁優先の政治が安倍晋三をして国民に愛国心を求めさせることにもなっている。日本国憲法が規定している国民主権の意識を限りなく薄めて、国家優先の意識を植え付けるには愛国心教育は絶対条件となる。

 だが、国民主権、国民の福祉を主目的とせず、国の体裁を優先させる時代錯誤のいかがわしい政治がこの21世紀の人権時代に流行るはずもなく、その点だけを取っても攻撃に脆さを抱えることとなり、攻撃する側にとっては組みやすい安部クンということになる。次の衆議院選挙まで安部クンには持っても貰った方が得策ではないだろうか。

 参議院選挙自民党大敗にも関わらず、続投の意思表明を繰返した昨夜のNHK選挙速報番組での安倍首相の答弁。

 アナウンサー「橋本総理大臣の場合は自民党が44議席で直ちに退陣をされましたね。それをさらに下回る大敗にも関わらず、引き続き、ま、政権を担当されていかれると、ということに対して自民党内の理解、それ以前に国民の理解を得られると、いうふうにお考えになりますか?」
 安倍「今日の結果、これは国民のみなさまの声だと、えー思います。え、しかし私共が進めてきた・・・・政策、基本的には間違っていないというふうに政策的には思っております。そこのところは国民のみなさまにもご理解を頂いているんではないかと思います。ま、しかし、この結果は結果として、参議院に於いては民主党が第一党になりました。民主党の主張に耳を傾ける点は傾けながら、ま、一緒に責任を持っていると、いう考えの中でですね、協力できるところは協力しながら、結果を出していきたいと思います」

 アナウンサー「まあ、国民の理解は得られるというお話なんですけども、総理ご自身ですね、ま、今度の選挙を安倍さんを取るか、小沢さんを取るかの選挙だということをおっしゃってきました。だとすれば、与党の大敗という結果は安倍政権、あるいは今の自公政権に対する、まあ、国民の事実上の不信任であるというふうにはお考えになりませんか?」
 安倍「ま、この選挙に於いて私は自民党の総裁として当然責任は私にあります。反省すべき点は反省しなければなりません。反省すべき点は反省しながら、新しい国づくりに向けてですね、一つ一つ結果を出していくことによって、えー、責任を果していきたいと、えー、思います。やっとこの改革も、着実に進んでいますし、え、経済の成長についてもですね、景気回復についても、やっとここまできました。ま、しっかりとみなさまに実感していただけるように経済を成長させていくことが私の責任だと思いますし、また年金の記録問題の解決、お約束をしたことを果していかなければいけないと思います。大変な困難な状況でありますし、苦しい状況でありますが、責任を果たしていくことが私の使命だと思います」

 アナウンサー「あの、ま、ただね、安倍内閣の閣僚の問題も色々とありましたし、格差問題ですとか、強権的な政治手法に問題があると言ってきました。これだけ大敗した理由はどこにあるのか、安倍政権そのものに批判もあるというふうにはお考えなりませんか?」
 安倍「勿論私の政権に対するご批判だと思います。この選挙の結果はですね。その中でかなり、今後は野党の主張にも耳を傾けながら、協力すべき点には協力しながらですね、結果を出していくということが大切だろうと思っています。えー、ま、しかし私共が進めてきた、ま、基本的は方向、改革を進めて日本の経済を成長させていく、この方向には間違いはないと思いますし、美しい国づくりのコンクリート(?具体性という意味で使ったのか、よく聞き取れない。)については国民のみなさまにもご理解を頂いていると思います」

 アナウンサー「ただね、これだけの敗北になりますと、党内から責任論が出てくるということは避けられないだろうというふうに思いますし、ま、続投ということにになりますと、内閣支持率が低下、さらに低下するということも考えられると思うんですがね、それでも求心力を維持していける、というふうにお考えでしょうか?」
 安倍「ま、大変な、困難な状況が待っているとは思います。ま、しかし、私の責任は極めて重たいんだろうと、ええ、決意しております。そん中で、しっかりと結果を出していく。そのためにも党内の協力を得るべく努力をしていかなければいけません」

 もう一人のアナウンサー「では、この辺り民主党の鳩山幹事長に伺いたいと思います。鳩山さん」
 鳩山「はい」
 アナウンサー「安倍総裁は続投、ということを明言されましたけど、民主党はこれをどう把えますか?」
 鳩山「ハイ、これはすべて国政選挙ですね、世間に対する審判、国民の審判であります。国民は安倍政権に対して、この数字はやっぱりノーという答を突きつけたというふうに理解すべではないかと、私は思います。これは政権側の判断ですから、どのようになさるかは、今度はそのことに対して国民のみなさんがどう受け止めるかというふうな話になろうかと思いますが、私はこの選挙で安倍政権に対する信任は得られなかったという結果だと理解しています――」(以下略)

 安倍首相は長々と弁明していたが、要するに二つのことしか言っていない。一つは「選挙結果は安倍内閣に対する批判ではあるが、安倍内閣が進めてきた政策は基本的には間違っていない」ということ。二つ目は、間違っていないから、その「結果を出していくことが責任を果たすことだ」ということ。 
 
 「結果を出していくことが責任を果たすことだ」とする趣旨のことを5回言い、「政策の方向は間違いではない」という趣旨のことを2回繰返している。

 「私共が進めてきた、ま、基本的は方向、改革を進めて日本の経済を成長させていく」政策は何も安倍内閣の専売特許ではなく、どの党であれ、政権を取った党の内閣なら、誰でも推し進めなければならない改革であり、経済の成長であろう。勿論年金問題にしても、政治とカネの問題にしても、目下課題となっている事柄はどの内閣でも取り組まなければならない政治的解決事項のはずである。安倍内閣でなければならない理由はどこにもない。あるとしたら、他に優って解決する能力があるという場合に限る。

 自民党副幹事長の石原伸晃がNHKの同じ番組で「安倍政権に対する不信任を突きつけたと受け止めていますか」といったインタビューを受けて次のように答えていた。

 「私は必ずしもそうとは受け止めていない。自民党を支持してくださっているおじいちゃん、おばあちゃんが頑張ってくださいよって言ってくださっている。必ずしもリジェクト(拒絶)されたわけではない」

 実際におじいちゃん、おばあちゃんに「頑張ってくださいよ」と励ましの声を一度ならず、複数回かけられたのだろう。だが、自民党支持層はおじいちゃん、おばあちゃんのみで成り立っているわけではないのだから、おじいちゃん、おばあちゃんに声を掛けられたことを以って「必ずしもリジェクト(拒絶)されたわけではない」と公約数の意見とする単細胞な把え方、客観性のなさは安倍首相を受け継いでそっくりである。辞書で調べて知ったことだが、「リジェクト」なる言葉には「拒絶する」という意味の他に「(不良品などを〉除く、捨てる」という意味がある。「安倍首相をリジェクトする(除く)」と使った方が利口というものではないか。

 似た者同士だからとしても、石原伸晃のような単細胞な政治家が党の要職の一つである副幹事長に居座って日々単細胞なメッセージを発していることを考えると、安倍首相の人事管理能力と深く関わる政策処理能力に疑問符をつけざるをえない。改革や経済成長を推し進めるには安倍首相でなければならないとする理由は見い出せない。

 選手を満足に管理・統率できないプロ野球の監督が試合に於ける優れた采配能力を期待できないのと同じである。サッカーでも一番に問題となるのは監督の選手管理とそれを土台とした采配能力であろう。

 まだ選挙の最終結果が出ない途中での自民党の劣勢が伝えられる中で同じ石原伸晃の言葉がテロップが流れた。自民党への批判票を弁護してのことだろう、「安倍首相の問題でなく、閣僚の問題だ」

 その通りと見ても、これは改革や経済成長を推し進めるには安倍首相でなければならないとする理由を決定的に否定できる内容を含んでいる。

 石原伸晃は閣僚を任命した任命権者としての安倍首相の責任を省いて何ら恥じない閣僚にのみ責任を転嫁する狡さがある。例え百歩譲って任命したときは適材適所と認識したとしても、閣僚が失言や失態を起こした後、あるいは不正を働いていると疑われた後の人事管理の問題は譲ることのできない首相個人の内閣運営に関わる、当然政策遂行に関わる資質の有無、能力の問題となる。

 いわば「閣僚の問題」であっても、と同時に何よりも安倍首相自身の問題なのである。そこに気づかないのだから、石原伸晃はやはり単細胞人間と言わざるを得ない。

 「私共が進めてきた、ま、基本的は方向、改革を進めて日本の経済を成長させていく、この方向には間違いはない」ことは誰もが認めることではあっても、問題閣僚の事後処理の方法に国民が不信を持ち、それが人事管理の資質の有無、能力を超えて政策遂行の資質の有無、能力に重ね合わされて暗黙裡に受け止められたこともあって、国民に不信任を突きつけられたのではないか。人を満足に使えない人間が政策を通した国の運営は満足にできようがないからである。

 安倍首相の閣僚その他に対する人事管理の資質の有無、能力に絡んでいることだが、問題閣僚に対する国民世論や野党の辞任要求を拒絶して逆に擁護する理由付けに「今後職責を果たしていくことによって国民の信頼を得る努力をしてもらいたい」を責任履行の決まりきった口上としているが、これは上記インタビューでの安倍首相自身の選挙大敗の責任について、「結果を出していくことが責任を果たすことだ」と重なる責任履行の口実であろう。閣僚に対するのと同じ擁護論で自身を擁護しているのである。

 結果論になるが、問題閣僚の擁護は自身を擁護する、いわば予行演習ともなっていたのである。安倍首相本人の本質的な責任意識がそのような構造のものであるということだろうが、予行演習となっていたこともあって、何度も同じ口上をスラスラと口にすることができたのだろう。

 「規律を知る、凛とした国」を掲げるだけのことはある。見事に自身の姿に反する美しい価値観の提示となっている。ウソつきな人間程、自分程正直な人間はいないと頭から信じているものだが、それは自己防御本能から出ている自己美化なのだろう。選挙大敗の責任回避の姿勢一つとっても、少なくとも自身のやっていることを省みる自己省察能力はゼロに近いようだ。

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