――防衛省の暗記教育の成果としてある北朝鮮ミサイル発射情報管理対応――
昨日のNHK「日曜討論」(2012年4月15日)は、第1部「民主・自民に問う どう臨む後半国会」、第2部「“ミサイル発射” 北朝鮮とどう向き合うか」の構成で放送。第1部は岸田自民党国会対策委員長と城島民主党国会対策委員長の二人が登場、消費税法案の国会審議について、その他を取り上げて議論を展開したが、司会の島田敏男NHK解説委員が本題とは別に冒頭、北朝鮮ミサイル発射時の政府の情報対応に対する感想を両者に尋ねた。
二人は4月13日に国対委員長会談を既に開いて、この件に関して議論していて、このことは4月14日当ブログ記事――《野田内閣は大飯原発再稼働と言い、北朝鮮ミサイル発射情報伝達と言い、薄汚いゴマカシで政治を動かしている - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で既に取り上げているが、WEB記事を通した両者の発言を利用したもので、今回直接の発言を聞くことができたから、その記録の目的も兼ねて改めて記事にすることにした。
島田NHK解説委員「民主党の城島さん、後半国会の展望の前にですね、先ず、このー、北朝鮮の弾道ミサイル実験、これについてなんですけれども、今回の、おー、北朝鮮の行動、そして政府の対応、どうご覧になってますか」
城島国対委員長「えー、今回のあの、日本だけじゃなくてですね、えー、それから、各国、ま、中国もそうと思うのですけれども、えー、何としてもミサイル発射、あー、実験をですね、中止するようにということを呼びかけてたと思うんですけども、まあ、その中で強行ということはですね、強い憤りを覚えますし、まあ、国際社会全体を、ある面では敵に回した行動ではないかと、思います。
ま、従って、今後もですね、このミサイルだけじゃなくて、核、そして拉致問題を解決しなくてはいけない。その解決に向けては、また、あの、各国、世界との協調の中で、進めてなくてはいかんなというふうに強く、思っております」
月並みな情報解釈。中止を呼びかけたが強行したということは中止の呼びかけが効果がなかったということ。その原因と、北朝鮮に影響力を有する中国を如何に動かすか等、効果ある中止の呼びかけの模索に視点を置くべきだが、発射に至る経緯を表面的に解釈したのみで終わっている。
島田NHK解説委員「自民党岸田さん、自民党内では今回国民への情報発信に関して政府の対応について相当厳しい声、出ているようですね」
岸田国対委員長「ハイ。あのー、今回の事案については、ま、国際的にどう対応するか。ま、こうした大きな課題を突きつけらることになりましたが、併せて、国内的に、我が国、イー、安全保障上の危機管理、として十分に対応できたのかというと、あー、大きな、問題を、我々の前に示したと、いうふうに思っております。
えー、最初のこのSEW(米国早期警戒衛星情報)の、この情報提供から、政府として発表に至るまでに40分以上の時間を要した。あるいは日米間、えー、の連携として、十分だったか。
あるいは防衛省と官邸の間、連携が十分だったか。さらには、えー、J-ALERT(防災や国民保護に関する情報を人工衛星を通じて瞬時に自治体に伝達するシステム)を始めとする、国民に対する情報提供として十分だったか、様々な課題を突きつけた、と感じております。
えー、しっかりと、この、国会に於いても、この事態を、えー、質していかなければいけないと思っております」
島田NHK解説委員「それはー、やはり衆議院予算委員会でも集中審議といったものを求めていくということになるのですか」
岸田国対委員長「ハイ。もう、既に城島委員長には、あー、予算委員会の集中審議、え、開催をお願いしております。予算委員会、さらには安全保障委員会、え、こうした委員会の場で、しっかりと事実を確認し、政府の対応が十分であったかどうか、えー、今後の教訓とするためにも、しっかりと、この、審議をしなければいけない、と思っております」
島田NHK解説委員「城島さん。この、自民党側から出ている、この当面、集中審議ですね、北朝鮮のミサイル発射問題で、行おうとしている、この要請、これはどう応えるのですか」
城島国対委員長「えー、先週、岸田委員長から正式に、申し入れいただきました。まあ、その時にもお答えいたしましたけども、現段階ではですね、えー、予算委員会の、予算委員会に於ける集中審議ってのは、必要ないんじゃないかと思っております。
但し、外交ですとか、安保委員会でのですね、質疑ってのは、これはやっぱりしていかなきゃ、いうふうに思っております」
北朝鮮ミサイル発射に関わる情報把握と情報伝達の政府情報対応は外交問題ではない。あくまでも国土保全と国民の生命・財産保全の問題であるから、安保委員会の質疑は分かるが、頻繁にテレビ放送が入る予算委員会は困るということではないだろうか。
島田NHK解説委員「自民党の岸田さんに一つ伺っておきたいんですけどね、ま、今回の、あのー、政府の、オ、情報収集、そして発信、問題ありということになりますと、これは、やはり基本はですね、第一報はアメリカの、先程SEWとおっしゃった、早期警戒衛星、宇宙空間からの、あー、熱の発生を感知する、これが、日本にはないわけですね。
でー、アメリカの情報を受け取ってと、そこがスタートになるわけですが、やはり、日本もそういった衛星情報システムをアメリカ軍並みに持つべきだと、こういう議論なんでしょうか」
岸田国対委員長「あのー、こうした日本の、体制自体に、イー、何か不十分なものがないかどうかも含めてですね、これはしっかりと点検しなければいけない。
まあ、こうした課題を我々に突きつけたものだと思います。えー、そういった意味でも、国会に於いてしっかりと議論しなければいけない。これが私たちの問題意識です」
島田NHK解説委員「城島さん。一方で民主党の中にもですね、必ずしも今回の政府のこの対応を、おー、十分ではなかったという声も、あるようですけども、城島さん自身、どう感じております」
城島国対委員長「えー、十分でなかったという意見というよりは、最初のですね、政府側の発表がですね、あまりにも、まあ、私流に言うと、えー、悪い意味、官僚的なですね、味も素っ気もない、『政府としては確認していない』っていう、ような、その部分、文言、って言いますかね、これは非常に、あのー、如何だったかなあっていうふうに思います。
島田NHK解説委員「なる程。Em-Net(「エムネット」:緊急事態発生時に国が地方自治体や報道機関等にメールで連絡するシステム)と呼ばれるシステムに通じて流れた――」
城島国対委員長「流れた、その最初の、オー、報道ですね。
ただこれがですね、あのー、この間の政府側の対応ってのは、ご承知のように3年前にですね、同様にミサイル実験を北朝鮮がやりました。えー、そのときに、イー、その、誤報をですね、してしまった。
あの、防衛省が、(誤報をしてしまったと)ということから、この反省をしてですね、きちっとした体制ってことで、何度も何度も協議を重ねてきて、今回の対応に至った。
それで最初、最終的にはですね、SEW(米国早期警戒衛星情報)の情報、衛星情報と、独自のですね、日本政府っていうか、日本の防衛省、自衛隊の情報とですね、ダブルチェックすると、いうことに拘ったがゆえにですね、こういうことになった部分があると思います。
だから、そのこと自身には私はダブルチェックはいいと思いますけども、えー、この、報道した、あのー、文言には問題があったというふうに思っております」
島田NHK解説委員「国民に向けての――」
城島国対委員長「文言については」
島田NHK解説委員「その時々の状況の説明の仕方ですね」
城島国対委員長「(説明の)仕方にあったと思いますが、本質的には問題はなかった思います」
本題に入っていく。
果して「説明の仕方」、城島が言っている官僚的な味も素っ気もない文言の情報発信自体が問題だっただろうか。
《防衛省内 発射情報の評価で混乱》(NHK NEWS WEB/2012年4月15日 19時12分)を見ると、防衛省の主体性なき姿のみが浮かんでくる。
城島が言っている防衛省のダブルチェックとは、3年前の北朝鮮ミサイル発射時の誤情報を教訓にアメリカ側のSEW(米国早期警戒衛星情報)からの情報と自衛隊のレーダーやイージス艦からの情報の二つの情報を用いてその真偽・正確さを判断する二重の確認体制のことを言い、その確認作業を経てから政府や自治体に伝える情報伝達体制を採っていたという。
4月13日午前7時39分:北朝鮮ミサイル発射。
午前7時40分:アメリカの早期警戒衛星発射探知。
直ちに第一報が防衛省地下中央指揮所に情報伝達。だが、ミサイルは発車後2分前後に上空で爆発。
日本のレーダー網探知可能範囲までの飛来がなかったために防衛省はダブルチェックでの発射確認を取れない状態が生じた。
日本側のこの発射未確認をアメリカ側の情報は誤情報だと情報解釈するに至った。あるいは情報処理するに至った。
記事は書いている。発射確認がを取れない〈状況のなかで、中央指揮所の内部では「発射されたのは別の短距離ミサイルではないか」とか、「別の発射実験ではないか」などという臆測が広がったということです。〉・・・・・
4月13日午前8時過ぎ(第一報から約20分後):「発射情報は誤報の可能性がある」とするメールによる情報が防衛省内の部隊の運用や情報分析に携わる部門に周知されるに至った。
次の項目(青文字)は上記記事には記載されていない。
4月13日午前8時3分:首相官邸危機管理センター対策室、「Em-Net」(エムネット)で「わが国としては発射を確認していない」の情報発信。
第一報から20分以上経過している。
4月13日午前8時24分:田中防衛大臣「発射されたという情報を得た」と発表。
記事の締めくくり。〈防衛省内部でのこうした情報の評価を巡る混乱が政府内部の情報伝達や公表時期に影響を与えた可能性もあり、防衛省は当時の状況を詳しく検証しています〉・・・・・
要するに防衛省内の情報処理部門が臆測で判断した。
いわば臆測で情報処理した。あるいは臆測で情報解釈した。
勿論、憶測で情報解釈・情報処理する場合もあるが、ミサイル発射の場合は事実を把握し、把握した事実を事実通りに伝える情報解釈・情報処理に徹底しなければならなかったはずだ。
では、なぜこのように“臆測”を最新情報兵器とするに至ったかと言うと、日本側からアメリカ側に問い合わせをする姿勢を持たなかったということに尽きるはずだ。
問い合わせて、日本側の発射未確認情報が正しいのか、アメリカ側の発射確認情報が正しいのかの情報確認作業にまで持っていかなかった。
一度マニュアルとしたダブルチェック体制に徹頭徹尾追従するマニュアル主義を当然の行動とし、柔軟な発想を置き忘れたままにしていた。
これも暗記教育の成果であろう。
日本側はアメリカに対して始めから終わりまで、終始一貫、待ちの姿勢でいた。既に憶測で誤情報だと思い込んでいたから、第一報は誤情報だったとする第二報が入るのをじっと待っていたのかもしれない。
あるいは日本はアメリカに対して自分たちを下に置く姿勢を慣れ・習性としていたためにアメリカに遠慮が生じて、アメリカ側の情報は誤報ではないかと指摘する勇気も、誤報ではないかと聞く勇気も持たなかったのかもしれない。
いずれにしてもこの記事からは日本側がアメリカ側に対して主体的に働きかける姿勢を一切窺うことはできない。主体性なきアメリカ頼みの姿しか浮かんでこない。
城島国体委員長はダブルチェックに拘ったがゆえに政府の情報発信が遅れたが、ダブルチェック自体に間違いはない、「わが国としては発射を確認していない」の発表文言が味も素っ気もない、官僚的だったから、問題だと、この点だけを間違いとする見当違いを犯しているが、バカも休み休み言うべきだろう。
情報処理は的確性と迅速性の両面を兼ね備えていなければならないことは常識となっているにも関わらず、実際にはダブルチェックによる的確性に拘るあまり、情報処理自体を誤って、的確性ばかりか迅速性さえ失った。
決して文言が問題ではない。責任逃れのための薄汚い弁解に過ぎない。
上に上げた当ブログに、〈今回のミサイル発射に対する迅速・的確な情報伝達は万が一の有事に機能させるための訓練という側面も有していた。〉と書いた。
どのような理由があろうとも、的確性・迅速性共に失っては情報処理の問題を超えて危機管理に満足に対処できないことになる。徹底的に原因追及を行うべきだろう。
いくら責任逃れのゴマカシを働いても、国民はそのウソに気づく。ウソの罷り通りも政治不信をつくり出す原因の一端となっているはずである。
いずれの責任問題に関しても疑問が持ち上がることになった以上、政治不信を払拭するためにも、疑問解明にもっと潔くあるべきである。
疑問解明に潔く応えずに責任逃れのゴマカシや見え透いた釈明に終始すればする程、逆になお一層の政治不信を自ら招き寄せることになるだろう。