8日(08年7月)の北海道洞爺湖サミット・主要国首脳会議で主要8カ国(G8)は昨07年の独ハイリゲンダムサミットで「2050年までに温室効果ガスを半減することを真剣に検討する」と合意していた温室効果ガスの「半減」の目標化に向けて話し合い、次のような合意に至ったと昨日のNHKインターネット記事(≪G8“長期目標 世界目標に”≫ )は伝えている。
「G8は、2050年までに半減させる目標というビジョンを、国連の気候変動枠組み条約の交渉に参加している諸国とともに検討し、採択することを求める」
≪世界の二酸化炭素排出量に占める主要国の排出割合と各国の一人当たりの排出量の比較≫(JCCA・全国地球温暖化防止活動推進センター)から
つまり「合意」「合意」と言っているが、「2050年までに温室効果ガスを半減」の「真剣に検討」とした「目標」から「2050年までに半減させる目標というビジョン(=構想)」へと後退させて「検討し、採択することを求める」「合意」に至ったということなのだろう。
「目標」にしても「ビジョン」(=構想)の範囲内の事柄であって、二重の「ビジョン」を示す結果となっている。「ビジョン(=構想)」である以上、「半減」を決定する意味の「合意」ではなく、将来的課題として打ち出した「半減」合意に過ぎない。
NHK記事が伝える福田首相の言葉も当然のこととして同じ趣旨の内容となっている。
<(福田総理大臣は「半減の長期目標」について)「G8・主要8か国は、世界全体の目標として採用することを求める」とすることで合意したことを明らかにしました。>――
「半減の長期目標」を「世界全体の目標として採用すること」で合意したではなく、「採用することを求める」と将来的課題とすることで合意した、いわば「半減」決定を先送りしたことを明らかにしている。
「半減」が合意に至らなかった原因を同記事は<G8だけでも長期目標について明確に合意すべきだと主張するヨーロッパ諸国と、中国やインドが入らなければ意味がないとするアメリカとの溝を埋めるために調整を進めてき>たが、アメリカの主張が障害となって「調整」が成功せず、「半減」の合意まで進めることができなかった。
アメリカが自らの主張を引っ込める妥協を行わない限り、「半減」合意への解決策は唯一アメリカの主張を満たすことなのは断るまでもないことである。
上記JCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)のHPに表示してある2005年の「世界の二酸化炭素排出量に占める主要国の排出割合」から分かるように、中国の排出割合はアメリカの22.0%に次いで2位の19・0%であり、インドは第3位のロシア(15.8%)、4位の日本(4.7%)、に次ぐ4.5%で、ドイツの3.0%、イギリスの2.2%、アフリカ全体の3.5%を上回っている二酸化炭素多量排出国であり、2050年には中印を含む途上国の二酸化炭素(CO2)排出量は世界全体の6割を超える(≪【洞爺湖サミット】玉虫色の決着 交渉加速ほど遠く 温室効果ガス半減合意≫MSN産経/2008.7.8 20:47 )というから、「中国、インドの合意がなければ長期目標は実現できない」とするアメリカの主張には合理的な面もあり、アメリカの主張を補う意味でG8の合意内容に<中国やインドといった新興国に対して、温暖化防止の枠組みに入ることを呼びかけ>る提案を含んでいることをNHK記事は伝えている。
だとしたら、アメリカの主張を満たした上でアメリカに「半減」合意を促すために今日9日開催となっている主要経済国会合(MEM=日、米、EU、ロシア、中国、インド、メキシコ、韓国など計16カ国と国連で構成)を8日開催のG8会合に先立って開催する逆の順序にして、まず最初に中国、インドその他の新興国に対して「半減」合意に加わることを模索するのが常識的な対応なのだが、順序を逆にせずに8日のG8会合に次いで今日9日の主要経済国会合と予定通りの開催となっている。
中国やインドといった、自国を発展途上国と位置づけてさらなる経済発展を望んでいる国々は今後の経済活動の抑制材料となりかねない削減数値目標化の義務付けに反対しているし、その傾向はアフリカ諸国の中でも特に石油資源や鉱物資源の開発とその価格の高騰で急激に経済発展を遂げつつあるアンゴラ等の国々も共有した傾向となっている。
今日7月9日の『朝日』朝刊「時時刻刻」一部記事≪新興国、早くもくぎ刺す 先進国の主導を強く望む≫はG8で協議した「半減の世界目標化」の合意を受けてなのだろう、「中印などの新興五カ国首脳は8日の記者会見で声明を発表。中長期の目標については「先進国が主導しなければならない」と言明。「世界の国々の平等な発展が保証されなければならない」と早くもくぎを刺した。>と伝えている。
「世界の国々の平等な発展」の「保証」とは、中国やインド、アフリカの国々が日米欧並みの経済発展を遂げるまで温室効果ガスの排出規制でそれぞれの国の経済活動を阻害するなと言うことであり、この文脈からすると、国別総量目標の実施を掲げた中長期の目標についての「先進国が主導しなければならない」は、「先進国が率先してやることだ、我々がやることではない」という趣旨なのだろう。
「我々もやること」としたなら、「世界の国々の平等な発展」を自ら否定する自己矛盾を犯すことになる。
これが主要経済国会合(MEM)を開く前からの「中印などの新興五カ国」の態度なのである。このような中印を筆頭とした新興国の姿勢は福田首相も分かっていなければならず、当然分かっていたからこそ、常識としては主要経済国会合(MEM)先に開催して中印以下の新興国に「排出量半減」の長期目標を認めさせた上でG8会合を開いて「中国やインドが入らなければ意味がないとするアメリカ」の態度は無効となったとして「世界全体の目標として採用することを求める」ことに向けて合意を図るのではなく、「世界全体の目標として採用する」ことに向けて合意を図るべきを、それができず、そうした場合の中印以下の新興国も説得できない、当然の結果としてアメリカの態度も説得できないといった何もかもぶち壊しになることを予想して、それを避けてサミット成功を謳い上げるために常識に反してG8会合を先に開催し、「世界全体の目標として採用する」を排出量半減の「事実上の合意」(『朝日』記事)とする実際には幻想に過ぎないマヤカシをG8舞台に演出したと言うことなのだろう。
国内的にも外交上からも政治的な成果を何ら上げることができずに支持率が低迷、消滅寸前にまでジリ貧状態にある内閣を率いる福田首相としたなら、なりふり構ってはいられない謳い上げるべくして謳い上げた「成功」のマヤカシと言ったところか。
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≪G8“長期目標 世界目標に”≫ (NHK/08年7月8日 17時16分 )
福田総理大臣は、北海道洞爺湖サミットの会場で記者団に対し「西暦2050年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を半減させる」という「長期目標」について、「G8・主要8か国は、世界全体の目標として採用することを求める」とすることで合意したことを明らかにしました。
北海道洞爺湖サミットは、2日目を迎え、議長を務める福田総理大臣をはじめ、
G8・主要8か国の首脳は、昼食をとりながらの会合で、最大の焦点である地球温暖化対策をめぐって意見を交わしました。
会合を終えた福田総理大臣は、記者団に対し「西暦2050年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を半減させる」という長期目標について、「G8・主要8か国は、世界全体の目標として採用することを求める」とすることで合意したことを明らかにしました。合意文によりますと、「G8は、2050年までに半減させる目標というビジョンを、国連の気候変動枠組み条約の交渉に参加している諸国とともに検討し、採択することを求める」としています。そのうえで、中国やインドなど、温室効果ガスのすべての主要な排出国の協力なしには目標達成はできないとして「世界全体での対応、特にすべての主要経済国の貢献によってのみ、この課題に対応できることを認識する」としています。
一方、中期目標については「可能なかぎり早く排出量の増加を止めるために、野心的な中期の国別総量目標を実施する」としています。
この合意について、福田総理大臣は「言うまでもなく、長期目標の達成は、ほかの主要排出国の貢献がなければ実現できない。あすの主要経済国首脳会合では、こういう国々の協力を強く呼びかけていきたいと思っている。われわれは洞爺湖で示した強い決意の下に、地球規模での共同行動につなげていく努力を新たに始めることになった。これこそが次の世代の将来に責任を負っているわれわれに課された重大な使命だと思う」と述べました。
長期目標をめぐっては、去年のハイリゲンダム・サミットで「2050年までに温室効果ガスを半減することを真剣に検討する」で合意しています。議長国日本は、今回のサミットで、G8だけでも長期目標について明確に合意すべきだと主張するヨーロッパ諸国と、中国やインドが入らなければ意味がないとするアメリカとの溝を埋めるために調整を進めてきました。合意内容は、中国やインドといった新興国に対して、温暖化防止の枠組みに入ることを呼びかけており、議長国の日本は9日の会合で、新興国から協力を引き出したいとしています。
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≪【洞爺湖サミット】玉虫色の決着 交渉加速ほど遠く 温室効果ガス半減合意≫(MSN産経/2008.7.8 20:47 )
北海道洞爺湖サミットは8日の討議で、主要国(G8)が地球温暖化対策について「2050年に世界の温室効果ガス半減」との長期目標を「世界で共有する」ことを首脳宣言に盛り込んだ。また、産業部門別に削減可能量を積み上げるセクター別アプローチについても「有用な手段」と言及、表面上は昨年の独ハイリゲンダムサミットからの前進を印象づけた。ただ、各国の意見の食い違いを反映して、玉虫色の決着にとどまり、政府が強調した「国際交渉の加速」にはほど遠い内容となった。(福島徳)
「今回、具体的に明確に一歩進められたのは日本の努力に負うところが大きい、といくつかのG8首脳から発言があった」。外務省筋は同日の地球温暖化対策の討議終了後、この日の成果と日本の指導力をこう強調してみせた。
最大の焦点とされた長期目標をめぐっては、米国が「主要排出国である中国、インドが参加しなければ意味がない」と強硬姿勢を崩さなかったことから、難航が予想された。
2050年には中印を含む途上国の二酸化炭素(CO2)排出量は世界全体の6割を超える。首脳宣言では「世界全体の対応、特にすべての主要経済国の貢献によってのみ、この課題に対応できる」との文言を盛り込み、米国の同意を取りつけた。
一方で、G8が率先して取り組むことを印象づけるため、長期目標を達成する道筋としての2020年~30年ごろを対象とした中期目標について、「指導的役割」「野心的」などの文言をちりばめ、目標を設定することを申し合わせた。
だが、外務省筋が「議論では長期目標とG8各国の行動の相関関係についての具体的な議論は行われていない」と語るように、長期、中期の目標とも実質的な議論には踏み込まず、世界の排出増をゼロにするピークアウトの時期についても合意形成には至らなかった。G8が「差し障りのない範囲で決着させた」というのが実態だ。
しかし、中国やインドは「長期目標は豊かさを享受してきた先進国の責務」としており、「共有」や「応分の責務」には強い拒絶反応を示すことは確実だ。地球温暖化問題の主戦場である国連の交渉で、2013年以降の国際枠組み(ポスト京都議定書)づくりに主導権を握りたかった日本。サミットを通じて「地球温暖化対策に積極的な姿勢を世界に発信させる」との思惑は外れた格好だ。