トランプ・アメリカの「国防戦略」は北方四島返還と拉致解決の可能性をゼロを確定値とすることになる

2018-01-22 11:37:07 | 政治

 アメリカのマティス国防長官がトランプ政権下初の「国防戦略」を取り纏め、1月19日に公表したと2018年1月20日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。 

 中国とロシアを既存の国際秩序への脅威となる「修正主義勢力」だと位置づけた上で中国やロシアとの軍事的な競合への対応を最優先課題とし、両国に対する競合対応策として核を含む軍事力増強を手段としたアメリカの軍事的優位維持の早期実現化を謀ると同時に日本等に対する同盟関係強化、その役割重視を掲げた内容となっているという。

 対中国戦略「経済力を使って周辺国を脅し、軍事力も梃子にインド太平洋の秩序を自国に優位な形でつくりかえようとしている」ことへの阻止。

 対ロシア戦略「ヨーロッパと中東の経済・安全保障の構図を都合よく変えようとしている」ことへの阻止。

 マティス国防長官「今やテロではなく、大国間の競争こそが最も重要な焦点だ」

 記事は、〈北朝鮮については核ミサイルや生物化学兵器を追求しており、イランとともに「ならず者政権」だとし、地域や国際社会を不安定化させていると指摘〉と解説している。
 
 北朝鮮に対しては今始まったことではないが、トランプ政権のアメリカはこの「国防戦略」によって中国とロシアを明確に軍事的仮想敵国に位置づけたことを意味する。

 2016年12月15日、安倍晋三は北方四島の帰属問題解決とロシアとの平和条約締結進展に向けてロシア大統領のプーチンを安倍晋三の地元に招待、第1回日露首脳会談を開き、更に翌日の2016年12月16日に首相官邸で第2回目の日露首脳会談開催、その後「共同記者会見」を開いている。 

 プーチン「例えばウラジオストクに、その少し北部に2つの大きな海軍基地があり、我々の艦船が太平洋に出て行きますが、我々はこの分野で何が起こるかを理解せねばなりません。しかしこの関連では、日本と米国との間の関係の特別な性格及び米国と日本との間の安全保障条約の枠内における条約上の義務が念頭にありますが、この関係がどのように構築されることになるか、我々は知りません」

 ウラジオストクには海軍の太平洋艦隊の基地があり、「少し北部」の「大きな海軍基地」とはカムチャツカ半島先端部太平洋岸の同じく太平洋艦隊所属の原子力潜水艦基地となっているヴィリュチンスクのことを言っているのだろう。

 プーチンはこの2つの太平洋に出るロシア太平洋艦隊基地を「日本と米国との間の関係の特別な性格及び米国と日本との間の安全保障条約の枠内における条約上の義務」を念頭に置いた役割を担わせているとの意味を持たせることで、米国に対してだけではなく、米国と軍事的にも経済的にも文化的にも特別な関係にある日本に対する軍事的備えでもあるとの趣旨の発言としていることになる。

 当然、カムチャツカ半島の先端から北海道まで南下しているロシア実効支配の北方四島を含む千島列島(ロシア名クリル諸島)はロシア領海へのアメリカ海軍侵入の防衛線と位置づけていることになる。

 プーチン・ロシアは2016年12月15日・16日の安倍・プーチン首脳会談前から、北方四島でミサイル配備等の軍事力増強を図り、軍事演習まで行っているだけではなく、ロシア国民に土地を条件付きで無償提供して北方四島の住民を増やしているのは対米・対日防衛の軍事拠点化の意味合いを持たせているからだろう。

 安倍・プーチン共同記者会見から約3カ月後の2017年3月20日、日露はロシアのクリミア併合を受けて2013年11月以来中断していたショイグ・稲田朋美防衛相会談を都内で3年4カ月ぶりに開催したと「ロイター」(2017年3月20日)記事が伝えている。       

 ロシア国防相ショイグは日本配備の弾道ミサイル防衛(BMD)システムがアジア太平洋地域の戦力バランスを崩すと指摘し、特に在日米軍のシステムに懸念を示すと同時に日本が導入を検討中の新型BMDに、牽制の意味を込めてのことなのだろう、言及したと記事は解説している。

 稲田朋美が弾道ミサイル防衛(BMD)システムは北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射等を挙げながら、自衛のために必要と説明する一方でロシアによる北方領土(南クリル諸島)の軍備増強に改めて抗議したのに対してショイグ国防相は地域の安全保障を取り巻く環境が変化するなかで必要な防衛措置だなどと説明したと言う。

 いわばロシアは自国防衛を目的に北方四島にまで軍備増強を謀り、日本に対してはアジア太平洋地域の戦力バランスを崩すとの理由でその軍事力強化を牽制していることになる。答として軍事的一体性にあると捉えている日米に対して少しでも軍事的に優位な立場を確保する思惑があると見なければならない。

 当然、当ブログに散々書いてきたことだが、プーチンは北方四島を返還する意思はない。そこへ持ってきて、トランプ・アメリカは中国とロシアを既存の国際秩序破壊の「修正主義勢力」だと定義づけた「国防戦略」を発表した。

 果たしてプーチンは本心から、軍事的な対米・対日防衛線の一部無力化に繋がる北方四島の帰属を含む平和条約締結の交渉を進めましょうと言うだろうか。勿論、日本から経済的果実を手に入れるために今までのように交渉に向けた姿勢を装うことはする。

 ロシア側は日露が平和条約を結んだとしても、その平和条約よりも米露間に、あるいは日露間に何らかの有事が発生した場合は日米の政治的・軍事的・文化的一体性が優先されると考えているに違いない。

 そのための北方四島の軍備増強であり、そういった諸々がプーチンの共同記者会見での発言となって現れた。

 プーチン・ロシアはトランプ・アメリカの「国防戦略」を受けて、北方四島のなお一層の軍備増強に努めざるを得なくなるだろう。元々ゼロに等しい返還の芽をゼロを確定値と印象づける「国防戦略」となるに違いない。

 「国防戦略」はまた、北朝鮮を「ならず者政権」と断定。アメリカが北朝鮮の存在を地域や国際社会を不安定化させている要因としている以上、トランプ・アメリカは北朝鮮の政権――金正恩独裁政権の一掃を謀っていることになり、それが軍事的で方法であろうと、経済・金融の圧力政策であろうと、北朝鮮にとっては認めがたいことで、国家体制防衛のために益々ミサイル開発・核開発邁進の動機とせざるを得なくなるだろう。

 元々、安倍晋三は北朝鮮の脅威を「国難」と位置づけ、北朝鮮のミサイル開発・核開発政策を変更させるためと称して対北圧力一辺倒政策を掲げたが、圧力政策と拉致解決は相互矛盾の関係にあるにも関わらず、「毅然とした強い外交力によって北朝鮮の核・ミサイルの問題、そして拉致問題を解決する」とか、同じように拉致解決と矛盾することになる対北圧力政策を掲げるトランプが2017年11月5日、6日に来日の際は拉致被害者家族をトランプに面会させたりするマヤカシを演じたが、今回のトランプ・アメリカの「国防戦略」が北朝鮮に対しても新たな軍事的圧力となってミサイル開発・核開発への邁進ばかりか、拉致解決の芽をすっかり根こそぎしてゼロを確定値とすることになるに違いない。

 アメリカと日本が軍事的方法、あるいは軍的方法によらずに金正恩独裁体制を崩壊させることができたとしても、最後の報復として拉致被害者を果たして生かしておくだろうか。
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