北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

トランプ新大統領の外交国防戦略【02】 三五〇隻海軍構想、大型艦量産は財政難下の困難な提案

2016-11-23 21:32:44 | 北大路機関特別企画
■アメリカ海軍を何処に向けるか
 トランプ新大統領の外交国防戦略、第二回目は前回に続いて三五〇隻海軍構想、その実現性や方向性を視てみましょう。

 海軍現況は、航空母艦10隻、戦略ミサイル原潜/巡航ミサイル原潜18隻、攻撃型原潜56隻、巡洋艦22隻、駆逐艦63隻、フリゲイト(LCS)8隻、の177隻です。強襲揚陸艦9隻、ドック型揚陸艦/輸送揚陸艦22隻、機雷戦艦艇11隻、これで219隻となる。戦闘支援艦/補給艦32隻を加えて251隻です。三五〇隻海軍構想の具現化には99隻の増強が必要だ。

 第二次世界大戦中にアメリカは、戦艦10隻、正規空母30隻、護衛空母100隻、巡洋艦50隻、駆逐艦350隻、護衛駆逐艦1000隻、を揃えたアメリカの造船能力を考えれば99隻等年内に揃えられそうな印象はありますが、電波や音響でステルス性を有しデータリンクさせ、各種ミサイルと管制装置を有する現代の水上戦闘艦の建造費は安い物ではありません。

 ズムウォルト級ミサイル駆逐艦はアメリカ海軍の駆逐艦として初めて満載排水量が10000tの大台を超え14000tという空前の規模となりましたが、建造費も一隻30億ドルと、1990年代に建造されたニミッツ級原子力空母の建造費50億ドルへ迫るものとなっています、元々30隻程度を建造する計画でしたが、費用高騰を受け縮小され、単価へ響いたかたち。

 沿海域戦闘艦、アメリカ海軍が現在進める新しい建造計画は満載排水量3000t前後で高度なステルス性を有し高速巡航能力を持つ軽量水上戦闘艦フリーダム級とインディペンデンス級を大量建造する計画でした、しかし、軽武装過ぎ、南シナ海では中国海軍艦艇の恫喝を受ける状況となっており、技術的問題も多く建造は32隻で打ち止めとなりました。

 現在アメリカ海軍の将来艦建造計画は沿海域戦闘艦への対艦ミサイル搭載など限られたものであり、新しい艦船、即ち現在の艦艇を置き換えるような新世代の水上戦闘艦を新しく設計するには、どうしても時間を要します、何故ならば公約は任期中に実現する必要があるためで、この為のコンセプト画定を行おうにも、外洋作戦を重視するのか、専守防衛の沿岸用とするのかで全く設計が違ってきます。

 アメリカの変容を前にした各国ですが、一方で、国際政治学でいうところの覇権国としての地位を維持しているのはアメリカです。東西冷戦の二極論からアメリカを中心とした単極体制へ転換していったわけですが、ここに新しい変容の可能性が生じる一方で、アメリカが覇権国であるという現状を変更する事に、アメリカ自身がどう現状を認識するのか。

 パクスアメリカーナへどのような認識を持っているかが、第一の未知数であり、何を実行するのかが分からない、という部分を不確定要素、言い換えれば未知数の可能性、として政権に就くこととなった新大統領の真意は、アメリカが引くのであれば、引いた地域に自国を進出させよう、と考える諸国には、アメリカの国際政治や地政学観を見極めたい。

 世界の警察官の地位を放棄し、在外米軍の撤退示唆する、しかし、三五〇隻海軍構想として海軍力の再建を図る、この方向性が地域的な後退に留まるのか、地域的な後退がドル基軸体制をはじめとしたアメリカの世界への影響力を支えた様々な枠組みの交代に繋がる事を見越しているものなのか、未知数な部分が多く、世界各国は新政権がどこまで矛盾に気付かないのかを見極めようとしています。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする