居眠り運転の挙句に集団登校中の小学生の列に突っ込み、約10人を死傷させた重大事故が、上限刑懲役20年の危険運転致死傷罪適用の可能性は低く、法定刑7年以下の懲役・禁固または100万円以下罰金の自動車運転過失致死傷罪適用の可能性が高いと伝える記事がある。 刑法第208条の2
事故と言うよりも最早犯罪と言っていい自動車を凶器とした残酷な死傷事件でありながら、要するに“故意”による犯罪ではなく、単なる“過失”に過ぎないと判断される可能性が高いということだそうだ。
《危険運転致死傷罪の適用困難か》(NHK NEWS WEB/2012年4月24日 17時53分)
先ず居眠り運転は通常「故意」ではなく「過失」だと見做され、危険運転致死傷罪適用困難だという。
このことを認めるにしても、「過失」にも程度がある。軽度の過失、重度の過失、重大な過失等々、程度に応じて責任も重くなってくるはずだが、あくまでも自動車運転過失致死傷罪の範囲内で程度を問うことになる可能性が高いということなのだろう。
また危険運転致死傷罪は、無免許かどうかは問題ではなく、「進行を制御する技能」(=実際的な運転技能)を有していると見做された場合は適用外となるという。
この少年の場合、無免許であるにも関わらず、「一晩中運転していた」という少年自身の証言から、「進行を制御する技能」(=実際的な運転技能)を有していると見做される可能性が高いと解説している。
要するに例え無免許であっても、少年が「進行を制御する技能」(=実際的な運転技能)を有しているという理由から、この点からも「故意」による自動車事故ではなく、「過失」による自動車事故だと見做して、より罪の重い危険運転致死傷罪ではなく、より罪の軽い自動車運転過失致死傷罪の適用となるということらしい。
と言うことは無免許でありながら車を運転した“故意性”は「進行を制御する技能」(=実際的な運転技能)によって相殺され、“過失性”へと姿を変えることになる。
記事は警察庁の情報として、危険運転致死傷罪ができた平成14年(2002年)以降、無免許運転による事故で危険運転致死傷罪適用例は合わせて22件。昨年は長崎県で無職の17歳の少女が無免許で車を運転し、横断歩道を渡っていた男性に衝突した事故など合わせて3件で、〈いずれの運転手も公道での運転経験がまったくないか、それに近い運転技術しかなかった〉「進行を制御する技能」(=実際的な運転技能)を有していなかったための危険運転致死傷罪適用だとしている。
とすると、「進行を制御する技能」(=実際的な運転技能)もないのに運転した。これは明らかに「故意」だとして危険運転致死傷罪を適用されたことになる。
さらに記事は「進行を制御する技能」に関してさいたま地方裁判所が判決で示した1つの判断基準を紹介している。
無免許の少年が酒気帯びの状態で車を運転、直線道路を時速118キロで走行、反対車線に飛び出して対向車と衝突した事故で、危険運転致死傷罪が適用可能かどうかが争われた。
〈さいたま地裁は被告が無免許とは言え、十数回を超える車の運転経験があることや、被告が事故の直前まで一定の区間を事故を起こさずに車を運転していることなどを理由に、進行を制御する技能があったと結論づけ〉たという。
記事は危険運転致死傷罪ではなく、自動車運転過失致死傷罪が適用されたとは直接的には書いていないが、記事全体の趣旨からして、後者の適用となったということに違いない。
運転歴何十年の「進行を制御する技能」(=実際的な運転技能)を有したベテラン運転手であっても、ちょっとした脇見運転で重大な事故を起こす場合があるが、法律は「進行を制御する技能」(=実際的な運転技能)を一旦手にしたなら、常に不動の能力と看做して、あるいは水戸黄門の葵の御紋が入った印籠相当に評価していて、それを根拠に過失による事故とし、故意による事故には入れないらしい。
亀岡市集団登校中自動車死傷事故に関して飲酒運転事故で2人の幼い娘を亡くし、悪質な違反の厳罰化を求めてきたという女性の発言を伝えている。
井上郁美さん「今回のようなケースで、危険運転致死傷の罪が適用されなければ、何のためにできた法律なのかと感じます。現状は適用されるケースがあまりに少なく、捜査機関は危険な運転が明らかな場合は、ただの過失で済ませずに、きちんと適用してほしい」
どうも記事が伝える法律解釈に納得がいかない。納得がいく人間がどれだけいるだろうか。
参考に「刑法208条の2」規定の「危険運転致死傷」を「Wikipedia」から引用してみる。
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。
1項の「正常な運転が困難な状態」にさせる自動車走行の影響原因が「アルコール又は薬物」のみで、居眠りが入っていないのは居眠りを「正常な運転が困難な状態」にさせる原因にはならないと解釈するしかないことになる。
勿論、「アルコール又は薬物」の服用が居眠りを誘発し、「正常な運転が困難な状態」にさせることはあるが、あくまでも直接的には「アルコール又は薬物」の服用を故意による行為に相当させて、「アルコール又は薬物」の服用に関係しない場合の居眠りによる事故は故意ではなく、過失と見做すということなのだろうが、この解釈に納得がいくだろうか。
例えば長時間の自動車運転を職業としている者が前の夜十分に睡眠を取って翌日の運転に備える義務があるはずだが、明け方近くまで麻雀等の遊びで費やし、睡眠不足のまま運転して居眠り事故を起こした場合でも、故意による事故ではなく、過失による事故になることになる。
1項後段の〈その進行を制御することが困難な高速度〉に関しては少年は40キロ制限のところを50キロで走行していて、10キロオーバーに過ぎないから適用外となるだろうが、〈その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者〉と定めている危険運転致死傷罪適用規定の「進行を制御する技能を有しないで」の部分が記事が紹介していた無免許であるにも関わらず「一晩中運転していた」点によって「進行を制御する技能を有し」ていたと見做され、規定に触れない可能性が生じるとする理由箇所に当たる。
この解釈も腑に落ちない。例え自動車レースのA級ライセンス所有者並みに「進行を制御する技能」を有していたとしても、居眠りによってその優れた「進行を制御する技能」を失うとする判断・解釈は存在せず、あくまでも不動の能力として扱っている。
「進行を制御する技能」は不動の能力ではなく、葵の御紋でもなく、相対的な能力であるという判断・解釈を成り立たせていたなら、例え無免許であるために教習所へ行って運転技能だけではなく、運転マナーを学ばなかったとしても、居眠り運転は危険であるとする認識は、例え無免許であろうとなかろうと車を運転する場合は子どもでない限り誰もが社会的常識としなければならないはずだから、眠くなった時点で車を止めて仮眠なり取って眠気を覚ます一手間を取らずに眠気に襲われるままに運転を継続させた場合、そのこと自体が「進行を制御する技能」(=実際的な運転技能)云々に関係なく、既に過失行為から離れて故意による行為の範疇に入るはずだが、あくまでも「進行を制御する技能」(=実際的な運転技能)の面からのみの判断・解釈となっているが。
いわば眠気に襲われたということは既に「進行を制御する技能」が怪しくなったということであり、眠気を押さえることができなくなった時点で車を停め、仮眠等で眠気を覚まして「進行を制御する技能」を回復してから運転を再開すべきだったが、法律はそうしなかった“故意性”は取り上げず、アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させた場合と進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させた場合を除いて、一旦手にした「進行を制御する技能」がどのような状態になろうとも、そこに“過失性”は認めても、“故意性”は認めようともしないということになる。