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ロシア軍T-14アルマータ戦車2017年より部隊配備開始【前篇】 CNN二つの衝撃報道

2016-09-18 20:28:42 | 先端軍事テクノロジー
■T-14戦車2017年配備開始
 T14アルマータ,2017年より部隊配備を開始する方針のようです。ロシア国防省が17日までの報道発表にて、このT-14戦車の部隊配備と共に新しい動画を公開した、とCNNにて報じられました。

 T14戦車、戦後一貫して戦車開発を継続している我が国から見た場合でも、革新的な技術が盛り込まれた新戦車ですが、しかし、CNN動画を見ますと若干疑問符が。ロシアはT-90主力戦車のマイナーチェンジ型を次々と開発してきまして、特にチェチェン紛争やシリア内戦介入を始め様々な実戦での経験を反映させたT-90シリーズですが、T14アルマータは設計を一新し、戦闘室を車内へ統合化した設計を採用しています。2015年に対独戦勝70周年記念行事に姿を現し、その特異な形状が大きな話題となりました事はNHKBS海外ニュースなどご覧の方、ご記憶の方も多いでしょう。

 本土の戦車はいまだ74式戦車が主力であり、T-14は49tと軽量であるため、着上陸等を示唆する恫喝へは、脅威度の高い戦車とも言えます。ただ、今回ロシア国防省が発表した動画には、対独戦勝パレードへ示された車体とは砲塔形状車体形状ともに大きな差異があり、こちらが量産型、という事なのでしょうか、2013年から配備が開始されたT-72シリーズ最新型T-72B3と共通点が多い、といいますか、T-72B3そのものといいますか。CNNに公開された動画は51秒間のもので、25秒あたりには確かにT-14の動画が出てくるのですが、冒頭の静止画以外、動いている戦車の映像はT-72のものが、T-80の映像も含まれています。

 新型戦車配備開始は衝撃的報道ですが、添付画像がT-14ではなくT-72であったのは第二の衝撃です。ロシアの戦車と云いますと普段駐屯地祭では絶対見ない事ともあって分かりにくいのですが、T-72戦車は1974年より部隊配備が開始されまして、先行するT-64の技術に依拠、世代としては我が国の74式戦車と重なるものがあります。この当時、ソ連軍の主力戦車は115mm戦車砲を有するT-62であり、T-72は125mm戦車砲を採用、当時西側諸国の主流派105mm戦車砲であり、105mmと125mmという打撃力の格差、更にT-72は自動装填装置を採用しているもので、当時はスウェーデンのSタンクStrv.103戦車等自動装填装置を備えた戦車は限られており、東西冷戦時代の情報管理体制もあり、謎の新戦車という位置づけでもありました。

 74式戦車、T-72戦車は比較的新しい印象があるのですが74式戦車と同世代の戦車である訳ですね。さて、同時期の我が国の主力戦車である74式はエンジンの仕様変更や砲身部分改良と操縦用暗視装置換装に砲尾部安全装置追加等、量産と共に改良は限られた範囲内となっていましたが、T-72は早速T-72Aとしてレーザー測距装置や微光増売暗視装置等搭載型を開発、続くT-72Bでは主砲発射対戦車ミサイル運用能力を付与し長距離打撃力を獲得、T-72BVとして爆発反応装甲を追加し対戦車火器への脆弱性を払拭、輸出型も開発されています、この能力向上は軽視できません。

 T-72はその輸出型が、湾岸戦争においてアメリカ軍M-1A1主力戦車に対し大敗を喫しました。ソ連軍戦車はT-72の後、ガスタービンエンジン採用など画期的な技術を含むT-80を完成させましたが、整備性の問題、その後のソ連崩壊により製造部品の少ない部分をウクライナ製部品に依存したT-80へ、新生ロシア軍での評価が定まらず、一方、T-72は湾岸戦争においての惨敗が世界に強い印象を残してしまいます。元々、ソ連製戦車は、自国向け、最良の衛星国と呼ばれた東ドイツ向け、東欧ワルシャワ条約機構加盟国向け、北朝鮮向け、中東親ソ連諸国向け、第三世界向け、とダウングレードされてゆくのですが、この湾岸戦争の敗北はダウングレード車両とはいえ、悪い印象を残しました。

 T-90,元々はソ連軍向けT-72BMとして、T-80戦車の砲塔技術をT-72に導入する新戦車が開発されていまして、T-72BUとして部隊配備が行われる運びとなっていましたが、湾岸戦争での敗北を受け、T-72では縁起が悪い、という事からT-90という新呼称が冠せられることとなりました。ソ連崩壊後の経済混乱と共にT-90は輸出市場において活躍する事となってしまいましたが、T-90を大量に輸入したインド軍より高評価を受け、改良型T-90Sが開発されています。比較的安価ですので、一挙に数を揃える事も出来る。こうして、冷戦時代にソ連軍が開発した戦車をロシア軍は丹念に改修し、2000年代を迎えました。もちろん、T-95戦車計画等新戦車模索と技術開発は行われ、同時にドイツ製レオパルド2戦車中古取得案やイタリア製チェンタウロ戦車駆逐車の参考導入案等も、検証されたといわれますが、ソ連崩壊後の経済立て直し状況下、実現はしていません。

北大路機関:はるな くらま
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