政治資金規正法再改正/領収書1円から

2007-08-04 01:35:07 | Weblog

 お灸論にすり替えさせるな

 <中川秀直幹事長は一日の記者会見で「国民の批判を正面から受け止めなければならない。すべての政治団体を対象に一円以上の領収書を公開するのが民意の大勢だ」と、政治資金規正法改正案を秋の臨時国会に提出する意向を表明。改正法の成立を待たずに、同趣旨の党内規則を設ける方針も示した。>(07.8.2/東京新聞朝刊インターネット記事≪参院選惨敗 また規正法改正 自民「1円から領収書」≫)

 「民意の大勢だ」の後にasahi.comは「政治活動の自由の視点は、国民に受け入れられなかった」を付け加えている。(07.08.02/「領収書、1円以上から公開が民意」 中川自民党幹事長)

 資金管理団体に於ける1件5万円以上の経常経費に領収書添付の義務づけを内容とした改正政治資金規正法自民党案の国会提出前に安倍美しい首相は「これからやるべきことは指摘、批判に応えて法律を整えていくことだ。それが責任の果たし方なのではないか」と法の整備を確約し、それを自らの責任とした。

 そして確約どおりに整備した資金管理団体に限った5万円以上の光熱水費等の経常経費に領収書添付を義務付ける「改正政治資金規正法」を自民党案として成立させたのは6月29日(07)。資金管理団体のみに限り、その他の政治団体はその限りではないとしたのは、両者の線引きが難しいからということと、民主党案の1万円以上では事務処理が膨大なものとなり煩雑すぎて現実的でない、政治活動の自由を損なうといったことを理由に散々ケチをつけていたが(石原伸晃などもテレビに出て盛んに批判していた)、その他の政治団体に付け替える自由裁量を残したことがザル法と指摘された所以であろう。

 実際にもザル法であることが資金管理団体ではない、しかも常駐職員のいない、いわば幽霊団体のような政治団体を実家に置き(赤城本人は活動実体があったと言っているが)、多額の経常経費を計上していたことが発覚、資金管理団体ではない政治団体を利用すれば経費の付け替えや不正流用は可能となることを世間にあからさまに証明することとなった。安部美しい首相の「これからやるべきことは指摘、批判に応えて法律を整えていくことだ。それが責任の果たし方なのではないか」は約束にもならない、責任にもならない空手形だったことが証明された。

 赤城前農水相の(早くも「前」となり、松岡は「前」から「元」農水相へと順送りされることになってしまったが)疑惑が持ち上がっても本人がどのような説明にも優る領収書の公開を頑強に拒否しているにも関わらず、安倍美しい首相は「赤城さんはきちんと説明されていると聞いてる」、野党の辞任要求に対しては「そういう問題ではない」、その他の政治団体が抜け道にならないかの指摘には、「おカネを取り扱う流れの中心になっている主たるものは資金管理団体だ」、法そのものについては「政治資金法改正案が成立したわけだから、まずは施行してどうかということをみなさんに見ていただきたい」と改正案が万全な内容の規正法であってザル法でないことを自信たっぷりに訴えた。

 だが、実態的には空手形のザル法に過ぎない改正政治資金規正法の不備を不備でないと見せかける策として、政治資金規正法の再改正ではなく、再改正だと朝令暮改同然となってカッコーが悪く、責任を果たさなかったことが公になるからだろう、自民党内規で国会議員が一つ指定できる資金管理団体にカネの出入りを集中させることを義務づける方針を打ち出して、赤城徳彦の事務所費疑惑共々「絆創膏」を張って衣服の綻びを塞ぐような姑息な手段でザル法に折り合いをつけようとした。

 「美しい国づくり」を言うだけのことはある美しいゴマカシである。
 
 そこへもってきて参院選の与野党逆転の大ショックを受けて目が覚めたのだろう、政治とカネの問題、特にそのことを代表して赤城農水相の事務所費疑惑が敗北の大きな一因になったと見たのだろう、<同党は七月三十一日、所属国会議員に対し、政治資金収支報告書に不適切な記載がないか、外部監査を義務付け、問題が発覚した場合、閣僚や党幹部に起用しないことを決め>(上記同東京新聞)、その上8月1日には赤城農水相に詰め腹を切らさせている。

 それでも足りないと見たのか、「5万円」にあくまでも拘っていたことをケロッと打ち捨てて「1円から領収書」である。アツモノに懲りてナマスを吹きたくなったのか、あまりにも矢継ぎ早に過ぎる打つ手の早さである。

 これが与野党逆転という民意を素直に受け止めて謙虚に改める、首相の言っている「反省すべきは反省する」という姿勢から出た「1円から領収書」なる素早い対応ということであったとしても(中川幹事長も言っている。「一円以上の領収書を公開するのが民意の大勢だ」)、これまでの「5万円」は何だったのかと言いたくなる、あるいは「これからやるべきことは指摘、批判に応えて法律を整えていくことだ。それが責任の果たし方なのではないか」とした安倍美しい首相の確約宣言、責任遂行宣言は何だったのかと言いたくなる、それらを美しく忘却させた「5万円」から「1円」の進展であること、さらにあまりにも矢継ぎ早の対策であることを考えると、例え法案化されて政治家の政治とカネに有効な網をかけることができたとしても、発意の精神そのものは<多くの有権者は自民党政治を信頼しているのだが、失政があると自民党に猛省を促すために一時的に野党に投票する>(97.7.10『朝日』朝刊≪政態拝見 橋本氏とお灸 自民党政治はよくなったか≫」)有権者の「お灸論」行動を逆手に取って、お灸をすえられて改心した態度を示すことでお灸効果があったと見せかけ有権者を満足させ、懐柔する心がけから出たものではないかと疑いたくなる。

 また政治資金規正法再改正案はこれまでどおり事務所費、光熱水費、備品・消耗品費等の経常経費から人件費を除くとしている。そうした場合、今度は不正支出を人件費に付け替えるといったことはしないだろうか。公設秘書問題では、将来的には禁止の方向に制度改正へと持っていくとのことだが、年収1千万円前後の秘書給与の何パーセントかを半強制的に寄付させることを常習としていたり、配偶者等の親族を公設秘書に当て、その給与をまるまる自分の政治資金とする国会議員が多数いるのである。かつては公設秘書の名義の貸し借りが行われ、名義の借り料を差引いたカネを自分の収入としていた議員もいた。私設秘書やその他の被雇用者と口裏を合わせて、その給与に2階部分を増築し、増築箇所にいつでも不正支出できるカネを前以て埋め込んでおくといったことも可能なのではないだろうか。あるいは既にそういった手法を活用している国会議員もいるかもしれない。

 いずれにしても完璧な法律は存在させ得ない。狡猾な人間は必ずと言っていい程に抜け道を見つける。そのような構造上の宿命に対する謙虚さを欠いているばかりか、欠いているからこそ、それをさも存在させることができるかのように美しい言葉を並べ立てて約束し、例えそのことが空手形に終わったことが明らかになっても、その責任を取らない二重の謙虚さの欠如。一国の総理大臣に関しては謙虚さの要素をこそ、国民は問題とすべきではないだろうか。

 「1円から領収書」が法律として成立したとしても、自民党さんやるじゃないかと満足してはならない。お灸論にすり替えさせたなら、最初からやるべきことをやらなかった責任問題をウヤムヤとしてしまうし、同じようなことの繰返しをいつまでも許すことにもなるだろう。

 安倍美しい首相は参院選大敗後「美しい国」を口にしていないと『朝日』の記事に出ていたが、自分の足元に美しくない言動の閣僚を抱えていただけではなく、それを擁護する自身の美しくない対応、さらに選挙都合で一旦は離党させた議員を復党させるなり振り構わない無節操、あるいは年金記録問題で、「システムをつくった時の厚相は菅直人だ」とさも張本人であるかのように名指しで批判したりする美しくない自らの言動から考えて「美しい国づくり」を口にする資格はそもそもからしてないのだが、そのことと併せて口にする資格のないことに自分から気づかず、人気のなかったことを周囲から知らされて気づく「鈍感力」も一国の首相にはふさわしくない資質と言えるのではないだろうか。

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