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福田首相五輪開会式出席/ハンセン病問題も「絡める必要ない」のか(1)

2008-07-11 09:44:35 | Weblog

 福田首相は北京オリンピック開会式への出席を明らかにした。

 ≪首相、五輪開会式に出席 「政治絡める必要ない」≫47NEWS/2008/07/06 19:04 【共同通信】)

<福田康夫首相は6日、日米首脳会談後の記者会見で、8月8日の北京五輪開会式に出席することを正式に表明した。北京入りは8日で、9日には長崎市で開かれる原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に出席するため帰国する。

 中国の人権問題への懸念について、福田首相は「五輪を政治にあまり絡める必要はない」と指摘。「問題があったとしても努力、改善している最中だ。中国はわが国の隣人。健全で明るい国になってほしいと思っており、そういう気持ちを込めて出席したい」と述べ、開会式と政治問題を切り離すべきだと強調した。

 出席を決めた理由について、福田首相は「五輪はスポーツ。スポーツ精神を大いに発揮してほしいし、満を持している選手の激励をしたい」と述べ、日本選手団の応援のためと説明した。>・・・・・・・・・

 「五輪はスポーツ」であるとしても、運営するのは都市主催の形を取った国家経営となっていて、特に独裁国家や日本のような権威主義国家に於いては国家主義的な意志の支配を受ける。国旗を極端なまでに意識して背負うのはそのためであり、そこから国威発揚精神、自民族高揚意識が生じる。

 独裁国家の支配下にある首都北京が主催の形を取る北京オリンピックに関しても当然の傾向として中国共産党国家の関与部分が大きく、北京オリンピックと言いながら、中国共産党オリンピックと言った方が正確でふさわしい名称に違いない。

 「発展途上国」の名称を卒業して「先進国」の名称を獲得し、そのことを内外に誇示する絶好の機会とする国家的目論見も、北京オリンピックが国家レベルの経営であることを証明して余りある。

 一例としての高校野球はプレーをするのは各高校野球部であっても、入学金や授業料などの免除、練習時間調整、応援団の組織等は学校自体が実施主体となっていて、それらなくして成り立たない活動であるのと同じ構図を踏んでいるはずである。

 またスポーツがドーピングや不純な異性問題に関係した場合のスポーツ選手個人の人格性を問題とするように、オリンピックの運営主体である国家の人格性を問題としなければならない。オリンピック憲章がそのことを指摘している。

 オリンピック憲章「根本原則」の3は次のように定めている。

 「3.オリンピズムの目的は、人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することを視野に入れ、あらゆる場で調和のとれた人間の発達にスポーツを役立てることにある。この趣意において、オリンピック・ムーブメントは単独又は他組織の協力により、その行使し得る手段の範囲内で平和を推進する活動に携わる。

 「平和」とは、国家が戦争をしていない状況のみを言うのではなく、国民が等しく基本的人権を行動原理として自由に活動する状況をも言うはずである。

 オリンピック憲章「根本原則」の6は次のように定めている。

 「6.オリンピック・ムーブメントの目的は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献することにある。」

 オリンピック憲章「根本原則」の8は次のように定めている。

 「8.スポーツを行なうことは人権の一つである。各自の要求に応じてスポーツを行う機会が必要である。」

 時事通信社の7月7日(08年)のインターネット記事≪患者の入国禁止撤回を=北京五輪委、厚労省に要望-ハンセン病市民学会≫は次のように伝えている。

 <北京五輪組織委員会が大会期間中にハンセン病患者らの入国を禁止した問題で、支援者や学識者らでつくるハンセン病市民学会(熊本市)などは7日、厚生労働省で会見し、舛添要一厚労相と組織委側に対し、文書で禁止措置の撤回を要望したことを明らかにした。

 同組織委は6月2日、五輪期間中の外国人の出入国に関する「法律指針」を公表。ハンセン病患者らの入国禁止を掲げた。

 同学会の神美知宏共同代表は「中国がオリンピックという場で、ハンセン病などへの間違った理解と偏見を世界に発信することは黙認できない。オリンピックが差別を植え付ける場になってはならない」と話した。 
 
 ただ、「法律指針」は組織委の方針ではなく、ハンセン病患者らの入国禁止は、外国人入境出境管理法の実施細則で定められたものという。このため、同学会などは指針の禁止措置の撤回のほか、同法の改正についても要望している。(了)
神美知宏(こう・みちひろ)>・・・・・・・・

 「『法律指針』は組織委の方針ではなく、ハンセン病患者らの入国禁止は、外国人入境出境管理法の実施細則で定められたもの」だとしても、「外国人入境出境管理法の実施細則」に則って北京五輪組織委員会が「ハンセン病患者らの入国禁止」を掲げる以上、その精神の支配を受けた同調・共犯行為であって、ヒトラーの命令を受けてユダヤ人を虐殺するのであって、我々は関係ないということができないようにその権性はオリンピック憲章「根本原則」の6が言う「いかなる差別をも伴うことなく」の精神に反する振舞いなのは言を俟たない。

 また「ハンセン病患者らの入国禁止」といった後れた人権意識行為はオリンピック憲章「根本原則」の3が言うスポーツを通じて人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立」「奨励」に反する、そのことを裏切る「人間の尊厳」を否定する行為そのものであろう。

 さらに言うなら、 オリンピック憲章「根本原則」の8は「スポーツを行なうことは人権の一つである」と言っているが、少なくともオリンピックのような競技の体裁を取るスポーツは観客があって初めて意味と価値を持つ。

 人権とは人間精神の自由な発露を保証する権利を言い、その否定ではないはずである。スポーツを行うことも精神の自由且つ十全な発露行為であり、また観客の競技観戦にしても、競技者の精神の自由且つ十全な発露を受けて自らも精神の自由且つ十全な発露を行う、双方共に人権行為に属する。

 「スポーツを行なうことは人権の一つである」と言うなら、観客も視野に入れて、競技者と観客は相互に人権を分かち合う関係にあるとオリンピック憲章は謳い上げる必要があるのではないか。

 となれば、次のように表現しなければならない。「スポーツ観戦も人権の一つである」と。

 例え「外国人入境出境管理法」に則った北京五輪組織委員会の「ハンセン病患者らの入国禁止」「法律指針」の適用だったとしても、ハンセン病患者が他者に危険を及ぼす恐れがない以上、スポーツ観戦という人権を否定する行為であって、「スポーツ観戦も人権の一つである」としなければならない精神を阻害するだけではなく、そのことと関連し合うオリンピック憲章「根本原則」の8が言う「スポーツを行なうことは人権の一つである」とする精神をも阻害し、宙ぶらりんな状態に貶めるのではないだろうか。

 例えば「ハンセン病患者ら」「入国禁止」を受けてこのスタンドの観衆の中にはいないんだとアスリートが考えた場合、人権意識の薄い日本人選手はそんなことは思いも考えもしないだろうが、果して無心で競技に臨める選手がどれくらいいるだろうか。

 またこのような中国政府の国家権力意志を受けた北京五輪組織委員会の人権否定行為は「五輪開催が人権状況の改善を含む社会的な進歩につながると主張して」(読売記事)、懸念された中国内の人権状況をクリアし五輪開催の指名に漕ぎ付けた経緯を裏切るものでもあろう。

 欧米のハンセン病政策は1943年にアメリカで特効薬が開発されて以降隔離政策から社会復帰を伴った外来治療へと移行していったにも関わらず、世界的な政策変更を無視して1931年以来から1996年の「らい予防法」廃止まで患者の人権を抑圧する強制隔離政策を続け、その間強制断種・強制中絶の最悪の人権抑圧まで侵す悪名高い歴史・過去を日本は抱えている。

 2006年12月3日の当ブログ≪中国残留孤児訴訟/神戸地裁判決は国民意識不在への糾弾≫で中国残留孤児に対する日本政府の怠慢・不作為の責任を厳しく糾弾した神戸地裁の判決によって炙り出された日本政府の「国民の生命・財産」を無視した残酷な権行為を列挙する中でハンセン病の隔離政策を取り上げ、次のように書いた。

 <1950年代には在宅治療が主流の世界標準に反して1996年の「らい予防法廃止に関する法律」の成立まで16年間も強制隔離を続けてきたハンセン病(らい病)対策は「国民の生命・財産」無視の顕著な例の一つであろう。しかし社会の偏見と国の支援対策不備で隔離された施設から退所した元患者は当初は僅かで、殆どが入所したままの状態に置かれた。

 2年後の1998(平成10)年7月31日、熊本・鹿児島両県の国立療養所入所者ら13名が国を相手取り国家賠償を請求して熊本地裁に提訴した。2001(平成13)年5月11日に熊本地裁が国の責任を認めて賠償を命ずる判決を出したのに対して、旧厚生省(2001年/平成13年1月の中央省庁再編を受けて厚生省と労働省と統合、正しくは厚生労働省です。訂正します)は控訴の方針を示したが、小泉首相が控訴断念を決意、原告勝訴が確定した。

 その直後の朝日新聞の内閣支持率調査で小泉内閣は前回の78%から84%に撥ね上がったが、これは明らかにハンセン訴訟控訴断念に対して国民が評価し、その好感が作用した数値であろう。

 しかし、控訴棄却した場合の支持率の低下を考えたはずである。なぜなら、小泉首相は竹下内閣と宇野内閣のもとで、1988年から1989年までと、1996(平成8)年11月から1998(平成10)年7月までは橋本内閣のもとで2度厚生大臣を務めている。

 1998年3月に発表し、ハンセン病元患者たちから失望と怒りの声が上がった彼らに対する「社会復帰支援事業実施要項」の作成に厚生大臣として関わっていたはずである。4ヵ月後の1998(平成10)年7月31日の国を相手取った国家賠償請求の熊本地裁提訴は、国に期待できないことに対する司法への期待転換が動機として含まれていたであろう。国が患者に満足を与える支援策を示したなら、何も時間とカネをかけて裁判にかける必要はどこにもないからである。当時小泉厚生大臣は患者が権利として有している「国民の生命・財産」の保障要求に応えなかった。――>・・・・・・

 中国残留孤児訴訟では月最大14万6000円支給の新支援策を盛り込んだ改正帰国者支援法が2007年11月28日に成立、2008年1月1日の施行を受けて各地での訴訟は取下げ、もしくは和解へと向かっていると言う。

 福田首相の「五輪を政治にあまり絡める必要はない」が正しい解釈だとしても、実際には「絡める」だけの政治能力を持たないだけの話だろうが、こともあろうにオリンピック開催国がオリンピック精神に反して「ハンセン病患者らの入国禁止」を謀る権行為に対していくら「中国はわが国の隣人」だからと言って、そのことに目をつぶっていていいはずはない。ましてや国の政治に責任ある立場で関係する人間であるなら、国のハンセン病政策に関わる悪名高い恥ずべき歴史・過去・前科を挽回すべく、開会式出席を「入国禁止撤回」を条件とする厳しい態度で臨むべきではないか。

 北京五輪組織委員会が「五輪期間中の外国人の出入国に関する『法律指針』を公表。ハンセン病患者らの入国禁止を掲げた」のは今年の6月2日。

 支援者や学識者らでつくるハンセン病市民学会(熊本市)などが厚生労働省で会見し、舛添要一厚労相と組織委側に対し、文書で禁止措置の撤回を要望したのは7月7日。時事通信社がそのことを記事で伝えたのは同じ日の7月7日。

 福田首相が北京オリンピック開会式出席を表明したのは7月6日。その1日後の上記時事通信社の7月7日の報道は支援者や学識者らでつくるハンセン病市民学会が舛添要一厚労相と組織委側に対して文書で禁止措置の撤回を要望したことを伝えたもので、NHK」「asahi.com」「読売」「北日本放送インターネット記事」等が6月19日~6月23日に既に北京五輪組織委の措置を伝えている。

 「asahi.com」(2008年6月20日(金)12:29 )記事の報道は次のとおりである。

 ≪北京五輪中「ハンセン病患者は入国禁止」 組織委に抗議≫

 <日本財団(笹川陽平会長)は19日、北京五輪開催時にハンセン病患者の入国を禁止するとの措置について、撤回を求める書簡を北京五輪組織委や胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席らに送った。同組織委は今月2日に発表した外国人向けの「法律指南」で、ハンセン病や精神病、性病、結核などの患者を「入国できない外国人」とした。同財団は書簡で「ハンセン病患者やその家族への基本的人権侵害に当たり、偏見や差別を助長する」と指摘している。>・・・・・・

 日本財団は中国国家主席の胡錦涛にも「撤回を求める書簡」を送った。もしこのマスコミ情報を政府の人間が誰一人把握していなかったとしたら、政府の情報収集能力、ひいては危機管理能力の問題にもつながっていく。福田首相自身が直接把握していなかったとしても、誰かが把握して福田首相に必要情報として伝えるべき出来事であり、過去の日本のハンセン病政策に照らして知っておくべき情報であったはずである。

 もしこのまま中国政府及び北京五輪組織委が「ハンセン病患者入国禁止」措置を撤回せず、そのことに無頓着に福田首相が北京オリンピック開会式に笑顔で出席するようだったら、上記2001(平成13)年5月11日に熊本地裁が国のハンセン病政策の責任を認めて賠償を命ずる判決を出したのに対して、厚生労働省(坂口力大臣)の控訴意志を抑えて小泉首相の控訴断念の政治判断を根回ししたのは小泉首相の下で内閣官房長官を務めていた現在の福田首相だと言うが、それはハンセン病患者の人間回復・人権回復、あるいは人間の尊厳の回復を願ったからではなく、あくまでも小泉人気を維持するための政治的措置であり、ハンセン病患者の人間回復・人権回復、あるいは人間の尊厳の回復は限りなく政治的ポーズに過ぎなかったことを暴露することになる。

 となると、8月8日の北京五輪開会式出席後の翌9日の長崎市で開催の原爆犠牲者慰霊平和祈念式典出席も限りなく政治的ポーズの疑いが濃くなる。

 もしも人間回復・人権回復、あるいは人間の尊厳の回復を心の底から願っての控訴断念だったなら、そのことに重要な立場で関わった政治家の一人として、「五輪を政治にあまり絡める必要はない」との口実で中国の措置を見逃すことは二枚舌となってできないだろうし、当然北京オリンピック開会式出席は「ハンセン病患者入国禁止」措置を条件とすることになるだろうし、条件としなければならならないはずである。

 いわば「五輪を政治にあまり絡める必要はない」としても、「ハンセン病患者入国禁止」措置に絡めないわけにはいかない」はずである。「ハンセン病患者入国禁止」問題とは即ち人権問題であることなのは言うまでもない。

 それとも「ハンセン病患者入国禁止」措置などどうでもよくて、「満を持している(日本人)選手の激励」を優先させるとでも言うのだろうか。支持率が上がることを願いつつ。
   ≪福田首相五輪開会式出席/ハンセン病問題も「絡める必要ない」のか≫(2)に続く

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福田首相五輪開会式出席/ハンセン病問題も「絡める必要ない」のか(2)

2008-07-11 09:14:15 | Weblog

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≪IOCロゲ会長、中国に人権問題の改善促す≫(2008年4月10日23時31分 読売新聞

 【北京=結城和香子】国際オリンピック委員会(IOC)のジャック・ロゲ会長は10日、北京で記者会見し、中国政府に対し、チベット問題を含む人権問題についての改善を促す発言を行った。

 ロゲ会長は記者会見で、中国が北京五輪を招致した当時を振り返り、「中国は、五輪開催が人権状況の改善を含む社会的な進歩につながると主張していた」と強調。「その道義上の約束を中国が尊重してくれることを求める」と明言した。
 北京五輪聖火リレーの国際ルート打ち切りについては、「北京五輪組織委員会と改善策を話し合っているが、リレーの中断や打ち切りなどは、検討課題になっていない」と述べた。聖火リレーが度重なる抗議運動の標的となっていることについては、「車いすの選手の聖火を奪おうとしたシーンには深いショックを受けた。イメージが傷ついたのは、聖火や五輪ではなく、抗議活動の方だ」と語った。
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 ≪ハンセン病患者、北京五輪入国拒否≫北日本放送インターネット記事/2008 年 06 月 23 日 16:46 現在)

 中国が北京オリンピックの期間中、ハンセン病患者の入国を禁止している問題で、富山県内の市民団体が23日、国際オリンピック委員会や世界保健機関などに撤回を求める要望書を送りました。
 中国の北京オリンピック組織委員会のインターネット公式サイトでは、大会の期間中に入国を拒否する外国人としてハンセン病患者を挙げています。
 これを受けて県内の市民団体、ハンセン病問題ふるさとネットワーク富山では、23日、新たに国際オリンピック委員会や世界保健機関などに、この対応は医学的な根拠が無く、ハンセン病への差別や偏見を助長する恐れがあるとして、北京オリンピック組織委員会に対して撤回を働きかけるよう求める要望書をメールで送りました。
 ネットワーク富山の藤野豊代表は、「世界中に中国のハンセン病への差別や偏見を示しているものだ」と話しています。
 日本国内では、平成8年のらい予防法廃止以降、入国を認めています。

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