平野官房長官は〈官房機密費の必要性については「内閣・政府にとって重要な情報収集、その情報収集に対する対価」〉だと説明、その重要性を強調し、さらに〈「可能な限り今でも会計検査院でチェックを受けている」と述べて使途を公表しなくても、疑義は生じないとの認識を示した。〉という。
一体どのような「情報収集」に向けて使われるのかは明かさない。当然、「対価」が「対価」となっているかは外からは判断できない。会計検査院のチェックにしても、あくまでも「可能な限り」であって、すべてではないということなら、不都合は、あるいは臭い物は隠せることになる。
記事は〈民主党は野党時代の01年、官房機密費流用防止法案を国会に提出、03年統一地方選政策集にも機密費改革を盛り込むなど、使途の透明性確保を主張していた。〉と解説しているから、重大な方針転換ということになる。「使途の透明性確保」が一転して非公表・非公開の不透明性の「確保」へと180度軌道修正に動いたのである。
「使途の透明性確保」をドブに捨てたとも言える。殺人犯が凶器の出刃包丁を底浚(そこざら)えが難しいヘドロでドロドロと濁ったドブ川に捨てるように。
あるいは自民党と同じ穴のムジナへと化すことの宣言をしたということなのだろうか。
だが、01年に官房機密費流用防止法案の国会提出、03年に統一地方選政策集に機密費改革提言を盛り込みながら、記事が書いている〈就任直後の9月17日の記者会見で官房機密費について問われ、「そんなものがあるんですか。全く承知していない」と語っていた。〉はシラを切ったとか言いようのないゴマカシもいいとこの矛盾ではないか。
大体が官房機密費の不正支出の疑惑はマスコミによって散々報道されてきたことで、官房長官という職に就くことが決まった時点で自身が抱える処理事項の一つと気づかなければならなかったはずだ。それを「そんなものがあるんですか。全く承知していない」などと言える。陰険と表現するしかない発言でないか。
平野は1996年の総選挙で初当選、1998年に民主党に入党している。その4年後の2002年4月に当時小泉首相だったが、共産党が10年遡った宮沢内閣官房長官だった加藤紘一の官房機密費の公務に関係のない、言ってみれば交際費関係の支出を行っていたとして、その「金銭出納帳」を記者会見で暴露している。
2002年4月13日の『朝日』朝刊。
与野党の議員に対する高級紳士服専門店の背広の贈答代など国会対策費に3574万円。大半が自民党議員のパーティ券、一人当たり3万から300万円までしめて3028万円。「長官室手当て」、「秘書官室手当て」の名目で計1662万円の手当ては共産党は官房長官室の職員や秘書官に対する正規の給与に上乗せした「ヤミ給与」の疑いがあると指摘したという。
東欧訪問の綿貫幹事長、小泉副幹事長、熊谷副幹事長(いずれも当時)への餞別、100万、50万、50万ずつは役の上下に応じて配分した金額の違いなのだろう。
小泉首相(訪問先の中国で)「大臣経験者が人から貰うかね。10年前のことは覚えていない」
小泉純一郎は副幹事長だったのである。内閣から餞別だと言われて、党役員が受け取らない理由はない。受け取らなかったなら、内閣に対して確執状態にあるか、確執状態をつくることになる。
加藤紘一の事務所「政府は官房機密費の具体的な使途は、一貫して公表していない。今回の指摘にもコメントは差し控えたい」
秘密が慣習だから、疑惑さえも秘密にしておくという常套手段を使っている。隠してあることで争ったなら、秘密が秘密でなくなるから当然の態度とも言えるが、隠している事柄がなあなあの馴れ合いを醸し出す懐柔策に高級背広を買ってやったり、「餞別」という名の海外視察用小遣いであったりしたら、「機密費」という名が泣く。
パーティ券は〈首相経験者への出版記念会への支出が30万円なのに対して、加藤紘一官房長官(当時)に近いとされる代議士には200万円、当時宮沢派からl国会議員を目指していた候補者に100万円、同派参院議員には300万円など、身内に厚かった。〉
何という身贔屓、不公平。あの加藤紘一センセイが。君子に見えるから不思議だ。
〈国連平和維持活動(PKO)協力法を巡る攻防が激しかった91年11月、公明党幹部3人に150万5千円分、同党参議員に100万円分、民社党幹部に53万円5千円分の背広代が記載されている。〉
「5千円」という端数があるのだから、背広代として現金を渡したのではなく、注文して出来上がった背広そのものを送ったのだろう。生活者の党を名乗りながら、公明党幹部が50万だ、100万円だする高級背広を得意げに羽織っていた様子を想像すると、感激の余り涙が出てくる。
〈歴代政権とも、首相官邸が扱う官房機密費(内閣報償費)の使途は明らかにできないとの立場をとってきた。だが、与野党議員らへの餞別や国会対策費に使われているとの指摘は、政界の常識でもあった。〉――
だが、この「政界の常識」に反する官房長官もいた。
〈細川内閣時代の官房長官だった武村正義氏も8カ月間で約8億円の報償費を使ったことを公表したが、「国会対策には一切支出を考えなかった」〉――
「8カ月間で約8億円」――国会対策に使わずに1カ月で1億円も何に使ったというのか。使途を公表せずに、「使わなかった」という証言だけで政治家を相手に、ハイ、そうですかと信じることができると思っているのだろうか。
事実とする発言も記載している。
自民党古賀誠前幹事長(国対関係50万支出の記述)「当時は国対副委員長。パーティ券を購入してもらったのだと思う。書いてある以上は貰っていたのではないかと思う」
(前出)民主党熊谷弘国対委員長「官邸からお金をもらったという心当たりはないが、結果としてそういうことがなかったとも言い切れない」
自民党幹部「当時は官邸に行って、現金で貰ってたんだ」
カネで人間を操る図が浮かんでくるだけではなく、当たり前のようにカネを受け取る政治家の金銭感覚の麻痺は恐ろしい。
〈宇野内閣の官房長官を務めた塩川正十郎財務相は、新聞やテレビのインタビューで官房機密費を野党対策に使ったことは一度は認めた。しかし国会で追及されると、「忘れた」と否定した。〉――
塩川狸爺が具体的にどんなことを喋ったのかというと、「Wikipedia」によると次のようになっている。
「外遊する国会議員に餞別として配られた」
「政府が国会対策の為、一部野党に配っていた」
「マスコミ懐柔の為に一部有名言論人に配られていた」
これだけ具体的に言っておきながら、「忘れた」は周囲から圧力があったからだろう。「自民党にしたら、自分のケツを覗かれるようなもんだ、覗かれていいのか」とでも言われたのかもしれない。
野党に下って野党の立場から民主党政権に対してその政策を国会で鋭く追及している加藤紘一センセイは当時官房長官として官房機密費を私的流用にまでまわしている。
地元の山形県鶴岡市入りした際に「地元入り経費」として245万円、出身高校の「同窓会費」1万円、県人会費1万2千円。
この共産党官房機密費暴露をたった1ヶ月遡る2002年3月には首相官邸から官房機密費を5億円騙し取った詐欺で逮捕、起訴された元外務省要人外国訪問支援室長松尾克俊が懲役7年6ヶ月の地裁判決を受けている。
5億横領して何に使ったのかと言うと、競馬馬16頭、マンション、ゴルフ会員権、女等々。さらに余りに金回りが良かったからなのか、外務省幹部らが自分たちの飲み食いの付けを松尾に回して、松尾も官房機密費から横領した自分のカネではない気前のよさから支払ったのだろう、総額が億単位に上るというが(〈外務省は職員から寄付を募り、利子分を加えた約2億円を弁済することで決着をつけようとしている。〉『朝日』/02年3月12日朝刊)、巨額のアブク銭を手にした男の大盤振舞いが想像できる。
外務省の『松尾前要人外国訪問支援室長による公金横領疑惑に関する調査報告書』がその詳細を伝えている。
さらに2001年2月14日に行われた当時の森首相と鳩山民主党代表との党首討論で鳩山代表は松尾官房横領事件を取り上げて、森首相を追及している。
「ホテル代の差額が機密費なのか、外務省の局長の飲食費が機密費なのか。外務次官は無制限に使っていいとか、国民の税金が野放図に使われている。これらもすべて機密費なのか。あまりにもずさんだ。・・・・外務省の組織ぐるみの事件である疑いが強い。松尾克俊元外務省要人外国訪問支援室長の金が同省幹部に渡っている。元室長が持つ9つの銀行(と郵貯の)口座の2つしか解明されていない。(解明に向け)首相はリーダーシップを発揮すべきだ」
1996年に初当選、1998年に民主党入党の平野官房長官が鳩山の腹心中の腹心だとも言うから、このことを記憶していないことはあるまい。
それを「そんなものがあるんですか。全く承知していない」と平気で言える神経はいつも眠ったそうな顔をしているが、その表情に反して相当な狡猾さを窺うことができる。
最初の「asahi.com」記事に戻ると、平野官房長官は河村建夫前官房長官から官房機密費の引き継ぎを受けたことを明らかにした上で、次のように述べたという。
「報償費という性格上、少なくとも相手があることだし、オープンにしていくことは考えていない。私が責任をもって適切に判断しながら対処する。発表は差し控えたい」
官房機密費は国会対策が主たる支出項目の一つとなっているのだから、カネの流れは与党から野党に向けてより多く流れる性格を持たせているはずである。政権交代を果たすまで民主党は長年与党自民党に対する野党の立場にあったのだから、国会対策上与党自民党から野党民主党に向けてより多くの流れを見せていたと見るべきで、平野が言っている「少なくとも相手があること」とは自民党議員も「相手」の中に入っているが、それを暴くと、民主党に撥ね返ってくるという意味の、自分たち民主党議員をも指している「相手があること」」であるのは間違いないだろう。
いわば河村建夫前官房長官から官房機密費の引き継ぎを受けたところで、自民党と民主党は臭い物には蓋をしておくことで手を握り合ったのである。
平野は透明性の確保に関して次のように言ったという。
「私をご信頼いただきたい」
繰返しになるが、1996年初当選、1998年民主党入党、2001年2月14日の党首討論で当時の鳩山民主党代表が松尾官房横領事件を取り上げて森首相を追及し、3ヵ月後に宮沢内閣時代の加藤紘一官房長官の内閣官房機密費の国会対策とかゴルフ代とか餞別とかいった交際費的支出を共産党が暴露、そういった事態に立ち会っていたはずなのに、就任直後の9月17日の記者会見で官房機密費について問われ、「そんなものがあるんですか。全く承知していない」などとシラを切られて、信頼できようはずがないではないか。どこをどう信頼したらいいというのだろうか。
信頼できないことはこの一つだけではない。民主党が党として「脱官僚」、「政治主導」を大々的に掲げながら、平野官房長官は各府省の国会担当の官僚に与野党議員への「質問取り」を指示する「脱官僚」、「政治主導」に反する背信を犯しているし、マスコミに「脱官僚依存」に矛盾しないかと追及されると、「政務官的なスタッフや政務官自らが質問を取るのが理想だが」と言いつつ、官僚がつくった答弁を政治家が喋るだけのことを「あくまで答弁は政治家がする。矛盾することにはならない」と薄汚く強弁してもいるこれらの姿勢は信頼できない最たる事柄ではないだろうか。
また首相官邸の内閣総務官室が官僚に対して「国会答弁資料」を作成するように文書で指示、マスコミに「官僚依存への逆戻りか」と騒がれて、すぐさま撤回したが、平野官房長官は自身の指示ではないと否定しているものの、意志統一、人事管理の点で責任がないとは言えない。
こういったことを見てくると、どう逆立ちしても頭の天辺から足の先まで信頼できない政治家の一人となってくる。
また民主党全体に対しても天下り禁止と言いながら、日本郵政支社長人事で元官僚を据える最初に言っていることと違ったことをする信用の置けなさもある。官僚を辞してから14年経過しているから、もはや天下りではないと言うが、例えそうであっても、言ったことを可能な限り厳密に守る姿勢を持ってこそ、国民に一度約束したことを果たせる。
人間の自然な感情として信頼できないことが重なれば、何を見ても疑いの目で見ることになるだけではなく、その信頼できなさが顔に現れているといった偏見さえ人に抱かせることになりかねない。この手の顔は信用の置けない顔なのかといった具合に。
そうなった場合、信頼できない顔の代表格に推奨される名誉を担うことになるだろう。信頼できない民主党の信頼できない顔の代表だと。気をつけた方がいい。
平野博文官房長官が歴代内閣が使途・金額の非公開・非公表使用を慣例としていた官房機密費(内閣官房報償費)を鳩山内閣でも同じ非公開・非公表使用の方針で貫くと5日の記者会見で明らかにした。どういうことなのかと、11月5日付「asahi.com」記事――《官房機密費の使途・金額「公表せず」 平野官房長官》から誰もが読み解くことを自分も読み解いてみた。