野田首相がモットーとしている「安全運転」と指導力の関係

2011-10-06 10:27:01 | Weblog

 2011年9月2日就任の野田首相は徹底的に安全運転を心がけている。9月30日(2010年)の野田首相記者会見。

 七尾ニコニコ動画記者「ニコニコ動画の七尾です。どうぞよろしくお願いします。

 今国会では、印象としまして安全運転に終始した感がございますが、その分国民にしてみれば、総理がどのような理念をもって政権を運営されていくのかわかりにくかった印象もぬぐえません。冒頭、アクセルを踏むとのご発言がございましたが、総理は今後どのような具体的な理念やイメージを持って政権運営を加速していくお考えでしょうか」

 野田首相「あの、私なりの理念は、たとえば所信表明演説などでも述べましたけれども、やっぱり中間層の厚みが今、薄くなってきて、しかも下にこぼれてしまったというか、まあ言い方ちょっと気を付けなければいけませんが、戻ることができなくなっている人たちが多くなっているという状況を打開をしていくと、中間層の厚みをもった国にすることが底力のある国であるというのが基本的な理念で、そういう国にしたときに、この日本に生まれてよかったと思える国の基本ができると思いますし、その先にはもっとプライドをもってこの国に来て良かったなと、そういう国にしていきたいという理念があるんです。

 その理念と、よくこれは国会でも聞かれましたが、個別の政策のちょっと中長期的なことを聞かれました。それは何をやりたいかの世界なんですね。何をやりたいかの前に何をやるべきか、やらなければならないことが今あるじゃないですか。我が政権の最大かつ最優先の課題は何と言っても、震災からの復旧・復興と原発事故の収束と経済の立て直し等、これを申し上げました。このことを中心に言っていたので、安全運転という評価なのかもしれませんが、政権当初から乱暴なスピード違反はできません。どんなスピード、加速しても安全運転はやっていきたいというふうに思います」・・・・

 記者は安全運転に終始するあまり、理念が分かりにくいと言い、対して野田首相は「中間層の厚みをもった国にすることが底力のある国であるというのが基本的な理念」であって、政権当初からスピード違反はできないが、「どんなスピード、加速しても安全運転はやっていきたい」と徹底して安全運転をモットーとすることを宣言している。

 記者が言う、安全運転だから理念が分かりにくいという論理は理解できない。安全運転では自らが掲げた理念を満足に実現できるのかという論理なら理解できる。

 誰でも政策理念、あるいは国家経営の理念は掲げる。その理念を実現できるかどうかで指導者として有能であったかどうかの評価が分かれることになる。

 政策を実現する上での障害を避けずに常に正面突破を心がける姿勢、前面に出て闘う姿勢であるなら、安全運転とは言えない。その逆の姿勢を安全運転と言うはずである。

 安全運転を心がけるあまり、政策実現上の障害(いわば反対意見や官僚の抵抗)を避けて運転した場合、望みの運転結果(=理念の実現)は得にくいことになる。妥協や取引、最悪対立政策への乗り換え・屈服が安全運転を保証する方法として取り残されることになる。

 政策遂行に関わるこのような安全運転の構図は指導力の在りようと深く関係しているはずだ。強い指導力は障害に立ち向かう。立ち向かうことによって、それを乗り超える方法を創造することも可能となる。

 安全運転を心がけて障害を避けたなら、それを乗り超える方法の創造などとても思い叶うことはない。

 いわば安全運転と指導力は相反関係にあると言える。

 断っておくが、障害を避けるために支払う妥協と傷害を乗り超えるために支払う妥協とは自ずと異なる。

 野田首相は9月30日の午後5時からの首相記者会見に先立って、同日午後に開催した民主党両院議員総会での挨拶でも同じ安全運転宣言をしている。《心に「大忍」の文字=安全運転批判に釈明-野田首相》時事ドットコム/2011/09/30-20:08)

 野田首相「(衆参予算委員会での国会質疑に関して)「心の中に大忍という文字を書いて、冷静に対応するように努めさせていただいた。

 (慎重な答弁に徹したことについて)結果的に安全運転と指摘されているが、政権が発足して今、ローギアを入れたところ。当然、これからギアチェンジをして、セカンド、サード、トップと入れていく。加速をしながらも安全運転は続けていかなければいけない」

 両院議員総会では「加速をしながらも安全運転は続けていかなければいけない」と言い、首相記者会見では「どんなスピード、加速しても安全運転はやっていきたい」と言っている。

 「安全運転」への思いは相当に野田首相の頭にインプットされているようだ。強い指導力を自らの資質としていたなら、あるいは強い指導力発揮の思いを色濃く持っていたなら、安全運転への思いは回避されるだろうから、その思いを頭に深くインプットしていて離れないということは指導力を元々欠いているからこそ可能とすることができる姿勢であり、そういった姿勢だからこそ、指導力発揮の思いよりも安全運転への思いに重点を置くことを可能としていると言える。

 このことは財務省の言いなりという評価と一致する。

 要するに任期のみに軸足を置いた姿勢と言える。安全運転を心がけて、政権をより長期間延命させようという自己保身の心がけがそう仕向けている姿勢に違いない。

 菅前首相は元々指導力を欠いていたから、「政治は結果責任」意識を欠くことになっていたが、野田首相の指導力欠如は安全運転に向かっているというわけである。

 一度当ブログに取上げた野田首相の9月14日「官邸ブログ【官邸かわら版】」

 野田首相「演説で申し上げたとおり、野田政権が取り組むべき課題は、明らかです。東日本大震災と世界的経済危機という『二つの危機の克服』。そして、『誇りと希望ある日本の再生』。一言で言えば、『国家の信用』の回復です。あとは『実行』により、全力で『結果』につなげます」・・・・・

 「あとは『実行』により、全力で『結果』につなげます」と指導力発揮を謳っているが、この言葉は「安全運転」に反する物言いであろう。特に「全力」なる姿勢表現の単語は「安全運転」と相容れない姿勢と言わざるを得ない。「全力で安全運転に徹します」と言ったとしたら、実際の車の運転ではないのだから、滑稽となる。

 マスコミも取り上げているが、野田首相がぶら下がり取材を避けて、記者会見方式の情報発信とする方針を決めたところに「安全運転」が象徴的に現れている。《野田首相「会見方式で説明」 ぶら下がり取材取りやめ》asahi.com/2011年10月3日11時37分)

 記事は、〈首相は就任以来、定例のぶら下がり取材には応じていない。〉と書いている。

 9月28日の参院予算委員会。

 野田首相「時間を取って、丁寧に受け答えするやり方をある程度の頻度でやっていきたい」

 10月3日朝霞市視察先で記者団に。

 野田首相「政府が説明責任を果たしていくことは大事だ。『ぶら下がり』という形ではなく、記者会見方式でじっくりと質問に答えていくのをある程度の頻度でやっていきたい」

 ぶら下がり取材では予期しない質問や不快な質問をぶつけられる可能性があり、前以て心の準備ができているわけではない不十分な態勢で不十分な発言、あるいは感情的な発言を返さざるを得ない場面が生じないとも限らない。それらを避けるために即座の返答ができずに間が空く姿をテレビカメラに捉えられるのも都合が悪い。

 要するに「安全運転」に反する姿勢を要求されかねない危険性(野田首相にとっては爆弾?)を抱えることになる。

 その点、記者会見は自身が発言した範囲の質問にほぼ限られる。いわば質問を前以て制限する形を取ることになって、かなりの部分予測可能とすることができ、前以て質問に対する答が用意可能となる。

 「安全運転」には即した情報発信方式だということなのだろう。

 だが、指導者に何よりも必要とされる資質は物事に常に的確且つ迅速に対応できる臨機応変の合理的判断能力である。この能力には当然のこと、発言能力、情報発信能力も含まれる。如何なる場合に遭遇しても合理的判断能力が可能としてくれる発言内容の的確性であり、情報発信内容の的確性であるはずだ。

 発言に於いても安全運転を心がけるあまり、無難な発言に終始したり、官僚等の他人の主張をなぞった発言であったり、閣議で誰かが先に判断してくれるのも待っていたなら、指導力は発揮できない。指導力は期待されなくもなる。

 要はぶら下がりだとか、記者会見だといった報発信の方法論の問題ではない。指導力にも通じることになる、自身の言葉を如何に的確・迅速に情報発信するかの臨機応変の合理的判断能力にかかっていると言うことである。

 毎度言っていることだが、合理的判断能力を欠けば、指導力も欠いていることになる。

 最後に野田首相は「中間層の厚みをもった国にすること」を基本理念としていると言っているが、中小企業が大企業に従属しているように中間層は上層に従属している。それぞれが個別に存在しているわけではないし、個別に経済活動を行っているわけではない。

 いわば「中間層の厚み」をもたらすには、上層を「中間層の厚み」以上の厚みで以って底上げしないと、「中間層の厚み」は実現できない。

 支配と従属の関係から言って、順序はあくまでも上から下に向かうからだ。野田首相が俺の基本的理念だと、「中間層の厚み」の実現のみに努めたなら、逆に日本全体を壊すことになるだろう。

 このことについては、前々から準備しているが、『現実直視からの格差二極拡大化社会のススメ』(仮題)と題して民主党の経済政策が決定したところで改めて記事にするつもりでいる。

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