子どもの甲状腺検査が始まった。検査して異常なしと判明したからと言って安心できる検査ではないことを伝えている記事がある。
《子どもの健康観察 長期間必要に》(NHK NEWS WEB/2011年10月9日 14時21分)
この検査は原発事故放出の放射性ヨウ素が特に子どもの甲状腺に蓄積してガンを引き起こす性質があり、チェルノブイリ原発事故では主に牛乳や乳製品などを通じて放射性ヨウ素を取り込んだとされる周辺地域の子どもたちのうち6000人が甲状腺ガンになり、2006年までに15人が死亡したとする国連の専門委員会の報告省を参考に実施されるものらしい。
死亡率は低くても、6000人もの子どもが甲状腺ガンにかかったということは周辺地域の子どもたち全員ばかりか、その親たちにガンの不安を与えたことを意味し、恐ろしい状況を呈したことが分かる。
但しチェルノブイリ周辺での子どもの甲状腺ガンの発生時期が事故の4年後からであることと、放射線の影響でガンになるまでには少なくとも数年はかかることが通例であることから、例え今回の検査で甲状腺に異常が見つかったとしても、事故の影響とは考えにくいが、4年後以降の異常発生の危険性を見据えて直ちに検査を始め、長期に亘る健康観察が必要だということらしい。
専門家「放射線の影響が出るとは考えにくい現在の段階で、もともとどれくらい甲状腺に異常のある子どもがいるのか調べ、異常が出れば早期に対応するといった支援が必要だ」
日本では子どもに発症する甲状腺がんが毎年5人程度で、成人の発症割合は20万人に1人という極めて稀な病気だと書いてあるが、この確率を利用して4年後か、それ以降か、将来的に放射線被曝が原因の発症なのか、被曝以前に甲状腺に異常があり、それが被曝によってどう影響されるか調査していくということなのだろう。
放射線の人体への影響に詳しい広島大学原爆放射線医科学研究所の田代聡教授の発言がこのことを裏付けている。
田代聡教授「放射線の影響が出るとは考えにくい現在の段階で、もともとどれくらい甲状腺に異常のある子どもがいるのか、調べておく必要がある。健康への不安を解消するためには、検査を継続し、異常が出れば早期に対応するといった支援が必要だ」
ではどういった手順で検査を行うのか、《福島 子どもの甲状腺検査開始》(NHK NEWS WEB/2011年10月9日 11時53分)が伝えている。
●検査対象は震災当日に0~18歳だった福島県民で、県外避難者も含む36万人。昨日(2011年10月9
日)から検査開始。
●1回目の検査を平成26年を目途に終了。その後は20歳までは2年に1回、それ以降は5年に1回のペース
で続行し、生涯にわたって検査。
●検査は首に超音波を当てて、甲状腺にしこりなどの異常がないかを調べる。
●検査結果はおよそ1か月後に郵送で通知。
子どもや親にとって結果が異常なしと判明したからと言って安心できない、恐ろしい検査となる。しかもその恐ろしさが生涯続く。
被験者は、放射線被曝とか甲状腺ガンとかがまだ理解できない幼い子供を除いて先ず検査を受けてから1カ月間、心配と不安で検査結果の報告を待つことになる。
被験者の親、特に母親はより強い心配と不安感で1ヶ月間、審査結果を待たされることになるに違いない。
現在、放射線被曝とか甲状腺ガンとかがまだ理解できない幼い子供にしても、既に理解できていた年齢の子どもと同様に理解できるようになった時点から、検査結果が異常なしであったとしても、喉の奥の甲状腺がある辺りを意識して、中で何かが起きていないか、何とはなしの不安に駆られるといった場面が何回とはなしに生じるはずだ。
あるいは突然異常が発生して、がん治療を受けることになりはしないかと。
このことは親にしても同じ不安の連鎖に絡め取られることになるに違いない。日本では子どもに発症する甲状腺がんが毎年5人程度で、成人の発症割合は20万人に1人という元々心配する病気ではなかったことに反して病気発症への懸念を常に抱えて生きていかなければならない。
それはいつ切れるかも分からない細い紐でどっちつかずの宙ぶらりんな状態で吊るされたような不安定な心細さ、頼りなさを何かにつけての精神状態とするということであろう。
勿論、運動や音楽、その他の何かに打ち込むことによってその不安を掻き消そうと努めるだろうが、しかし完全には打ち消すことができずに、何かの拍子に頭をもたげ、喉の奥の辺りを意識させるに違いない。
その宙ぶらりんな精神状態は最悪の場合、死刑囚が死刑執行の日がいつなのか分からないままにその瞬間を待たされている間の不安に近づかない保証はない。
精神的な不安は喜怒哀楽の感情を抑圧するばかりではなく、発育や行動を抑制する働きを担う。精神的な抑圧と共に子どもたちの、生命の外に向かおうとする活動エネルギーを抑えつけ、溌剌とした躍動を奪う。
今回の検査前から、被曝の甲状腺への影響が心配されていた。そして今回検査がスタートした結果、36万人の子どもたちが被曝による甲状腺の異常を心配して生涯を送らざるを得ない状況に置かれることを知ることとなった。子どもたち一人ひとりが不安や恐怖に掴まえられて生涯を送ることを考えると、例え部外者の立場にあっても、途轍もなく空恐ろしいことだと思わされてしまう。
政治や原子力事業者の危機管理不作為が事故誘因の一つとなった一つの原発事故が36万人の子どもたちの人生に一生付き纏う不安の影を落とす。
記事には書いてなかったが、既に準備しているならいいが、不安や恐怖を和らげ、心のケアを行うカウンセリングが必要になるのではないだろうか。 |