◆実現すれば鹿児島沖縄間防備抜本強化
防衛省は新防衛大綱に基づく南西諸島防備強化の一環として警備部隊の新編を計画していましたが、こちらに動きがありました。
防衛省の武田良太副大臣は鹿児島県奄美大島を訪問、奄美市の朝山毅市長と瀬戸内町の房克臣町長と12日に会合し自衛隊配備の理解を求めたとのことで、両首長は地元理解が十分集まっており今回の防衛副大臣の申し出を歓迎したい、との見解を表明しました。
そして、具体的な奄美大島への自衛隊配備計画として、奄美市に警備隊と中距離地対空誘導弾、瀬戸内町に地対艦ミサイル部隊を駐屯させる計画が示されています。詳しくは後述しますが、警備隊の駐屯程度と当方は考えていたため、地対艦誘導弾や中距離地対空誘導弾部隊の駐屯計画、かなり驚きました。
現在、奄美大島には海上自衛隊佐世保地方隊奄美基地が置かれ艦船寄港に対応する奄美基地分遣隊が置かれているほか、航空自衛隊奄美大島分屯基地が置かれ、沖縄の南西航空混成団南西航空警戒管制隊奄美通信隊が置かれ、沖縄と九州の通信中継任務に当たっているのみ。
沖縄と九州を結ぶ鹿児島県島嶼部の重要性は大きく、一方で防衛力空白地帯となっていたわけです。奄美市では、南西諸島への軍事強化と共に防衛力強化を求める声が根強く、奄美基地への艦艇常駐化や陸上自衛隊警備部隊配備などが求められてきました。
加えて2010年10月の奄美大島豪雨水害では、自衛隊災害派遣に際し、輸送能力が充分ではなく鹿屋航空基地より海上自衛隊ヘリコプターにより第8師団が展開したのち、主力は民間フェリーを待って翌日以降に出発するなど、防衛力の空白は災害時にも大きな脆弱性を示しており、この課題から自衛隊の常駐が求められてきたわけです。
中距離地対空誘導弾は射程60km程度の地対空誘導弾、03式中距離地対空誘導弾で垂直発射方式により発射陣地の自由度が高まると共にレーダーによる捕捉と対処までの自動化が従来装備と比較し大幅に向上、巡航ミサイルや超音速航空機への複数同時対処が可能です。
地対艦誘導弾は新型の12式地対艦誘導弾か88式地対艦誘導弾の何れかを想定しているものと考えられます。本装備は標定車両と管制車両との連携により内陸部から200km前後の目標を対処可能、一個連隊あたり96発の同時発射が可能で大規模な上陸部隊であっても海上で撃破出来、射程は奄美大島より北は薩南諸島、南は与論島付近まで防衛可能となる。
警備部隊と共に奄美大島に装備されるこれら装備群により、奄美大島は沖縄県と九州との中間に位置し、沖縄県への武力攻撃に際して本土との連絡を維持する要衝となるのですが、航空攻撃及び海上攻撃に対し、非常に高い防衛力を持つこととなり、即ち南西諸島全体に対する武力攻撃への着手を相手に思いとどまらせる要衝となるわけです。
近年、南西諸島防備強化は大車輪で進んでおり、最たるものは那覇駐屯地の第15旅団隷下に第15飛行隊を拡大改編し2013年に創設された第15ヘリコプター隊で、UH-60JA多用途ヘリコプター8機、CH-47J/JA輸送ヘリコプター8機とLR-2連絡偵察機を装備、これにより空中機動力を大幅強化した能力を有するに至りました。
一方、新防衛大綱では奄美大島と宮古諸島に警備部隊の新編が盛り込まれており、これは当初、対馬警備隊型の350名規模の部隊、本部管理中隊と一個普通科中隊を持ち必要に応じ本土より普通科部隊を急速展開し本部機能が受け入れられる態勢を持つ警備部隊の新設が、重装備は迫撃砲と対戦車ミサイル程度の部隊と考えられたのですが、今回、かなり有力な部隊の配置が明示されたわけです。
奄美市に警備隊と中距離地対空誘導弾、瀬戸内町に地対艦ミサイル部隊を配置し、全体規模は550名規模、この水準から考えますと、中距離地対空誘導弾部隊は高射中隊規模、地対艦ミサイル連隊は定員400名規模であるため、富士教導団特科教導隊第6中隊のように中隊規模で配備する部隊となるのかもしれません。
今後、那覇の第15旅団は現在、普通科連隊一個の体制に高射特科連隊とヘリコプター隊を持つ編成を採っていますが、更に一個普通科連隊の増勢や与那国島などへの沿岸監視隊新編、機動旅団への改編に際し105mm砲を搭載する機動戦闘車の配備も念頭に部隊改編が行われる方針で、南西諸島全体の防衛力は奄美大島配備部隊と併せ抜本的に強化されることとなるでしょう。
一方で、地対艦ミサイル連隊から部分抽出を行うのか、廃止予定部隊装備を中隊規模で分散運用するのか、中距離地対空誘導弾部隊は飯塚駐屯地の高射特科団より群規模で抽出するのか、九州の防備を維持するべく新編するのか、このあたりについては定かではありません。
特に陸上自衛隊において西部方面隊は比較的重要視され、現在でも地対艦ミサイル連隊や高射特科団に方面特科隊を置いている背景には、西部方面隊管区は朝鮮半島に隣接しており、南北朝鮮において現在の停戦状態が破れ朝鮮半島有事が発生した際には大きな圧力を受ける地域として装備体系を固めてきました。
九州から安易に部隊を抽出することは難しく、加えて陸上自衛隊の重装備部隊が集中する北部方面隊管区の北海道からの距離も大きいため、有事の際に部隊を集中させるには九州へ一定規模の部隊を置くか、海上自衛隊輸送艦及び航空自衛隊輸送機の増勢を受けるほか対処方法がありません。このため、新部隊を何処から抽出し編成するのか、非常に興味の持たれるところです。
北大路機関:はるな
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