野田首相は9月30日の記者会見で、東日本大震災の復旧・復興に向けた政府の2011年度第3次補正予算案は総額で12兆円規模のものになると発言。その裏付けとなる財源に関して責任ある対応をしなければならない、歳出削減や税外収入の確保に取り組むものの、足らざる部分は時限的な税制措置を行うことで、「負担を次の世代に先送りをするのではなくて、今を生きる世代全体で連帯して分かち合うことを基本とする」考え方に則りたいと表明した。
その時限的な税制措置の規模は11.2兆円。今朝のNHKニュースは政府・与党は復興増税は11.2円確保の法案を提出するものの、税金以外の収入を上積みして今後10年間の増税規模は9,2兆円に圧縮することなどで合意したと伝えていたから、11.2兆円のこの金額は今後変化するかもしれないが、現在のところ予算案総額12兆円規模のうち予定している復興増税額が11.2兆円。負担を次の世代に先送りしないぞという強い意志の表れを象徴しているのかもしれない。
政府は民自公の3党協議を経て、10月開催の臨時国会に提出する方針だが、自民党は政府・与党案をまず閣議決定してから国民の前に明らかにするのが先決で、3党協議はそれからだとする態度を取っている。
野田政府としては自公と相談し合って纏めた形を取ることで譲歩する姿を国民に隠す狙いがあるのに対して自民党は民主党の譲歩を誘って自らの案を可能な限り盛り込み、自の得点とする狙いからも閣議決定が先だとしている打算も含まれているのだろうが、政権担当の責任主体として先ず自らの予算案を国民に明らかにするのが当然の姿であって、自民党の要求は概ね尤もと言える。
また、国会の審議を経ないうちの3党協議での決定は国会審議を省く形を取るため、谷垣自民党総裁も言っているように国会審議の形骸化につながる恐れが生じる。
9月2日、NHK「日曜討論」
谷垣自民党総裁「話し合いは当然だし、ねじれ国会だから工夫をしなければならないが、国会審議を無視して裏のほうでコソコソと3党だけでまとめるわけにはいかない。大事なのは国会で目に見える形で議論をしていくことだ。対案の用意はあるが、国会に出る前に3党で全部決めてしまっては、国会の議論が形骸化する」(NHK NEWS WEB)
「大事なのは国会で目に見える形で議論」することだと言っている。では、自民党はどのような対案を用意しているのだろうか。「対案の用意はある」とは言っているが、「対案を示しているのだから」とは言っていないのだから、まだ公にしていないことになる。自民党のHPを覗いてみても、記載ページを見つけることができなかった。ただ、新聞記事から窺うことができる。
石原伸晃自民党幹事長「現役世代だけで復興費用を負担するべきなのか」(『朝日』社説/2011年9月29日)
社説は解説している。〈再建する道路や港湾、防波堤などからは将来の世代も恩恵を受ける。60年かけて返済する通常の建設国債を発行して将来世代にも負担してもらえばよい、という考え方だ。〉――
これが自民党の復興増税に関する正式の考え方だとすると、民主党のほぼ全面的現役世代負担に対する自民党の一部(ないし中程度部分?)将来世代負担の対立的構図を取ることになる。
主張が対立的構図を取る以上、国会という場で徹底的に議論して、その妥当性の理解と判断を国民に仰ぐべきであろう。国会審議を国民の理解と判断に供する機会とし、場とするということである。
一方、小政党ながら、みんなの党が「増税なき復興予算案」を纏めている。《みんなの党 増税のない予算案》(NHK NEWS WEB/2011年10月2日 4時53分)
その主な内容は――
総額27兆5000億円規模。
▽岩手・宮城・福島の3県に一括交付金として5兆円ずつ交付し、二重ローン対策や生活再建の費用に充て
る。
▽放射性物質を取り除く除染など、原発事故を受けた国の対策費として3兆9000億円を盛り込む。
財源
▽復興国債を日銀が直接引き受けることで10兆円余。
▽国債を償還するための「国債整理基金特別会計」への繰り入れを1年間停止することで9兆8000億円確
保。
渡辺みんなの党代表「増税しなくても財源はいくらでもある。正々堂々と国会で議論すべきだ」――
「正々堂々と国会で議論すべきだ」と言っている。
みんなの党だけではない、金融や財政の専門家である多くの識者がテレビや活字メディアを通して増税なしの復興財源確保可能を主張している。
果たしてどちらが正しいのだろうか。現在提示されている中で多くの国民にとって理解し得る選択肢は増税対非増税、あるいは増税対一部増税か、このことと対を成す現役世代負担か現役世代+将来世代負担か、みんなの党のように現役世代も将来世代も負担を限りなく小さくするのかといった、財源とその負担の大まかな全体像であって、中身の政策自体に関してはその是非を理解できる国民はそう多くはいないはずだ。
マスコミの世論調査で示している国民の意思にしても同じ構造を取っているに違いない。
9月1、2両日の共同通信の全国電話世論調査は、
「総額12兆円規模の2011年度第3次補正予算案」
「評価する」――63・2%
「評価しない」――30・3%
但し、
「復興財源を賄うための総額11兆2千億円の臨時増税」
「反対」――50・5%
「賛成」――46・2%
因みに野田内閣支持率
「支持する」――63・2%(前回調査-8・2ポイント)
同じく9月1、2両日の毎日新聞社の全国世論調査。
「復旧・復興財源を賄う増税」
「賛成」――39%
「反対」――58%
因みに野田内閣支持率
「支持する」――50%(前回調査-6ポイント)
「支持しない」――22%(前回調査+8ポイント)
多分、増税政策、あるいは非増税政策を理解できないまま、主として生活感覚からの増税反対優勢であろう。少なくとも野田首相がスローガンとしている「負担を次の世代に先送りをするのではなくて、今を生きる世代全体で連帯して分かち合うことを基本とする」現役世代負担論は美しい言葉には聞こえるが、全体としては反対派が賛成派を上回っている。
また復興増税反対=現役世代負担反対の優勢が響いた内閣支持率の低下でもあろう。
当然のこと野田内閣は復興増税を財源とする復興のための第3次補正予算案に関して国民の理解を得る一層の責任と義務を負っていることになる。自らの増税を財源とした復興のための第3次補正予算案が正しいということ、間違っていないということを国民に知らしめ、納得を得る責任と義務を果す努力の提示である。
この責任と義務の提示は、勿論、国民に直接見えないところで行われる3党協議の場ではなく、国民に開かれている国会の場であるのは断るまでもない。
国会議員だけではなくて、賛成・反対、いずれかの立場にある金融や財政の専門家である多くの識者を参考人として招致し、彼らを交えて議論を闘わせることを通して国民の賛意・納得を得るべきだろう。
だが、野田内閣も民主党も正式な国会審議を経ずに3党協議で増税を決め、第三次補正予算案を纏めようとしている。このことが例え政治主導と言えたとしても(財務省主導に裏打ちされた政治主導の可能性が高いが)、国民に見えない場所での決着である以上、国民主導とは決して言えないはずだ。 |