火葬場も兼ねた平成版「たまゆら」姥捨山

2009-03-25 16:30:32 | Weblog

 3月19日夜の火災で10人の老人が死亡した群馬県渋川市の高齢者向け住宅「静養ホームたまゆら」。

 「たまゆら」は有料老人ホームとしての届け出がなかったという。その上スプリンクラー等の防火設備の整備を怠っていただけではなく、建築確認も受けずに増改築を繰返して廊下は狭く、複雑な間取りの構造物となっていて、共同生活用施設としての体裁を備えていないかった欠陥建築物だったらしい。

 しかも「東京都墨田区は、死亡した10人のうち6人が区の紹介で施設に入所した生活保護費受給者とみている」と3月23日の「時事ドットコム」≪身寄りなく身元特定難航=連絡先、福祉事務所の人も-遺体で発見の7人・施設火災≫(時事通信社が伝えている。

 3月22日の「『朝日』社説」≪高齢者施設火災―福祉行政と防災の貧しさ≫)の報道では入居していたうち15人が東京都墨田区からの生活保護受給者だったとしているが、火災の発生時の入居者は16人(「YOMIURI ONLINE」)で、文京区からも一人が入所していたということだが、無事だったらしい。

 入居者16人のうち墨田区からの入居者が15人、そのうちの6人、半数近くが災害死したことになるが、「たまゆら」は墨田区で維持していたと言える。その感謝の印によくあることだから疑いたくなるのだが、墨田区職員が接待や贈答を受けていたといったことはなかっただろうか。特に世話になる側が法や規則を犯していて後ろめたい立場にある場合、お手柔らかにとかお目こぼしをといった気持を伝えるためにも接待や贈答を有効活用する。

 3月24日の「YOMIURI ONLINE」記事(≪無届け有料老人ホーム、少なくとも全国464か所≫)が題名どおりに読売新聞社の全国調査として「無届け有料老人ホーム」と見られる施設が少なくとも464か所あることが分かったとしている。

 記事によると、「2007年2月の厚生労働省の調査では、377か所が確認されており、高齢化で、行政の目が届かない高齢者施設が増加していることがうかがえる。」と、その増加理由を解説している。

 どの記事も従来は10人以上の利用者に対して介護や食事などを提供する施設が有料老人施設と定義され、届出を必要としていたが、2006年の老人福祉法改正で1人でもサービスを提供した場合は届け出が必要となったとしている。

 届出をすれば監査対象となり、入居者に対する介護人数や食事内容や入浴回数といった待遇問題、暮らしが快適になされているかどうかといった居住空間の質の問題等が施設側の報告と自治体側の把握との関係の中で常に一定以上に保つ必要が生じる。

 いわば施設側にしたら、届け出るだけでコストの上昇を招くことになる。当然のこととして上記「『朝日』社説」記事(≪高齢者施設火災―福祉行政と防災の貧しさ≫)が指摘しているように、「施設の関係者はこんな事情を明かす。『届けると設備基準などを満たすための投資が必要で、利用料に跳ね返る』」ことになるが、入所施設と要入所者の需給関係は自治体が地方の施設に依存する状況から見ても明らかなように要入所者の需要過多・施設の供給不足に陥っているのだから、施設整備にかかったコスト上昇分を利用料に上乗せして請求すれば片付く問題のはずだが、無届老人ホームが「少なくとも全国に464か所」もあるという利用料に上乗せでは片付かない状況にある。

 例え都内や東京都に準ずる都市部では施設が満杯状態であったとしても、地方では施設が余っていて、入所者を奪い合わなければならない需要不足・供給過多の状況にあるというなら、設備にカネをかけてはいられない安い利用料で入所者誘致合戦を繰り広げなければならないが、需給バランスの針は逆に振れているにも関わらず、無届の安値提供を図っている。

 それとも設備や介護にかかる人件費や入所者の食費にカネをかけずに、カネをかけたものとしてその分を利用料に上乗せして請求し、儲けの部分をいわばボロ儲け、あるいはうまい儲けとして懐しているということなのだろうか。

 いずれの場合であっても、都や都市部の施設利用よりもコストを低く抑えることができるということで、利用(=需要)はなくならない。それが無届老人ホームが「少なくとも全国に464か所」もあるという“無法状態”を招いているということではないだろうか。

 この点に於ける自治体側の利用価値から言うと、既存の施設のみでは高齢化に追いつかない、自前で老人施設を新たに建設するとしたら、カネがかかる、予算が足りない、かといって他の都市部の老人施設を利用するとなると、もともと土地代や人件費が地方と比べて割高という事情から、利用料がバカにならない。そこで予算・経費を極力抑えることを最優先に地方の安い施設を利用するという利害が一致した地方施設依存ということなのだろう。

 言ってみれば、自治体にとっての無届老人ホームとは不況で利用率を下げなければならなかったものの、ある意味企業にとっての派遣会社や請負会社と同等の利用価値関係にあったということではないのか。

 このような状況を3月22日の「東京新聞」インターネット記事(≪10人死亡火災 無届け施設『貧困ビジネス』漂流高齢者の受け皿≫)によると、

 「背景には、高齢者を受け入れる施設が飽和状態な上、生活保護費をあてにした『貧困ビジネス』ともいえる高齢者施設の実態がある。」と解説している。同記事は墨田区の高橋政幸保護課長の釈明を次のように伝えている。

 「目の前にいる被保護者の保護、受け入れ先の確保に汲々(きゅうきゅう)としていた」。

 さらに墨田「区内の今年一月の新規生活保護申請が前年同月比43%増となるなど、経済・雇用情勢の悪化に伴い、生活保護のニーズが急増している現状を強調」、「区の生活保護費受給者で、区外の施設に入所中の高齢者は三百五十二人。『たまゆら』以外にも、無届けの施設に七十六人を紹介した」と生活保護受給者の増加とその増加に比例した無届施設を含めた区外施設の利用とその人数を明らかにしている。都全体では、

 「東京都福祉保健局によると、昨年一月時点で生活保護費を受けている高齢者のうち約五百人が、都外の有料老人ホームやグループホームに移っていたが、その後、激増しているとみられる。」(同「東京新聞」)という状況にあるとのこと。

 墨田区の生活保護受給世帯は東京23区で4番目に多い4842人に上り、約半数が高齢者のみの世帯で、ケアする施設の確保が難しいと区が強調していたことを「毎日jp」≪群馬・渋川の老人施設全焼:東京・墨田区「防火」調べず 訪問は年1回、健康確認だけ≫)が伝えている。

 他のインターネット記事でも同じ扱いだが、要するに墨田区は「たまゆら」が届出していないことを承知していて、入所者を斡旋していた。上記「東京新聞」インターネット記事では「『たまゆら』については有料老人ホームではなく、届け出義務のない『ケア付き高齢者賃貸住宅』と認識していたと強調し」、「たまゆら」への入所業務を違法ではないとしている。

 だが、墨田区の高橋政幸保護課長は「同施設への訪問調査は原則として年1回で、ケースワーカーが入所者の健康状態などを確認する程度」で、墨田区からの入所者15人に対して「報告書はA4判1枚」のみ、その少ない報告に関しては、「ケースワーカーが入所者1人ずつに(きちんと)話したかなどは確認していない」――いわばケースワーカー任せ、報告書は目を通しもせずに承認印は機械的に押していたといったところなのだろう。

 但し次のように弁解している。

 質問内容に関して、「ルールはない。元気かどうかを確認し、意思疎通している」

 「ケースワーカーが入所者1人ずつに(きちんと)話したかなどは確認していない」にも関わらず、「元気かどうかを確認し、意思疎通している」とどうして分かるのだろうか。責任逃れの口実としか受取れない説明となっている。

 責任逃れなのは「たまゆら」の近隣住民から苦情が出ていて、墨田区に入所者の紹介をやめるよう求めていたことも証明している。
 


 墨田区に入所紹介やめるよう要請 9人死亡施設の近隣住民47NEWS/2009/03/21 18:12 【共同通信】)

 9人が死亡した群馬県渋川市の老人施設「たまゆら」の火災で、東京都墨田区に対し、たまゆらの近隣住民が2006年、「介護状況は問題が多い」として、入所者の紹介をやめるよう求めていたことが21日、分かった。

 死亡した9人のうち、5人は墨田区の紹介でたまゆらに入所したとみられる。(後に死亡者が1人増えて10人となった。)

 住民側は、食事や介護面などで問題が多い施設なのに、区が「良好」と判断して入所者を「派遣」していると指摘。施設の閉鎖を求めていた。

 墨田区福祉事務所の横山信雄所長らが21日、火災現場を訪れ献花。横山所長は報道陣に「紹介したところで亡くなった方にはおわびを申し上げる」と語った。

 住民からの要請については「報告を受けていないので確認したい」と答えた。

 県警は21日午後も現場検証を続け、施設を運営する特定非営利活動法人(NPO法人)「彩経会(さいけいかい)」の高桑五郎理事長(84)から事情を聴いた。
  

 2年以上も前の2006年「住民側は、食事や介護面などで問題が多い施設なのに、区が『良好』と判断して入所者を『派遣』していると指摘。施設の閉鎖を求めていた。」ことに対して、「住民からの要請については『報告を受けていないので確認したい』」 と、要求が上層部にまで届かずに宙に消えてしまった指示・伝達系統の不備、さらに上司である自らの管理・監督体制、あるいは統括体制の不備を問題とせずに「確認」を言うだけにとどめている。

 墨田区の福祉事務所横山所長が言っている「たまゆら」訪問・調査の説明も墨田区高橋政幸保護課長が言っている「ケースワーカー」のことなのだろうか、3月21日の<b>「毎日jp」記事(≪群馬老人施設火災:墨田区職員が献花 多くの受給者紹介≫)が、<たまゆらが有料老人ホームの届け出をしていなかったことについて「認識していたが、書類上は住宅になっていたので、届け出は必要ないと思っていた」と説明。防火設備などがなかった点も「1年に1度、施設を訪問し、調査していたが、職員から問題があるという報告は上がってこなかった。処遇面を中心に確認し、防火設備や建物の構造、設備については、専門家ではないので確認はしていなかった」と話しているが、いくら「専門家ではな」くても、福祉関係の人間である以上、どういった建物の構造が施設に適しているかいないか、備品が置くにふさわしい場所に置いてあるかどうか、廊下が避難通路としてふさわしい広さが取ってあるかどうか、避難の際簡単に外に出れる構造になっているかどうかといったことは感覚的に把握するものではないだろうか。

 それとも年に一度の訪問・調査が汚染米の食用への転売が発覚した米卸売加工会社「三笠フーズ」への福岡農政事務所の月1回程度の立入り検査が事前通告した上での検査と同じ性格のものだというなら、「たまゆら」側は訪問・調査に合わせて前の日に風呂にも入れて入所者の身繕いを整えさせ、食事も特別食とし、廊下に置いていた備品等もすべて片付けて何から何まできれいさっぱりとさせ、墨田区が入所依頼するにふさわしい施設の顔をして訪問・調査を待ち構えていたということもある。

 だが、例え「たまゆら」がそう謀ったとしても、また建築関係の専門家ではなくても、増改築して建物が入り組んでいること、何も置いてなくても廊下が一般の施設よりも狭いことぐらいは看取できたはずである。例え「有料老人ホームではなく、届け出義務のない『ケア付き高齢者賃貸住宅』と認識していた」としても、火事や地震といった災害が起きた場合の避難の条件に関しては施設目的に関係なしにほぼ等しくなければならならないだろうからである。

 だが、墨田区は最も肝心なことを見逃してきた。

 また生活保護法では受給者に認知症など金銭管理能力がない場合を除き、生活保護費は受給者本人に支給することが原則規定されていながら、墨田区は一括して「たまゆら」に送金、「たまゆら」側は入所者に了承を得ずに家賃や食事代などを天引きしていた上、15人のうち金銭管理能力がある数人についても、天引きをしていたと、3月24日の「東京新聞」記事(≪生活保護費天引き 火災の老人施設 入所者の了解得ず≫)が伝えている。

 同記事は墨田区の説明を「全員に金銭管理能力がないと判断し、全員の委任状をもらった上で内訳書とともに一括送金してきた。施設を信頼していた」と伝えているが、記事は「一部の委任状は本人以外が署名した可能性がある。」と疑いを挟んでいる。

 だが、実際に「金銭感覚」がなかったとしても、逆に「金銭感覚」がないからこそと見て、金銭感覚がないことをいいことに施設側が勝手に生活保護費を施設経費に流用していないか検証し、確認する責任を墨田区は負うはずである。

 それを単に「施設を信頼していた」からと生活保護費が適切に使われていたかどうかも調べなかったのは職務怠慢・責任逃れ以外の何ものでもないだろう。

 さらに「たまゆら」は火災保険が切れていたにも関わらず、継続契約を怠った。と言うよりも、継続契約を中止した。3月24日の「47NEWS」記事が伝えている。
 

 ≪老人施設火災保険切れ、補償困難 理事長会見で説明≫

 10人が死亡した群馬県渋川市の老人施設「たまゆら」の火災で、運営する特定非営利活動法人(NPO法人)「彩経会」が建物にかけていた火災保険が切れ、遺族への補償が困難なことが24日、分かった。

 高桑五郎理事長(84)が記者会見で説明。「全責任はわたしにある」と謝罪した。

 高桑理事長によると、火災が起きた3棟は撤去して新しく本館を造ろうと昨年4月に考え、火災保険を継続しなかった。「ことし3月中に撤去するつもりで防火態勢は取らなかった」という。「遺族への賠償は一番重要。お金がないでは済まされず、真剣に考えたい」と話した。

 7人が死亡した別館には、段ボールなどが絶えず置いてあったことも判明。徘徊防止のための引き戸のつっかえ棒とともに、逃げ遅れにつながった可能性があるとみられる。
 

 火災保険は建物の構造が変わっても、契約内容を変えることで以前支払った保険料をムダにすることなく、継続可能となるはずである。だが、火災保険が切れたところで、万が一のことを考えることもできずに契約を一時中断させて新規契約時までの分を浮かせた。

 茨城県の老人施設から数年前に「たまゆら」に移った入所者が「ちゃんとしたところと聞いてきたが、食事は野菜ばかりだ」(「毎日jp」)と不満を漏らしていたり、満足に入浴の機会を与えない、オムツ交換を頻繁に行わない、掃除は身体の動く入所者任せといった不満足な待遇面と併せ考えると、有料老人ホームとしての届出をしなかったことは施設費・施設維持経費を可能な限り安く上げて、それを上回るが、正規の施設よりも安い利用料で自治体から入所者を受入れ、その差額から儲けを捻り出そうとするカネ儲け主義からの施設運営であることが分かる。

 墨田区にしても、「たまゆら」への訪問調査が年にたったの1回、どのような調査なのか、確認していない、15人入所させていながら、報告書はA4判1枚のみ、防火設備や建物の構造、設備については専門家ではないので確認はしていなかった、入所者に支払う生活保護費は「全員に金銭管理能力がないと判断し、全員の委任状をもらった上で内訳書とともに施設一括送金」、施設が家賃や食事代を天引きしてからそれぞれに手渡す方式で、適切に使用され、適切に残金が支払われているかどうかも検証しなかった等々からすると、生活保護費内で済む安価さにかまけてほぼ預けっ放し状態にしていたことが分かる。

 つまり墨田区も「たまゆら」も入所者を人間とは見ていなかった。区は如何にコストをかけずに済ますか、施設側は待遇に如何にカネをかけずに如何にたくさん儲けるか、一人ひとりをカネ換算していた。

 老年を迎えた場面で人間的側面を蔑ろにされ、カネ換算されてカネがかかるかかからないか、利益を上げることができるかどうかのカネの価値でのみ扱われるということは、ある意味姥捨山に置かれることを意味しないだろうか。

 舛添要一厚生労働相は「たまゆら」の火災・死亡事故を受けて24日の閣議後会見で、「老人施設を拡充するいろんな施策を展開したい」と述べた(≪舛添厚労相「老人施設拡充したい」10人死亡火災で≫「msn産経」/2009.3.24 10:55)ということだが、最初の「YOMIURI ONLINE」が無届施設が「2007年2月の厚生労働省の調査では、377か所が確認されて」いると伝え、2008年9月5日の「asahi.com」記事(≪老人ホーム、無届け15% 行政監視追いつかず≫)が都道府県に設置の届け出をしていない有料老人ホームが全体の約15%に上ることが総務省の行政評価で分かり、総務省は厚生労働省に改善を勧告すると報道している。

 記事によると具体的な数字は<総務省が22都道府県を選んで調べたところ、07年4月時点で都道府県が有料老人ホームとみなしている2345施設のうち、無届けは14都道府県の353施設。東京が80、埼玉が68、神奈川58、千葉47など都市部が大半だった。 >となっている。

 双方の施設数に多少の違いはあるもののの、「たまゆら」の近隣住民が施設の欠陥を見抜いて墨田区に求めていた入所紹介の中止要請が区の上層部にまで届いていないことは重大な責任問題だが、総務省の改善勧告に対して厚労省がこれまでどのような対策を講じてきたか、「老人施設拡充したい」という今後の政策以上に重視しなければならない責任問題ではないだろうか。

 何も対策を講じてこなかったと言うことなら、厚労省も加担した火葬場も兼ねた平成版「たまゆら」姥捨山と言うことになりかねない。

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