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ミグ25函館亡命事件から40年【中篇】ソ連機北海道着陸,防空再建という喫緊の課題現出

2016-09-13 20:44:59 | 北大路機関特別企画
■防空再建という喫緊の課題現出
 ミグ25函館亡命事件は、その後の日本における防衛装備計画へ大きな影響を及ぼしました。

 ミグ25は函館亡命と第28普通科連隊による警戒が行われたその後、9月24日、日米共同調査というかたちで舞台を函館空港から航空自衛隊百里基地へ移します。技術研究本部による調査も検討されたようですが、アメリカ側からソ連機には中東戦争などでろ獲した機体を調査した経験上、戦闘喪失に備え自壊装置が精密機器へ装着されており、むやみに調査のために分解することは危険である、との助言が寄せられ、更に自衛隊には函館空港からミグ25を運び出す手段が空輸は当時最新のC1輸送機では不能、海上自衛隊の輸送艦など選択肢が限られていることから、アメリカ空軍のC5戦略輸送機の支援を受けることとなります。

 調査は日本側を主体に、という我が国の強い主張から、アメリカ側が提案した横田基地での調査ではなく、航空自衛隊基地である百里基地において協同調査を行う運びとなります。もちろん、我が国へソ連より突きつけられた外向的圧力も非常に大きなものであったといわれます。実際、軍事行動の可能性も我が国周辺でのソ連機行動から大きくなっていたほか、最悪の場合、予てよりソ連側が準備しているとされた北海道北部への限定侵攻を実施する口実に、日本側にミグ25が維持されている状況が拡大する危惧さえありました。この緊張度は、現在の南西諸島の緊張とは比較できません。

 ソ連側の主張もあり、結果的にミグ25は日立港から、貨物船によりソ連へ返還されることとなりました。通関手続きを通らず我が国へ戦闘機が密輸された、と、平時の法制度では解釈される状況、更に、この戦闘機の手続きは一種の輸出となるため、武器輸出に関する特別の配慮が為された、ともいわれます。すると、日本の第二次世界大戦後の戦闘機初輸出事例は通産省の解釈では1976年ソ連へ超音速戦闘機1機輸出、となるのかきになることろですが、ともあれ、こうして緊張は解けたわけでした。

 しかし、ミグ25事件の余韻は非常に大きなものです。最新鋭戦闘機の領空侵犯を阻止できなかった防空能力、突発的有事にたい処する法整備の問題、大きな点はこの二つに収斂される。ミグ25は超音速戦闘機ですが、迎撃機です。従って、日本本土への第一撃に用いられる可能性は低いのですが、航空自衛隊のF4ファントム戦闘機は、低空飛行する航空機をレーダーで捕捉するルックダウン能力が限られていたため、次期戦闘機として、軽量安価なF16ファイティングファルコンではなく、高性能なF15イーグルの採用へ一つの影響を及ぼしたほか、低空侵入機を探知するべく早期警戒機が導入されることとなり、E2Cホークアイの導入が決定しました。

 E2Cの導入は、最初の機体が導入された後、順次増勢されてゆき、13機をもって飛行警戒航空隊が創設されました。E2Cを二桁導入したのはアメリカ海軍を除けば航空自衛隊くらいで、機体は全て三沢基地の航空援体に格納され、戦闘機以上に徹底した防護措置がとられています。実際問題、航空自衛隊ではより大型の早期警戒管制機であるE3セントリーを求める声がありましたが、その取得費用がE2Cの三倍以上と非常に降下であり、導入が見送られた経緯がありますが、掩体へ収容するにはE3は大型過ぎ、きめ細やかな航空警戒任務を遂行するにはE2Cは一つの最適解であったのかもしれません。

 F-15の導入は、日本本土への攻撃に際して増援の米空軍が展開するまで十日間程度の期間、千歳基地や三沢基地を拠点として緒戦を防護し、ソ連軍戦闘爆撃機の松島基地も含め北海道上空の航空優勢を確保するには、F-16では能力不足、併せて候補とされたF-14では費用面と稼働率や戦闘空中哨戒任務での飛行能力といった様々な視点から最適ではないとされ、最終的にF-15が導入されました、この時点では想像できなかった部分ですが、F-14は艦隊防空任務の空母航空団における比重の変化により除籍、F-15はアメリカ空軍でも大量の装備を搭載し機動性を両立できるとの性能が重視され、イーグル2040計画としてさらなる能力向上計画も示されており、現代でも十分通用する非常によい機種を選定できた、といえるでしょう。

 防空再建という喫緊の課題現出、ここへ我が国は早期警戒機の導入と次期戦闘機計画という具体的施策を以て対応しました。防空再建はこのようにして徐々に改善され、所謂奇襲事案を経ての本土への攻撃が行われた場合でも、その脆弱性を衝撃的な事件ではあっても事前に認識する事が出来、払拭する事が出来たという意味で、防空再建という喫緊の課題現出は上手く対処出来たといえるのですが、実際に有事の際には法的にどのように対処するのか、憲法上の問題と現実の問題とが拮抗し、法律面などでは課題を残す事となりました。

北大路機関:はるな くらま
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